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3rd Party Cookie廃止後の1st Party Dataを活用した広告データ戦略とは

2024年に入りデジタルマーケティングを取り巻く環境も大きく変化しようとしています。

 

Google Chrome が 3rd Party Cookie を廃止する可能性がとても高い1年になるためです。3rd Party Cookie を Google が規制することで広告主やパブリッシャーに対して大きな影響がでてくることは間違いありません。

 

私は執筆時点(2023年12月)で株式会社プレイドで広告周りのプロダクトの責任者を務めております。前職では約11年に渡り、株式会社VOYAGE GROUP (現: CARTA HOLDINGS) でデジタルマーケティングやB2Cサービスにおいて事業開発をしてきました。プレイドは KARTE という 1st Party Data をさまざまな顧客タッチポイントで活用する SaaS を開発し提供をしております。そのため私は比較的広告主さんと話す機会が多い立場としてコラムを書きたいと思います。

 

コラムの内容については、このようなデジタルマーケティング史上最も大きな変化の1つに対して、どのような影響が出てくるのか、どのように対策ができるのかについて書いていきます。

 

3rd Party Cookie の消滅による影響

 

3rd Party Cookie が無くなることで大きく影響するのが「計測」と「パフォーマンス」になります。

 

計測は広告経由の流入の成果を計測するもので、広くコンバージョンと呼ばれている購入や会員登録といった広告の成果を測るものになります。私のスマホは Android ですが、日本ではシェアが多い iPhone を提供する AppleのSafariではすでに ITP が実装されて 3rd Party Cookie は規制されており、広告主のサービスの利用者の環境が iOS 主体だと広告成果は正しく計測されていなくなっています。

 

そのためオンライン広告への支出が大きい広告主の方々から、CPA が大きく悪化してしまった、という話を2022年くらいから多く聞くようになりました。Google もそうなのですが、それ以上に Meta や Yahoo! といった大手媒体においてはパフォーマンスが悪くなったようです。

 

あくまで利用者の環境次第ではあると思いますが、デスクトップにおけるWebブラウザの利用シェアはGoogle Chromeが多く、顧客がスマホではなくパソコンで検索やサイト閲覧を行うことが多いB2B の事業者さんには今回の影響が大きいかもしれません。各媒体は 1st Party Cookie による計測に切り替えていっていますが、ITP下では 1st Party Cookie も 24時間に制限され、Local Storage も7日間の制限が出てきたので、計測を取り巻く環境が昔のように戻ることは今後ないでしょう。Google が 3rd Party Cookie 以上の制限を強めてくるかは重要なポイントだと思います。

 

パフォーマンスについては、3rd Party Cookie が力を発揮していたリターゲティングの領域や媒体属性を使ったものなどに制限が出てきます。これらも前述のように CPA を悪化させる要因になっていると思われます。また、計測が十分でないと広告媒体で最適化をかけるための学習に必要なコンバージョン獲得に時間がかかったり、コンバージョン数が足りなくなってきています。CPA という非常に便利な物差しでオンライン広告はここまで広がってきたと思いますが、計測そのものの根幹が崩れてくるとパフォーマンスにも影響が出てきます。

3rd Party Cookie の消滅に対しての対策

 

ではどうしたらいいのでしょうか。パブリッシャーはいくつか存在する ID Solution のネットワークに参加して、来たるタイミングに備えています。ターゲティングの精度が下がると CPM が下落するので 3rd Party Cookie の影響はマネタイズの観点だと広告主よりもパブリッシャーの方が影響が大きいかもしれません。一方で広告主側の視点に立つと業界特性やビジネスモデルにも影響しますが、Google、Meta、Yahoo! への予算投下の比率は依然として高いです。現在の複雑なアドテクの取引システムの中では取引の1つ1つを追うことは難しく、追えたとしてもインサイトを得てアクションに繋げることは難しいので、大きなくくりで媒体を評価していくことが重要です。

 

計測に関しては媒体各社が準備を進めてきています。Google ならば「拡張コンバージョン」、Meta は「Conversions API(通称 CAPI)」、Yahoo! や LINE も2023年で対応が進んできています。これらは広告経由のCVのはずが、ITP などの影響によって広告経由ではないCVと媒体が判断してしまう前述した計測の問題に対応するものになります。各媒体によって連携するための ID は異なるのですが、確定IDであるメールアドレスを使うことで計測の精度を上げることができます。メールアドレスを使わないで媒体が発行するCookieなどで連携することも可能なのですが、精度はメールアドレスの方が格段に高いですし、媒体各社もメールアドレスとの連携を推奨していることが多いです。

 

計測に関して、サーバーサイドCookieを発行することで対処する動きもありますが、クロスブラウザやデバイスまたぎの場合などは対応することができないですし、サーバーを構築するための社内コミュニケーションやインフラ運用などハードルは高い現状があります。媒体各社が推奨している計測精度を上げる方法を正しく理解して実装することが重要になります。稀に、オフラインコンバージョンのインポートとCV補完を同一に扱っているケースを見かけます。オフラインコンバージョンのインポートは媒体タグで取れない深いコンバージョンを取り込む目的なので用途が違うので注意が必要です。

