キャンペーンから顧客ライフサイクル管理へのプログラマティック活用の変化。DMPは終焉に向かうのか?
(翻訳:Asia Plus 黒川賢吾)
デジタルマーケターが多くのデータを保持するようになり、プログラマティックが変わろうとしている。この変化により、デジタル広告データと顧客データの間のサイロが取り除かれようとしている。 AudienceScience社の商品戦略のバイスプレシデントであるMichael Greene氏は ExchangeWireに、CRMが効果的に活用された場合のデジタルマーケティングにおける価値及び、CRMがDMPなどのテクノロジーを不要にしかねない潜在性について説明してくれた。
プログラマティックの成長は、より多くのチャネルにおけるメディアバイイングに活用され、継続するものと考えられます。世界的なマーケターへの調査によると、66%が2016年にプログラマティック広告の支出を増やす予定であると回答しています(これは同様の調査の2015年の結果の2倍以上です)。これは時間を節約して最適化できる点、及びROIが高まる点が主要な要因です。そして、多くのメディアでの利用が可能になるにつれ、より優れたターゲティングができ、より適切なキャンペーンを扱えるといった利点によって、自動広告の分野は非常にスリリングな業界になっています。
私が非常に期待しているのは、プログラマティックによりメディアバイイングの方法が革新的に変わったように、データ及びテクノロジーが鍵となり、マーケティングエコシステムの他の分野も同様の革新が起きないかという点です。
マーケターは店内での購入、クーポン、プロモーション、ダイレクトメールの反応などから、長い間非常に多くのデータを収集してきました。多くのマーケターにとって、顧客のセグメンテーションの基礎を形作り、マーケティングと営業を結びつけるようなアトリビューションモデルを可能にする非常に価値のあるデータです。
しかしながら、これらのデータは通常はCRM領域で扱われ、広告関連からは著しくサイロ化されてきました。新たな顧客(及び関連データ)を見出すのは、有料メディアの役割であり、そこから派生したエンゲージメントはCRMの仕事として扱われてきました。マーケターはDMPのようなツールを利用して、ディスプレイ、動画、モバイル、デジタルテレビ、ラジオまたはデジタル化されたOOHなどを含む全ての可能なメディアチャネルからデータを蓄積しようと試みています。
しかしながら、サイロが継続されるのは何故でしょうか?現状のビジネスインテリジェンスの機能を活用し、メディアから獲得可能なデータの質を考えると、CRMをリテンションだけではなく営業ファネルとして活用することも可能です。CRMはユーザー獲得にも不可欠な役割を負うようになります。プログラマティックの活用により、「正しいメッセージを、正しい人に、正しい時間に、正しいチャネルを通じて」届けることができるのです。
言い換えれば、プログラマティックはもはや、キャンペーン管理としてだけではなく、顧客ライフサイクルの全ての面を通じた顧客管理において重要な役割を占めるようになるのです。
ですが、ユーザー獲得とユーザーリテンションにおけるサイロの問題が存在し、このような変化を成し遂げた会社はほとんどありません。それでは、プログラマティックとCRMを統合させ、顧客へのアプローチという面に関して強力なアプローチを行うためには何が必要なのでしょうか?このアプローチは現在「CRM360」と呼ばれています。
大きなセグメンテーションからパーソナライゼーションへ
サイロに陥った作業に加えて、マーケターは(例えばブランド認知を高めるといったような)広義での目的を持っています。その結果、大規模な広告用のメディアバイイングが実施され、特定のデモグラフィックや行動に基づいたターゲティングが実施されます。通常の場合、ユーザーは同一のセグメントに留まり、実際に購入のアクションを起こすまで、同一のターゲットとして広告の対象とされます。そして、購入の段階からCRMの業務が始まります。
しかしCRM360においては、購入まで待つことはありません。広義のセグメントにより定義されたある個人がブランドとのエンゲージメントを開始するとすぐに、一つのセグメントとして見なされ、個別の最適化されたメッセージが配信され、次の段階へのエンゲージメントや適したチャネルに誘導するような活動が行われます。このチャネルは必ずしてもデジタル広告である必要はなく、個人から得られるデータや、クッキーの情報から、例えば電子メールのようなチャネルが有効な場合もあります。プログラマティックによって「広告の自動化」が進む中、このアプローチは非常に高い潜在性を秘めています。
