新団体APTIが始動――広告サプライチェーンの透明化は「実務の実装」から【APTI発足イベントレポート】
by on 2026年4月10日 in ニュース

3月11日、広告取引の透明性向上を目指す新団体「APTI(Advertisers and Publishers Transparency Initiative)」の発足記念イベント「広告の健全さを、実務から。〜 APTI始動:広告業界の新しい第一歩 〜」が都内で開催された。
広告主・パブリッシャー・広告代理店・アドテクノロジー事業者の各レイヤーから参加者が一堂に会し、宮一良彦氏を軸とした単独セッションと、全プレイヤーが登壇するパネルディスカッションの二部構成で、業界が抱える構造課題と具体的な解決策が議論された。
運用の空白を埋める――ads.txt・sellers.jsonが機能不全に陥る理由
単独セッション「APTIとは何か? ― 活動内容と参画の意義」は、APTI共同代表であり、JIAAフェロー・米IAB Tech Labメンバーでもある宮一良彦氏を中心に進行し、後半では菊池満長氏(株式会社Shirofune 代表取締役)も加わる形で展開された。
宮一氏はまず、APTIの基本理念を「広告主・パブリッシャー・広告事業者がともに透明で信頼できる広告取引環境を整えるイニシアチブ」と定義した。単なる技術的な情報発信ではなく、価値観の共有と行動変容を通じて業界全体を動かしていく点を重視する姿勢が冒頭から強調された。
続いて提示されたのは、プログラマティック広告のサプライチェーンに横たわる構造的な問題である。
ads.txt(パブリッシャーが認定した広告販売者を明示するためのファイル)やsellers.json(SSP事業者が自社の販売経路情報を公開する仕組み)は、いずれも不正な広告取引を防ぐための国際標準として広く導入されている。
しかし現場の実態は異なる。記載ミスやメンテナンス不足が放置され、SSP側とパブリッシャー側の情報が整合していないケースが頻発しているのである。
こうした「放置」が積み重なると、広告主にとっては「なぜ自社の広告が特定の枠で買われないのか」が分からなくなり、パブリッシャーにとっては収益が適正な手数料体系のもとで流通しているかどうかすら確認できない状況に陥る。
宮一氏はニューヨーク・タイムズのサプライパス図を例に挙げ、取引経路が少数であれば関与者と責任の所在が明確になるが、日本の大手メディアサイトで同様の図を作成すると「どの線がどこに繋がっているか判別できない」ほど複雑化していると指摘した。
ある大手メディアの役員にこの図を見せたところ、自社の広告取引構造の複雑さに驚いたというエピソードも紹介され、経営層にすら実態が見えていない深刻さが浮き彫りになった。
技術仕様としては優れたads.txtやsellers.jsonも、人間が正しく運用しなければ本来の機能を発揮しない。この「運用の空白」をいかに埋めるかという問いが、APTI設立の出発点となっている。

ニューヨーク・タイムズのサプライパス図では、広告在庫が複数のアドシステムや販売経路を通じて流通する構造が整理されている。宮一氏は、日本の大手メディアサイトで同様の図を作成すると、どの線がどこに繋がっているのか判別しにくいほど複雑になると説明した。
実務に落とし込む仕掛け――3つの柱と4つのプロジェクト
こうした課題に対し、APTIは3つの活動の柱を掲げる。
第1は「情報共有と可視化」であり、ツールやレポートを通じてサプライチェーンの現状を把握可能にする取り組みである。
第2は「相互支援と実践の場づくり」で、ワークショップやクロスレビュー、実証実験を通じた個社レベルの改善支援に踏み込む。
既存の業界団体では業界全体のガイドライン策定が主軸となり、個別企業への実装支援までは手が回らないことが多い。宮一氏は「どこも実務のサポートまで踏み込めていない」と指摘し、JAAやJIAA、JICDAQとの連携を前提としつつ、その隙間を埋める「補完的な存在」としてのAPTIの立ち位置を明確にした。
第3は「つながりと信頼の醸成」であり、現場担当者同士の横のつながりや海外団体との連携による情報流通を推進する方針である。
