×

「効率性と透明性」は誰のため?―Index ExchangeがSPOを推進する理由[インタビュー]

オンライン広告に関わる事業者から、広告取引の「効率性と透明性」の重要性が語られることは少なくない。しかしながら、クリック数やROASなどと比較して、その良し悪しが分かりにくく、「きれいごと」に過ぎないのではないかとの疑念も残る。そこで「効率性と透明性」を事業の中核に据えるグローバル大手SSP/アドエクスチェンジのIndex Exchangeに取材を実施。来日中のAPAC代表にその実態について尋ねた。
(聞き手:ExchangeWire Japan長野雅俊)

 

日本市場では140の媒体社と連携

 

―自己紹介をお願いします。

 

APAC地域のリージョナル・マネージング・ディレクターを務めるアデル・ワイザーと申します。媒体社のデジタル広告担当者としてキャリアを開始し、大手アドエクスチェンジを経て、現職に就いて5年目を迎えました。Index Exchange日本法人立ち上げメンバーの一人でもあります。

 

―改めて貴社の事業紹介をお願いします。

 

効率性と透明性の高いアドエクスチェンジを運営するSSPとしてグローバル展開を行っています。効率性と透明性を確保する上では、様々な事業者と緊密に連携する必要があり、そのためにプロダクト開発やテクノロジーの研鑽を通じて、ありとあらゆる事業者の課題解決に貢献できる仕組み作りに注力しています。

 

またサプライパス最適化(SPO)においては業界を牽引する立場にあり、SSPの一般的な取引先であるサプライサイドだけでなく、バイサイドとの連携を強化していることも特徴的です。

 

何よりも、グローバル展開を通じて、世界中で発生した様々な課題に対するソリューションやノウハウを集積できている点が最大の強みです。サプライパス最適化に関する取り組みはその一例であり、日本市場においても今後さらに関心が高まると見込んでいます。

 

―貴社は2018年に日本法人を設立しました。日本市場では後発組ですね。

 

日本への参入はやや遅れたという点は否めません。日本はグローバル企業に加えて国内企業を加えた独自のエコシステムが構築されており、他の市場で構築したノウハウをいかに展開すべきかなどについて検討を重ねていました。

 

そして日本を含めたアジア地域においてもプログラマティック取引が本格化してきたことに伴い、当社の強みであるヘッダービディング技術の需要が高まったと判断して、2018年前後から日本市場にも多大な投資を行うようになりました。今では12名の現地社員に加えて、18名のグローバル社員による日本語でのサポート体制を整備しています。

 

―日本法人設立のきっかけの一つとなったヘッダービディングは、その後日本市場に十分に浸透したと思いますか。

 

少なくともディスプレイ広告においては、日本だけでなく世界の大部分においてヘッダービディングがかなりの程度まで普及しました。ただし、OTTやコネクテッドテレビを始めとするそれ以外の広告フォーマットではいまだウォーターフォール方式の広告配信が主流です。

 

とりわけコネクテッドテレビ広告では依然として予約型のプレミアム広告在庫として販売されることが多いので、プログラマティック開放には消極的になる傾向があります。ディスプレイ広告以外の分野におけるヘッダービディングの普及については、乗り越えるべき課題はまだまだ多いという印象です。

 

―日本市場ならではの課題はありますか。

 

国産テクノロジーを含めた独自のエコシステムを構築している点が挙げられます。グローバルプラットフォームが市場の大部分を占め、国内企業の存在感が希薄なオーストラリアとは対照的です。

 

恐らく英語圏であるオーストラリアはグローバル企業の進出が図りやすいのでしょう。当たり前のことですが、日本人の多くは日本語コンテンツを読みます。媒体社は自ずと日本企業が多くなり、それに即したテクノロジーも日本企業が提供することが多いです。

 

当社は今では日本の大手媒体社140社と提携しており、既に日本市場独自のエコシステムの中でその役割を担えるようになったと考えています。

 

サプライパス最適化の実態とは

 

―サプライパス最適化を強みとしているとのことですが、例えばヘッダービディングと比較して、その実態は分かりにくい印象があります。

 

アドテクノロジー業界の発展と成熟によって、今ではオンライン広告在庫を売買する販路や手法がやや過剰とも言えるほどに多様化しています。ヘッダービディングの普及に伴い、広告オークションの競争性はさらに飛躍的に高まりました。

 

ウォーターフォール型配信時代の競争は事実上1回のみ。プログラマティック広告であれば、アドエクスチェンジにおける競争入札に勝つことさえできれば、広告表示機会を得ることができました。

 

ところが今やアドエクスチェンジに加えて、DSP、SSP、純広告やプライベートオークションとも競争しなければなりません。DSPに送信される入札リクエストは一日当たり数百億単位と言われているので、非常に過酷な競争が行われていることになります。

 

