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モバイル広告、効果測定、プライバシーの現状と展望

プライバシー規制が強化されるなか、モバイル広告のエコシステムも全面的な見直しを迫られている。サードパーティCookieの廃止に加え、アップルの「App Tracking Transparency(ATT)」フレームワークも導入され、広告主は新たな課題に直面しているからだ。

 

ATTフレームワークにより、広告主がターゲティングできるモバイルユーザーの数が激減しただけでなく、いまや消費者は、ターゲティング広告の表示を自ら自由にコントロールできるようになった。こうした広告主と消費者の力関係の抜本的な変化は、消費者にとっては明らかに歓迎すべきものだが、広告主にとっては、パーソナライズ広告の表示にインフォームドコンセントを得ることが不可欠となり、プライバシー重視への適応が欠かせなくなったことを意味する。グーグルもプライバシーサンドボックスのベータテストに入ったと報じられ(これはアップルATTのAndroid版といえるものだ)、広告主は、こうした動きに適応しなければ、取り残されるリスクを抱えることになる。

 

幸いにして、業界全体がプライバシー重視へシフトしているため、広告主もゼロからスタートしなければならないわけではない。例えば、ここ数年のプライバシー重視の風潮の高まりを受けて、コンテクスチュアル広告が再評価されている。アプリ内広告の台頭もモバイル広告の命綱になる可能性があり、プライバシー規制の範囲内でファーストパーティデータを利活用するためのインフラとして期待できる。アプリは、オーディエンスとのエンゲージメントの高さが魅力だ。最近の調査によれば、スマートフォンユーザーは、スマホ利用時間の90%をアプリに費やしているという。

 

そうは言っても、プライバシー重視への適応は「言うは易く行うは難し」だ。2022年第2四半期の時点で、アップルATTのオプトイン率は約25%であり、前年からは16ポイントの増となった。オプトイン率の増加は好材料ではあるが、トラッキングに同意するユーザーもいれば同意しないユーザーもいるということは、広告キャンペーンの成果を正しく測定する上で問題が生じることになる。フェイスブックの親会社である大手テクノロジー企業のメタ・プラットフォームズは、アップルのプライバシー方針変更への対応として、「Advantage+」と呼ばれる新たなツールを発表した。しかし、このツールは、結局メタのデジタル広告支配を強化するだけだ。小規模プレーヤーは、モバイル広告の配信と測定のために新たなソリューションを導入することを、よりいっそう迫られることになるのだろう。

 

このような混沌とした状況を踏まえ、モバイル広告の現状をどう捉えているのか、プライバシー重視への転換がどのような影響をもたらしたのか、広告主はこの変化にどう対応すべきなのか、といった点について、業界の専門家らに話を聞いた。

 

アップルのATTで明らかになったアプリ改革の必要性

モバイル広告に大きな変化が起こるのは確実で、それはブラウザ広告だけでなくアプリ内広告にも及ぶでしょう。アップルのATT導入以降、IDFAによるトラッキングを許可するユーザーのオプトイン率は約13~15%にとどまっています。報じられている数字には、4~40%という大きなばらつきがありますが、少なくともユーザーの過半数がトラッキングを拒否していることは間違いないのです。

 

この事実はモバイル広告市場の根幹を揺るがしました。ゼロデータポリシーに対応する戦略の必要性が劇的に高まったのです。その戦略とは、消費者にサインアップしてもらうことで、デジタルタッチポイント(ロイヤルティ、サポート、サービスアプリ)でユーザーを直接把握しよういう試みにほかなりません。アプリでスティッキネス(粘着性=継続利用)を獲得するのは困難ですが、この新たな動きは、自社アプリやサービスの開発に多大な興奮と活力をもたらしました。アプリのプライバシーに関しては今後も変更があると思いますが、代替モデルが必要なことだけは確かでしょう。

 

モバイルエコシステムフォーラム CEO、ダリオ・ベット(Dario Bett)氏

 

制約がイノベーションを育む

新たな規制が導入されるたび、その場しのぎのソリューションを採用するというのは非常に非効率です。そのため、賢明なパブリッシャーの多くは、ファーストパーティデータによるコホートベースのターゲティングなど、規模拡大が可能で、プライバシーに配慮された設計のソリューションを導入しています。

 

ファーストパーティデータへの移行は、規制への対応の必要性から生じたもので、アプリ内広告の台頭によるものではありません。しかし、アプリパブリッシャーがファーストパーティデータの活用を「ニューノーマル」として受け入れたことで、広告予算獲得をめぐって、新たな戦いの場が生み出されたことは明らかです。パブリッシャーが競争している分野の一つとして、オンデバイステクノロジーのトレンドが挙げられます。これは、デバイス上に行動データを集約して、それをターゲティングに活用しパブリッシャーが保有する広告インベントリーの価値を高めるようとする試みです。結果として、パブリッシャーは広告主に高度にパーソナライズされたブランド体験を約束し、広告予算の獲得につなげることができます。

