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Supersonicがハイパーカジュアルの動向予測を発表-「容易で気軽に遊べるゲーム」脱却へ

モバイルアプリプラットフォームのironSource傘下でハイパーカジュアルゲームの開発とパブリッシングを行うSupersonic Studiosが、ハイパーカジュアルゲームに関する将来の動向予測を発表した。

 

 

 

同社によると、2014年に「Flappy Bird」が大流行して以来、ハイパーカジュアルゲームは現在に至るまでにダウンロード数の最も多いジャンルとして確立。2019年時点では、ゲームアプリにおける新規ダウンロードの78%を占めている(Adjust社調べ)。

 

また同社は、気軽に遊ぶことができて、開発スピードが速いことが特徴的なジャンルではありながらも、「ヒット作を生み出すことは決して容易ではない」上に、「むしろユーザー獲得競争は熾烈になる一方」であると説明。こうした背景を踏まえた上で、Supersonic Supersonic Studiosのジェネラルマネージャーを務めるNadav Ashkenazy氏、ゲームデザイン責任者を務めるTomer Geller氏、In-House Gamesの責任者であるNiv Touboul氏が、2021年の動向を予測した。

 

ハイパーカジュアル化の進行

2021年に顕著になることが予測される現象の一つが、様々なゲームの「ハイパーカジュアル化」。最近トレンドとなっているミニゲーム系のタイトルなどが相当する。それぞれのミニゲーム単体ではハイパーカジュアルでのヒットを成立する要件は備わっていないものの、それらをうまく組み合わせることによりヒット作になり得るという。

 

加えて「Save the Girl!(女の子を救え!)」や「Let’s be Cops」といったいわゆる選択系ゲームがハイパーカジュアルゲームのような仕組みを採用する例が多く見られており、ハイパーカジュアルゲームの人気が続く限りは、このような他ジャンルのゲームのハイパーカジュアル化が続く見込み。

 

ハイパーカジュアルの多様化

一方で、いわゆるハイブリッド型カジュアルゲームも急速に台頭。これらのゲームは、より重いコンテンツでありながらハイパーカジュアルのようなゲームプレイや訴求を有している。例えば、ミッドコアやストラテジーゲームの要素を取り込み、ハイパーカジュアルゲームと掛け合わせると、全く新たなサブジャンルが生まれる。戦略系の要素を取り入れたハイブリッドカジュアルである「Ancient Battle」はその好例だという。

 

本来的には気軽にプレイを始めることができると同時に攻略は難しいジャンルとして生まれたハイパーカジュアルゲームだが、ユーザーの可処分時間をめぐり、ソーシャルメディア上のニュースフィードなどとの競合を余儀なくされた結果、近年では寛容さや気軽さが追い求められるようになっている。ただし、Supersonicは、2021年には原点回帰し、ユーザーには攻略に向けて深い思考や工夫が求められるようなタイトルが増えてくると予想。ハイパーカジュアルゲームは新たな転換点を迎えることになる。


大手ゲーム企業の市場参入

2020年時点では他社IP(知的財産)を扱うタイトルは、ハイパーカジュアルゲーム全体の5%を占めるに過ぎなかった。しかし、過去数年間で複数の大型買収が成立したことにより、この傾向にも変化が起きると予想されている。ソーシャルゲーム企業のZynga社がハイパーカジュアルゲーム企業のRollicを買収、またロシアのインターネット会社Mail.ruグループのゲームブランドMY.GAMESがハイパーカジュアルゲームスタジオのMambo Gamesに出資といった出来事がこの動きを象徴的にしている。上述したハイパーカジュアル化現象も踏まえた上で、今後はさらに多くの大手ゲーム企業がハイパーカジュアルゲーム市場に参入してくることが見込まれる。

 

ゲーム事業を運営した実績の有無に関わらず、IP企業はいずれにせよハイパーカジュアルゲーム市場への参入を図ってくる。そして、ハイパーカジュアルゲームのような気軽に楽しむことができるゲーム体験を導入することで、広い層に訴えようとする。また「ハリー・ポッター」や「ファミリー・ガイ」といった人気映画及びアニメ作品がアドベンチャーゲームに、そして「アナと雪の女王」がパズルゲームとなったように、ハイパーカジュアルゲーム形式は、ゲーム市場参入の糸口になりやすい。ハイパーカジュアルゲーム特有の大規模なユーザー層と気軽に遊べるフォーマットは、IP事業と相性が良く、ブランドの認知やロイヤリティ、また潜在的にセールスの向上に活用できると言える。

 

IDFAの変更に伴う対応

Appleが発表したiOS端末の広告識別子「IDFA」のオプトイン義務付けにより、広告収益に大きく依拠するハイパーカジュアルゲーム業界が大打撃を受けるのは間違いない。ただし、具体的にどのような影響がもたらされるかについては明らかになっていない。アップル社が提供するSKAdNetworkというトラッキングツールがどのように機能し、各事業者がいかに対応できるかによって影響の大きさは変わり得る。パブリッシャーやアドネットワークは、手持ちのテクノロジー、ツール、知見を総動員してユーザー獲得とマネタイズの最適化を図ることが求められる。その成否次第で、ハイパーカジュアルゲーム業界のあり方は大きく変化し得る。

 

ただし、比較的大きなユーザー規模を有するハイパーカジュアルゲームの開発企業であれば、Apple社のIDFVへのスタンスから、自社アプリ間で相互送客を実施することが可能との見方を示す識者もいる。いずれにせよ、IDFAの変更をめぐる動きは、ユーザーのプライバシーの取り扱いについて再考を求められる分岐点となる。


デザインにも変化が

ハイパーカジュアルゲームでは、斬新なゲームデザインが注目を集める。広告クリエイティブに大きく依拠するジャンルのため、魅力的なクリエイティブを持つだけで競争優位性を得ることができる。つまり普通とは異なる、期待を裏切るやや奇妙なゲームこそが良くも悪くもユーザーの関心を集める。例えば野菜に対して帝王切開を施したり、胎児を育てるといったゲームが既に市場には存在。こうした独特のアイデアであれば、視覚的に印象に残るクリエイティブを制作し、ユーザーの注目と関心を集めることができる。

 

視覚的な印象に加えて、デザインのあり方から根本的な変化が起きつつある。テクノロジーの発展とともにストックアセットも進化してきている中で、プレイヤーがゲームに対してリアル性をこれまで以上に求めるようになった結果、ハイパーカジュアルゲームに特徴的なイラスト的なデザインも見直しを求められている。例えばUnityストアで公開されている棒人間のアイコンはこれまでゲームデベロッパーの間で重宝されてきたが、近年ではより人間味のある形や動きを模したキャラクターを用いるゲームが増えている。

 

他ジャンルのゲームへの影響力を発揮し、広告主のマーケティングツールとしても認知されるようになったハイパーカジュアルゲームは、もはや「容易で気軽に遊べるゲーム」という一言で片づけられるものではない。今後も引き続き、モバイルゲーム市場全体への影響を及ぼし続ける存在となることが見込まれる。

ABOUT 長野 雅俊

長野 雅俊

ExchangeWireJAPAN 副編集長
ウェストミンスター大学大学院ジャーナリズム学科修士課程修了。 ロンドンを拠点とする在欧邦人向けメディアの編集長を経て、2016年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。 日本や東南アジアを中心としたデジタル広告市場の調査などを担当している。