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ソフトバンクに聞く、通信キャリアとアドテクの関係 [インタビュー]

通信キャリアによるデジタル広告事業への進出は国の内外を問わず進展している。通信キャリアがデジタル広告事業に注力をする背景や、通信キャリアならではの特徴について、ソフトバンク株式会社 法人事業戦略本部 デジタルマーケティング事業統括部 事業戦略部長の町田紘一氏にその背景からまとめて解説いただいた。

 

 (聞き手:ExchangeWire JAPAN 野下 智之)

 

アドテクを進めるうえで重要なのはデータ

―貴社のデジタル広告ビジネスはどのように事業規模を拡大されてきたのでしょうか? 事業の変遷などについてお聞かせください。

 

通信キャリアならではのインフラサービスや、クラウド、企業間のデータ通信などの事業を進めてきましたが、日本の人口が頭打ちになるなど取り巻く市場環境は厳しく、従来のインフラサービスのみで持続的な成長ストーリーは描きづらい状況です。そこで新規領域での成長ビジネスの立ち上げがここ数年の当社の急務で、IoT、AI、ロボティクスなどのデジタル市場に注力しています。

広告ビジネスとしては、オウンドメディアを活用したメール広告サービスなども提供してきましたが、本格的に事業化したのは2012年10月にYahoo! Japanと共同開発した「ウルトラ集客」というO2Oサービスの提供が始まりです。Yahoo! Japanの圧倒的な集客力を活用して、全国の総合スーパーマーケットやドラッグストア、コンビニエンスストアなどのリアル店舗に大量に送客するというサービスです。

その後、2016年10月に独自データを活用し高精度なターゲティングが可能な広告配信プラットフォーム「SoftBank Ads Platform(ソフトバンク アド プラットフォーム)」の提供を開始し、アドテク事業へ参入することになりました。

 

―貴社のアドテク事業の概要と特徴についてお聞かせください。

 

ソフトバンク アド プラットフォームの提供にあたり、アドテク業界のトッププレイヤーであるジーニーやマイクロアドと、出資をベースにした協業体制を構築しています。ソフトバンクは独自データを活用した広告配信プラットフォームのプロダクトオーナーとしての側面と、自社でクライアントを獲得していく広告代理機能の両方を有しています。

 

キャリアならではのターゲティングと対法人営業力が強み

―貴社ならではの特徴や強みはどこにあるのでしょうか?

 ソフトバンク アド プラットフォームのDSPサービスやPMPサービスが一般的なサービスに比べて優位性があるのは、やはり、通信キャリアとして大量かつ正確なデータを保有しており、これを活用した広告配信が可能だという点です。例えば、性別・年代・居住地といった契約者に紐づくより正確な情報を十分に匿名化した上で活用することが可能なため、ターゲティング精度が非常に高いです。

最近では、シナラシステムズジャパンが提供する「統合マーケティングプラットフォーム」を活用することで、Wi-Fiのアクセスポイントから取得した位置情報を活用した広告配信や、来店計測・分析サービスの提供も可能になりました。

 

営業面で言えば、ソフトバンクには数千人規模の営業人員を抱えており、モバイル商材やネットワークインフラに加えて、IoTやAI、ロボティクス、セキュリティ、デジタルマーケティング領域の商材まで、非常に多岐に亘る提案活動を行っていることも大きな強みです。IoTやAI、ロボティクスといった新しいビジネス領域では、ソフトバンクビジョンファンドから出資している海外の企業と連携して、日本においてJVで事業を立ち上げるといった動きも出てきています。このような連携も今後は競争で優位に働いてくるのではないかと考えています。

 

―通信キャリアならではの広告営業手法はありますか?

通信キャリアとしてのビジネスを展開していく中で、すでに幅広い業種・業態のお客さまと深い関係性を構築してきています。ですので、いわゆるナショナルクライアントと呼ばれる広告主のお客さまに対しても、既存の広告代理店と競合する形ではなく、独自のアプローチでサービス提案することが出来ます。また、O2Oサービスの提供においては、リアル店舗を全国展開する小売業と大量のサンプリングを実施したい大手消費財メーカーを連携させるなど、あらゆる業種・業態のお客さまをもつソフトバンクならではの広告営業手法といえるのではないでしょうか。

 

データマネタイズが広告ビジネスの広がりに

―今後ソフトバンクグループが持つ資産をどのように広告ビジネスに活用していかれるのでしょうか。

やはりデータをどのように収集し、どうマネタイズしていくかということが重要なテーマになってくると感じています。例えばソフトバンクグループのARMがトレジャーデータを買収しましたが、今後ARM社を通じて連携される同社のCDPサービスを活用することで、広告ビジネスにも広がりが出てくるでしょう。トレジャーデータとソフトバンクとの協業に関しては今年5月に発表しましたが、このようなデータビジネスを広げていきたいと考えています。その上で、位置情報のような通信キャリアならではのデータを連携させて、よりよいサービスを提供できればと考えています。

 

世界の通信キャリアが狙うのはマーケティングテクノロジー!?

―世界の通信キャリアがアドテクベンダーを買収しています。アドテクは通信キャリアが持つ資産をマネタイズするうえでの親和性が高いということでしょうか?

アドテクベンダーの立場でみたとき、米国ではご存知の通りFacebookやGoogleなどのデータと広告在庫を大量に保有するプラットフォーマーが強大で、アドテクベンダーが単独で対抗するのは大変厳しい状況です。そうした中でどこと組んで生き残りを図るのかということになったとき、データや顧客基盤を保有している通信キャリアは彼らにとっての提携の選択肢の一つになり得るのでしょう。その現れが、アドテクベンダーが通信キャリアの傘下に入るということなのだと思います。一方日本では、米国よりも動きは遅いものの独立系のアドテクベンダー再編の兆しが見えてきており、弊社に見られるような通信キャリアとの協業含めて、同様の動きが始まっているという認識です。

ソフトバンクとしては、ジーニー、マイクロアドとの協業体制を整え、ソフトバンク アド プラットフォームにおけるDSP、PMP、SSPサービスに代表されるように広告領域を中心にビジネスを展開してきました。しかし、今後広告のみならず、コンサルティングサービスなど他のマーケティングの打ち手を含めた新規領域へと事業を広げていこうとなると、ダッシュボードやマーケティングオートメーション、ウェブ接客など、アドテク以外のテクノロジーも求められるようになります。マーケティング活動に限らず、あらゆる企業活動をデジタル化したいというお客様のニーズに応えるためには、今後デジタルマーケティング領域を超えたサービス提供についても検討をせねばなりません。

デジタルマーケティング業界全体で言えば、少し前からコンサルティング企業が参入していて、コンサルティングサービスの延長線上でメディアバイイングの領域にも入り込んできています。そうした企業と競合するのか、協業していくべきなのかは、慎重に見極める必要があるでしょうね。

ABOUT 野下 智之

野下 智之

ExchangeWire Japan 編集長   慶応義塾大学経済学部卒。 外資系消費財メーカーを経て、2006年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。 国内外のインターネット広告業界をはじめとするデジタル領域の市場・サービスの調査研究を担当し、関連する調査レポートを多数企画・発刊。 2016年4月にデジタル領域を対象とする市場・サービス評価をおこなう調査会社 株式会社デジタルインファクトを設立。 2021年1月に、行政DXをテーマにしたWeb情報媒体「デジタル行政」の立ち上げをリード。