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「音声広告は広告主が無視できないほど大きくなった」:OMDのオーディオ部門責任者とのQ&A

音声広告は、約100年の歴史があるにもかかわらず、最近になって、これまで以上に重要な存在になってきた。米国では、音声広告への投資が急増しており、ポッドキャスト広告費は2023年に20億ドル(約2650億円)を超えると予測されている。また英国の調査では、デジタルラジオを毎週聴いている人は全人口の74%に上り、53%がスマートスピーカーでラジオを聴いているという。伝統的な音声チャネルが大規模なユーザーベースを維持していることが示されたわけだ。

 

この音声コンテンツ市場の急上昇が、アドテクにとってどんな意味があるのかについて理解を深めるため、OMDのオーディオ部門責任者であるトム・コアー氏に、ストリーミングの台頭やサードパーティCookieの廃止などについて話を聞いた。

 

ストリーミング音声コンテンツの消費が拡大していることで、ブランドにも音声広告に予算を振り向ける気運が広がっているのでしょうか?

端的に言えば「イエス」です。ストリーミングオーディオを含む音声コンテンツ全般は、成長中の分野であり、広告主はこの分野への投資に関心を強めています。特にここ数年、家庭でのコネクテッドデバイスや音声操作対応デバイスの普及が顕著となり、音声広告は広告主にとっても無視できない存在になってきています。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックと相まって、ラジオのプラットフォームは大きくシフトしましたが、依然としてラジオ広告はオーディオ広告の大部分を占めています。ストリーミングの増加は、ラジオの全体的な聴取傾向にはあまり影響を及ぼしていません。ラジオは、毎週10億時間も聴かれています。そのうち、現在24%がコネクテッドデバイス経由、13%がスマートスピーカー経由です。これは、人々がこうしたメディア環境で膨大な時間を費やしていることを意味しており、広告主はそうしたリスナーにリーチしたいと考えています。今や非常にスケーラブルなメディアであり、他のデジタルチャネルに対しても十分な競争力があります。

広告主は従来、デジタルオーディオをラジオキャンペーンの延長としか考えてきませんでした。この点については、この先の回答でも言及することになるでしょう。というのも、このような考え方がデジタルオーディオの成長や、広告主がデジタルオーディオをとらえる見方に大きな影響を与えているからです。ここ数年のデジタルオーディオの大きな進歩は、単なるラジオの延長としてではなく、ひとつの独立したチャネルとして認識され始めるようになったことです。

 

サードパーティCookieIDの廃止は、音声マーケティングや音声広告に何らか影響があると思いますか?

当然、何らかの影響はあるでしょう。しかし、音声広告にとっては多かれ少なかれ過去にもあった課題です。これまでのデジタルオーディオのチャネルやストリーミングは、率直に言って、コンテンツやその規模において、広告主の需要を完全に満たせるような状態にはありませんでした。

ラジオやデジタルオーディオの多くは依然として、データドリブンというよりも、そのコンテクスチュアルに多くを依存しています。データは確かに有用ですし、人々がエコシステムの中をどう動いているか知ることは、今でも私たちが直面する最大のハードルの一つです。しかし、データがすべてではありません。たとえデータがなくとも、広告のコンテクストやプレースメントに基づくことで多くのことを実行できます。また、うまくいけば、音声認識デバイスの普及が、データを補ってくれるかもしれません。すべての情報が単一デバイスでストリーミングされるようになれば、より多くのデータを活用できるようになります。そうすれば、これまでなかったようなデータを音声の世界に持ち込むことができるかもしれません。

 

音声広告におけるキャンペーン管理とアトリビューションはどのようなものなのでしょうか。また、これらを強固で有意義なものにするための適切なテックツールはあるのでしょうか?

