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モバイルマーケティング最先端ー第二回:なぜこれからデータクリーンルームが必要になるのか

前回の記事では、ユーザープライバシー重要性が年々高まり、モバイルアプリマーケティングにおいて大きな課題になってきていることをお伝えしました。
ユーザーの目線に立ってみれば、自分の知らないところで、自分の端末IDと行動パターンが記録され、それが様々な事業者に渡ってしまっている状況は好ましいとは言えず、ユーザープライバシー保護の高まり自体は歓迎すべきものでしょう。
これまでのやり方が通用しない中、一方で、アプリ事業者である広告主は一体どうするべきなのでしょうか?

(Sponsored by AppsFlyer)

 

 

データクリーンルームとは

ユーザー個々人が特定されない形でデータ分析・処理ができる一つの手法として注目を集めているのが「データクリーンルーム(Data Clean Room)」です。

データクリーンルームとは、半導体を加工・製造するための「クリーンルーム」に例えられた言葉です。厳格に管理された閉鎖環境の中で、微細な部品の加工・処理を行う。持ち出せるのは完成品のみということです。この部品をデータに置き換えたものがデータクリーンルームということになります。つまり、データクリーンルーム内では、ユーザーレベルの詳細なデータを分析・加工ができるが、データクリーンルームの外に持ち出せるデータはユーザー情報を匿名化し、ユーザープライバシーに配慮したデータのみとなります。

ただしこのクリーンルームの比喩だけで考えてしまうと、一つ重要なポイントを見落としがちです。それは、データクリーンルームは「単一のステークホルダー・企業のみが利用するものではない」ということです。複数のステークホルダーによって使われることを前提とし、アクセスや使用方法がデータクリーンルームを利用するステークホルダー間によって事前に合意され、その合意に基づく管理・維持が適切に行えるのがデータクリーンルームの特長です。これにより、一方のステークホルダーが他方のステークホルダーの生のデータを直接見ることができないことを保証しながら、価値のある成果を得ることができます。

以上をまとめると、データクリーンルームとはこの3点を満たすものと言えます。

  • 複数のステークホルダー間のデータのやりとりを事前の合意に基づき、仲介する機能である
  • クリーンルーム内では、ユーザーレベルの細かい粒度でのデータ分析を可能とする
  • 他のステークホルダーへのデータ共有は、ユーザープライバシーに配慮したデータのみ

 

データクリーンルームの広がり

サードパーティークッキーやIDFAなどの第三者に提供可能だったユーザー識別子が徐々に廃止され、直接的なデータのやりとりが制限されるというデジタルマーケティングの世界において、データクリーンルームを採用することは主流になりつつあります。広告主とアドネットワークのようなステークホルダー間でのデータ連携において、ユーザープライバシーにも配慮した最適なソリューションと考えられるためです。

このため、感度の高い広告主にとって、データクリーンルームはマーケティング技術スタックの中でも特に対応優先順位の高いソリューションになっていると言われており、データクリーンルームを提供するプロバイダーも多く出てきています。

現在提供されているデータクリーンルームは大きく2つのタイプに分けられます。

1つは、ソフトウェアやデータ管理ソリューションを提供する企業が、データを共有したいステークホルダー間の仲介役として、​​データクリーンルームを提供しているタイプです。

  • LiveRamp (Safe Haven)
  • Habu
  • Snowflake (Data Cloud)
  • InfoSum (Secure Data Clean Room)

 

これらの企業は​​プロバイダーとして、データクリーンルームを管理・維持する機能を提供しています。様々なステークホルダーとのデータのやりとりが可能で、柔軟に設計可能なデータクリーンルームです。その代わり、例えば広告主がLiveRampのSafe Hevenを使おうと考えた場合に、各アドネットワークにSafe Hevenへのデータ送信の仕組みを作ってもらうように働きかける必要があったり、広告主が主導して各ステークホルダーのデータアクセスの合意なども1から決めなければいけない、ということはおそらく起こり得るでしょう。そういった意味で、このタイプのデータクリーンルームは、自由度が高い反面、使い始めるまでの準備に時間を要することも考えられます。

