「世界の広告費成長率予測」が示唆するものとは―電通イージス・ジャパンが世界の広告トレンドを解説 [インタビュー]

世界の広告業界を牽引する電通イージス・ネットワークは、1月に発表した「世界の広告費成長率予測」の中で、2018年に世界の総広告費に占めるデジタル広告費の割合が、ついにテレビ広告費を上回るとの予測を示した

この調査結果は、デジタル広告業界の未来に対して何を示唆しているのか。5月開催のアドバタイジング・ウィーク・アジア 2018アドバイザリーカウンシルチェアとして準備を進めている電通イージス・ジャパン株式会社代表取締役社長の頼英夫氏に、世界の広告トレンドについて伺った。

(聞き手:ExchangeWire Japan 長野雅俊)

GDPと広告費の関係が変化

― 改めて自己紹介をお願いします。

写真2

電通イージス・ジャパンは、2013年に電通が買収した、広告会社の世界的なネットワークを有するエージェンシーグループの日本法人です。その傘下にはカラ(Carat)、ビジウム(Vizeum)、Dentsu xというメディア・エージェンシーに加えて、アイプロスペクト(iProspect)とアイソバー(Isobar)というデジタル・エージェンシーがあります。

私が電通イージス・ジャパンの社長に就任して一年。電通グループ及び電通イージス・ネットワークの一員として、質の高いサービス・付加価値をクライアント様に提供するべく日々努力を続けています。近年広告業界全体がいろんな意味で転換期を迎えている中、しっかりとした存在感を示していかなければなりません。直近では5月中旬に六本木の東京ミッドタウンで開催されるマーケティング業界の大型イベント「アドバタイジング・ウィーク・アジア 2018」を通じて情報発信に注力しています。

― 電通イージス・ネットワークが今年1月に発表した「世界の広告費成長率予測」は、2018年に米国やインドの広告市場は急伸する一方で、中国には減速感が見られ、日本は微増ではありますが安定的な成長を見せると予測しています。各国の伸び率の違いを生んだ要素として、景気動向以外にどんなものが考えられますか。

広告費はこれまで国の経済成長とりわけ国民総生産(GDP)と密接に連動して伸びていくものだと考えられてきました。しかし、2016年そして2017年にはその相関関係に変化が生じており、GDPが伸びても広告費の伸びが連動しない傾向を示しています。まだ十分に分析しきれていない部分もありますが、消費者の嗜好が非常に多様化しているということが一つの背景だと言えるでしょう。従来のように一律的にマス広告を展開していくだけでは、売上に直結しないという声をマーケッターから最近よく耳にするようになりました。

― 換言すると、いわゆる広告活動を行わなくても売上を伸ばしている企業が数多くあるということでしょうか。

そのようなケースが一部あることは認める必要あろうかと思いますが、広告業界が過渡期を迎えているのがその背景と捉える方が正しいと思います。新興企業が既存の秩序を破壊し、新しい市場を作り出していく中で、従来の大手企業は様々な側面から事業の見直し、変革を余儀なくされています。その一環として、今まで世界の広告市場を牽引してきた例えばグローバルに展開する大手消費財企業が、広告・マーケティング活動の全体的な見直しを図っていることなどが背景にあるのではないでしょうか。

デジタル広告伸び率の大半は大手プラットフォーム売上

―「世界の広告費成長率予測」では、2018年中にデジタル広告市場の規模がテレビ広告市場を抜くとも予測しています。追い抜くスピードに関して、国ごとの傾向はどう異なるのでしょうか。

新興国の多くは今まで先進国がたどってきた同じ道筋を辿らず一気にショートカットする傾向が見られます。電話一つをとっても、固定電話からフィーチャーフォンそしてスマートフォンへと至る普及の過程を一気に飛び越して、家庭に固定電話が普及するステップを飛び越し、最初から携帯電話・スマートフォンが普及する傾向が見られます。今後地上波テレビ受像機が普及する前にいきなりネット動画へと移行するという動きも見られるかもしれません。

また先進国に限定しても、テレビとインターネットの市場規模の違いは様々です。例えば欧米諸国ではケーブル・テレビという地上波ではない形態のテレビ市場が大きく、何百チャンネルをも視聴している家庭も珍しくありません。Netflix、AmazonやHuluといった定額制のネット視聴も日本に比べて先行しています。

ただ、広告市場におけるデジタル広告の比率が年々高まっているというのは世界的に共通した傾向です。そしてデジタル広告市場の拡大に伴い、インターネット向けの通信環境やコンテンツの整備もますます進んでいくことになるので、「デジタル広告がテレビ広告を追い抜く」というのは不可逆的な動きであると考えています。

― デジタル広告市場は今後どのように変化していくと思いますか。

写真3

2017年の広告市場を世界的規模で眺めると、デジタル広告以外の広告形態の市場規模は微減か横ばい。そして唯一大きく成長したデジタル広告市場の伸び率に相当する実額の9割以上は、BATと総称されるバイドゥ、アリババ、テンセントと、米国のGoogleそしてFacebookを合わせた5社前後のプラットフォームの売上に集中しています。つまり、これらの世界的なプラットフォームによる市場の寡占が強まっているのです。この傾向は今後もう少し続くでしょう。ただAmazonや楽天そしていくつかのインドのEコマース・サイトが力をつけているので、それらの動きも注視したいと考えています。

