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多様化・分断化するメディア消費の環境下で広告効果を統一指標で可視化する意義とは

統一指標で効果を測る重要性

 

コロナ禍で生活者の行動様式が大きく変わり、マーケターは施策の実施と評価について絶えず最適解を求められているのではないでしょうか。加えて、昨今では広告主企業・広告代理店の双方で”ダブルファネル”のマネジメントの難しさについても耳にすることが多くなっています。

 

デジタル広告関連のイノベーションが常に起きる環境下で、ターゲット層に効率的にアプローチし、最終コンバージョンに至らせる“ロウワーファネル”の手法およびその改善について語られる場面を引き続き多く見かけます。一方、ブランドや商品への認知や興味を高めるための“アッパーファネル”施策の重要性も衰えていません。昨今のライフスタイルの変化で自宅で家族と一緒に過ごす時間が増えたことで、リーチメディアとしてのテレビCMの意義も再び注目を集めています。

 

ただし、この両方のファネルを統一の指標で把握し、アッパーとロウワーの双方を柔軟に行き来して効果測定や意思決定を行っている事例はあまり目にすることがないように思えます。広告主企業においては、「ブランディング・マス広告」と「コンバージョン・デジタル施策」に別々の担当者が任命され、いわゆる縦割りのアサインとなっている組織もまだ見られ、”ダブルファネル”を有機的・戦略的に回しているケースは少ないのではないでしょうか。

 

こうした環境下のマーケターは、様々なマーケティング施策を一つの指標で俯瞰した位置から効果を把握し、意思決定をすることが求められています。ニールセン・メディア・ジャパンでは、過去30年にわたるグローバル市場での知見に基づき、そういったマーケターの皆様に「マーケティング・ミックス・モデリング(MMM)」の活用を提案しています。通常、MMMでは広告投資に対するリターン「Return of Advertising Spend (ROAS)」やマーケティング投資一般に対するリターン「Return of Investment (ROI)」の形で、媒体や施策を横断できる統一の評価指標を提供し、既存クライアントの皆様に活用いただいています。

 

50-50-50ギャップとMMMの活用

続いて、ニールセンが発行した最新のレポートからMMM結果の一例をご紹介します。ここでは「50-50-50ギャップ」というキーワードを提唱しています。ここでは、研究対象の半分のキャンペーンにおいて、適正なマーケティング投資が行われなかったためにリターンを最大化できていないという発見がありました。全体の「50%の事例」において、ニールセンのMMMから示唆される理想的な投資レベルから「50%低い水準での投資」が行われており、最適な投資が行われた場合に「ROASが50%増加する余地」がある、というものです。MMMを活用いただくことで、施策ごとの効果の把握と改善にとどまらず、このようにマーケティング全体投資の効果最大化が実現されます。

 

MMMは、個別のキャンペーンやメディア施策単体(例:テレビ広告のみ)の効果をトラッキングするのではなく、全てのマーケティング施策の影響度を総合的にカバーすることが特徴です。具体的には、テレビ、新聞・雑誌、デジタル、店頭プロモーション、その他マーケティング施策の投資内容をモデルにインプットし、更には「外部要因」として、COVID-19の影響、気温、祝日、競合影響などの要素も考慮することで、売上を代表とするKPIに貢献しうる全ての要因を包括的に理解することができます。

 

MMMで効果を網羅的に可視化

また、MMMはそれぞれの企業・ブランドが持つビジネス課題に基づいて、分析モデルをカスタマイズすることも可能です。例えば、マーケティングの効果を店舗売上とEコマース売上と各々で分解して把握することが可能ですし、施策の短期的効果だけでなくブランド・エクイティを考慮した中長期効果を測定することも可能です。広告に関しても、近年ではフォーマットや掲出場所が本当に多様になっています。デジタル広告が街中や交通機関内でデジタルサイネージとして活用されたり、地上波TVコンテンツとのタイアップ動画がネットTVで放映されたりなど、広告媒体間の“際”がますます曖昧になっているのが現状です。

 

ニールセンのMMMでは、そうした施策についても、グローバル市場や業種ごとの知見をもとに、投資データを適切な形態でモデルに入力して効果を可視化し、全体としてマーケティング全体の俯瞰ができるアウトプットを提供しております。「マーケティング投資」という意味では広告にとどまらず、関連施策の効果可視化の実績もあります。過去の事例では、金融機関のプロジェクトで「窓口でのコンサルテーション時間」が顧客の貯蓄・投資額に及ぼす影響を測定したり、オリンピックのスポンサーシップが短期売上と長期ブランド力それぞれに与えた影響を測定した事例もあります。

 

消費者のプライバシー情報取り扱いの制限は増え続け、「クッキーレス対応」も叫ばれる中、マーケターは、持続的にマーケティング活動を測定できるソリューションを採用する必要があります。MMMは、売上等のKPIデータと広告メディアを始めとするマーケティング投資データのみを必要とするため、個人情報の取り扱いに制限が増えるであろう将来でも持続的に使える分析として、改めて注目されています。

 

ニールセンが行った別の調査では、複数年にわたって当社のMMMを活用いただいているクライアントにおいては、直近3年間で30%前後ROASが改善し、同一業種の企業群のほぼ倍のROASを記録している、という実績もあります。実施期間的にも、費用的にも、MMMは決して“お手軽”なソリューションではありませんが、ROASやROIという「共通指標」を用いてマーケティング施策を横断で把握することで、ますます複雑化する消費者行動を科学的に解き明かすことができます。また、この「共通指標」は、クライアント企業様の各部署やご担当者にとっての「共通言語」となって、より効果的なマーケティングを実現できることとなります。

 

最後に、ニールセンはGoogle、Metaの3社で設立した日本マーケティング・ミックス・コンソーシアムから新たにホワイトペーパー「正確なMMM結果を得るために必要なデータ要件とは」を発行しました。このレポートでは、キャンペーンの予算配分など広告主にとって非常に重要な局面で用いられるMMMによる分析結果が、インプットデータによっては誤った意思決定に繋がるリスクについて触れています。
以下のリンクより無料でダウンロードすることができます。
URL: https://www.nielsen.com/ja/insights/2022/marketing-mix-modeling/

ABOUT 嶋田 仁

嶋田 仁

ニールセン・メディア・ジャパンのMarketing Effectiveness部門において主にクライアントマネジメントを中心とするCustomer Successチームを統括。日系大手広告代理店でストラテジック・プランナーとしてブランドマーケティングやコンシューマーインサイトの探索に従事。その後、本社グローバル事業統括(ASEAN地域担当)やグループ会社での経営職を経て、直近4年間は外資系企業にてdata analysis、digital creativeおよびマネジメントにも関わる。2021年12月より現職。