この活動及び結果の計測は、顧客ライフサイクルを通じた全体的なトラッキング機能として動作する必要があり、ユーザーがカスタマージャーニーの途中段階でも(ウェブサイトを閲覧している)、購入後(カスタマーロイヤリティの活動に参加をし始める段階)であっても、ユーザーを特定し、全てのチャネルを通してユーザーをモニターし、ユーザー活動を結びつけたアクションが可能になります。
データのバイイングシステムへの統合
ほとんどの広告主が、データの管理とメディアのバイイングに関して別々のシステムを活用しています。しかしながら、このような形では顧客の行動に対応するのに、少なくとも24時間の遅れが生じてしまい、効果性に影響をもたらします。加えて、クッキーの仕様から、30%の顧客データが、アクションを起こす前に失われてしまう結果になります。CR360の価値を最大限に生かすためには、データを一つの購買システムで管理し、ユーザーの行動に直接的且つリアルタイムに反応して、適切なコミュニケーションを行えるような仕組みを構築することが効果的です。
消費者のアトリビューションを継続的に学習する
企業が顧客に対して保持するデータがより優れて、完成されたものであればあるほど、CRM360は有効に機能します。しかしながら、ユーザーによってデータの量は異なるため、企業はデータ戦略の構築において、派生したデータが自動広告やマーケティングに活用できるような形で、データの蓄積及び統合を行う必要があります。オンライン及びオフラインのソースを活用した、履歴を使ったアトリビューション、決定論的データ、行動データ、購買データなどを活用することです。FMCGのマーケターのように、ダイレクトセールスの機会が無い場合は、後者はトリッキーです。しかしながら、小売のような中間業者からデータを獲得するのは当然可能で、これらを企業が持つ個別のオンラインデータと結びつけることが可能です。
スタンドアローンのDMPを捨て去ろう
そうはいいながらも、現在の問題点の一つとしてDMPを挙げる必要があります。現在のプログラマティックのプロセスの根幹を占める一方で、全体的な顧客像を掴むには不十分で、顧客全体のライフサイクルを念頭にしたCRMの実行を目指す上でマーケターの出来る作業を制限しています。マーケターは、クッキーやデバイスIDの管理から、顧客との関係性を管理する形に変わってきており、その意味でDMPは終焉を迎えると考えられます。私たちは特定、不特定にかかわらず「全ての」顧客データを一元的に管理し、リアルタイムに様々なマーケティングチャネルを通じて、それらのデータをアクティベートすることができるようになるでしょう。AudienceScience社では、リアルタイムに全てのチャネルを通じて、CRM機能と連動したプログラマティックによる広告の自動化を行うことができます。
測定方法を変更する
企業はユーザー獲得とユーザーリテンションを異なる方法で測定します。リテンションにおいては、それぞれの顧客及びそのライフタイムバリューについて考慮するのに対して、ユーザー獲得においては、消費者価値よりも広告パフォーマンスを重視し、実際の購入に紐づく値として、リーチやクリックスルーを用いています。これは、統合的なアプローチが浸透しない最も重要な理由かもしれません。全ての顧客ライフサイクルにおいて、キャンペーンベースの結果重視ではなく、個別の顧客価値を計測する重要性が理解されたならば、全ての顧客コミュニケーションにおいて、統合化及び自動化されたアプローチはマーケターの最も重要な事柄として注目を浴びることになるでしょう。
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ABOUT 野下 智之
ExchangeWire Japan 編集長 慶応義塾大学経済学部卒。 外資系消費財メーカーを経て、2006年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。 国内外のインターネット広告業界をはじめとするデジタル領域の市場・サービスの調査研究を担当し、関連する調査レポートを多数企画・発刊。 2016年4月にデジタル領域を対象とする市場・サービス評価をおこなう調査会社 株式会社デジタルインファクトを設立。 2021年1月に、行政DXをテーマにしたWeb情報媒体「デジタル行政」の立ち上げをリード。