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AI と広告の未来、議論の現在地―第二部 AI 時代の広告業界——広告主、プラットフォーム、代理店、媒体の行方[インタビュー]

 

「第一部 AI 検索広告が日本にやってくる」はこちら

 

AI 検索広告は、生成 AI が広告業界にもたらす変化の入口に過ぎない。杉原氏との対話を進めるうちに、議論は AI 検索広告という個別領域を越えて、広告ビジネス全体の構造変化に広がっていった。プラットフォームの勢力図、代理店ビジネスのあり方、広告主の組織構造、媒体の収益モデル、リテールメディアの停滞、そして業界の計測標準——AI は、広告事業のあらゆるレイヤーに地殻変動をもたらしつつある。

 

スモールプラットフォームシンドローム——寡占の構造

主要プラットフォームの主導権争いについて尋ねると、杉原氏は興味深い概念を持ち出した。米国のアナリストが提唱しているという「スモールプラットフォームシンドローム」という言葉である。

「Tier 1 のプラットフォームは、Google、Meta、Amazon までと言える。Tier 2 以下のプラットフォームは、事業としては伸びてはいるものの、Tier 1 が大きすぎるために、ユーザーも増えにくい。広告事業はスケールが第一なので、なかなか広告予算が回ってこない」。

プラットフォームのネットワーク効果が、巨大ネットに寄りすぎる結果、他のネットワークが育たない——という構造の指摘である。

 

そのうえで、各プレイヤーの現在地について、杉原氏は時間軸で切り分けながら見立てを語る。

Google は底堅い。広告依存度は、かつての9割超から7割程度まで低下した。「2007年頃は 97% が広告収益だった。それが現在は7割。クラウドが伸び、サブスクが伸び、検索もまた伸びている」。事業ポートフォリオの分散が進んでいる分、AI 領域全般の不確実性を吸収できる体力がある。

 

Meta は AI 投資先行型ゆえの揺らぎを抱える。広告事業の成長率は20%後半と非常に高いものの、依然として広告依存度が高い。AI 投資が先行している分、決算ごとに株価が落ちる構造になっている。買収した中国系 AI エージェント Manus には、中国側から買収撤回命令が出るなど、第二の柱の確立に苦しんでいる。

 

そして、5年というスパンで見たとき、杉原氏が「いいポジションにいる」と評価するのが Amazon だ。

「Amazon は購買データという最強のシグナルを持っており、検索から購買という一連のループが、最も完結している」。

Amazon は AI 投資で他社にやや遅れていた面があるものの、広告事業のなかでの AI 活用は進んでおり、広告事業の成長率は20%台後半に達している。プラットフォーム内では Rufus が強化され、Rufus 経由の購買も増加している。ただし、Rufus 内に差し込まれる広告については「やや邪魔な印象」もあり、独立性をめぐる議論も起きている、と杉原氏は付け加える。

 

Google が描く反撃の道筋——UCP の動き

Amazon の優位を脅かしうる存在として、杉原氏が注目するのが Google の動きである。

Google は近年、UCP(Universal Commerce Protocol)の整備に注力している。これは、Gemini や ChatGPT のような AI から商品を探し、比較検討し、購入まで完結させるためのプロトコルで、Google が複数のパートナー企業と組んで推進しているものだ。「対応する小売やブランドも出始めており、最初の例がギャップ(GAP)である。すでに AI 経由で購入できる実装が動いている」。

 

UCP が広がれば、AI から購入までの導線を Google 側が握れるようになる。Amazon と購買のレイヤーで対抗しうる足場を作ろうとしている、というのが杉原氏の読みである。

ただし、Google には越えられない壁もある。「Amazon のように POS レベルのデータまでは取れない。自社で売っているわけではないからだ。それでも、コンバージョンアクションに繋がったかどうかのデータは取れる——そこを狙っているのだろう」。

Google が懸命に対抗しているのは確かだが、と杉原氏は結ぶ。「実際の購買データを世界で最も多く保有している Amazon は、やはり強い」。

 

OpenAI の時間との戦い

一方、OpenAI の状況について、杉原氏の見立ては慎重だ。

「ChatGPT のユーザー数が、頭打ちになりつつある。一方で Claude のユーザーが伸びている」。広告ビジネスはボリューム勝負である以上、ユーザー数の停滞は無視できない。

加えて、キャッシュバーン(資金燃焼)の問題がある。「サブスクだけではキャッシュバーンを支えきれなくなった。だからこそ、急いで広告で補おうとしている」。

 

