オープンインターネット市場に巨大プラットフォームが出現―新生Teadsが掲げる「Elevated Outcomes」とは [インタビュー]
![オープンインターネット市場に巨大プラットフォームが出現―新生Teadsが掲げる「Elevated Outcomes」とは [インタビュー]](https://cdn.exchangewire.com/wp-content/uploads/2025/09/teads-top.jpg)
共にオープンインターネット市場を牽引してきたOutbrainがTeadsを買収したとのニュースは、オンライン広告業界を大きく揺るがした。買収完了から6カ月が経過した今、どのような変化が具体化されつつあるのか。来日した新生TeadsのCEOに話を聞いた。
(聞き手:ExchangeWire JAPAN 長野 雅俊)
新しい社名が「Teads」となった理由
―自己紹介をお願いします。
コストマン氏:Outbrainと合併した新体制下のTeadsのCEOを務めるデービッド・コストマンと申します。リーマン・ブラザーズの投資銀行部門におけるインターネット事業の責任者を務めた後に、複数の企業での経営職を経て、7年にわたりOutbrainのCEOとして活動してきました。なお、今年6月まではモバイルゲーム開発エンジンなどを提供するUnityの取締役を兼任していました。
パティソン氏:同じく新生TeadsにおけるAPAC部門のマネージング・ダイレクターを務めるサム・パティソンと申します。電通グループのロンドン及びシンガポール事務所での勤務を経て、合併前のTeadsから参画し、APACや東南アジアで様々な職務を経験しました。今年1月の合併を機に現職に就いています。
―OutbrainによるTeadsの買収が成立した経緯をお聞かせください。
コストマン氏:Outbrainは長年にわたり、パフォーマンスとブランディングに対応したフルファネルの広告配信サービスを提供するプラットフォームとなることを戦略として掲げてきました。この戦略の一環として、パフォーマンスに強みを持つOutbrainを補完する目的で、ブランディングに優れたTeadsとの合併を実は過去3回にわたり試みていましたが、具体的な取引条件で合意に至ることはありませんでした。
しかしながら、「OutbrainとTeadsの合併によるフルファネル戦略の強化」が優れた戦略であるという考え方自体には疑いはなく、両社の経営陣はその後も統合の道を模索してきました。そして2年前に当時のTeadsの親会社であったAltis社が財務上の理由で同社の売却を決断したことで、今回の買収がようやく成立したのです。
買収を行ったのはOutbrainですが、新会社が打ち出すべきは、ナショナルクライアントや大手広告代理店に対してプレミアムな広告在庫を提供してきたTeadsのブランドであるとの考えに基づき、データとテクノロジーそしてパフォーマンスとブランディングの融合を象徴する新しいロゴを制作した上で、新生Teadsとして新たな出発を図ることになった次第です。
―買収発表から半年が経過しました。
コストマン氏:2024年8月に買収計画を発表し、資金調達や当局による規制審査を経て、2025年2月に正式に買収を完了しました。買収の完了を発表したその日に各グローバル機能及び各市場のリーダーを決定し、各々のチームの一体化を果たしています。なお、日本オフィスについては、赤坂見附駅前にある旧Teadsの事務所に統合しました。合併によって日本市場では合計60名を超える新体制を構築しています。
現在では、パフォーマンス広告ソリューションである旧Outbrain Amplifyプラットフォームを始めとするOutbrainが開発した一部の直販顧客向けソリューションを除き、広告在庫の主要な買い付け機能はTeads Ad Managerに統合されました。またTeadsの営業担当者は既存顧客に対し、ブランディングだけでなくパフォーマンス広告商品のクロスセルを開始しています。
合言葉は「Elevated Outcomes」
―旧OutbrainはOnyxというブランディング・プラットフォームを立ち上げたばかりでした。
コストマン氏:Onyxは、Teadsの買収が実現するかどうかまだ不明な状況で、フルファネル戦略の一環としてOutbrainが立ち上げました。しかしながら、ブランディング・プラットフォームとしての性能は、少なくともリリース時点ではTeadsに遠く及ばなかったというのが正直なところです。
記事の末尾に広告が100%視認可能な状態でブランディング広告を配置する独自の仕組みはTeadsに統合した上で引き続き提供していますが、Onyxというブランド自体は既に消滅しています。
Onyxの例が象徴するように、両社の合併を通じて、重複するいくつかのソリューションや取り組みは廃止することで、グローバル規模で総勢500名となったエンジニア人材をAI分野を始めとする強化領域に集中的に投下しています。
―データ統合はどのように進んでいますか。
コストマン氏:両社がそれぞれ提携するパブリッシャーに設置したコード・オン・ページを通じて得られるデータの統合作業は既に開始しており、広告効果の向上といった成果も出始めています。ただし、プラットフォームの完全な統合にはあと1〜2年を要する見通しです。
パティソン氏:日本市場はとりわけデータの精度に対する関心が高いです。旧Outbrain及び旧Teadsともにパブリッシャーと直接的に連携することで取得できるコンテキストシグナルを保有しているので、これらの統合がさらに進めば非常に強力なデータ基盤が整備できると考えています。
―新生Teadsが掲げる「ブランドフォーマンス」について詳しく教えてください。
