dentsu Japan AI戦略「AI For Growth 2.0」を発表。マーケティングの全工程でAIエージェントによるサポートが可能に
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on 2025年6月06日 in
国内電通グループの4社(電通、電通デジタル、電通総研、イグニション・ポイント)は5月19日に都内にて、「AI For Growth 2.0」の発表説明会を行った。電通グループがこれまで積み上げてきたアセットとAI技術を融合させ、マーケティングの全工程をAIエージェントがサポートするという、独自のAI戦略についてその全体像を示した。
はじめにdentsu Japan データ&テクノロジー プレジデントである松永久氏(工学博士)より、これまで国内電通グループが取り組んできた「AI For Growth」の取り組みと進化について説明がされた。
電通グループでは、東京大学との共同研究プロジェクトの推進や、電通国内グループ39社の従業員1114人が、一般社団法人日本ディープラーニング協会が実施する「G検定(ジェネラリスト検定)」資格を取得するなど、AIプロダクト・ソリューションの展開と並行してAI利活用人財の育成にも尽力している。
仮想再現するAIモデル
続いてdentsu Japanグロースオフィサー(特任執行役員)エグゼクティブ・クリエイティブディレクター 主席AIマスターの並河進氏が、今回発表された「AI For Growth 2.0」の概要を紹介した。「AI For Growth 2.0」では「People Model」と「Creative Thinking Model」という2つの機能が拡充される。
「People Model」では電通がこれまで構築してきた大規模調査データを活用し、1億人規模の仮想AIペルソナを作り、日本全体と同規模の人々を再現する。この仮想ペルソナはAIペルソナと量的アプローチに用いられてきた回帰型機械学習のメリットをあわせ持ち、ファインチューニングをかけることで精度が上がる。並河氏の言葉を借りると、仮想AIペルソナが「人についての想像力を拡張」していく。「People Model」の導入で、メッセージやメディアなどのプランニングにおける一連のプロセスがシームレスに統合され、業務の効率化と精度の向上が期待できる。
「Creative Thinking Model」は2024年8月発表の「AICO2」に続く、ビジュアルアイデア生成機能の拡張である。従来のAIによるキーワードから連想される画像作成に、アートディレクターの思考法を追加学習させたプロンプト生成機能を加えることにより、より創造的で明確なメッセージを持ったビジュアルが生成できるようになる。学習データは過去に制作された、電通に著作権が帰属している画像データと、それらの画像についてのアートディレクターの思考法となる。
進化を続けるAIマーケティング
株式会社電通デジタル CAIO(Chief AI Officer:最高AI責任者) 兼 執行役員、dentsu Japan 主席AIマスターでもある山本覚氏は、AIエージェントやAIアプリケーション群、データをすべてつなぎ合わせる「統合マーケティングAIエージェント」を紹介する。
プランニングから効果計測・最適化までのすべてがAIによって行われる過程では、国内外の電通グループのソリューションに加え、他社の専門ソリューションやサービスとも連携することで、AI機能をさらに強化する。
エグゼキューション段階では、電通デジタルは新たに「Generative Engine Optimizationコンサルティングサービス」の提供を開始した。生成AIを活用した検索において、回答時に自社情報が引用される機会を増やし、ユーザーとの接点創出をサポートする。
今後は統合マーケティングAIエージェントにソリューションをつなぐのみならず、他ソリューションのAIエージェント同士がコミュニケーションを取り合っていくことまでつながるのではないか、と山本氏は述べる。さらにAIエージェントは、日本企業の海外進出サポートにも対応できるとのこと。統合AIマーケティングエージェントは国内電通グループ社員の利用だけでなく、今後は顧客向けサービスとして提供を拡大していく。
AIと人の協働
最後に登壇した株式会社電通総研 クロスイノベーション本部本部長の阿野基貴氏は、AIエージェントの活用事例を挙げ、人事・経営・製造などすべての場における、人とAIエージェントの協働事例について紹介した。
商品設計や開発においてはベテランの知見やノウハウの継承が必須となるが、AIエージェントはベテランの技術や知識、知見・思考といった暗黙知を形式知として組み込むことができる。ビギナーへの継承を加速するとともに、開発プロセスにおいてAIによる自動設計も実現する。各工程で発生する作業の効率化・自動化とともに、仮想で専門家や創造的パートナーを生むことで、よりベテランの経験や知識を高めていく狙いがある。顧客対応においては対話型AI開発を支援する「∞AI Chat」がすでに複数の顧客に導入されており、会話ログを蓄積・分析することでさらに高い精度での対応が実現できる。AIエージェントは、企業の内部・外部の両方で伴走支援する形となる。
質疑応答では、「Creative Thinking Model」における生成ビジュアルに人間が手を加えるのか、人とAIの協働の具体的なイメージが知りたいという質問があり、並河氏は「例えばテレビCMであればAIと協働し複数案を作成し、人が他ソリューションも使いながら案を絞り、最終的に絞られた案から人が選ぶ。生成ビジュアルにおいては、AIのアイデアから人が刺激を受ける、または調整をかけながら使っていくという想定」と回答した。
今回発表された「AI For Growth 2.0」では、マーケティングの全工程でAIエージェントによるサポートが可能になる。dentsu Japanは、人とAIの協働によって業務効率化を目指すだけでなく、価値の向上や事業成長までを視野に入れてAI戦略を推し進めていく。
ABOUT 角田 知香

ExchangeWireJAPAN 編集担当。イギリス・キングストン大学院にて音楽学の分野で修士号を取得。学校・自治体文化講座等にてアート講座講師として活動後、2024年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。