The Road to ATS Tokyo 2025:「代理店は必要か?」との問いに広告主はどう答えるか②[インタビュー]
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ATS Tokyo 2025が11月21日に開催される。本イベントの看板コンテンツの一つが、パネルディスカッション形式の議論となる「広告主が本音で議論:次世代エージェンシー論〜代理店は必要か?〜」。広告主のインハウス化やAIの普及を受けて、代理店は「中抜きされる存在」になってしまうのか。それとも「戦略パートナー」として進化できるのか。登壇者の一人である株式会社メルカリの千葉久義氏に予め課題意識を聞いた。
(聞き手:ExchangeWire JAPAN 長野 雅俊)
The Road to ATS Tokyo 2025:「代理店は必要か?」との問いに広告主はどう答えるか①はこちら
代理店は広告業界専門の人材派遣会社?
―自己紹介をお願いします。
株式会社メルカリでVP of Marketing Marketplaceを務める千葉久義と申します。電通からGunosy、ノインを経て、現在はメルカリにてマーケティング部門を統括しています。デジタルマーケティングには10年ほど従事していることになります。
―貴社ではどのような種類の広告を出稿していますか。
テレビCMからOTT広告、ショッピング広告、アドネットワークなど幅広い広告媒体上で、フリマアプリであるメルカリの新規ユーザー獲得や既存ユーザーの取引活性化、さらには「メルカード」「メルカリ ハロ」「メルカリShops」といった関連サービスの訴求など様々な目的で広告を出稿しています。
―貴社のデジタル広告運用体制を教えてください。
当社社員と広告代理店で業務を分担しています。例えば、Googleショッピング広告のデータフィード開発などはできる限り社内で行っていますが、広告クリエイティブ制作を必要とする業務は広告代理店にお願いしています。
AIの発達により、広告クリエイティブ制作にかかる負担はかなり軽減されてきたものの、現状ではまだまだ多くの手間がかかります。この作業は外注した方が効率的であるという判断です。
ただし、広告の出稿規模がより大きくなり、広告代理店に支払う手数料が一定以上になるのであれば、優秀な社員をしっかりと据えた方がコスト効率は良くなるという考えに基づき、広告クリエイティブ制作作業についても内製化を推進していくことになる可能性はあります。
―逆に言えば、マーケティングないし広告関連業務のコスト効率が内製よりも良くなる場合には広告代理店の存在意義が高まるというわけですね。
コスト効率だけでなく、コストを柔軟に調整できるという点も広告代理店の特徴ではないでしょうか。事業の業績や進捗によって、マーケティング予算は急激に増減することがあり得ます。少なくともコスト管理という側面のみに限定すれば、固定費となる社員の人件費と、変動費扱いとなる広告代理店への支払いでは、後者の方が調整しやすいのは明らかです。
さらにデジタルマーケティング業界は人材流動性が高く、マーケティング部署の主要人材が一気に揃って転職してしまうということが決して珍しくないので、そうした状況に陥った際に即座に業務支援を提供してくれるという点でも頼りになります。
―コスト管理と調整がより行いにくいはずのインハウス部隊を併用しているのはなぜですか。
ノウハウを社内に蓄積するべきだと考えるからです。ただし、企業やデジタルマーケティング責任者によって、その必要性については意見が分かれるかもしれません。
一口にデジタルマーケティング責任者といっても、テレビCMを含めた統合的な戦略設計に強みを持つ人もいれば、いわゆるアドテクを駆使した広告運用を自ら実行できる人まで様々な能力や資質を持った人がいます。
概して、前者の場合は広告代理店を有効活用しようと考えるのとは対照的に、後者はインハウス部隊を整備しようとする傾向が強いと思います。
情報の非対称性がなくなった
―広告代理店の専門性についてはどのように評価していますか。
かつては広告代理店と言えば、ありとあらゆる広告媒体とその効果的な活用法を熟知している人が集まる場所として位置づけられていたと思いますが、最近ではこうした情報の非対称性がなくなってきているように感じます。
まず副業のような形式で専門的な助言やその他の支援を提供する人を簡単に見つけられるようになりました。一例を挙げると、アプリ広告運用を行う上で広告計測SDKを導入する広告主は多いと思いますが、この設定作業が「簡単だけど一度やったことがある人でないとよく分からない」といった類のものです。だからこれまで多くの広告主は、広告代理店に広告出稿とセットでSDKの設定作業をお願いしていました。
ところが、最近では、数万円程度のお支払いをすれば、この設定作業を代行してくれる方を同僚や知人の紹介または副業サイトなどを通じて容易に見つけることができます。
―かつて広告代理店に勤務していて今はフリーランスとして活動されている方などですね。
