ブラックリストとPMPの乖離を埋める-博報堂DYグループがホワイトリスト配信を開始 [インタビュー]

博報堂DYグループが、ブランドセーフティを確保できるサイトを集めたホワイトリストを通じてのインターネット広告配信サービスを開始した。ブラックリストとの違いは何か、またなぜホワイトリストは今まで一般的ではなかったのか。その開発経緯を尋ねた。

(聞き手:ExchangeWire Japan 長野雅俊)

広告会社のホワイトリスト提供は稀有

― 自己紹介をお願いします。

平岡氏 博報堂DYメディアパートナーズ統合アカウントプロデュース局の平岡正英と申します。この局にはテレビメディアとデジタルメディアの業務推進機能が集まっており、私はその中でもデジタルメディアのパフォーマンス分野に特化した案件の業務推進に携わっています。

清水氏 博報堂DYデジタルのパフォーマンス業務推進ディビジョン戦略ユニット戦略推進グループでグループリーダーを務める清水康隆です。テクノロジーやデータを活用した先進事例の新規創出や業務効率化など幅広く対応を行っており、この度博報堂DYグループで発表した「Agency Whitelist」の開発もそうした新規の取り組みの一つです。

― 広告の配信先として不適切なサイトを一つずつ除外していくブラックリスト方式とは違った位置づけになる、良質なサイトを集めたホワイトリストを通じた広告配信方式そのものは決して珍しいものではありませんよね。

平岡氏 確かにホワイトリストという概念自体はデジタル広告業界に長らく存在しています。ただし、これまで存在していたものの多くは、各々の広告主様と個別に作成していたものが大半でした。また、配信可能なサイト数も決して多くはなかったというのが実情です。そういった状況の中、広告会社が様々な広告主企業に対して、共通基盤となり、かつ相当数のサイト配信を可能とするホワイトリストを提供するというのは稀有な事例ではないかと思います。

ブラックリストの作成工程は、悪いと見なしたサイトを除外対象へと次々に加えていく積み上げ方式です。一方で、良いサイトを集めるホワイトリストの作成工程はより複雑になります。土台となるリストはどこから入手するのか、サイトの良し悪しを判断する基準はどうするのか、共通基盤とするには明らかに不適切なサイトを指定するブラックリストに比べて検討事項が増えるからです。また「何が悪いか」ということに比べて、「何が良いか」という判断は主観的なものも多くなります。こうした理由から、様々な価値観を持つ広告主の皆様が共有できるホワイトリストの構築が進んでいなかった側面がありました。

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先ほど申し上げた通り、広告主企業単体でホワイトリストを用意することは今までもありました。ただそこまで多くはなく、弊社のお得意先様の中でも全体の数%程度だと思います。一社単独で作成に踏み切ったとしても、ホワイトリストに入るサイトの量や種類が限定的であるなどの課題がありました。

一方で新しいサイトやコンテンツは次々と生まれていくので、ブラックリスト方式では対応が追いつかず、その結果、広告が不適切な配信面に意図せずに出てしまうという事象が顕在化しているのも事実です。配信プラットフォーム側での不適切コンテンツの機械的な除外機能もかなり高度になってきてはいるものの、100%の精度になることは難しい。広告のリーチや規模を確保するために十分なサイト数を集め、かつ不特定多数の広告主企業が共有できるような客観的な判断基準を満たしたホワイトリストへの需要は確実にあります。

―「良質な広告配信面のみを集める」方式としては、PMP(プライベート・マーケット・プレイス)もありますね。

平岡氏 PMPは、ホワイトリスト同様に安全であることに加えて、さらに一部のプレミアムなメディアのみで構成された広告配信ネットワークです。ホワイトリストと異なり枠を指定することができるので、例えば高所得層が多そうな大手全国紙サイトの1st viewの特定枠をまとめて購入したり、大型キャンペーンで動画広告を活用したブランディング施策のために利用されるケースがあります。

またPMPは通常のオークション形式の配信に比べると当然プレミアムなサイトに限定して広告を買い付けるので広告単価は高くなります。ブランディング施策として活用いただくケースが多く、動画広告の対応も柔軟に可能なため、一定以上の出稿額がある方が効果的なケースが多いのが実情でした。つまり、これまでは一定のパフォーマンスも求められるブラックリスト方式とブランディングの要素が強いPMPの間には目的や配信単価には大きな差がありました。今回のホワイトリストは、その間を埋めるアプローチとして機能させていきたいと思っています。

良い/悪いの判断を下す工程を樹形図に

― ブラックリストとホワイトリストの作成作業は具体的にはどのように異なるでしょうか。

清水氏 今回のホワイトリスト作成においても、ブラックリストと同様にまずは「何が悪いか」を定義することから始めました。

「何が悪いか」という点については、例えばアダルトサイトやヘイトスピーチを扱った明らかに不適切とされるものが相当します。ブランドセーフティを毀損する恐れのある「悪いもの」の定義は既にインターネット広告業界である程度まで整理されており、今回のホワイトリストは米国におけるオンライン広告の業界団体IABが公表している基準に準拠しました。

