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広告主とメディア、コミュニケーションのあり方とデジタル広告取引の今後 [インタビュー]

テクノロジーの普及とともに、広告主と媒体社との関係性が従来と変わってきているといわれている。

複数の業態の事業者が介在することで、双方のコミュニケーションがとりにくくなっているという話も聞かれる一方で、広告会社などを介在しないで広告主とメディアとが直接、取引をできるようなサービス思想のプロダクトも増えつつある。

広告主とメディア、そして広告代理店と、それぞれの立ち位置で業界をリードする実務責任者である、ソフトバンク株式会社コミュニケーション本部デジタルメディア統括部統括部長の藤平大輔氏、株式会社オールアバウト執行役員メディア本部長の箕作聡氏、株式会社エスワンオーインタラクティブ代表取締役の高瀬大輔氏による対談を通し、変革の中でどのようなコミュニケーションを求められているのか、それぞれ求められる役割について探ってみた。


注:記事中における対談者のコメントにおける、広告主・広告代理店・アドテクベンダー・媒体社などの敬称を略する

(聞き手:ExchangeWire Japan 野下 智之)

― まずは皆様の広告取引における立ち位置と、商流について聞かせてください。

藤平氏 (写真中央): 広告主の立ち位置で、ソフトバンクにおけるデジタル広告出稿の責任者を務めています。商流としては、媒体社とやりとりする際に広告代理店を通して購入させていただいているものが大半です。ただたまに、キャンペーン的なものなどは媒体社から直接お声がけいただき、ご一緒させていただくこともあります。

箕作氏 (写真左): コンテンツを作るところから広告出稿まで、オールアバウト全体を管轄しています。私たちは媒体社ですので、広告代理店を通すものもあれば直接広告主からもあります。あとはプログラマティックですね。その3つが、広告出稿における事業取引のパターンです。

高瀬氏 (写真右): エスワンオーインタラクティブの代表として、トレーディングデスク事業を担っています。広告主とメディアの間に立ってオンラインの広告の運用を行うポジションです。当社のお客様は、広告代理店も、直接の広告主もいらっしゃいますが、媒体社に関しては、配信ツール系ベンダー経由の場合もあれば直接お取引の場合もあります。

増える買い手と売り手の直接コミュニケーション

― 広告主や広告会社、媒体社など他の業態の人とのコミュニケーションは、どのようにしていますか?

藤平氏: 基本的に広告代理店を通してメディアを買わせていただいていますが、最近は媒体社独自の企画やキャンペーンもあるので、そういうのは直接やりとりすることもあります。当社の場合、一番重きを置いているのはデータです。タグの話などは、媒体社と直接お話することもありますね。

箕作氏: 当社の場合、広告販売の契約形態により様々で、例えば年間契約の案件はほとんどが、直接広告主とお話をさせていただきます。広告主のキャンペーン出稿に合わせた商品もありますが、この場合は広告代理店からお話をいただくケースです。その後、PMPなどでの取引を通して、広告のお取引をさせていただく形になることが多いです。
広告主とのコミュニケーションは直接であっても、商流は広告代理店を通すというケースが非常に多いです。

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高瀬氏: 私たちのクライアントには、広告主と広告代理店の双方がいらっしゃいますが、コミュニケーションはほぼ一緒です。広告代理店経由の場合には、同行させていただくことが多いです。同行は、当社からの強い要望です。コミュニケーションのロスの発生やミスリードを避けたいからという思いからです。当然その場合の商流は、広告代理店を通します。

一方で媒体社に対しては、昔はDSPによるプログラマティックのバイングが多かったので、直接お話しする機会は少なかったです。でも最近は直取引が増えて、媒体社が保有しているデータを使ってどう配信に生かすのか、あるいは逆に媒体社が直接広告主へアプローチされている中での流入施策と分析をどうサポートするのかなど、媒体社と一緒になった取り組みも増えています。先日もある媒体社から「プランニングを手伝って欲しい」というようなお話をいただきました。

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藤平氏: 当社はそういうことに、とても興味があります。まだ世に出ていないやり方を教えてもらえると、すごく嬉しいのです。

― 5年前と現在とでは、デジタル広告の取引の仕方はどのように変化したと感じておられますか?

