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Molocoがリテールメディアで強さを発揮できる理由とは[インタビュー]

モバイルアプリ広告市場でシェアを拡大し続けてきたMolocoが、日本市場において、リテールメディア市場に本格的に参入を果たした。アプリ広告向けDSPとして知られる同社がリテールメディア市場に参入を果たした背景について、昨年9月に同社リテールメディア部門・日本市場の事業責任者に就任した藤中太郎氏にお話を伺った。

(聞き手:ExchangeWireJAPAN 野下 智之)

 

―藤中さんのご経歴について改めてお聞かせください

私は、長年アドテクに携わっている人間です。2004年にオーバーチュアに参画し、営業担当を経て、プロダクト担当になりました。また、オーバーチュアがヤフーと合併したのち、数年間ヤフージャパンの検索連動型広告の責任者となり、その後のロードマップの作成を担当しました。

そして、一旦、アドテク業界を離れましたが、2年後に戻り大手広告代理店で、大手広告主向けにパフォーマンスマーケティングの支援をした後にIntegral Ad Scienceに参画して6年ほど在籍して、ブランドセーフティー、アドフラウド、ビューアビリティ―に関することなどの問題提起をし、その改善についての普及啓もう活動をしてまいりました。

質のいいメディアを、どうやってファーストパーティデータを活用してその価値を上げていくかというリテールメディアビジネスに魅力を感じ、2021年にCriteoのAPACリテールメディアリードになり、リテールメディアビジネスをローンチしました。その後、リテールメディア領域で優れたプロダクトを持つMolocoに参画しました。Molocoは機械学習の専門性が高く、AIをどのように活用するかということに注力しているところが魅力です。次世代のリテールメディアプロダクトを提供するであろうMolocoの将来性に魅力を感じて参画しました。

リテールメディアは、今後はパーソナライズをしていくことが求められますが、現状のプラットフォームやプロダクトでは実現することは容易ではありません。Molocoは、優れた機械学習エンジンを持ち、ユーザーが次にどのような行動をするかを推測したうえで、パーソナライズされたレコメンデーションをすることに強みを持っています。

欧米は、ウォルマートや、Targetなど、ファースト―パーティーのリテール企業が多いのが特徴ですが、アジアでは楽天やYahoo!などのサードパーティーのマーチャントが集まった、プラットフォーム型のリテール企業が多いのが特徴です。また、多数のミドル・ロングテール企業がいることも大きな特徴です。

ファーストパ―ティーのリテール企業は、大手メーカー系の広告主企業などと長年の関係構築のもとで良好な関係にあり、広告営業の環境が整っていますが、そのような関係構築が出来ている企業数は100社に満たない程度であり、ミドル・ロングテールの広告主を取っているわけではなく、スケールすることはありません。Amazonでは7割の収益がミドルとロングテールからきていますのでスケールを実現することは必要です。

MolocoがMoloco Commerce Media(旧:RMP:リテールメディア・プラットフォーム)をリリースしたのは2021年5月です。その後2022年頃より会社として本格的に注力をし始め、米国や韓国での実績を元に、日本でも本格的な注力をするタイミングで私がジョインしました。日本でのリテールメディアビジネスの本格展開については2023年9月にリリースしました。

 

―なぜMolocoはリテールメディアに参入したのでしょうか

Molocoはリテールメディアを、リテールという言葉に問わられることはなく、より幅広く考えています。大切なものはファーストパーティデータと、優れたマシンラーニング、AIとの掛け合わせであり、それにより高い価値が提供することが出来るのです。リテールという言葉にとらわれすぎてしまうと、可能性が狭くなってしまいます。大事なのは、本当の価値はどこからもたらされるのかということです。

当社のCEOの考え方は、プロダクトの観点から考えると、質の良いファーストパーティデータを機械学習のシステムと一緒にすると、どんどんとその価値が出せるというものです。機械学習とファーストパーティデータというものが、Molocoの価値提供をするところの肝です。それがDSPでスタートしただけであり、次はリテールがその対象となったということにすぎません。最初はゲーム業界で結果を出し、そして次は非ゲームに進出しました。そして次はリテールということです。

ファーストパーティデータとして、購買データは最も質が高いものであるとよくいわれています。我々は購買データだけではなく、購買をする前に何をしていたか、そして購買をした後に何をするのかというところにフォーカスを当てています。購買というのは非常に重要なシグナルですが、その前と後、いわゆる顧客のカスタマージャーニーのデータが一緒に入ってこないと機械学習は上手く動作しづらいです。Molocoはこれらのデータを集めて、将来を予測するというところに強みがあります。

