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クッキーレス時代における、アドテクの新たな提案[インタビュー]

 

業界の成熟が認められるDSP、SSPの領域において、SQREEMというユニークな新規参入者が日本市場に参入した。
その背景やビジネスモデルの詳細、日本での戦略などについて、SQREEM Technologies Japan 代表取締役社長 吉岡 ユージン氏にお話を伺った。

(聞き手 ExchangeWireJAPAN 野下 智之)

 

―自己紹介をお願いいたします

私はAppleやDellなど大手外資系IT企業を経て、30歳のときにプラスワンマーケティング(FREETEL)の取締役に就任しました。主にグローバルビジネスの責任者として、アメリカ大陸、中東、アフリカなど30カ国を超える国で事業を展開する等、色々な経験をさせて頂きました。その後、2017年より現職のSQREEM Technologies の日本法人を立ち上げ、代表を務めております。なお余談ですがSQREEM Technologiesの本社CEOのIanは元々Dell時代の上司でした。

 

A.I.がもたらす新しいターゲット層

―SQREEMの概要について(プロダクトの概要、ビジネスモデル、展開地域)お聞かせください。

SQREEMは、シンガポール発のA.I.テックベンチャーです。日本を含め、60ヶ国で、デジタルマーケティングの支援事業を展開しています。35億を超えるオンライン上のフット(フィンガー)プリントを常時収集しているオープンデータ蓄積と、教師データを必要としない独自のA.I.分析を強みとしており、クライアント企業にとっての顧客像や彼らが何を求めているかを言語化することに長けています。オンライン上の膨大なオープンデータを「シグナル」形式に変換・蓄積し、「シグナル」同士のパターンを独自のアルゴリズムによって抽出することによって、人間では推測できない斬新な顧客セグメントや生活者の隠れたインサイトを導き出すことが可能となります。分析にはCookieやIPアドレスを利用しないため個人情報保護法やGDPRにも準拠します。このA.I.によって、クライアント企業は自社のまだ見ぬ顧客群やそのインサイトを知ることができ、既存のマーケティング施策の見直しや、新規事業のターゲット策定にお役立て頂けます。

また、A.I.によって分析・抽出したターゲットオーディエンスに、Meta (Facebook/Instagram)などのSNS広告やディスプレイ広告を介してリーチする広告配信サービスも提供しています。ターゲット分析の特徴を踏まえ、基本的には新規顧客獲得のための施策としてご利用いただくケースが多いです。

 

成熟市場でDSPを開発した理由

-貴社ではDSPを持ち、またSSPも直近で買収したとお聞きしております。成熟する市場環境で、DSP・SSPによる新規参入をされた背景をお聞かせください。

2021年の夏に、APAC地域でプログラマティック広告関連のソリューション提供を行っているGAMMAという企業を買収しました。これによりSQREEMとして本格的にアドテクノロジー領域に進出するための礎ができました。正確には、GAMMAの主軸事業はSSPサービスの提供ですが、複数の有力な外部SSPとGAMMAのSSPを接続し、PMPを構築しながらそこにBidをするためのDSPを自社で開発した、というのが背景です。

そもそも当社がなぜアドテクノロジー関連サービスに取り組んでいるかというと、自社のA.I.による生活者分析の精度を立証するためという目的がありました。「A.I.」というある種前例が少ないサービスを提供しているとよく言われるのが、「アウトプットの精度はどうなの?分析結果はどの程度正しいの?」というご指摘です。そういった疑問にお答えするべく、まずはMetaの広告プラットフォーム上で当社が生成するターゲットセグメントに対して広告配信をしてみたのが出発点になります。Meta広告との連携サービスにおいて一定の成果を上げることができたため、次なる事業展開としてオープンウェブで広告配信をできるDSPを開発しました。

ここでも広告主にご利用いただくメリットは、当社のA.I.が導き出すオーディエンス分析とターゲットセグメントの精度を強みとしたオーディエンスターゲティングになります。

また、昨今業界を賑わしているサードパーティクッキー規制ですが、当社DSPはオープンデータとSSP経由のデータ分析に基づくコンテクスチュアルターゲティングを採用しており、同規制の影響を受けない形でのサービス開発を志している点もポイントになります。

 

ユニークポイントは意外性のあるターゲティング?!

