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ノバセル田部社長に聞く―運用型テレビCM市場の拡大と融合がもたらす広告運用方法の変化 [インタビュー]

ラクスルのグループ会社であるノバセル株式会社は運用型テレビCM「ノバセル」を提供している。2022年には、競合他社のテレビCM効果を確認するノバセルトレンドの基本機能を無償化したほか、指名検索数を軸に新コンセプトを3rd AGENCYと掲げ、第3の視点を持つビジネスパートナーとして再始動した。田部正樹 代表取締役社長(ラクスル株式会社 上級執行役員 CMO)にノバセルの狙いや今後の展望について話を聞いた。

(聞き手:ExchangeWire JAPAN 柏 海)

 

広告は「見える化」「言える化」「直せる化」が改善の鍵

―「ノバセル」の今までのお取り組みからお聞かせください。

ノバセルは “運用型テレビCM”を標榜し、テレビCMをデジタルマーケティングのように広告運用するサービスとして、2018年にスタートしました。

 

その後、ノバセルでは広告効果の可視化をするために「指名検索数(社名・ブランド名などで検索された数)」を指標として、テレビCMが放送されたタイミングでどれだけ検索数が伸びたかをリアルタイムで計測するSaaSサービスの提供も始めました。

 

―指名検索数を運用型テレビCMの効果指標とした理由は。

「見える化」「言える化」「直せる化」と我々は言っていますが、広告効果はリアルタイムに確認し、原因を言語化できたうえで、かつ直すことが可能な指標(数字)で表さなければ改善は不可能です。そこで、我々は運用型テレビCMの効果指標・改善ポイントとして、指名検索数という数字を設定しました。

 

この考え方に基づき展開をしてきたのが、自社のテレビCMの効果分析を行う「ノバセルアナリティクス」と、その派生サービスとして展開をしている、競合他社のCM効果を確認するツール「ノバセルトレンド」になります。

 

―2022年、「ノバセル」はどのようにサービスを提供してきましたか。

「指名検索数をどのように計測して、どのように伸ばしていくか」という点に軸を置いて事業を進めてきました。また、2022年12月には新たなサービスコンセプト「3rd AGENCY」を掲げ、新サービス「オーディット」の提供を開始しています。

 

本サービスは指名検索数を軸とした第3者目線で持って、ノバセルが事業会社と代理店の間に立ち、客観的なプランニングや広告効果測定をおこなうものとなりますが、今後はSaaSの提供だけでなく、指名検索数をベースとした3rd AGENCYとしての活動も推進していきたいですね。

サードパーティクッキー対策としても指名検索数が注目

―指名検索数を伸ばすために、どのような改善方法を提案しているのでしょうか。

主には「クリエイティブ」と「CMを流す番組(枠)」が改善ポイントとなります。

 

クリエイティブや戦略を立てる前提として、特定の物や行動を思い出したときに、サービス名との結びつきが強ければ強いほど、検索行動は起きやすくなります。「フライドチキンなら〇〇」「結婚なら××」といった状況ですね。

 

これらの前提を元にクリエイティブが制作され、実際にCMが放送されることになりますが、ノバセルでは、CMが放送された後、3分以内に検索数が伸びているかor伸びていないかを自動計測することにより、CMの流れた番組やクリエイティブの評価をしています。

 

この評価は自社が出した複数のCMに対してだけでなく、他社の評価も確認が可能となっています。例えば「高い評価を得ている競合のCMから、特定の要素を自社のCMにも取り入れることで検索効果が高まるのではないか」という仮説や、「自社では今まで広告を出していなかった番組だが、他社で高い評価が出ているなら自社でも良い結果が出せるのではないか」という改善も可能です。

 

特に初めてテレビCMを出す企業およびその担当者は、事前情報や競合他社の戦略も見えないので、手探りでテレビCMをやらなければならないという課題感があります。そういう時に我々のサービスがあれば、競合のCMがどのように成功しているか・失敗しているかという状況が見えるようになる。

 