この3つの柱を具体化するものとして、APTIは発足と同時に4つのプロジェクトを始動させた。
1つ目は、自社メディアの透明性を診断できるツール「Transparency Toolkit(ttkit)」だ。
従来のads.txtバリデーターが表記エラーの指摘にとどまっていたのに対し、ttkitではsellers.jsonとの整合性チェック、サプライパスの深さ(ホップ数)分析、オープンデータを活用した広告価値のインサイトレポートまでを一元的に提供する。
さらに「オプティマイザー」機能では、不要なエントリーの特定やsellers.jsonとの不一致に対する修復案を段階的に提示し、リソースが限られたパブリッシャーでも無理なく改善を進められる設計となっている。
2つ目は「透明性月次レポート」だ。ttkitで収集した約9,000ドメイン以上のデータをもとに、日本のプログラマティック広告サプライチェーンの現状を定点観測する。
宮一氏は具体的なデータとして、ads.txt 1.1のオーナードメイン設定率がわずか8%にとどまっている実態を紹介し、業界全体の「健康状態」がいかに可視化されていないかを示した。また「ダークプーリングレポート」として、複数パブリッシャーの広告在庫を不透明な形で集約する行為の兆候を4つのシグナルで追跡する取り組みも含まれる。
SSP事業者にとっては耳の痛い内容となり得るが、「これが現状だ」という客観的なファクトを業界に示すことこそがAPTIの役割だと宮一氏は述べた。
3つ目は「IAB Standards」プロジェクト。IAB Tech Labが策定するads.txt、sellers.json、OpenRTBなどのグローバル標準仕様書を日本語に翻訳し、さらにMCPサーバーとして構築することで、ClaudeやChatGPTなどのLLMから仕様に関する質問を日本語で行える環境を整備した。
英語の仕様書を原文で読み込む負荷を下げると同時に、エビデンスに基づいた議論を可能にする狙いがある。
4つ目は「AdCP」と呼ばれる実践プログラムである。
将来的にDSPやSSPの管理画面を介さず、AIエージェント同士が対話して広告取引を行う世界の到来を見据え、関連する仕様やエージェンティック・フレームワークの議論を踏まえた取り組みとして紹介された。
パブリッシャーや広告事業者が仮想的な広告取引を体験できるモックサーバーのような環境も視野に入れており、杉原剛共同代表がIABのエージェンティック・アドバタイジング・グループのメンバーであることもこの活動の推進力となっている。
非プログラマティック領域への拡張――ダイレクト取引の再評価
セッション後半では、共同代表の菊池氏がAPTIの活動範囲をプログラマティック広告の枠を超えて拡張する構想を語った。
ダイレクト取引(非プログラマティック)は広告主とパブリッシャーの二者間で完結するため、構造的に透明性が高い。菊池氏は「プログラマティック広告の健全性を高めることに加え、非プログラマティックの取引量を増やすことで業界全体の透明性と健全性を底上げできる」と提起した。
パブリッシャーが自社のユーザーデータを活用して魅力的な広告商品を設計し、ダイレクト取引で広告主に提供するプロセスを確立していく構想である。まず少数の成功事例を積み上げてパターンを掴み、提案テンプレートやレポーティングの型を標準化して水平展開を図る。
菊池氏は「足の長い取り組みになるが、簡単ではないからこそ価値が生まれる」と述べ、長期的なプラットフォーム構築への決意を示した。宮一氏もこの構想に対し「AIエージェント時代にはプログラマティックと非プログラマティックの境界が曖昧になる」と補足し、双方のアプローチが不可欠である点を強調した。
広告主にとっては信頼できる出稿先の判断材料が増える可能性があり、パブリッシャーにとっては自社メディアの広告価値を可視化し訴求する手段となりうる。広告代理店にとってはエビデンスに基づく提案の基盤となり、アドテクノロジー事業者にとっては健全な取引環境の構築が自社プロダクトの差別化要因につながる可能性がある。
それぞれの立場に接点を持たせる設計こそが、APTIが「支えあい」を掲げる所以である。