2つめのタイプは、巨大プラットフォーム企業が提供するデータクリーンルームです。

  • Google (Ads Data Hub)
  • Amazon (Marketing Cloud)

 

これらのデータクリーンルームは、広告主が詳細なユーザーデータを送り込むことで、巨大プラットフォームの持つ膨大なデータと組み合わせた分析ができます。その成果を、プラットフォームでそのままターゲティング広告にも活用するようなこともできるため、即効性は高いでしょう。
ただし、データ分析に利用できるデータはそのプラットフォームのものに限定されます。例えば Ads Data Hub を利用した場合には、利用できるのはGoogleの持つデータだけであり、他のプラットフォームのデータが使えるわけではありません。
また注意すべきなのは、そのデータクリーンルームを提供するプロバイダー自身が、データをやりとりするステークホルダーであるということです。一歩引いて考えてみると、広告主が一方的に巨大プラットフォームへ詳細データを提供しているという構図にはなってしまいます。

MMPとしてのデータクリーンルーム

上記のいずれのタイプにも当てはまらない、新しいタイプのデータクリーンルームを志向し、提供を開始しているのがAppsFlyerです。

長年、AppsFlyerはモバイル計測プラットフォーム (MMP) として、広告主とアドネットワークの仲介役として、アプリマーケティングを支援してきました。
この中で、広告主のアプリからユーザーのデータを受け取る仕組みを持つとともに、アドネットワークと連携しており、そのユーザーレベルの広告接触のデータを随時受領しています。連携済みのアドネットワーク数は6,000社を超えており、この企業にはGoogle, Meta, Twitter, Amazonといった巨大プラットフォーム企業も含まれます。
つまり、AppsFlyerで各アドネットワークとの連携を行っている広告主にとっては、1からデータクリーンルームを作る必要なく、ほぼ利用の準備ができている状態になります。

MMPの機能の延長線上として、対象データはアプリ広告の領域には限定されるものの、中立的な仲介役という立場を維持しながら、複数のステークホルダーのデータを組み合わせた、即効性のあるデータクリーンルームを提供できます。

この点は、AppsFlyerのPrivacy Cloudが他のデータクリーンルームとは大きく異なる特色です。

 

今後の展望

ユーザープライバシーの重要性は高まり続けています。その流れの中で、データクリーンルームは広く使われるようになり「データベース」「データウェアハウス」「API」のようにより一般的なソリューション・技術用語として定着していくものと考えられます。

様々な企業がデータクリーンルームをソリューションとして提供して始めており、それぞれ長所・短所があります。そのため、広告主は目的に応じて、データクリーンルームを使い分けていく必要が出てくるのではないかと考えています。

つまり、広告主にとっては「数ある中からデータクリーンルームを1つだけ選ぶ」ことが求められる訳ではないでしょう。アドネットワークを含むデータ連携先の他社との関係を見直した結果、「いくつかのデータクリーンルームを併用することになる」のが、これから起きる可能性の高いことではないでしょうか。

ABOUT 田口 真言

田口 真言

AppsFlyer Japan株式会社
ソリューション・アーキテクト
日本アイ・ビー・エムにて金融系のアプリケーション開発エンジニア、データベースエンジニア、データ基盤・AI製品導入のプロジェクトマネージャーを経て、2020年にAppsFlyer Japanに入社。カスタマー・サクセス・マネージャーとして、さまざまな業種のお客様のアプリマーケティング活動を多角的にサポート。MMP移行のニーズが高まりに応えるため、2022年4月より現職に異動し、初めてAppsFlyerをご利用いただくお客様への技術的な導入支援や、移行支援を行なっている。また、エンジニアとしての大規模システムの開発やデータ処理・分析の経験をもとに、日本市場におけるAppsFlyerデータクリーンルームの活用支援にも取り組んでいる。