OpenAI の広告事業戦略については、Criteo や StackAdapt とのパートナーシップが象徴的だ。自社で広告プラットフォームを一から成長させるには時間がかかる。先行する Google・Meta・Amazon は、25年かけてマッチング技術やアルゴリズムを磨いてきた。そこに数年で追いつくのは現実的に難しい。「既にデマンドが厚いところと組む、という選択を取っている」——これが杉原氏の整理である。

 

「OpenAIの資金調達は、ラストラウンドに近いと見ている。時間が持つかどうか、そこへの懸念はある」と杉原氏は語る。

 

楽天・LINE ヤフーには、まだ伸びしろがある

日本市場の勢力図に話が及ぶと、杉原氏は楽天や LINE ヤフーについて、潜在力を高く評価しつつも、活かしきれていない現状を惜しむように語った。

「経済圏としては、しっかり組み上がっている。非常に強い経済圏だ。ただ、複数の事業を抱えているにもかかわらず、縦割りで、データが統合されていない」。

楽天市場内の広告システム自体は良くできている、と杉原氏は評価する。ただし、EC事業以外の事業の強みは、広告事業に十分には活かされていない。

「データが統合されて、活用できる状態になるかどうか。そこが分岐点になる」。

 

そしてもう一つ、杉原氏が課題として挙げたのが、実行力——意思決定と AI 投資判断のスピードである。「もう少しスピードを上げなければ、ギャップは広がりかねない」。

ID と経済圏という構造的な強みは、本来であれば AI 時代に最も活きるはずのものだ。だからこそ、それを活かし切れるかどうかが、日本の ID 経済圏プレイヤーの分水嶺になる。

 

広告主の勝ち筋——AI に「何を食わせるか」が分水嶺になる

プラットフォーム側の変化を受けて、最も大きな影響を受けるのは——意外なほど——広告主自身かもしれない。AI 時代において、広告主の競争力を決めるのは、もはや広告予算の大きさではない、と杉原氏は語る。

 

「広告主の勝ち筋は、ファーストパーティデータをはじめとする多種多様なシグナルを、リアルタイムで AI にフィードできる環境を作ることにある。データやさまざまなシグナルを捕捉し、AI にほぼリアルタイムでフィードできる体制を整えること。それができるところが勝ちやすい」。

 

ここで杉原氏が強調するのは、「ファーストパーティデータ」という言葉の中身である。「メールアドレスを取れている、というだけでは足りない。ウェブサイトに来た顧客、店舗に来た顧客、リアル店舗での行動——あらゆるシグナルをきちんと捕捉し、AI に学習させていくことが必要だ」。データの「ある/なし」ではなく、「活用できるか/できないか」が問われる。

そして、この変化が広告主の組織構造そのものを揺さぶり始めている。海外、特に米国ではもともとインハウス志向が強かったが、AI の登場でその傾向がさらに強まった——というのが杉原氏の観察である。背景には三つの要因がある。

 

一つ目はブランドセーフティである。自社ブランドの方向性に沿って AI に学習・運用してもらうには、その手綱を内側で握っておきたい、という発想だ。「自社ブランドの方向性に合う形で AI が学習しなければ困る。そこの手綱は手元に残しておきたい、ということだ」。

 

二つ目はファーストパーティデータの統制である。AI に与えるデータの価値が高まるほど、それを外部に開示したくないという心理が強まる。「AI に食わせるデータがあればあるほど、外注はしたくない、という意識は強くなる」。

 

三つ目が、AI 活用そのものの主導権である。AI を使いこなせるかどうかが事業成果を左右するなら、その能力を社内に持ちたい、というのは自然な発想だ。

 

ただし、ここで日本の広告主には固有の課題が立ちはだかる、と杉原氏は指摘する。「データがある」と「データが使える」は、別の話だということである。多くの日本企業は、データ自体は豊富に保有している。しかし、それを統合し、AI にフィードできる形に整えるところで、意思決定のスピードと実行力が問われる。「もう少しスピードを上げなければ、海外との差は広がりかねない」。

 

つまり、AI 時代の広告主に問われているのは、広告予算の最適化ではなく、自社の事業データを AI 活用可能な資産として整え直す経営判断である。そして、それを支援する立場として、代理店の役割も大きく変わろうとしている。

 

代理店は変わらざるを得ない——ただし、なくなるわけではない

広告主がインハウス化を進めていくなかで、代理店ビジネスは大きな転換を迫られている。広告主・代理店・媒体の三者の力学のなかで、最も大きな変化を迫られるのは代理店だ、と杉原氏は見る。

「変わらざるを得ない、というのが正直なところだ」。

 