-貴社プロダクトが持つテクノロジーのユニークポイントをお聞かせください。

広告配信における当社の強みは、膨大なオープンデータの収集と独自A.I.分析を通じた「意外性のあるオーディエンスターゲティング」です。例えば、訴求サービスが保険などの金融サービスであった場合、SQREEMのA.I.からは金融関連だけではなく、住宅やショッピング、食事など、生活者のニーズを表す様々な興味関心カテゴリからセグメントが提案されます。現在主流の他社サービスは広告主ごとに一定以上の広告配信を行い、機械学習を駆使してコンバージョンユーザーを拡大推計するモデルかと思います。そういった機能と差別化できるのは、広告主ごとの配信実績の学習を必要とせずに最初から精度の高いターゲットオーディエンスを定義できる点にあります。

また、強みであるオーディエンスターゲティング機能を、外部のSNSやオープンウェブのディスプレイ広告プラットフォームと連携して広告配信に生かすことができる点もユニークポイントと言えます。

具体的には、Metaの広告プラットフォームにおける詳細ターゲティングや幾つかの他社DSPに当社のセグメントを設定可能です。

技術的にもう一つ特徴と言えるのが、A.I.の分析対象はオープンデータに限らないという点です。場合によっては企業の保有するファーストパーティデータを分析し広告配信に活用することもできます。

 

SQREEMが考える、日本市場の狙いどころ

―日本への参入の背景とビジネスの展開状況についてお聞かせください。楽天さんとの合弁会社設立については、どのような狙いがあるのでしょうか?

日本市場に参入した背景・目的は大きく2つあります。一つは、SQREEMが事業を展開するAPACにて日本はトップクラスに大きなデジタル広告市場であること、もう一つはアドテク関連事業として後発のSQREEMにとって、テクノロジーだけでなくきめ細かいサービスも求められるという意味で参入障壁の高い日本で成功するサービスモデルを確立できればグローバルでもいける、という目論見がありました。

現在グローバルでも国内でも注力しており成果を上げているのが、製薬企業向けに、ドクターをはじめとした医療従事者とのデジタルコミュニケーションを支援するサービスです。A.I.を活用して専門性の高いニッチなターゲットを分析し、デジタルチャネルでメッセージを届けることができる点で製薬企業様から多くのお問い合わせを頂いています。同事業はすでに大きく成長してきた日本のデジタルマーケティング市場でもこれから成長の可能性が大きいと見込んでいる領域になります。

楽天は、巨大な顧客会員基盤とすでに展開されている広告プロダクトというアセットをお持ちのため、当社のテクノロジーと大きなシナジーが見込めるという観点で交渉を進め、合弁事業という形で協業をさせて頂くことになりました。両社のジョイントベンチャーである楽天スクリームは、主にMeta広告プラットフォーム上でA.I.が選定したオーディエンスを設定し広告運用を行う、所謂マネージドサービスを提供しています。JV設立から3年がたち、お陰様でビジネスは順調に推移しています。楽天スクリームは、楽天会員に基づく消費行動分析データをSQREEMのA.I.の分析対象に加えることで他社では真似することのできないデジタルマーケティングソリューションを開発することも目指しており、前述のMeta広告を中心としたプロダクトとして提供されています。

 

―日本では、今後どのような展開を予定しているのでしょうか?日本市場のどのような領域に、参入の余地があると思われていますか?また、どのようなタイプの顧客や事業者とのパートナーシップを想定されていますか?

まず、自社開発したDSPの投入と同プロダクトのブラッシュアップを進めて行きます。しかしながら私たちにとって自社DSPはA.I.が抽出するオーディエンスへのリーチ手段の一つでしかなく、先に触れたMeta広告や外部DSPとの接続に限らず、順次、外部広告配信プラットフォームとの技術連携を拡大していきます。SNS広告では、話題のTikTokへの配信も可能になる予定です。強みである独自オーディエンスの生成から、SNSや自社DSPを含むマルチチャネルでの広告配信を実現するプラットフォームとしてサービス展開をしていくつもりです。機能面では、現在は「誰に」広告を配信するかを最適化する仕組みを売りにしていますが、今後は広告に接触した層がどのような傾向にあるか、広告主サイトを訪れた層がどのようなインサイトを持っているか、などの分析機能も開発ロードマップに入っています。クライアントのタイプという観点では、先行して成果を上げている製薬企業向けファーマ事業のほかに特定の顧客属性を意識してはいませんが、日本市場でのニーズやクッキー規制の影響を鑑みると、様々なパフォーマンス訴求の広告主様に、新たな施策として、もしくはクッキーターゲティングの代替案として提案していくところから始めていきます。

一方、協業パートナーという観点ではサプライサイドでの関係構築も可能性はあると考えており、オープンデータ×A.I.技術によって広告媒体社への新たな提供価値が生み出せないか、と思っています。サードパーティークッキー規制に関連して自社媒体のユーザー理解が課題になるのでは、と想定しており、課題解決の一助になるサービスができると考えています。

ABOUT 野下 智之

野下 智之

ExchangeWire Japan 編集長   慶応義塾大学経済学部卒。 外資系消費財メーカーを経て、2006年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。 国内外のインターネット広告業界をはじめとするデジタル領域の市場・サービスの調査研究を担当し、関連する調査レポートを多数企画・発刊。 2016年4月にデジタル領域を対象とする市場・サービス評価をおこなう調査会社 株式会社デジタルインファクトを設立。 2021年1月に、行政DXをテーマにしたWeb情報媒体「デジタル行政」の立ち上げをリード。