― デジタル広告市場全体が一部の大手プラットフォームの動向に振り回され過ぎであると指摘する声もあります。

Facebookによるアルゴリズム変更によって今まで出ていたコンテンツが表示されにくくなったり、AppleのITP導入によってリターゲティング広告が制限されたりすれば、インターネット広告の価格にも少なくとも短期的な影響を与えるというのは間違いありません。ただ広告代理店は、そうした動きに応じた新しい提案をすることで対策をその都度打つので、それほど大きな影響をもたらすとも思いません。

そもそもFacebookなりAppleがそうした変更を行うのは、ユーザーの利便性を考えた上でのこと。面倒を感じながら渋々使っているユーザーではなく、それぞれのプラットフォームとしっかりと結び付いたユーザーがいた方が、最終的にはそれらのプラットフォームに対して発信していく広告主や広告代理店にも恩恵をもたらすことになるでしょう。

広告が担うべき重要な役割とは

― 今の広告業界には何が欠けていると思いますか。

広告に限らず、課題のない業界などありませんよね。だから常にビジネス・トランスフォーメーションを続けていくという姿勢を保つことが重要なのだと思います。

そのような前提の上で何か一つ付け加えるとするならば、最近は広告に「物を売る」という役割を課す傾向がやや強くなり過ぎているような気がします。様々なデータが取得できるし、消費者の一人ひとりとつながって多様なメッセージを送ることができる時代になったので、方法論としては間違っていません。

しかし、物を売るための活動は本来的にはあくまでも販売促進。広告には、もちろん物が売れるに越したことはないのですが、「マーケッターのブランドを好きになってもらう」ためのお手伝いという重要な役割も担っています。消費者が物を選ぶときになぜその物を選ぶのか。消費者の視点に立ち、彼らの心をつかむためには、販売促進だけでは十分ではない。我々のような広告業界の人間がそうした認識をしっかりと持って、広告主の皆さんの理解を得るという努力を続けていくべきだと思います。

― 5月中旬に開催予定のアドバタイジング・ウィーク・アジアの今年の内容はどんなものになりそうですか。

写真4

アドバタイジング・ウィークは、広告・マーケティングに関わるすべての要素をテーマとしたイベントであり、AIやブロックチェーンといった最新の広告テクノロジーから、スポーツ・ビジネスなどのような広告業界全体の動向さらにはダイバーシティといった概念まで広く扱います。

一つの特徴として、「トーキョー」でも「ジャパン」でもなく、「アドバタイジング・ウィーク・アジア」という形でイベントを位置付けている点が挙げられるでしょう。アジアにおける広告市場において日本のマーケティング業界が果たす役割は大きいと信じてこのイベントに対するご支援をさせていただいています。本年はUBERのAPAC担当マーケティング・ディレクターや日本コカ・コーラ、Googleをはじめとしたグローバル企業のエグゼクティブの登壇が決定しております。学生や若手社員に限定した特別料金を設定し、メディア・アーティストの落合陽一氏を迎えた上で学生コンペティションを開催するなど、若い方々に積極的に参加していただけるような仕組みづくりを意識しています。

また、電通より代表取締役社長執行役員を務める山本敏博氏が、博報堂の代表取締役社長の水島正幸氏と、公の場では貴重な対談形式でのセッションを実施することが決定しました。

アジアにおける広告市場の中心地としての日本

― 日本は今後も「アジアにおける広告市場の中心地」であり続けるのでしょうか。

日本は長らく世界の広告市場としては第2位の地位をしばらく謳歌していましたが、中国に抜かれて今は世界第3位。大きな傾向としては、世界の広告予算は中国やインドにより大きく振り向けられています。ただ日本を重要な市場として再注目し出したグローバル企業もいます。

中国の13億人という人口に比べれば日本の1億2000万人という人口は確かに少ない。一方で欧州にはそもそも人口が1億超えている国はなく、なおかつ金融資産・貯蓄率も世界的に突出している日本は、決して無視できない市場です。2019年にはラグビーW杯そして2020年にはオリンピックが開催されるので、ヒトやモノの往来が急激に増えることも期待できます。加えて、細部や品質にこだわる、つまりは物に対する目が厳しい市場なので、日本市場でもまれて認められた商品やサービスをベンチマークにすることを期待しているクライアントさんも多くいらっしゃいます。

日本で起こる様々なイノベーションや人材の質の高さは、世界に対して十分に誇れるものです。今後もアジアにおける広告市場の中心地であるべく、発展を続けていくことができたらと思います。

タグ

ABOUT 長野 雅俊

長野 雅俊

ウェストミンスター大学大学院ジャーナリズム学科修士課程修了。 ロンドンを拠点とする在欧邦人向けメディアの編集長を経て、2016年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。 日本や東南アジアを中心としたデジタル広告市場の調査などを担当している。