ブランディングとパフォーマンスを組み合わせる能力を意味し、新生Teadsにおける最も重要な差別化要因となります。
例えば、新車の動画広告を配信したとしましょう。この動画の視聴時間が2秒のユーザーと10秒のユーザーでは、後者の方がよりこの新車に興味を持っていると判断できます。このユーザーが画面をスクロールダウンした際に、ホワイトペーパーのダウンロードを促したり、さらに試乗の申し込みを促すことなどができるはずです。こうしたブランディングからパフォーマンスまで一気通貫させたブランドフォーマンスが新生Teadsの最大の強みです。
パティソン氏:各パブリッシャーのサイトへの直接的なアクセスを構築し、SSPからDSPまでエンドツーエンドでデータを管理しているTeadsだからこそこのような施策を精緻に実施できるのです。「ブランドフォーマンス」という概念自体は当社が発明したものではありませんが、新生Teadsのあり方を実によく表現していると思います。
加えて当社では、「Elevated Outcomes」を合言葉として、ワンランク上の成果をもたらし、広告効果の向上を実現していくことを目標として掲げています。
新生Teadsの唯一無二の強みとは
―いわゆるウォールドガーデンに対して、どのように競合していくのでしょうか。
コストマン氏:ウォールドガーデンとオープンインターネットは競合相手ではなく、互いに補完し合う存在であると考えています。オープンインターネットにも、ウォールドガーデンにも、もう一方が決してリーチできないオーディエンスが多くいます。またオープンインターネットの形態もホームスクリーンからゲームなど多様です。さらにTeadsのCTV広告事業が直近の四半期で80%成長を遂げていることが示す通り、オープンインターネットは一層の拡張を続けています。このオープンインターネット市場において、新生Teadsはトップ3に入る事業規模と実績を持つ企業となりました。
パティソン氏:多くの日本の広告主はプレミアム在庫と広告取引の透明性を求めています。10年以上にわたり日本市場での事業展開を通じて、広告主、広告代理店、パブリッシャーと強固な関係と構築し、SSP、DSP、DMPといった外部の中間業者を介さずに広告ソリューションを提供してきた当社の強みがこうした要望に合致すると考えています。
なお、ウォールドガーデンが偏重されることで生じる問題の一つに、広告主及び広告代理店がこれらの大手広告プラットフォームに依存してしまうという点が挙げられます。先ほどデービッドが申し上げたように、インクリメンタル・リーチの重要性を認識し、広告の配信先を多様化することで、広告主が広告配信の管理権限を取り戻すことができるはずです。
コストマン氏:ウォールドガーデンはログインユーザーのID情報を広告配信に活用できるという最大の利点を持っていますが、SNS上では絶対にやり取りされないようなコンテクスチュアルデータを扱うオープンインターネットはユーザーの興味・関心をより深くできる場合があります。
急速に発展しつつある大規模言語モデルの適用が今後ますます進んでいくことで、ユーザーが何を見ているか、どのサイトに遷移したかといったかを示す多様なデータシグナルをリアルタイムで処理することで、ターゲティング能力を向上させ、より良い価値を提供できると期待しています。
―オープンインターネット市場の事業者とは今後どのように競合していくのでしょうか。
コストマン氏:やはりブランドフォーマンスが差別化要因となると思います。Teadsは、国内でいうとハースト婦人画報社、産経新聞、小学館、光文社、集英社(順不同)、グローバルでいうとCNN、Forbes、BBC、ESPN等といったプレミアムなパブリッシャーと複数年契約を締結した上で、コード・オン・ページを通じて広告在庫を直接的に管理しています。とりわけ日本の広告主は、日本語サイトへの広告配信を望む傾向が非常に強いです。国内の大手パブリッシャーの収益化支援を行いながら強固な関係を構築することは、DSP事業者には絶対に真似できません。世界の50市場で事業展開しつつ、広告在庫をここまできちんと管理できる能力を持つ広告配信事業者はなかなかいないでしょう。
パティソン氏:日本はTeadsにとって戦略的に非常に重要な市場であるがゆえに、既に10年以上にわたり活動してきました。日本市場において当社ほど大規模かつ長期にわたる事業展開を行ってきたグローバル事業者はあまりいないと思います。
コストマン氏:当社は、世界中のパブリッシャーと平均7〜9年といった単位で長期的な提携を締結しています。信頼に基づく安定的なパートナーシップを志向する日本の企業文化と当社の事業のあり方との相性は非常に良いと感じています。
―今後の展開についてお聞かせください。
コストマン氏:2026年初頭に新たな統合プラットフォームを立ち上げます。OutbrainによるTeadsの買収というニュースは大きな注目を集めましたが、企業の買収及び合併自体は、当然のことながら速報を出して終わるわけではなく、継続的なプロセスです。データ統合やクロスセルなどを通じて継続的な機能向上などを実現し、市場の期待に応えていくことができたらと思います。
ABOUT 長野 雅俊
ExchangeWireJAPAN 共同編集長
ウェストミンスター大学大学院ジャーナリズム学科修士課程修了。ロンドンを拠点とする在欧邦人向けメディアの編集長を経て、2016年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。ExchangeWire主催の大型イベントであるATS Tokyoのモデレーターも務めている。