要はノバセルを使うことにより、テレビCMが初めての会社でも、何十億もテレビCMに広告投資をしないと得られなかったノウハウがすぐに得られるようになる、というのがノバセルの提案になります。

 

 

―「指名検索数がテレビCMにおいて重要な指標である」という周知も重要かと思います。

周知の一環として、2022年8月にはノバセルトレンドの基本機能を無償化した「ノバセル トレンド Free」をリリースし、現在は約1,000社のユーザーにノバセルトレンド Freeをご利用いただいています。

 

当然、会社としてはサービスを有料で使っていただくことも大事ではあるのですが、今は売上を直接的に伸ばすことよりも、指名検索数の有用性を周知させ普及させることが重要なフェーズだと考えています。

 

また、外部的な要因とはなりますが、2024年に予定されているサードパーティクッキーの規制も近づいているためか、新たな効果指標の一つとして、指名検索数への注目が広がっていると感じていますね。

 

サードパーティクッキーへの対策は①ターゲティング広告を継続するためにクッキーを必要としない方法で個人を特定するか②個人情報を必要としない広告手法や効果測定をおこなうか、の大きく2つです。ノバセルは後者となりますが「広告認知(広告効果)があがれば自ずと指名検索数は伸びる」という理解は大きく進んで来ました。

 

 運用型テレビCM市場は他の動画広告媒体とも連動し拡大

―テレビCM市場および運用型テレビCM市場の市況感は。

テレビCM市場はテレビ自体の視聴率の低下や広告在庫の減少に伴い、縮小は避けられないと考えています。一方で、運用型テレビCM市場はYouTubeなどのSNS動画広告やコネクテッドTV(CTV)など、他の媒体や広告コンテンツとも連動をしながら、市場は拡大をしていくのではないでしょうか。

 

「マス広告(テレビCM)は広告費が高すぎる」と言われてきましたが、近年になりデジタルマーケティングの手法が取り入れられた結果、商流や運用方法、最低限必要となる広告費なども大きく変わるとともに、テレビCMのために用意した素材を地上波のテレビだけで流す時代ではなくなりました。

 

今後も運用方法が進化していく過程で、例えば運用型テレビCMはシニア層、YouTubeなどのSNS動画広告やコネクテッドTV(CTV)は若年層、などの使い分けも顕著となりながら、運用型テレビCM市場は拡大をしていくのではないかと思います。

 

マーケティングの民主化で正しい広告成果を生み出す

―現在認識している課題や今後の事業展望についてお聞かせください。

「指名検索数は重要な広告効果指標である」ということの普及に引き続き取り組むと共に、ノバセルの最大のミッションである“マーケティングの民主化”も推し進めていきたいと思います。

 

現在、広告業界では媒体から広告出稿方法・レポーティングに至るまで、様々な形で半強制的にデジタル化が進行していますが、我々はここに課題があると考えています。

 

広告のデジタル化が進行した結果、一定の利便性は生まれたものの、正しい成果を生み出すためには非常に複雑な運用をしなければならず、全てを一企業の担当者だけで担うには非常に難しい状況となってきました。また、全ての広告業務や広告媒体がデジタルに置き換わったわけではないため、旧来型の広告媒体とデジタル広告の併用も考えていかなければなりません。

 

先ほど、運用型テレビCMとYouTube・CTVの例を取り上げましたが、テレビCM(アナログの広告)だけに広告を出す、YouTubeなどのデジタルだけに広告を出す、のではなく、今後はテレビマーケティングとウェブマーケティングの運用、PDCAが更に加速化・融合をしていくことが想定されます。この複雑化した広告業務を、我々が提供するツールやサービスを通じて、課題解決やサポートをしたいと思います。

ABOUT 柏 海

柏 海

ExchangeWireJAPAN 編集担当 日本大学芸術学部文芸学科卒業。 在学中からジャーナリズムを学び、大学卒業後は新聞社、法律・情報セキュリティ関係の出版社を経験し、2018年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。デジタル広告調査などを担当する。