しかしながら、実際には数百億単位の入札をすべて必要とするわけではありません。入札リクエストの中には、リターゲティングに強いものや、コネクテッドテレビ向けのものなどが含まれており、これらの特徴や傾向などを踏まえた上で整理すれば、かなりの程度まで数を絞ることができます。そうすれば、過剰なリクエストによるオークションの機能不全や広告配信遅延などがなくなり、真の意味での公平なオークションを実現することができます。

 

―具体的にはどのようにサプライパス最適化を行うのでしょうか。

 

まず昨年11月には当社のアドエクスチェンジを再構築する計画を完了しました。これは当社が過去に手掛けたものの中でも最大級規模のプロジェクトであり、プログラマティック広告取引に効率性の向上と新たなチャネルとフォーマットによる拡張をもたらし、結果としてパブリッシャーの利益率と、マーケティング担当者のメディア予算活用の効率性のアップにつながるものです。

 

また今年6月には、機械学習技術を用いた高度なトラフィックフィルタリング及び最適化機能の専門企業であるRivr Technologies GmbHを事業買収しました。Rivrの中核的なトラフィックシェーピングソリューションと、Index Exchangeの再構築されたエクスチェンジを組み合わせることで、エクスチェンジ全体の自動化と効率化がさらに加速する予定です。

 

SSPがバイサイドと連携する理由

 

―サードパーティCookie廃止の影響はどのように見込んでいますか。

 

GoogleがChromeブラウザにおけるサードパーティCookieのサポート終了予定の延期を繰り返しているため、当社の方針も変更し続けているといった状況です。

 

ただサポート終了期限がいつになるかに関わらず、できる限り多くの関連事業者が活用できる中立的でオープンな仕組みを構築するという考え方は揺るぎません。またこれはサードパーティCookieに限定した話ではないのですが、当社はグローバル規模で展開できる汎用性のある仕組みを用意すると同時に、各市場に根差した課題を解決していくという微妙な舵取りを行う必要があります。そのためには結局のところ、PDCAを繰り返すしかありません。サードパーティCookie廃止に伴う課題に対しても、成功事例を積み重ねていきながら対応していきたいと考えています。

 

―サードパーティCookieの代替手段として、IDソリューションが注目されています。

 

IDソリューションが機能するためには、特定の顧客の異なる ID 間の関係をまとめたIDグラフを整備する必要があります。米国市場ではDMPの利用率が非常に高いのでIDグラフが豊富にあり、従ってIDソリューションが普及する十分な素地があると言えます。

 

一方でオーストラリアや日本では、DMPを始めとするテクノロジーベンダーよりも、媒体社がデータを握っています。これらの媒体社が保有データを今後どれだけ外部に公開していくかがIDソリューションの成否を決めるでしょう。

 

CDPを通じて広告主が匿名化したID情報を媒体社と共有するなど様々な方法があり得ますが、これといった決め手があるわけではなく、恐らく様々な手法やソリューションを組み合せて対応することになるはずです。当社のようなテクノロジーベンダーには、こうした多種多様な需要や課題を理解した上で解決策を提示することが求められています。

 

―今回の来日の主な目的をお聞かせください。

 

主な目的は、パンデミックの影響で3年ぶりに主要なパブリッシャー、エージェンシー、データパートナーと直接再会し、2022年後半の戦略フォーカスや製品投資について話し合い、パートナーの成長をサポートすることです。また、パートナーの皆様が関心のある、最新のグローバルプログラマティックトレンドについてもご共有する予定です。

 

当社はSSPではありますが、サプライパス最適化の取り組みの一環として、広告代理店などバイサイドを担当するチームを運営しています。当初は広告代理店様に打ち合わせをお願いすると「SSPが一体何の用か」といったような反応もありました。サプライパス最適化は一般的にはDSPとSSP間の課題として認識されているので無理もありません。

 

しかしサプライパス最適化は媒体社やDSPが効率化を図るだけでなく、広告主が広告取引の透明性を高めるためにも活用されています。バイサイドは通常はそれぞれのDSPごとのデータしか確認することができませんが、Index Exchangeでは、効率性やパフォーマンスを高めることを目的に、それらのDSPが集うアドエクスチェンジ上のデータをバイサイドに提供しているからです。

 

またClient Audit Logsというすべての広告在庫に対してそれぞれの明細が記された領収書のようなものを発行する機能を有しているので、広告代理店は「すべての広告取引内容を開示せよ」との要請を広告主から受けた場合にすぐに対応することができます。

 

このClient Audit Logsは、オンライン広告取引における透明性の確保を掲げる当社独自のサービスであり、他では類を見ないものです。こうした先進的な取り組みを武器としながら、日本事業の一層の拡大を進めていきたいと思います。

ABOUT 長野 雅俊

長野 雅俊

ExchangeWireJAPAN 副編集長
ウェストミンスター大学大学院ジャーナリズム学科修士課程修了。 ロンドンを拠点とする在欧邦人向けメディアの編集長を経て、2016年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。 日本や東南アジアを中心としたデジタル広告市場の調査などを担当している。