進化するアドテク業界 ――「最良のパートナー」に求められるもの
by on 2026年10月01日 in ニュース
日進月歩するアドテクノロジー業界が、再び大きな節目を迎えています。
ユーザーの過去の行動データに基づくターゲティングから、ユーザーの「今、この瞬間」の関心やニーズを捉えるターゲティングへ。
広告主にとって、こうしたテクノロジーの進化をどう活用するかは、「最良のアドテクパートナー」を選ぶ上でも、ますます重要なテーマになっています。
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「今、この瞬間」のニーズを捉える
例えば、一日の仕事を終え、疲れを癒そうとあるバーに立ち寄ったとしましょう。そこは以前にも数回訪れたことのある店。バーテンダーは短いやり取りを交わした後、注文を聞くのではなく、あなたのその時の気分にぴったり合いそうなカクテルをさりげなく提案します。ひと口飲んでみると、まさに今の自分が欲していた味だった――。そんな体験は、とても心地良いものです。
優れたバーテンダーは、客の表情や仕草、来店した時間帯、そしてなぜそのバーを選んだのかといった、その瞬間に発せられているさまざまな「シグナル」を感じ取ります。以前来店したことのある客だからといって、過去に注文した飲み物を機械的に勧めるわけではありません。過去の履歴だけでなく、「今、この人は何を求めているのか」を読み取り、判断する。だからこそ、その時々のニーズに、より正確に応えることができるのです。
デジタル広告の世界でも今、同じような考え方が形になりつつあります。ここでいう「マインドセット」とは、単なる興味・関心ではなく、その人が今この瞬間、何に関心を向け、何を求めている状態なのかということです。同じ人であっても、朝と夜、仕事中と休日では、気分や関心、求めるものは変わります。過去に何を見たかという履歴だけでは、そうした「今」の状態までは捉えきれません。そこで、その時々に発せられているさまざまなシグナルから、現在の関心やニーズをより深く理解しようとするのが、GumGumの「マインドセット」という考え方です。
では、なぜ今「マインドセット」なのでしょうか。その背景を理解するために、これまでアドテクノロジーがどのように進化してきたのか、少し振り返ってみましょう。
DSPからコンテクスチュアルへ―アドテクの進化
デジタル広告業界における大きなイノベーションの一つが、DSP(デマンドサイドプラットフォーム)の登場でした。それまでオープンウェブ上で細分化されていた広告取引は、DSPによって統合・集約され、最適化された広告を瞬時に大量配信できるようになりました。断片化されていたオープンウェブを横断してユーザーにリーチし、広告配信を大幅に効率化したという点で、非常に大きな進歩でした。リーマンショック後に開発・導入されたこの技術は、日本市場でも2010年代初めから広まり、現在も業界の中核的な役割を担っています。その後、Cookieなどを活用し、ユーザーが過去にどのようなウェブサイトを閲覧したのかといった行動データから、興味・関心を把握する手法が発展していきます。
しかし、過去の行動が、必ずしも「今」のマインドセットを表しているとは限りません。ユーザーの興味や関心は、気分や環境、時間帯などによって大きく変化します。先ほどのバーテンダーの例で言えば、「以前このカクテルを飲んだから、今回も同じものを求めているだろう」と判断するのではなく、その日の客の様子を見て、「今夜は別のものを勧めよう」と考えるのと同じです。
また、2018年に欧州でGDPR(一般データ保護規則)が施行されるなど、プライバシー保護をめぐる環境が変化する中で、改めて注目を集めたのがコンテクスチュアルターゲティングでした。これは、ユーザーが今閲覧しているウェブサイトやコンテンツをリアルタイムで把握し、その内容に関連する広告を自動的に選択・配信する技術です。コンテクスチュアルターゲティング自体は2000年代初頭から存在していましたが、プライバシー保護への意識が高まる中で再び脚光を浴び、デジタル広告の大きな進化の一つとなりました。
ユーザー理解を変える「マインドセット」
そして今、コンテクスチュアルターゲティングをさらに発展させ、ユーザーの「今」の状態をより深く捉えようとするのが、GumGumのマインドセット・テクノロジーです。その中核となるのが、Mindset Graph(マインドセット・グラフ)です。

Mindset Graphは、さまざまなシグナルを分析し、その瞬間に人々がどのようなことに関心を持ち、何を求めているのかを理解するためのインテリジェンス基盤です。つまり、「過去に何を見た人なのか」だけを見るのではなく、「今、どのようなマインドセットにあるのか」を捉えるための土台となるものです。