藤平氏: 以前に比べて、媒体社が直接お話をしに来られるケースはすごく増えたと思います。私たちのような立ち位置ですと、人手を割けない部分に対して広告代理店が動いてくれて成立するものは沢山あります。その広告代理店を越えて媒体社と直接というのは、5年前は少なかったですね。

高瀬氏: 5年前というと、2012年。RTB取引が盛り上がり始めた頃ですね。

箕作氏: RTB取引が盛り上がる前は、私たちが広告主様に直接お会いするのも広告代理店を通じて、発注も広告代理店経由でいただいていました。媒体社が広告代理店を飛ばして広告主に会いにいくのは、「ヤンチャが過ぎるんじゃないの」と、昔は怒られていましたよね(笑)。

藤平氏: 来られた広告主側も気まずい感じでした。(笑)
広告代理店には、色々とサポートしていただいているのに気まずいという気持ちと、やはり新しい商流を開くということに対するためらいがあったのでしょうね。

先鞭をつけたのはアドテクベンダー

― そのような動きは、いつ頃、誰が始めたのでしょうか。

藤平氏: 一番早かったのはやはりアドテクベンダーです。メディアを束ねているので、RTBやプログラマティックで直接のほうが早いですよという売り込みでした。その後媒体社。最近は動画系サービスの会社からのお話はとても多いです。私たちも常に新しいターゲティングデータで出稿したいので、色々と教えて頂けるとすごく嬉しいです。

箕作氏: 当社は3年前でした。RTBが流行って運用型広告が全盛になったときに、媒体社側からすると、CPMで少し辛くなった状況がありました。それまでは営業自身が企画ものプラス、バナーなどの枠ものも売っていた時代がありましたが、単価が合うように価格設定し、販売をしていました。ですがアドテクベンダーが生まれ、アドネットワークが広がった途端に、広告枠の単価が一気に下がってしまった。

そこで当社では、広告枠自体の販売をやめたのです。年間や半年契約など以外は受け付けない、コンテンツマーケティングだけの販売に切り替え、ソリューションモデルに変えていきました。そうすると、通常の広告代理店様経由での広告販売時の期間設定とは合わないのです。当社は「健康」「マネー」「住宅」など特定のカテゴリ領域で強みがありますので、直接広告主と話をして、契約期間中は当社が態度変容効果などを指標に運用を行うという商品に変わっていきました。そこは大きかったと思います。営業の人的リソースも、広告代理店チームから直接クライアント営業チームへと振り分けるようになっていきました。

広告運用者は広告主の事業KPIに寄り添うスタンスに

― 広告代理店や、広告運用を行うトレーディングデスクに求められることは、この5年でどのように変化しましたか?

高瀬氏: 広告代理業は基本的に、広告主からオファーされたことに対してどう実行していくのかということ。企業が消費者に届けたいメッセージを、どう設計して形にするのが本筋ですが、個人的に感じるのは、キャンペーン単位のKPIが成功したか否かやCPAの有無は当然のことながら、KPIを含めた事業にどう寄与したのかに寄り添うというスタンスに変わってきた気がします。特にここ1、2年は、そういう発想が増えた印象を受けています。

また、広告主からは「もっと情報を開示しよう」と寄り添っていただけることも増えたように思います。以前は、予算がいくらで目標何件、流入何件だけだったものが、「今回のキャンペーンはこういう予算組みになっていて、計画がこうでこんな投資配分があるから、このタイミングでここまでいきたいんだ」など、事業計画のようなものを明かしてもらえるくらいになってきました。

藤平氏: 広告キャンペーンの目標設定は、事業KPIをベースにしているので、そこを開示しないと進まないのです。委託しているわけではなく、一緒にやっていくので。そういう関係性は、昔とは違いますね。

アドテク商流多層化の是非は結果次第

― アドテク・プログラマティックの普及とともに、売り手と買い手とのコミュニケーションが遠くなってきたというような声も聞かれますが、これは商流の多層化が招いたことなのでしょうか。

藤平氏: コミュニケーションの多寡は、媒体社次第だと思いますね。

高瀬氏: 11年にRTBが普及し運用型が隆盛してプログラマティックだけが伸びたときは、媒体社とのコミュニケーションは減ったと思います。ただ、そこから媒体社が自社の価値をどう活かすかを試行錯誤され、結果的に一度留まっていたコミュニケーションが、自社データの活用やコンテンツの重要性を再認識できるよう様々な活動をさて、結果的にまた持ち直しているように感じます。