次にホワイトリスト作成においては、ブラックリストのように顕在化した不適切なサイトを判断して除外対象に追加するのではなく、膨大な配信先の一つ一つを確認し不適切ではないかどうかを判断していく必要があります。また、明らかに不適切であると判断できるサイトから、解釈や判断が難しい、人によっては判断が異なるようなサイトも存在しています。それらのサイトに対してもなるべく客観性をもってリストを生成する必要があります。

そこで今回のホワイトリスト作成に当たっては、専門性を持つ外部の担当者にすべての掲載サイトを目視で確認してもらいました。さらに一つのサイトを複数で確認することで客観性を確保しています。

― その目視確認作業に対してどれほどの規模の人員を配置したのでしょうか。

清水氏 具体的な人数や体制は開示していませんが、一定数の専任の人員にてチェックを行っていただきました。また出来る限り各担当者の主観に左右されないように、共通ルールも策定しました。例えば一つの方法として、サイト内の検索ウィンドウに特定のキーワードを入れて該当する可能性のあるコンテンツを探し、どのような文脈で取り上げられたものであれば良い/悪いという判断を下すという工程を示した樹形図のようなものを用意しています。

― ホワイトリストの土台となる大元のリストはどのように用意したのですか。

清水氏 当社の出稿実績がある1万5000サイトを元リストとしました。一定のリーチ数を確保するためにリクエストの多いサイトを中心に構成しています。

― ホワイトリスト配信が開始されたことで、従来のブラックリスト配信の利用は減る見込みですか。

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清水氏 ブラックリスト配信のみを採用する広告主様はダイレクト・レスポンス型のキャンペーンを実施する企業を中心に今後も一定数いらっしゃると思います。また今回のホワイトリストの元としたのは1万5000サイトですが、世の中にはそれこそ何十万、何百万というサイトが存在します。つまりブラックリスト配信からホワイトリスト配信に切り替えると、広告規模や広告単価には一定の影響が出てきます。この差分をどう活用するのか、ブラックリスト配信で補完するのか等は企業によって対応が分かれるでしょう。

競合他社のホワイトリスト作成も歓迎

― 貴社と取引がある広告主に対して統一したホワイトリストを提供するのですね。

清水氏 はい。ただし、ホワイトリストの中にもいくつかのレイヤーを用意しています。例えば、CGMサイトと呼ばれる一般消費者がコンテンツを生成するサイト群です。それほど頻繁ではありませんが、コンテンツ生成が一般ユーザーに委ねられるためサイト運営者側で内容をコントロールできず炎上するケースが稀に存在します。他にもニュース性のあるサイトでは記事の内容によっては掲載を回避したいというケースが存在するので、そういったサイトを配信先に含めるか、含めないかは選択できるようにしています。

― どのような広告主がホワイトリストを積極的に活用すると想定していますか。

平岡氏 まずは、外資系のクライアント様やブランディングを目的にデジタル広告を活用されている広告主様の利用が中心になると想定しています。ただ、ダイレクト・レスポンス型の広告主様でも一定のニーズは出てくると思いますので、より精度が向上し規模が拡大していくにつれて活用していただけると考えています。

― 労働集約型のプロジェクトである以上、競合他社でも同様のリストは比較的容易に作成できるのではないでしょうか。

平岡氏 ホワイトリスト作成において当社なりの競争性のあるノウハウがあるとは考えてはいます。しかし、インターネット広告の信頼性の向上は業界全体の課題だと思いますので、競合他社がホワイトリストを作成することについては、むしろ業界全体としては歓迎すべき動きとして受け止めます。

― 今後の展開についてお聞かせください。

清水氏 正直なところ、「大量のメディアを全て目視で確認して配信先を限定する」という行為は、人力で個別に販売できないサイトもアドネットワークでまとめてリーチを獲得し、プログラマティックに配信することで「最適なユーザーに対して最適なタイミングで広告を届ける」という運用型広告の良さをある程度軽減させてしまいます。本来は、テクノロジーやシステムの導入段階で不適切なサイトに配信されないルール作りや、高い精度で除外を可能とする技術の進化が必ず必要になると考えています。ただ、そのようなルールや技術が完成するまで“仕方がない”と待っていては、信頼性が損なわれ市場が縮小してしまいます。ですからまずは、広告会社としてできることに最大限取り組むという方針の下で、人的なホワイトリストの生成に至りました。今後は、引き続きホワイトリストの精度を上げ、規模を拡大していくと同時に、テクノロジーの開発や、外部のテクノロジーの精度を検証して活用していくといったことも行っていきたいと考えています。

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長野 雅俊

ExchangeWireJAPAN 副編集長
ウェストミンスター大学大学院ジャーナリズム学科修士課程修了。 ロンドンを拠点とする在欧邦人向けメディアの編集長を経て、2016年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。 日本や東南アジアを中心としたデジタル広告市場の調査などを担当している。