 

ここでお気づきの方もいらっしゃると思いますが、メールアドレスのような個人情報を広告媒体に提供すること、いわゆる個人情報の第三者提供に問題はないのか?というご意見がありそうです。プライバシーポリシーを適切に更新して、広告主のサービスの利用者からの同意を得ることでその問題は解決できます。各媒体が個人情報を連携IDとするソリューションを提供してきており、大手媒体への出稿額は大きいからこそ、法務の方と連携し適切に利用者からの同意を得ることが2024年は重要なタイミングになってきています。

 

Google のカスタマーマッチに代表されるオーディエンス連携も、ターゲティングやリターゲティングの問題をある程度は解決するのに役立ちます。優良顧客をシードリストにして媒体と連携して類似配信をしたり、既存ユーザーを除外したりといった使い方があります。オーディエンス連携の場合は現時点で多くの媒体が連携IDをメールアドレスもしくはそれ相当のID(電話番号や媒体発行の利用ID)としています。

 

コンバージョンの計測を補完する方法、オーディエンスの連携はこれから来る Google の 3rd Party Cookie 制限や ITP の影響による対処療法としての位置づけだと私は捉えています。プラットフォーマーとのいたちごっこが今後も続いていくのではないでしょうか。Google を中心にプライバシー サンドボックスのような概念が出てきていますが、メールアドレスなどをベースにした確定IDの手法がエコシステム全体の混乱を小さくしてかつ実行に移しやすい手法であり、適切に対応できればネガティブな方向にはならないのではと思っています。

CPAからの脱却

 

一方でこういう外部環境が大きく変化するタイミングでは別なアプローチも考えられます。計測やパフォーマンスは引き続き重要ですが、より事業成果に近いコンバージョンについて考えてみたことはあるでしょうか?

 

金融業界を例に考えてみましょう。例えば証券会社であれば単純化した獲得ファネルは次のようになると思います。

 

媒体の計測タグの多くは 3の「資料請求完了」で計測して、その後の転換率などをかけ合わせて「資料請求完了」における目標CPAを決めているのではないでしょうか。それは 4の「申し込み・口座開設完了」 以降のステップは媒体のタグでは計測することが難しいからです。しかし、近年はCDPの広がりなども後押しして、5の「初回取引完了」のような、より事業成果に近い指標で広告を評価することが注目されています。媒体タグの範囲外で成果を測ろうという動きで、媒体タグでは計測できないオンラインのコンバージョンポイントであることもありますし、店舗での購買のようなオフラインコンバージョンを扱うこともあります。またコンバージョンに対して value(価値)を付けて媒体と連携することも可能になってきました。1万円の初回取引の方より、10万円の初回取引をする人には高い金額で広告の入札をする手法です。

 

この証券会社のケースだと、初回取引が発生して初めて顧客と企業の本当の関係がスタートします。CPAが高くても、ROAS(費用対効果)が合えば問題ない、tCPA(目標コンバージョン単価)からtROAS(目標広告費用対効果)への考え方のシフトです。しかしROASベースの広告運用やより事業成果に近い深いコンバージョンポイントで広告を評価しようとすると、媒体やGAのタグを設置しただけでは計測ができないのです。ここに広告データと CRM や 1st Party Data を統合することで本当に事業につながる広告運用を実施するためのハードルがあります。

 

2023年にはGoogle Analyticsにおいても Universal Analytics から GA4 への移行が必須になり、媒体各社も 1st Party Data の重要性を以前よりも強調して、よりデータの活用を求められる時代になりました。Big Query や SQL のようにマーケターに求められるスキルセットがデータの領域に広がってきました。広告媒体に良質なシグナルを戻し、より深いコンバージョンポイントで広告を評価する時代になってきました。人を雇ったりパートナー企業と連携してデータ基盤からダッシュボードの構築を自前で整備したり、データドリブンな広告運用を支援する SaaS を活用してもよいと思います。事業フェーズや広告代理店さんとの関わりにも影響するテーマです。

 

そのような変化の波が来ていても、少なくない広告主の方からデータ活用に関してはまだ課題が多い、という声をいただきます。それは 3rd Party Cookie の規制、ITP などの変化に対して媒体が主導している解決方法を実現するためのエコシステムがまだ未成熟だからだと考えています。プライバシーポリシーの改定、データを活用するための基盤構築と体制、事業成果に近い部分で広告を評価していくステークホルダーとの目線の統一などまだまだ課題は山積みです。

 

2024年の 3rd Party Cookie の完全廃止に備えて、データ活用が進み、より本質的な広告投資が評価される時代になれば良いと願っています。

 

コラム執筆者

 

鷹嘴 昌弘
Head of Product Growth

 

 

 

2009年にVOYAGE GROUP(現CARTA HOLDINGS)に入社し、デジタル広告、EC領域での事業開発や、事業投資、M&A、海外含む複数子会社の代表を務める。2019年にプレイドに入社し、エンタープライズセールス、Google社との協業推進、パートナーチームの立ち上げを担当。2021年5月より広告領域でのデータ活用を可能にするKARTE Signalsの責任者を務める。2024年1月から現職。アジト株式会社社外取締役。