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箕作氏: 藤平さんがおっしゃるように、媒体社次第だと思います。

当社の場合インターネット広告ビジネスを16年やっており、この頃に一度、広告主とのコミュニケーションが減ったという印象です。

一方でRTBが普及した2011年以降にメディアを立ち上げた媒体社は、プログラマティック取引のみで収益が得られるような試算で事業設計をしていると思います。

そうなると単価は安く、コンテンツは大量に作るという発想にならざるを得ません。当社の場合、そのような発想はもともとありません。クオリティーを維持したまま、売上をどう拡大するか。媒体価値の上げ方、「なぜこの金額なのか」にこだわったのが、現在のコンテンツマーケティングです。もっと価値があるはずだと直接の営業で伝えていく手段と機会が必要で、特別なやりとりが求められた。そういう意識が社内全員にあったから、その後も広告収入が増えたのだと思います。

ただこのような考え方は、媒体社によりけりです。広告主とコミュニケーションを取るには、それだけでも人件費などのコストもかかります。それでもやるかやらないかは、重要な判断だと思います。ですがユーザーリーチの規模以外で媒体社としての自信や付加価値を持っているところは、絶対に営業チームを持った方がいいと私は思っています。

― 商流の多層化はどこでマージンが発生するのかが分かりづらいことが課題であるとも言われていますが、どのように感じておられますか?

藤平氏: 結果さえ出ればどちらでも(笑)。媒体社やアドテクベンダーと組んで、可視化することで見えてくるところもあります。広告主にとってあるメディア単体だとあまり有効活用が出来なくとも、あるアドテクベンダーが加わることで有効活用が出来るメディアになるとすれば、ツールや費用は必要です。全体のコストに見合う価値が得られるのであれば、あまり気にしません。

箕作氏: 私たち媒体社にとっては、メディアを運営していける価格のエコシステムが成り立っているかどうかが重要です。プログラマティックだけの売上だとコンテンツを作るお金にもなりませんが、他のビジネスモデルが成り立っていてクオリティーを下げずにメディアを運営できています。ただ、媒体社によっては成り立っていないところも沢山あると思います。その媒体社が運営するメディアが、無くなってしまってもいいようなものなのかどうかという点についての議論は重要ですよね。

藤平氏: プログラマティックで商流の多層化を招いているのは、私は悪いことではないと思います。広告主にとり、同質化されたマーケティングが増えて難しくなっているなかで、少しでも抜け出すためには、同じパターンや商流だと勝てなくなってきています。競争が激化する中において、広告主はツールや商流、メディア、少しでもほかと違うことをするのは当然です。

デジタル広告取引は多層化から多様化へ

― この先、現在の多層化状況はどのようになると思われますか?

藤平氏: 多層化してはいるのですが、広告主から見ると、テクノロジーが進むにつれて層が減っていると感じています。良いテクノロジーで、これがあればいいや、となっていますので。自社のデータとメディアの情報で色々なことが出来るようになって、サードパーティーを使うということの必然性がなくなってきており、アドテクがシンプルになり始めていると思います。現状の多層化自体はシンプルになる一方で、色々なツールを使うようになっているし、アドの世界に入ってこなかったようなベンダーやコンサルティング会社などのプレーヤーが入ってくることにより商流は多様化してくるのではないでしょうか。

高瀬氏: うまく回していると思う企業は、だんだん簡略化しています。BIツールの活用含め、モニタリングの環境も昔に比べれば楽になってきていますし。マーケティング活動を設計する時間に時間を割けば割くほどプロモーションの質はあがります。そのために「このメディアのコンテンツが必要」「このアドテクを使う」「ここはエージェンシーでディレクションする」、というようなマネジメントが理想ですね。コミュニケーションの質は求められますが、テクノロジーがその時間を作ってくれるかもしれないと考えています。

ABOUT 野下 智之

野下 智之

ExchangeWire Japan 編集長   慶応義塾大学経済学部卒。 外資系消費財メーカーを経て、2006年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。 国内外のインターネット広告業界をはじめとするデジタル領域の市場・サービスの調査研究を担当し、関連する調査レポートを多数企画・発刊。 2016年4月にデジタル領域を対象とする市場・サービス評価をおこなう調査会社 株式会社デジタルインファクトを設立。 2021年1月に、行政DXをテーマにしたWeb情報媒体「デジタル行政」の立ち上げをリード。