そして、このMindset Graphのインテリジェンスを、マーケターが実際の広告キャンペーンに活用するためのプラットフォームがMindset Portal(マインドセット・ポータル)です。Mindset Portalには、AIを活用した機能であるMindset Agent(マインドセット・エージェント)が搭載されています。
Mindset Agentは、キャンペーンの目的やメッセージを読み解き、Mindset Graphのインテリジェンスと掛け合わせることで、そのキャンペーンと親和性の高いマインドセットや広告掲載環境を提案します。さらに、そこで得られたインサイトをプランニングだけで終わらせず、DSPと連携することで、実際の広告配信までつなげることができます。

整理すると、Mindset Graphが「今」を理解するためのインテリジェンスの基盤となり、そのインテリジェンスをマーケターが活用するための場がMindset Portalです。そしてPortal内のMindset Agentが、キャンペーンに合ったマインドセットや配信環境の発見から、実際の広告配信までをサポートします。
「過去に何を見た人なのか」だけではなく、「今、この人は何を考え、何を求めているのか」。広告の送り手がユーザーをより深く、正確に理解し、その理解を実際の広告配信までつなげていく。それが、アドテクノロジーの進化における次のステップだと私たちは考えています。
最新技術を、既存の広告運用へ
一方で、ここで重要なのは、マインドセットがDSPに取って代わる技術ではないという点です。マインドセットのインテリジェンスをDSPと組み合わせることで、既存の広告配信の仕組みをさらに進化させる。その点にこそ、大きな価値があります。
Mindset Portalは、最初のDSPパートナーとしてThe Trade Deskとの連携を進めています。これによりマーケターは、Mindset Agentを通じてキャンペーンに適したマインドセットや配信環境を見つけるだけでなく、そのインテリジェンスをThe Trade Desk上の広告配信にもつなげることができます。
つまり、新たなインサイトを得るための「分析ツール」が一つ増えるのではありません。ユーザーの「今」を理解し、それを広告戦略に落とし込み、実際に届けるところまでを一つの流れにつなげる。新しいテクノロジーを導入するために広告運用の仕組みそのものを一から変えるのではなく、既存のDSPのワークフローとつなぎながら活用できることも、マーケターにとって大きなメリットと言えるでしょう。
「最良のパートナー」をどう選ぶか
アドテクパートナーを選ぶ際、最新のテクノロジーを理解し、それをいかに実際の広告運用や成果につなげられるかは、常に重要な判断軸です。ユーザーの過去の行動を追うターゲティングから、「今、この瞬間」を捉えるターゲティングへ。テクノロジーの進化によって、広告主がユーザーを理解する方法そのものが変わりつつあります。だからこそ、これからのパートナー選びでは、単に「誰に広告を届けられるか」だけでなく、「その人が今、どのようなマインドセットにあるのかをどこまで理解し、その理解を実際の広告配信につなげられるか」という視点も、重要になってくるのではないでしょうか。
(文:セルビー健三)
コラム執筆者
セルビー健三
GumGum Japan, Managing Director
AOL、Teads、GumGumなど国内外のアドテク企業で、日本市場の立ち上げと事業拡大に従事。TeadsではHead of Salesとして成長を牽引し、退任時には同社を国内リッチメディア広告市場を代表するプレイヤーの一社へと成長させた。
現在はGumGum JapanのManaging Directorとして、日本における事業戦略と成長を統括。グローバルのテクノロジーやプロダクトを日本市場に適応させるだけでなく、日本独自のニーズを起点とした事業・プロダクト展開にも注力している。マーケティングテクノロジーアワード2025ではAPAC初となる受賞を実現したほか、CTV向け広告フォーマット「In-Video」の展開など、日本市場からGumGumの新たな可能性を広げている。
近年は、ブランディング広告を認知や好意形成にとどめず、来店や購買といった事業成果までつなげ、その価値を可視化する取り組みにも注力。テクノロジーとクリエイティブを掛け合わせながら、ブランド広告がビジネス成長に果たす役割を日本市場で広げていくことを目指している。
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