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ゲーム内広告の最新事情: ゲーム業界はパーフェクト・ストームだ

企業メールによる情報漏洩事件*、まるで『プロジェクト・エクソダス』のストーリーのようなジェットコースター的投資、企業と競争当局の熾烈な争い、そしてマリオ。いつもビデオゲームと広告の結びつきは注目の的だが、ここ数カ月ほどこの話題が盛り上がったことはない。

この特集では、ExchangeWireのリサーチリーダー、マット・ブロートンが、この分野の最新動向と、広告とゲームが結びつく理由を詳しく解説する。

*実は、誰かが間違った添付ファイルを送ってしまっただけだ。誰にでも経験があるだろう。

 

マーケターにとってのチャンス

ディスプレイやモバイル環境におけるCookie廃止、ビューアビリティよりもアテンションの重視、そして在庫の断片化。これらはすべて、業界に広告品質を追求するよう求めている。この過渡期に盛り上がりを見せたメディアの中でも、特に活況を呈したのはリテールメディアとCTVの2つだろう。だが、おそらくあまり十分に活用されていないのがゲーム内広告だ。

私たちは長い間、「誰もがみなゲーマーだ」という主張を、何の疑念も抱かず受け入れてきた。確かにゲーマーの裾野はとても広く、ユーザーも多岐にわたるからだ。しかし、電車の中でキャンディークラッシュをプレイする人と、ハイスペックなゲーミングPCでeスポーツ大会に出場するDiablo 4のエキスパートと、Robloxのミニゲームをプレイする人との間には、未だに大きな違いがある。Cookieベースの時代にはこの点がネックになったかもしれない。しかし今では、ログインベースのインベントリが(Facebookを見れば分かるとおり)巨大になり、微妙な違いに応じたターゲティングも可能になった。現在もゲーム内では膨大な時間と注目が費やされている。いずれ、このメディアは、魅力的な在庫プールとみなされるようになるだろう。

 

ロイヤルティプログラムを通じて報酬と引き換えにデータを提供する価値交換のスキームは、すでに広く消費者に認知されており、このことがリテールメディア急成長の要因の一つになっている。このようなスキームは、すべてではないが、ゲーム体験、特にモバイルタイトルで簡単に再現できる。だがゲームのような没入環境では、広告とゲーム体験のバランス感覚が重要だ。アップル・アーケード(Apple Arcade)やプレイステーション・プラス(PlayStation Plus)、Xboxゲームパス(Game Pass)のように、多くのタイトルにアクセスできるベーシックなサブスクリプションモデルであれば、低価格でゲームがプレイできる見返りに広告を掲出するのも良いだろう。しかし、スタンドアローンのAAAロールプレイングゲームに70ポンド以上投じているユーザーに広告視聴を強要すれば、没入感が阻害され、ゲーム体験が損なわれ、それはユーザーの離脱に直結するかもしれない。そこでひとつの疑問が生じる:

 

なぜゲームに広告が必要なのだろうか?

まず、アップルの「Do No Track」の実装が、モバイルゲーム業界に打撃を与えたことが挙げられる。ハイパーカジュアルゲームのような基本的なカテゴリーは、タイトルを量産して繁栄していたパブリッシャーとともに「滅んだ」。ゲーム業界は、広告収入に加えて、あるいは広告収入の代わりに、サブスクリプション収入を獲得するため、よりコアなタイトルに移行することで適応してきた。しかし、アンドロイド端末にもプライバシー・サンドボックスの導入が迫っており、さらなる収入の危機が予想されている。

その上、投資資本も劇的に枯渇してきている。ゲーム専門媒体InvestGameのデータによると、開示されている株式取引量は前年比で89%も減少している。ゲーム業界は、長い開発サイクル(多くの新興スタジオは最初のタイトルを完成させる前にシリーズAを達成する必要がある)や高いゲーム制作コストによって、他の業種より大きな影響を受けており、モバイルでは単純なハイパーカジュアルタイトルからの撤退が深刻化してきている。

こうした舞台裏の動きと歩調を合わせ、インフレが消費者の財布を直撃しゲーム内消費にも大きな打撃を与えた。ゲーム調査会社Newzooの年初の予測によると、モバイルゲーム関連は6.4%、コンソールゲーム関連は4.5%のマイナス成長になるという。悲しいことに、レイオフのニュースが、年間を通してビデオゲーム関連のトップを飾っている。開発会社の多くがコスト削減を進めている。当然、低コストで収益性を高められる広告に着目する会社も出てくるだろう。ただ、大きな問題のひとつは、複数のプラットフォームで広告在庫が分断されていることだ。そのため、大手テック企業たちは、インベントリを統合し、ファーストパーティー在庫を拡充しようとしのぎを削っている。

 

マイクロソフトの戦い

アクティビジョン・ブリザード買収をめぐる、マイクロソフトと英国競争・市場庁(CMA)との長い闘いも、どうやら決着に向かいつつあるようだ。その中で、アクティビジョン・ブリザードがユービーアイソフトにクラウドゲーミングの権利を売却することを許したのは、マイクロソフトの目がクラウドゲーミング市場には向いていないことの証だろう。しかし、それではなぜこれほど巨額の資金を投じるのだろうか?

一言で言えば、コンテンツだ。アクティビジョン・ブリザードを買収することで、マイクロソフトはゲーム市場を幅広くカバーできるようになる。ゼニマックスの買収とともに、この買収が成功すれば、マイクロソフトは最も人気のあるロールプレイングゲーム、トップクラスのシューティングゲーム、そしてアクティビジョン・ブリザード子会社のキングを通じて、最も収益性の高いモバイルタイトルのいくつかを保有することになる。

先月、マイクロソフトのゲームチームから膨大な数の機密メールが誤って流出した。そこには、Xboxコンソールの新バージョンの進捗や、市場における競合他社についての考え、さらには日本のゲーム界の巨人、任天堂の買収提案までが詳細に記されていた。流出した文書によると、マイクロソフトはゲーム関連の広告収入を、2030年までに14億米ドル(約11億ポンド)にまで伸ばすことを目指している。現在、四半期ベースで560億ドル(458ポンド)を超える収益をあげているマイクロソフトにとって、これは些細な数字に見えるかもしれないが、ここには重要なポイントが2つある。一つは、広告の収益性の高さだ。Uberは、疲れた大衆に食事を提供したからではなく、広告によって最終黒字に到達することができたのだ。二つ目は、14億米ドル(11億ポンド)という数字が、2022年からの年平均成長率(CAGR)で約46%成長に相当するということだ。

ゲーム業界の多くの企業は、低金利の買収資金とコロナ禍によるステイホーム期間中の関心の高まりという二つの要因から、近年急成長を遂げてきた。そうしたゲーム業界のパブリッシャーにとっても、この広告の成長予測の規模は目を引くことだろう。マイクロソフトの統合コンテンツパッケージが、邪魔にならない広告として実を結べば(PCとコンソールを横断する方法については、同社が申請した特許を参照してほしい)、ゲーム内広告が主流になる日も近いかもしれない。

 

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本記事は、ExchangeWire.comに掲載された記事の中から日本の読者向けにCARTA HOLDINGSが翻訳・編集し、ご提供しています。

株式会社CARTA HOLDINGS
2019年にCCIとVOYAGE GROUPの経営統合により設立。インターネット広告領域において自社プラットフォームを中心に幅広く事業を展開。電通グループとの協業によりテレビCMのデジタル化など新しい領域にも積極的に事業領域を拡大している。