そうです。しかも10年前と比較して転職がより盛んに行われるようになってきたので、広告主はその気にさえなればいつでも広告代理店出身者を自社の社員として採用することができます。こうした環境下においては「広告代理店に業務委託しなければ得ることができない専門知」というのはかなり少なくなったと思います。
加えて近年は広告業務においてもAIが目覚ましい発展を遂げています。多くの広告代理店がかつて売り文句としていた「広告運用が強い」「広告クリエイティブを大量に制作できる」といったことをAIが代替できるようになりつつあり、何百人もの運用及び制作部隊を擁する広告代理店が強みを発揮するのが難しくなってきたのではないでしょうか。
―近い未来にAIツールを通じて広告・マーケティング業務を完全自動化させることができるようになると思いますか。
今から1年ほどかけて本腰で取り組めば、そのような環境を実現できるかもしれませんね。ただ当社に関して言えば、そのような環境を整備するために必要なシステムの導入や人材の登用を含む計画の設計にはまだ至っていません。
代理店だけでなく広告主も危機意識を持つべき
―広告代理店にはどのような資質や能力を求めていますか。
「安心して業務を任すことができる営業担当者を固定してくれる」という点に尽きます。結局のところ、その担当者次第だからです。たまに能力は必ずしも高くないけれども懸命になって対応してくれる担当者にいろいろと教えながらも一蓮托生でやってきてようやく安心して任せられるようになったところで突然、「部署異動になった」という連絡が来てがっくりすることがあります。
―いずれにしても、広告代理店の存在意義は今後どんどん薄れていくということでしょうか。
そうかもしれませんね。ただそれは広告代理店に限った話ではなく、我々のような広告主側のマーケティング担当者についても言えることです。結局のところ、マーケティング部署とは大きな予算を扱うコストセンターなので、必要性が薄まれば真っ先に削減対象になるということは我々自身が肝に銘じておくべきでしょう。
―マーケター全般には今後どのような資質が求められるようになると思いますか。
「どの媒体にどのような手法で出稿するとどのような効果が得られる」といった具体的なノウハウを駆使するような仕事は今後どんどんAIに奪われていくことになると思います。
先にも申し上げた通り、マーケティング部署は常日頃からコスト意識を高く持たなければなりません。この点は未来永劫変わらないと思うので、未来のマーケターは経営企画の視点を持つ必要性がより高まっていくのではないでしょうか。ただし、これが意外と難しいのです。
まず経営企画の人材がマーケティングを兼務すると、採算と効率性を過度に重視して失敗するということが往々にしてあります。例えばフリマアプリであるメルカリには買い手となるユーザーと売り手となるユーザーがいるのですが、売るという行為は手間がかかる、つまり売り手となるユーザーのLTVはとても高いとも言えます。そのためマーケティング投資は選択的に良い売り手となるユーザーの創出に全振りするという極端な打ち手に出かねません。しかし、これは買ってくれるお客様がいるからこそ優良な売り手を作ることができるという事業の全体像を見落としており、この投資方針を推し進めることは事業に深刻な悪影響を与えます。プロのマーケターであれば、このような愚策は犯さないはずです。
だからこそ、マーケター側が経営企画の視点を得るべきなのですが、マーケティング部署と経営企画ではそもそも課題意識から業界用語まで何もかもが異なるので、まともな会話すら成立しないということがあり得ます。こうした垣根を乗り越えて、横断的な戦略を実行できるマーケターが今後生き残ってくのだと思います。
(ExchangeWire編集部より)
議論の続きは、ATS Tokyo 2025のパネルディスカッションで行う予定となっています。本テーマにご関心のある方は、ぜひ当日会場までお越しください!
ATS Tokyo 2025
11月21日(金)
東京ドームホテルにて開催
広告主が本音で議論:次世代エージェンシー論〜代理店は必要か?〜
10:15-10:45
広告主のインハウス化、プラットフォーム直取引、AIを含めたSaaS型マーケティングツールの普及…。代理店はもはや「中抜きされる存在」なのか?それとも「戦略パートナー」として進化できるのか?今後求められるマーケターとしてのスキルは何なのか?広告主サイドのマーケティングスペシャリストが忖度なく議論する。
ATS Tokyoのチケットはこちらからお申し込みください。
ABOUT 長野 雅俊

ExchangeWireJAPAN 共同編集長
ウェストミンスター大学大学院ジャーナリズム学科修士課程修了。ロンドンを拠点とする在欧邦人向けメディアの編集長を経て、2016年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。ExchangeWire主催の大型イベントであるATS Tokyoのモデレーターも務めている。