「デジタル広告のあるべき姿」を伝える―UNICORN 田井 花佳氏
by on 2025年10月02日 in ニュース

デジタル広告業界で働く広報・マーケティング担当者は、専門性が高く難解な業界用語と向き合いながら、形として見えにくい自社プロダクトやサービスを、日々顧客をはじめとする様々なステークホルダーに、ストーリー性をもって分かりやすく伝え、自社のブランド価値を高めていくことが求められる。
そんなミッションをもつ広報・マーケティング担当者は日々何を考え、どんなことに向き合っているのだろうか。デジタル広告業界の広報・マーケティングのプロフェッショナルにインタビューを行い、彼らのリアルに迫る。第6回は、UNICORN株式会社の田井 花佳(たい はるか)氏にお話を伺った。
(聞き手:ExchangeWire JAPAN 野下 智之、角田 知香)
新卒一期生としてのスタート
田井氏がUNICORN株式会社に入社したのは2022年。新卒採用の第一期生として新たな一歩を踏み出した。
学生時代は教育の道を志し、大学卒業後は教職の専門職大学院に進学した。教育に関する研究を行いながら、同時に小学校教員免許を取得するため通信大学にも通い、ダブルスクール生活に挑戦。さらには非常勤講師として教壇に立ち、子どもたちと向き合う日々を送っていた。未来ある子どもたちと関わる時間にやりがいを感じていた彼女が広告業界へと進んだことは、周囲からすれば意外に映ったかもしれない。
田井氏が結果的に教育現場で働くことを選択しなかったのは、研究のための実習や、非常勤講師としての経験を通じて、理想と現実のギャップを強く意識したからだった。
「好きな仕事なのに、なぜか幸せを感じられない。」
その背景には、自分が思い描いていた理想の教育像との乖離だけでなく、職場環境やカルチャーに対して違和感を持つなどの葛藤があったという。そこで「何をするか」よりも「誰と、どんな価値観で働くか」が自分にとって大切だと考え始め、一般企業への就職活動を決意。就活の軸を「環境」と「価値観」に定め、わずか4カ月という短期間で出会ったのがUNICORNだった。立場を問わず自由に議論できる社風や、広告の本質を真剣に追求する姿勢に惹かれ、入社を決めた。
「子どもたちにとって本当に意味のある教育をしたい」という原点と、「社会にとって本当に価値ある広告を届けたい」という現在の仕事。その二つは違う道に見えて、「誰かにとって本質的に意味のある価値を届けたい」という、一貫した想いでつながっていると田井氏は語る。
PRの立ち上げと広がる役割
入社後はブランドマーケティング部に配属され、ナショナルクライアントの認知領域における広告運用を経験。その後、当時はまだ社内に存在していなかったPR機能の立ち上げを任されることになった。
手探りで業務を進める中、「ひとり広報」として孤独を感じることもあったが、業界関係者と積極的にコミュニケーションを重ねることで、その重要性に気づいたという。外部とのつながりは、自身の取り組みへの自信を深めるきっかけとなり、田井氏が業界内での交流に力を入れる基盤となった。
そして試行錯誤を重ねてようやく形になった頃には、同社の山田社長からUNICORN 全体のPRを託されるまでになった。現在は、PR戦略の策定をはじめ、オウンドメディアの記事執筆やプレスリリースの作成、メディア対応、イベントの企画から運営まで、UNICORN全体の広報・マーケティングを一手に担っている。
接する相手も多岐にわたる。同社の顧客は広告代理店をはじめとして、アプリ領域ではアプリ運営企業や、ブランド領域では消費財から自動車まで幅広い業界のメーカー企業などを対象とする。
一方でPR担当としては、メディア関係者や業界団体との接点が多い。どの場面でも田井氏は自らの言葉でUNICORNを語り、その姿からは確かな信念がにじみ出る。その背景には、同社独自の文化がある。
田井氏がUNICORNに入社を決めた理由の一つは「若手でも遠慮なく議論できる環境」。社内には20代や30代が多く、部署や役職に関係なくフラットに意見を交わせる。近年は新卒採用の拡大や組織統合により年齢層が広がったことに加え女性社員も増え、ますます多様な人材が活躍できる環境が整ってきた。風通しの良い社風の中で培われた経験が、田井氏の「伝える力」を磨き上げてきた。

業界と社会に向けたメッセージ
田井氏がいま最も力を注いでいるのが「パブリックアフェアーズ(公益性を重視した政府などへの働きかけ)」だ。
デジタル広告業界と関わりがある官公庁や、業界関係者とのコミュニケーションを通じ、業界のあるべき姿を実現するため、デジタル広告に対する正しい理解を広める活動を進めている。UNICORNのような広告プラットフォーム事業者が、自ら業界の課題を提示することに大きな意味がある。
「広告は本来、ユーザーに新しい可能性を届ける価値あるもの。それが収益優先の仕組みによって歪められてはならない」と田井氏は話す。理念を語ることは、ときに「綺麗事」や「ポジショントーク」と受け止められるリスクもある。だからこそ彼女は「UNICORNの利益のためではなく、業界と社会全体のために発信する」姿勢を大切にしている。
広告主に対しても同じだ。理解度や意識のレベルはさまざまで、見せかけのクリック数やコンバージョン数ばかりを追う企業もあれば、課題を感じつつも様々な理由で行動できない企業もある。田井氏はそれぞれに合わせて伝える内容や角度を工夫し、「広告の本来あるべき姿」を問いかけ続けている。
エコシステム全体を支援
UNICORNは今後、広告主だけでなくメディアへの支援にも力を入れる方針だ。広告収益が減り、不健全な広告を取り除くための投資すら難しいメディアに対して、きちんと収益が還元される仕組みづくりや、不適切な広告や広告枠を減らしていけるようなサポートのあり方についても検討している。
「競合であるかどうかは関係なく、UNICORNの考え方に共感してくれる人や企業とつながっていきたい」と田井氏は語る。「広告の本来あるべき姿」を実現するために、業界内外へ支援の輪を広げようとしている。
「人や社会にとって本質的に意味のある価値を届けたい」が原動力
「何をするか」ではなく「誰と、どんな価値観で働くか」。その選択の結果として、田井氏はいまUNICORN広報の立場を通して、デジタル広告業界の健全化に力を注いでいる。
「業界が健全になればなるほど、結果的に自社の利益にもつながると信じています」と語る田井氏。教育の道を志した頃から持ち続ける「人や社会にとって本質的に意味のある価値を届けたい」という思いは変わらない。その信念がいま、デジタル広告業界をより良くするために働く原動力となっている。
ABOUT 角田 知香
ExchangeWireJAPAN 編集担当。イギリス・キングストン大学院にて音楽学の分野で修士号を取得。学校・自治体文化講座等にてアート講座講師として活動後、2024年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。