杉原氏が業界の象徴的な動きとして挙げるのが、Meta のマーク・ザッカーバーグ CEO の宣言である。2026年には、予算とゴールを入力すれば、広告作成・運用最適化・分析レポーティングまでを全自動で行う——そうした目標を打ち出している。Meta はすでに Advantage+ などでターゲティングとクリエイティブの自動最適化を強化しており、Google 以上に積極的だと杉原氏は見る。「3分の1ほどは実現されるだろう」というのが氏の見立てだ。

 

つまり、運用者の手作業——キーワード入札の最適化、A/B テスト的なオペレーション——は、構造的に AI に代替されていく。「手を動かしてきた運用者のノウハウは、AI の動作をチェックする精査側として依然として必要だが、これまでのような大所帯は要らなくなる」。

 

ただし、と杉原氏は柔らかく補足する。代理店の役割そのものがなくなるわけではない。「メディアプランナーやコンサルタントの仕事自体がなくなるわけではない。役割が変わるのだ」。

 

象徴的なのは、エージェンティック広告の世界での「精査側」の重要性である。Google や Meta、Amazon は、管理画面の中にエージェント機能を実装し始めている。プロンプトで「これをやっておいて」と指示すれば、メディアプランが瞬時に出てくる時代が近づいている。

 

「メディアプランニングは、もはや人手をかけて行う時代ではなくなりつつある。ただ、AI は間違えるため、精査は不可欠だ。経験値がないと精査はできない。メディアプランナーを10年、20年と続けてきた人材は、精査側に回ることで価値を発揮できる」。

 

代理店ビジネスの新潮流として杉原氏が注目するのが、海外で広がる「FDE 契約」だ。フォワードデプロイドエンジニア(Forward Deployed Engineer)の略で、顧客企業に一時的に常駐し、AI 実装を動くまで支援する職種を指す。元々は パランティア・テクノロジーズ が始めたAI職種だが、これが広告エージェンシーの世界にも波及している。広告業界、特に海外のエージェンシーが、FDE の枠組みで顧客企業の AI 実装を担う動きが広がりつつあるという。

つまり、代理店の価値提供は、運用代行から「広告主のインハウス化と AI 活用を伴走支援する立場」へと組み替えられつつある。自社 AI プラットフォームへの誘導、実装そのものへの伴走——これが、代理店が生き残るための新しいポジションだ。

 

パブリッシャーは、「AI に評価される資産」を作れるか

媒体側の変化も無視できない。生成 AI の登場でコンテンツ制作の効率は劇的に上がった一方、広告収益の確保はむしろ難しくなっている、と杉原氏は指摘する。AI による要約・回答の前面化で、トラフィックは少しずつ削られていく。

ではどうするか。杉原氏は二つの方向を示す。

 

一つは、AI に信頼・参照される地位の確立である。AI に信頼され、引用され、参照される存在になるために、自社のコンテンツやデータが優れていることを、いかに AI に理解させるか——この点を、杉原氏は重要な論点として挙げる。具体的には、コンテンツの機械可読性を高め、構造化やメタデータ整備によって、AI に「評価される資産」化することが必要になる。

 

もう一つは、プレミアム在庫の商品化と高単価販売への回帰である。「純広告回帰的な考えでよいと思う。テクノロジーを使ったうえで、プレミアム広告をより高く売る努力をしたほうがよい」。プログラマティック一辺倒の現状から、直販的な売り方や、コマースなど複線の収益化を取り戻す方向だ。

 

ただし、日本のパブリッシャーには人材の問題が深く横たわる、と杉原氏は懸念を漏らす。エージェンティック広告に対応しなければならないと思っても、対応できる人材が社内にいない、というケースが少なくない。リーダー人材の育成と、プロダクト化の推進は、業界全体の課題として残っている。

 

リテールメディアと、エージェンティックコマースの脅威

AI が広告業界にもたらす変化のなかで、リテールメディアの動向も切り離せない論点だ。米国市場規模は日本の約18倍程度に達するものの、最近は以前ほど話題になっていない、と杉原氏は感じている。

「米国のカンファレンスに出ても、日本と状況は大きく変わらない。市場規模は18倍あるのに、いまだテスト予算の域を出ていない。18倍のテスト予算とは、これいかに、というところだ」。

何が成長を止めているのか。杉原氏は二つの要因を挙げる。

 

一つは販促予算と広告予算の分断である。リテールメディアを販促費から出すのか、広告費から出すのかが、米国でさえ整理されていない。

もう一つが計測問題だ。IAB がリテールメディア計測の標準を出してはいるが、各リテーラーが出してくるレポートの指標が揃わない。「Walmart に出稿すれば、Walmart 側のレポートが出てくる。購買まで追える。これが一社だけならよい。だが Target が出してくるレポートの指標が全く異なれば、Apple to Apple で比較してよいのか、という疑念が生じる。テスト予算ならそれでも構わないが、本格的な販促予算は出せない、ということになる」。