 

ナンバーエイト コマーシャルディレクター、エマ・ラズ(Emma Raz)氏

 

プライバシー規制を順守した測定ツールの開発が必要

近年のモバイル環境の変化、とりわけプライバシー重視の動きは、マーケターの測定能力に大きな影響を及ぼしました。そのため、広告プラットフォームはいち早く対応し、広告パフォーマンスに関する情報をブランドに提供し、広告への投資をサポートすることに努めています。例えば、アップルの「SKAdNetwork 2.0」では、プライバシー規制を順守しつつ、限定されたデータに基づいて測定を行えるツールが導入されました。先日リリースされたバージョン4.0では、より詳細なコンバージョンリポートが可能になっています。

 

それでも、測定は依然として容易ではありません。マーケターがアトリビューションをより深く理解し、とりわけマルチチャネルのメディアプランにおいて、各チャネルのROI(投資利益率)を示すためには、さらなるイノベーションが必要です。結局、マーケターはすべての測定結果を集約して見ることができ、プライバシー規制にも対応したツールを必要としているのです。

 

メイキングサイエンス マーケティングサービスディレクター、グザヴィエ・クライン(Xavier Klein)氏

 

開発者とブランドにはファーストパーティデータを活用できる適切なインフラが必要

アプリやウェブサイトといったデジタル資産は、ファーストパーティデータの収集に利用することができます。サードパーティデータの入手が先細りになるなかでは、これは特に重要になるでしょう。ファーストパーティデータは、アプリやウェブサイトをマネタイズし、パーソナライズされた広告コンテンツを表示するために不可欠だからです。ファーストパーティデータはまた、ユーザーの同意を得ているため、プライバシー要件も満たしています。

 

しかし、アプリ開発者とブランドがファーストパーティデータを広告エコシステムのなかで安全に運用するためには、プライバシーを尊重したデータの受け渡しが必要です。購入時点の消費者情報だけを伝える匿名化されたテンポラリーIDが、こうしたセキュアなデータ連携を可能にする鍵であり、未来のデジタル広告エコシステムの根幹となるでしょう。

 

ノバティック 共同創業者兼最高プロダクト責任者、タニア・フィールド(Tanya Field)氏

 

モバイル測定ソリューションはインフラへの対応が不可欠

測定ソリューションは、モバイル環境の進化のスピードに追い付けていません。今後は、アテンション指標やインタラクションなどのエンゲージメント指標を用いて、モバイル広告やアプリ内広告の効果を測定できるようにする必要があります。

 

効果測定の向上のためには、インプレッションやクリックスルー率(CTR)といった従来の指標に代えて、アテンションなどのより高度な指標を用いる必要があります。エンゲージメントの最適化には機械学習が利用できるでしょう。またアプリ内広告は、ユーザーデータやセグメント情報に基づいて最適化すべきです。このようなアプローチによって、マーケターはユーザーと関連性を高めることができ、モバイル広告全体の効果も向上することができるはずです。

 

アドルディオ CEO、ポール・コギンス(Paul Coggins)氏

 

ファーストパーティデータへの移行が不可欠

アップルとAndroidでプライバシーフレームワークが導入された結果、アプリ内での広告が増加しました。そして、アプリユーザーはサードパーティによって勝手にトラッキングされることなく、自身でオプトインを選択できるようになり、企業は顧客を自社のアプリに誘導しアカウントを登録してもらい、合意を得た上でデータを利用するようになりました。消費者にとってはよりフェアな状況になりましたが、我々はより賢く立ち回る必要があります。

 

プライバシー重視の風潮はますます強くなっています。マーケターは、サードパーティデータからファーストパーティデータへと軸足を移し、ユーザーと自社ビジネスとの関係性をより深く理解する必要があります。ファーストパーティデータの収集は比較的低コストで実現できます。消費者の大部分は、ロイヤルティポイントや割引といった特典と引き換えに、一定のトラッキングには容易に同意するでしょう。ファーストパーティデータへの移行は、既存顧客と類似性が高い新規顧客を発見し、最も収益性の高い顧客層をターゲティングするのに役立つでしょう。

 

アルファギーク ペイドマーケティング担当責任者、ダン・ワイルド(Dan Wild)氏

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本記事は、ExchangeWire.comに掲載された記事の中から日本の読者向けにCARTA HOLDINGSが翻訳・編集し、ご提供しています。

株式会社CARTA HOLDINGS
2019年にCCIとVOYAGE GROUPの経営統合により設立。インターネット広告領域において自社プラットフォームを中心に幅広く事業を展開。電通グループとの協業によりテレビCMのデジタル化など新しい領域にも積極的に事業領域を拡大している。