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FacebookによるDSP – データはプログラマティックの世界に十分なものなのか?

(翻訳:Asia Plus 黒川賢吾)

もしFacebookがDSPを始めれば、プログラマティックはニッチ市場でなくなるのは間違いないだろう。しかしソーシャルネットワークのファーストパーティーデータは十分なものなのだろうか。Eyeota社CEOのKevin Tanが未来を見据えて話をしてくれた。
 
プログラマティックは、アドテクの世界の一部として現れ、広告のメインステージに躍り出た。この産業は今や専門家の知る限りの技術がサポートされており、プログラマティックによるリアルタイムのオーディエンスによるインサイトは効率的なキャンペーンのための重要な基盤となっている。ニッチ市場から大きな市場に移行できたのは、主としてマーケティング担当者の要望やブランドのニーズに対応でき、単なるコンテンツに留まらずにオーディエンスをターゲットとすることができる技術によるものである。プログラマティックが主流として認められるようになったのは、この分野への参入を決断した技術的に大きな影響力を持つ企業のお蔭でもある。
 
Facebookが2016年のはじめにDSPをリリースし、「people-based(人に基づく)」広告手法を使ってプログラマティック取引を実行する、との今月のニュースは、デジタル広告においてデータに基づいてオーディエンスを狙うことの重要性を裏付けるものだ。FacebookのDSP製品(同社の広告プラットフォームビジネスの4番目の要素)の詳細はまだ公表されていないが、ファーストパーティーのオーディエンスデータとデバイスを結びつけたインサイトの強みは、より広範なネット上のユーザーにより多くのメッセージを届けたいと考えているマーケティング担当者に強烈なアピールとなるだろう。
 
この動きはプログラマティックが成熟し、オーディエンスを狙い撃ちすることが広告の新しい潮流であることを明確に示している。このことはネット上で明らかなだけでなくテレビなどの従来のオフラインのチャネルでも次第に明らかになりつつある。非常に速いスピードで進化する状況の中でFacebookのDSPはどう戦うのか。同社のファーストパーティーデータは間違いなく強力だが、とはいえ無限ではない。常に高度化するオーディエンスに向けたキャンペーンにおいて、広告主はチャンスを逃すわけにはいかないが、それらの広告主にとって十分魅力的なサービスになり得るであろうか?
 
ファーストパーティーデータだけでは適切なタイミングで適切な場所の適切な人にリーチするには十分ではない。オーディエンスに基づくターゲット型キャンペーンはこの条件に全て当てはまらなければならない。つまりどれかを譲歩することは成功の妨げになるだろう。マーケティング担当者はFacebookのデータを独立プロバイダーの高品質なサードパーティーオーディエンスデータと組み合わせて(全体像を把握している)ユーザー毎に特定のコンテキストで個別のメッセージをカスタマイズすることが必要だろう。
 
ユーザー像とユーザーのブランド認識をきちんと理解することによってマーケティング担当者は人的要因を加味したコミュニケーション戦略を立てることができる。このことはユーザー主導の時代においては必須だ。ユーザーをデータの寄せ集めではなく現実の人間として扱うことは本物のユーザーインサイトを発見することと同じくらい重要だ。本物のインサイトはFacebookのユーザープロファイルというファーストパーティーの特質に収まらない様々なデータの中に存在する。
 
独立したデータを準備するという問題は、Facebookのデマンドサイドプログラマティックへの進出を踏まえると検討の価値がある。Facebookは独自のデータでDSPを構築したが、マーケティング業界は、データの出処とその利用をユーザーが承認しているか否かを知りたがっている。Facebookはこの情報を提供できるだろうか。品質がブランド評価に重要であるように、透明性はオーディエンスデータの独立系プロバイダーの信頼と存続にとって極めて重要だ。こうしたプロバイダーは販売データの出処を明らかにし、どこでキャンペーンを実行しているかを公表し、バイヤーがこうした情報をすぐ入手できるようにしなければならない。サードパーティーデータの市場は信頼できる商習慣の上に成り立っているのでFacebookは市場の業者が作った慣例に従う必要がある。マーケティング担当者が説明責任に関して大きな期待を寄せられているのは、それが直接商習慣に反映するからだ。つまり一般的な疑問点はFacebookのデータは説明がつく透明性の高いものかどうかということだ。Facebookの対応が適切かどうかでDSPの受け入れ方に大きな影響を及ぼすだろう。
 
FacebookのDSPがリリースされてどう展開されようとも、オーディエンス重視は、プログラマティックの未来をよく予言しているといえるかもしれない。FacebookやYahoo(最近同様のDSP製品をリリースした)のような企業が主導することで、大小さまざまなデータ所有企業が保有データをDSPと事業への付加価値としてのアドテクサービスに取り込む方法を手にしようと追随する可能性が高い。もしFacebookがプログラマティックをオーディエンスを重視する戦略の流れと見なせば、他の企業もこれに続くであろう。広告の世界全体では、デジタルと従来の手法とを問わず、オーディエンスの全てをターゲットにする方向に急速に移行し続け、プログラマティックオーディエンスデータの価値がさらに確立していく。舞台は整った。後は主役が役割を担うはずだ。
 
 
 

ABOUT 野下 智之

野下 智之

ExchangeWire Japan 編集長   慶応義塾大学経済学部卒。 外資系消費財メーカーを経て、2006年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。 国内外のインターネット広告業界をはじめとするデジタル領域の市場・サービスの調査研究を担当し、関連する調査レポートを多数企画・発刊。 2016年4月にデジタル領域を対象とする市場・サービス評価をおこなう調査会社 株式会社デジタルインファクトを設立。 2021年1月に、行政DXをテーマにしたWeb情報媒体「デジタル行政」の立ち上げをリード。