オーディオ分野のほとんどは、いまだにラジオ局がけん引しています。大半の広告主は依然として、デジタルオーディオをラジオの延長として見ており、放送というレンズを通してそれを測定しています。広告主の中には、ROI分析の際に、一般的なラジオ広告とより高額なデジタルオーディオを同じ枠組で測定している企業もあります。今もあちこちで、監査人が顧客に、デジタルオーディオは一般的なラジオ広告よりはるかに高額だから購入しないようにと助言しています。当社は、そうした見方を変えるために、デジタルオーディオが独立したチャネルとして十分に価値があることを証明するための指標を確立しようとしています。

極めて基本的ではありますが、オファーコードや無料ダウンロードを介した追跡可能な指標を活用することで、当社は顧客企業とともに、そこに到達しつつあります。現時点でもいくつかのツールがあり、それらは必要十分な機能を満たしています。しかし、まだ他のチャネルのものほどは強固ではないため、さらに開発を進める必要があると考えています。

 

ここ数年で進化してきた音声広告のデータドリブンの要素の中で、オーディオ広告の価値をブランドに理解してもらうのに役立ちそうなものはありますか?

私たちがブランドに音声広告を売り込む際、常に根拠としてきた考え方があります。リスナーが好んで聴いているコンテンツに即して語りかければ、広告メッセージも受け入れられやすくなるはずだという考えです。この数年で、データポイントがよりニッチになり、より一層のパーソナライズが可能になりました。ここで重要になるのがダイナミッククリエイティブです。これは、特定のデータポイントを活用し、そのデータに基づいてリアルタイムにクリエイティブをきめ細かく調整する仕組みです。そして注目されるのが、音声操作に対応するデバイスです。Say It Nowなどの企業が提供している技術では、広告の最後にトリガーとなるフレーズを流し、室内の誰かが「もっと情報を聞きたい」と言うと、2つか3つの質問を返します。こうしたやり取りを通して、ユーザーはより詳しい情報を得たり、欲しいものを買い物かごに追加できたりします。これまでもパーソナライズされたチャネルはありましたが、私たちは、よりパーソナライズを推し進めることができ、それが音声広告の強みになっています。データとは、個人をより詳しく知り、その人にとってより有意義なものを提供するためにあるのです。

 

音声広告における他の基本的な課題、例えば断片化などに対する業界の取り組みをどう思いますか?

断片化は確かに大きな問題です。それは、リスナーに音声広告を届けるうえで、大きな阻害要因となります。デジタル固有の課題もあり、注視が必要でしょう。例えば、Spotifyの競合相手は、他のSpotify的なサービスではなく、個人のレコードコレクションです。民間ラジオ放送の競争相手は、(広告のない公共放送の)BBCです。ポッドキャスト分野には、「Apple Podcasts」のようなプラットフォームがあり、広告主がアクセスできる領域から、大きくオーディエンスのシェアを奪っています。

しかし、これらは少しずつですが統合が始まっています。(英国の)ラジオ市場では、DAXとOctave Audioという2大サービスが、ラジオ局のすべてのコンテンツを統合しています。Spotifyのようなストリーミングプラットフォームは、多様なオーディオ市場の中で膨大な量のコンテンツを扱っています。Audionのようなグローバルなスケールを持つ企業も増えてきました。当社も現在は、4つか5つの大規模なアグリゲーターを通して取引をしていますが、これには大いに助けられています。

 

データドリブンの音声広告に適用されるべき業界標準にはどんなものがありますか。また、業界はそれを推進するために十分に取り組んでいますか?

標準化は、ラジオ分野では常に大いに役立ちます。私たちは長い間、RAJAR(Radio Joint Audience Research)という、最も堅牢で一貫性のある測定ツールの恩恵を受けてきました。デジタルオーディオの業界でも多くの研究が行われてきましたが、今はまだ、私たちが扱う多様な音声ソースとプラットフォームを網羅し、消費者がこれらのエコシステムの間をどのように移動しているかを的確に把握できる標準的な測定システムはありません。

デジタルオーディオへの広告主の投資を拡大するためには、そうしたシステムを開発することが鍵となります。そして、先述したように、それを実現するためには、コンテンツクリエイターと技術プラットフォームとのコラボレーションが欠かせないでしょう。

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本記事は、ExchangeWire.comに掲載された記事の中から日本の読者向けにCARTA HOLDINGSが翻訳・編集し、ご提供しています。

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2019年にCCIとVOYAGE GROUPの経営統合により設立。インターネット広告領域において自社プラットフォームを中心に幅広く事業を展開。電通グループとの協業によりテレビCMのデジタル化など新しい領域にも積極的に事業領域を拡大している。