当社のコアコンピタンスが、リテールメディアでも通用するというのが、Molocoがリテールメディアに参入した理由です。言い換えると当社のマシンラーニングを大いに活かせる領域が、まさにリテールメディアであるといえるのです。リテールメディアというのは、リテール企業にとりインフラそのものであり、いわゆるプラットフォームプロバイダーとしてのサービス提供となります。リテールメディアビジネスは、Molocoにとっても、ビジネスとしての可能性は今後益々広がっていくものと確信しています。

 

―リテールメディアビジネスの魅力についてお聞かせください。

リテール企業が、収益性の高い商流を作る必要があります。もともとリテールビジネスは、マージンが低いビジネスであり、せいぜい6%から18%程度です。一方、リテールメディアビジネスは、Amazonを例にとると60%程度の利益になるなど、高い収益性が期待されます。Amazonは開発を全てインハウスでやっており、60%を実現できていますが、適切なパートナーと一緒に作った場合は、そのうちの8割の利益は確保できるでしょうし、また市場参入に要する時間の短縮も可能です。また、リテールメディアビジネスにおいて、でユーザーに提供される広告というもの自体が有益なコンテンツとなり得ます。

Molocoのコアなケイパビリティは、ディープラーニングにより、ビジネスゴールに対して最適化が図れるソリューションです。広告主向けにはシンプルなUIを提供しており、簡単な3ステップで、広告を配信することが出来ます。配信可能な広告のフォーマットは、オンサイト向けにはスポンサードプロダクト、スポンサードサーチ、スポンサードバナー、を提供しています。また現状はオンサイトが中心ですが、今後はオフサイトにも提供をしてまいります。

配信される広告は、ユーザーエクスペリエンスが大切ですが、Molocoのシステムは、ユーザーの過去の行動履歴や、興味関心の所在などをもとに、このユーザーの次のステップがとり得る行動を予測して、最適な広告を配信します。よくある他社のシステムとして、ユーザーがある商品を購入した後に、同じ商品アイテムの広告が出続けるというものがありますが、Molocoのシステムは、「ユーザーが何を買ったか」ではなく、「ユーザーが今後何をするのか」に対して、最適な広告をリアルタイムで見せることを実現できております。これによりユーザーはハッピーになりますし、パフォーマンスも改善されます。そして、広告売上だけではなく、EコマースのGMVも上げていくことが出来ます。

 

―Molocoのビジネスモデルはどのようなものでしょうか

原則として、レベニューシェアモデルを採用していますが、SaaSとしてサービスを提供するケースもあります。日本の市場はよく米国をはじめとするグローバル市場とは違う特殊であるという話を聞くことがありますが、Molocoの良いところは、グローバルスタンダードを押し付けることはなく、柔軟性をもって日本市場へのローカライズが可能なところです。日本や韓国はお客様が求めるサービスレベルが相当厳しいとも言われていますが、Molocoのシステムの柔軟性が高い評価を受けて、日本よりもEC化率が高い韓国でも、導入が進んでおります。

日本においてはまだまだマーケット環境が出来ておりません。ですが、リテール企業はメディアビジネスを始めるリスクはほとんどないというメッセージと共に、リテール企業にオファーを出してアプローチをしています。

 

―課題についてお聞かせください

日本におけるリテールメディアというものの定義が、まだ定まっていないということが挙げられます。近年、日本でもリテールメディアが注目を集めていますが、よくよくその内容を見ると、当社が取り組もうとしているリテールメディアとは異なるものであることも多々あります。日本におけるリテールメディアの定義が定まることで、業界が更に活性化されることが期待されます。

ABOUT 野下 智之

野下 智之

ExchangeWire Japan 編集長   慶応義塾大学経済学部卒。 外資系消費財メーカーを経て、2006年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。 国内外のインターネット広告業界をはじめとするデジタル領域の市場・サービスの調査研究を担当し、関連する調査レポートを多数企画・発刊。 2016年4月にデジタル領域を対象とする市場・サービス評価をおこなう調査会社 株式会社デジタルインファクトを設立。 2021年1月に、行政DXをテーマにしたWeb情報媒体「デジタル行政」の立ち上げをリード。