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日本版、広告テクノロジー業界マップ2013(ソーシャル)&ソーシャル広告業界トレンド:トーチライト代表取締役CEO矢吹氏インタビュー

Social Landscape JP 8-29-2013

『広告テクノロジー業界マップ』の第6弾は、最近急速に成長しているソーシャル広告です。ソーシャルという概念の登場により、ブランドなどの広告主が直接ユーザーと接点を持つことができるようになりました。また、ソーシャル化されたウェブサイト上は、特定の行動履歴や属性を持つユーザーにターゲティングして広告配信ができるほか、ユーザー間のつながりを通じて広告が伝搬することを期待できるため、費用対効果の高い出稿ができると考えられています。

 

TORCH_LIGHT今回はソーシャルグラフマーケティングを手掛けるトーチライト 代表取締役CEOの矢吹岳史氏と、テクノロジー推進部マネージャーの田中貴章氏に、ソーシャル広告業界のトレンドについて伺いました。

(聞き手:ExchangeWire Japan編集長 大山忍/ text:柏木恵子)


 

 

 

 

ソーシャルメディア上のデータと自社データを組み合わせてターゲティング

 

——御社のビジネス概要を教えてください。

 

DSC02142_矢吹:ソーシャル上のマーケティング活動を支援するサービスや企画を提供しています。ソーシャル上の広告管理ツールなどを7〜8社のベンダーと提携して提供していますが、その中でいま主軸としているのがGIGYAという、ソーシャルログインベースでソーシャルデータを活用するソリューションです。

 

 

 

田中:ソーシャル化のために必要な要素をワンストップで揃えているので“ソーシャルインフラストラクチャ”とも呼ばれています。広告主の運営するオウンドメディア上で、ソーシャルメディアで繋がりのある他のユーザーがどのような行動を起こしたかを表示したり、逆にオウンドメディア上でのアクションをソーシャルメディアにポストしたりと、インタラクティブな利用が可能です。連携先は、Facebook、Twitter、ミクシィなどほとんどのソーシャルメディアを網羅しています。広告主企業のオウンドメディアと、ソーシャルメディアの間をユーザーが回流することになるので、お互いのインプレッション増加に役立ちます。

 

矢吹:J-WAVEのサイトでは、ログインすると友人がこのサイト上でどういうアクションをしているか見ることができます。ソーシャルグラフを取り込んで順位付けをして、コメントをマルチシェアすることもできます。

 

もうひとつの機能は、プロフィールを含めたソーシャルメディアが持つユーザーの情報とサイト独自のユーザー情報を掛け合わせて、ユーザーを理解し、ダイレクトマーケティングの手法に繋げていく。ユーザーの好みに応じていろいろなコミュニケーションを考える、そのきっかけになるインフラであり、サービスです。

 

海外ではナイキがWebサイトとアプリで導入しています。Facebook上でユーザーが公開しているデータと広告主ナイキが持つ自社データを両方使って、ターゲティングしたメール広告を配信します。出身大学のロゴの入ったアパレルを紹介するのはソーシャルのデータを使っていますし、お勧めランニングコースを紹介するのは自社データを使っています。

 

 

 図1

ナイキの例

 

 

田中:GIGYAのCEOは、「Facebookは非常に重要だが、ユーザーはそこで物を買うことはせず、ブランドのオウンドメディア(ECサイトなど)でアクションを起こすだろう」と言っています。サービスを直に提供する場は、やはりオウンドメディアであるべき。しかし、ソーシャルのインタラクションは非常に優れているので、その要素をアプリや自社ECサイトなどのオウンドメディアに持ってくる。そのためのシステム開発やメンテナンスには多くの労力やコストがかかるため、ある程度パッケージ化してサービスとして提供するというのが、GIGYAのミッションです。導入企業はグローバルで700社ほど、日本では20社ほどです。

 

GIGYAで集めたデータは様々なサービスと連携させることで、更に活用の場が広がります。例えば、Google Analyticsと連携させることで、従来から見ている指標と掛け合わせながら、オウンドメディア上でのユーザーの活性化を測定し、更にメディアを改善させていくということが可能になります。

 

 

図2GIGYAインテグレーションパートナー

 

 

エンゲージメントを達成するための適切なKPIを設定する

 

——近年のソーシャル広告業界のトレンドを教えてください。

 

矢吹:ソーシャル広告は種類も増え、売り上げも伸びています。Facebookの広告は、タイムラインに出るものと横のマーケットプレイスに出るものがあります。最近増えているのがモバイル広告で、訴求できるスペースが大きく、広告と分からずに「いいね!」している人もいるでしょう。これまでは、小売を通じた販売チャネルを展開し、自社で顧客データを持つことができなかったメーカーやブランドが、ユーザーとのコミュニケーションの手段として利用しているケースが多いようです。