 

日本でも同じ構図がある。「リテールといってもコンビニ、スーパー、ドラッグストア、百貨店と多様で、で、取り組みがバラバラだ。日本の場合は特に、店舗側——リアル店舗のディスプレイなどの計測——が大きく違っている。そこをすり合わせよう、という動きが代理店主導で出てきている」。

そして、もう一つの脅威が AI そのものから来る。エージェンティックコマースだ。AI で比較検討して購買まで完結してしまえば、ユーザーはわざわざイオンやコストコのリテールメディアサイトに行く必要がなくなる。「広告も影響を受けるし、それを見せる必要そのものがなくなってくる」。

 

ただし杉原氏は、エージェンティックコマースの影響を業種別に冷静に見立てる。「比較検討のリードタイムが長いものは、エージェンティックコマースに向いている。一方、高額商品やリテールスーパーやコンビニで扱う単価の安いものは、わざわざ AI で買う動機が薄い。業種によって影響の度合いは大きく異なり、メディアへの影響も、そこから見えてくる」。

加えて、エージェンティックコマースが本格的に進めば、広告そのものの形も変わりうる、と杉原氏は示唆する。AI が比較検討と購入を媒介するようになると、媒体側の収益は従来型の広告から、トランザクション手数料モデルに近づいていく可能性がある——リテールメディアの将来像にも、構造的な変化が訪れることになる。

 

「計測の私物化」——業界が直視していない論点

業界全体への問題提起として、杉原氏が最後に挙げたのが、計測の問題だった。

「計測が、本当に難しくなっている。プラットフォームは各社が独自仕様で進めており、統一化は全く図られていない」。

Cookie 問題があり、MMM(マーケティングミックスモデリング)への回帰が進んでいるものの、業界の MMM リテラシーは依然として低く、普及が進まない。最近では AI による効果測定推定も出始めているが、これも各社バラバラである。

 

そして杉原氏は核心を突く。

「計測が、いわば私物化されている。プラットフォームごとに分断され、足並みが揃わない。これが問題だと考えている。なかなか足並みは揃わないだろう。IAB なども努力しているが、プラットフォーム側に従う義務はない」。

——「ますます複雑になりますね」と問うと、杉原氏は答えた。

 

「独自性を出したい気持ちは理解できる。しかし、広告効果の測定がより一層難しくなっているのは、間違いない」。

 

いま、業界に問われていること

杉原氏の話を一通り聞いて浮かび上がってきたのは、二つの異なるレイヤーの変化だった。

一つは、AI 検索広告そのもののダイナミクスだ。検索は終わらず、むしろ伸びている。だが、入口は確実に増えていく。AI Overviews の前面化で上部広告は静かに圧迫され、CPC は上がる。意図の解像度が上がり、ニッチブランドにも機会が開く一方で、それに応えるための言語化能力が問われる。AI 内広告の独立性は、技術ではなくユーザー受容性の問題として、市場規模の上限を決めていく。そして新興プラットフォームが登場するいまこそ、初期参入の機会を逃さない判断が求められる。

 

もう一つは、その背景で進む広告業界全体の地殻変動である。プラットフォームの寡占は続き、5年スパンで見れば Amazon は強い位置にいる一方、Google も UCP で反撃の道を探り、OpenAI は時間との戦いを強いられる。広告主は、データを「持っているか」ではなく「使えるか」を問われ、インハウス化と AI 活用の主導権を組織内にどう設計するかが分水嶺になる。

代理店は精査側へと役割を移し、広告主のインハウス化を伴走する立場に組み替わる。媒体は「AI に評価される資産」へと自らを組み替え、プレミアム在庫の販売とコマースの複線化で収益を立て直す必要がある。リテールメディアもエージェンティックコマースも、計測の問題が解決されない限り、本格的な離陸は難しい。

 

検索広告の黎明期から業界を見続けてきた杉原氏が、最後に静かに口にした「計測の私物化」という言葉——それは、AI 時代の広告業界が直視を避けてきた問題を、業界全体に突きつける問いとして残された。

ABOUT 野下 智之

野下 智之

ExchangeWire Japan 編集長  

慶応義塾大学経済学部卒。
外資系消費財メーカーを経て、2006年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。

国内外のインターネット広告業界をはじめとするデジタル領域の市場・サービスの調査研究を担当し、関連する調査レポートを多数企画・発刊。

2016年4月にデジタル領域を対象とする市場・サービス評価をおこなう調査会社 株式会社デジタルインファクトを設立。
2021年1月に、行政DXをテーマにしたWeb情報媒体「デジタル行政」の立ち上げをリード。