イベントまとめ――実務起点の循環が拓く業界の構造変革
第2部のパネルディスカッションでは、ディップ株式会社の中村大亮氏(広告主)、株式会社 電通デジタルの青木亮氏(広告代理店)、日本経済新聞社の種村貴史氏(パブリッシャー)、UNICORN株式会社/株式会社アドウェイズの山田翔氏(広告事業者)が登壇し、モデレーターの杉原剛共同代表のもと各プレイヤーの課題が率直に共有された。
AIエージェントの普及による再ブラックボックス化への懸念、短期KPIと健全化施策のトレードオフ、「数字の1が本当に1なのか」を問い直すべきだという指摘など、議論は広告業界の構造的な問題の核心に迫るものとなった。
課題がサイロ化し、責任の所在が各プレイヤーに分散している現状が浮き彫りとなり、中立的に論点を翻訳して実務に落とし込む存在としてAPTIへの期待が集まった。
本イベント全体を通じて浮かび上がったのは、個社の努力だけでは乗り越えられない「構造的限界」の存在である。
透明性を高めれば短期的に収益が下がり、健全な取引を追求すれば不健全な競合に対して不利になる。この膠着を打破するためにAPTIが選んだアプローチは、ガイドラインを策定して上から降ろすのではなく、「まず使ってみる」実務起点のツールとプログラムを用意し、現場の改善を積み上げていくという方法論であった。
ツールで自社を診断し、ワークショップで改善を実践し、レポートで業界全体の動向を把握する。この循環を回し続けることが、APTIを既存の業界団体と差別化する最大の要素である。
広告は本来、優れたコンテンツの制作を支え、消費者に無料で情報を届けるための社会基盤である。その仕組みが歪んだまま放置されれば、生活者の広告離れはさらに加速し、オープンインターネット全体のエコシステムが揺らぎかねない。
技術標準の正しい運用という地道な一歩から始まるAPTIの挑戦は、広告業界全体の信頼を取り戻すための構造変革へとつながっていくはずだ。
上記のとおりAPTIではこの取り組みに賛同していただける広告業界各プレイヤーの入会を募集している。
参加希望の企業は以下の手順に従って、積極的に入会して欲しい。
▼入会のご案内
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
【入会申請の手順】
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
- 会則をご確認ください
APTI 会則(定款):
https://apti.jp/APTI_Articles_of_Association_JA.pdf
- 会員ポータルに新規アカウント登録してください
GoogleアカウントまたはMicrosoftアカウントでのログインが必要です。
はじめての方は、下記リンクより「Googleでログイン」または
「Microsoftでログイン」を選択すると、自動的に新規登録されます。
ログイン: https://apti.jp/login
- ログイン後、入会申請フォームよりお申し込みください
入会申請フォーム: https://apti.jp/join/apply
・登録の確認ができましたら、請求書を発行させていただきます(※)。
(※)現時点ではパブリッシャー、広告代理店、広告事業者が対象となります
・代表者会員登録後、御社メンバー(同一ドメインに限る)の方のご参加方法については、
APTIログインページ( https://apti.jp/login )より、それぞれメンバーの方が
ご登録いただければ参加可能となりますので、ご周知をお願いいたします。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
ABOUT 町田貢輝
ExchangeWireJAPAN 編集担当 日本大学法学部法律学科卒業。編集プロダクション、出版社でエンタメ、健康、IT関連の雑誌と書籍の編集・進行管理に従事。2024年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。DX領域のメディア運営全般ならびに、調査研究を担当する。