 

ソーシャル広告は、オウンドメディアのデータと自社データを組み合わせることができるため、非常に細かくターゲティングできます。配信先に応じてクリエイティブも変更できるので、非常にきめ細やかな運用が求められます。ターゲットによって画像や原稿を変え配信することでより高い広告効果が見込めます。これらをこれまでは手作業でやってきましたが、運用ツールで解決しようという動きが出てきています。我々も「AdTerra」というサービスを、台湾の会社と共同開発しました。

 

矢吹:KPIは、ファンの数であったりエンゲージメント率であったり、ECサイトであれば売上げにどれだけ繋がったかになるなど、各社で違います。例えば、ファンを何万人集めるという数だけを追求するだけでは、本当に企業の求めるエンゲージメントが形成されたのかは疑問です。「いいね!」の数と同時に、エンゲージメント率も見る必要があります。

 

——エンゲージメント率というのは、具体的にどのような数値ですか。

 

矢吹:ファンの総数をインタラクション数で割るというのが一般的ですが、「いいね!」とコメントとトーキングアバウトの数を足し合わせるなど、考え方は複数あります。コメントが欲しい場合はコメントを追えばいいし、それぞれの企業によって目指すところが違うので、話し合ってKPIを決めていきます。

 

 

メーカーはソーシャルで初めて消費者との接点を持つ

 

——企業のマーケティング担当者が広告運用のためにおさえておくべきプライバシーポリシーのポイントを教えてください。

 

矢吹:まず、SNSプラットフォームの規約に則ることが基本です。DMPのデータはCookieや行動データですから個人は特定されませんが、ソーシャルのデータは個人情報なので、第三者に提供してはいけません。だから、「我が社の規約では第三者に販売するとなっている」と言っても、それは通りません。データを収集した大元の場所で第三者提供を許可していないのですから。

 

田中:何のためにどのようなデータが欲しいかを明確にし、宣言した通りの使い方をすることも重要です。Facebookは特に情報のオープン化が進んでおり、リッチなユーザーデータにアクセスすることも可能なのですが、本来は何を目的にどんなユーザーデータを取得したいのかを、オウンドメディア独自のプライバシーポリシーとしてしっかり定義し、ユーザーに明示する必要があります。それに応じて、最初はログインした時に「ようこそ○○さん」という程度のパーソナライズ化されたユーザー体験を提供する。その後、プレミアム会員になる時には追加のパーミッションでさらに多くの情報を登録してもらい、よりカスタマイズしたページやレコメンドを提供する。ユーザーをランク分けして、たくさんデータをくれたユーザーにはよりよい体験をしてもらうというやり方がお勧めです。そうしないで、いきなり細かくターゲティングした広告を出すと不快感を与えます。海外でも、このようなユーザーのプライバシーへの配慮は議論になっています。GIGYA社はソーシャル・プライバシー・ポリシーの業界標準を作る活動も実施しており、ユーザーのプライバシーに配慮したソーシャルデータの活用の普及に取り組んでいます。

 

 

 

——今後はどのような展開を予定していますか。

 

Mrtanaka_279x384田中:GIGYAについては、単にソーシャルデータを集めるだけでなくユーザー属性などでセグメントできるダッシュボードの機能が、今年中にリリースされる予定です。ソーシャルデータというのは非常に複雑な構造を持っており、マーケティングに活用していくには、その目的に合わせてデータを分析し集約していく必要があります。こういったことを支援するためのサービスをGIGYAでは今後強化していく予定です。

 

これまで販社を通じて製品やサービスを提供してきたブランドやメーカーは、ソーシャルメディアを通じて、自社にユーザーデータを蓄積することが容易になり、マーケティングに役立てることができるようになるでしょう。

 

 

 

——今後ソーシャル広告市場で注目されそうなツールやサービスはありますか。

 

矢吹:トーチライトで提供している「AdTerra」のような運用型のアドツールがますます今後増えると思います。広告がセルフサーブになり、いろいろな広告を目的ごとに使い分け、費用対効果を高めるために、統合管理が必要になるでしょう。


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ABOUT 大山 忍

大山 忍

ExchangeWire Japan 編集長 米国大学卒業。外資系企業を経て2000年にネット広告効果測定ツールを提供するベンチャーに創業メンバーとして参画。その後、バリューコマース株式会社と合併。 2007年1月にオムニチュア株式会社(現Adobe)に参加、コンサルティングサービスを立ち上げる。ビジネスコンサルタントとして米国のベスト プラクティスを日本の課題やニーズに合わせて提供、ウェブ解析やガバナンス(データ主導の組織・仕組化)に関する執筆・講演を行う。