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品質を重視したオーディエンスデータの更なる活用に向けて |WireColumn

電通が今年の2月に発表した「2016年 日本の広告費」によれば、インターネット広告費(媒体費+広告制作費)は前年比113.0%の1兆3100億円となり、広告市場のインターネットシフトのトレンドは続いており、中でも運用型広告費が前年比118.6%の7,383億円と非常に高い伸びを示しています。
米国市場を見るとeMarketの発表によれば2016年のプログラマティック広告費は254.8億ドルで前年比145.6%と更に高い伸びを示しています。

運用型広告が伸びている背景にはアドテクノロジーの進化によりデータやテクノロジーをより重要視する広告主が増え、データ連携可能な運用型への注目が高まったことあると言われています。ただし、データの利用は自社データ、またはFacebook等ごく一部のデータの活用に留まっており、特にオープンに利用できるサードパーティのオーディエンスデータの活用は非常に限定的な状況です。

日本においてオーディエンスデータの活用が進んでいない要因にはいくつかありますが、その一つであるデータの品質についてまず話をしたいと思います。オーディエスデータについて話をする時によく耳にするのが、「自社のデータで十分だ」、「サードパーティのデータはファーストパーティのデータに比べると品質が悪い...」という言葉です。
多くみなさんは、ファーストパーティのデータであってもサードパーティのデータであってもデータとしては同じだということを理解していません。ファーストパーティのデータはそれを調達した会社に所属しますが、データは調達者から別の当事者に渡されてもそのデータ自体はまったく同じままです。サードパーティデータは、単に他の誰かのファーストパーティデータであってそれを表現するために使用される用語であるだけなのです。例えば、新車が生産された工場から販売ディーラーへ移動してもその車自体は同じ価値であるのと同様に、データが別の会社から渡されたとしてもデータ自体は変更されません。

広告主は、独自のファーストパーティのデータを持っているかもしれませんが、多くの広告主は、ファーストパーティのデータだけではデータの可能性を最大限に活用することができていません。なぜならファーストパーティのデータセットはサードパーティのデータと同じ規模と深さを持っていないためです。ファーストパーティのデータは、広告主自身のウェブサイトから得られるユーザー情報のみしか提供できず、そのウェブサイトの範囲を超えて彼らの自然なユーザー行動やプロファイルについてはあまり明らかにすることはできません。
一方でサードパーティのデータは規模と深さを提供してくれます。高品質なデータプロバイダと連携することで広告主は、タイムリーかつ明確なサードパーティのデータを取得することができるようになります。ファーストパーティのデータを高品質のサードパーティのデータと一緒に活用することで、広告主はより明確なターゲットオーディエンスの全体像を作ることが可能になります。

プログラマティック広告において重要なのはどのようにオーディエンスをターゲティングするかです。従ってデータがたくさんあればあるほどよいです。しかし、データの品質もまた重要です。なぜなら全てのデータが同じように作られているわけではないからです。

それではオーディエンスデータを活用する際に何に気をつけなければならないのか。次にオーディエンスデータを活用してキャンペーンを運用していく際に重要な3つのポイントについて話をしていきます。

1. ターゲティングの設定

デジタルのキャンペーンを展開する際にみなさんはキャンペーン戦略においていくつかのターゲティング施策を組み込んだ上で全体のパフォーマンスが最大化していくように運用しているでしょうか。図1のマーケティングファネルにおいてアッパーファネル、ミドルファネル、ローワーファネルの各ファネルにきちんとアプローチしていくことは非常に重要です。当然ながらどのファネルへの施策なのかによって活用するオーディエンスデータは異なってきます。
サードパーティのオーディエンスデータはアッパーファネルからミドルファネルでの活用が多いのが一般的です。図2はある海外航空会社のキャンペーン戦略の例になりますが、ここでは「オーディエンスターゲティング」がそれに当たります。自社の商品やサービス、または展開しようとしているキャンペーンのターゲットをどのように想定しているかに基づきターゲットオーディエンスを設定していきます。海外航空会社の例では「富裕層」、「旅行の意思」、「ラグジュアリー層の旅行者」、「ビジネスの旅行者」をサードパーティのデータを活用してターゲティングしています。
ここで気を付けなければならないことがあります。当初アッパーファネルへの施策としてオーディエンスターゲティングを考えていたにも関わらず、いざ実際にターゲットするオーディエンスを選定する時に顧客になりやすそうな非常に限定的なオーディエンスを求めてしまい、いつのまにかローワーファネルへの施策に変わってしまう傾向があります。ローワーフェネルで上手く活用できるオーディエンスデータがあれば、それを活用するのはいいがどのファネルへの施策をきちんと整理した上でキャンペーン全体の戦略を考えることが重要です。

図1 マーケティングファネル

図1 マーケティングファネル

図2 キャンペーン戦略事例

図2 キャンペーン戦略事例

2. データプロバイダの選択

オーディエンスターゲティングでどのようなオーディエンスをターゲットにするかある程度固まると次はどこのデータプロバイダからどのようなデータを活用するかを決めなくてはいけません。
利用するオーディエンスデータを選択する際に、データプロバイダに確認するべき重要な質問がいくつかあります。
まずどこでデータが収集されたか?具体的なサイト名等は難しいとしてもデータがどういうタイプのソースから収集されたものかをデータプロバイダから確かめる必要があります。それはメディアサイトからか、それともEコマースサイトからか?アンケートを元にしたデータなのかパートナーシップに基づくものなかのか?よりよいオーディエンスデータを見つけるためにはいくつかの種類のデータをテストしていくことも重要でそれぞれのデータがどのように作られているものかを理解しておくことはデータの評価にも有効な情報です。

キャンペーンの初期プランニング時に、しっかりとデータをどのように活用するか考え、それをデータプロバイダに伝えることも重要です。例えば、検索、ディスプレイ、ソーシャルまたはモバイルに使用しますか?あなたは特定のデモグラをターゲットにしようとしていますか?何をトラッキングしたいですか?事前にできるだけ詳細な情報を提供することで、データプロバイダはより求めているものに近いデータが提供できるように準備をすることができます。

3. パフォーマンス検証

みなさんはキャンペーンのパフォーマンスを検証するのにどのようなKPIを利用しているでしょうか。クリック数、CPC、コンバージョン数、CPA等何かしらの指標を元に日々キャンペーンのパフォーマンスをチェックし、調整しながら運用していることと思います。
しかし全てのレベルにおいてそのパフォーマンスを正しく測定することは非常に難しく、上記にあげた指標を元にキャンペーンの最適化を行ったとしても実際は必ずしも全体の最適にならないケースがあることを運用担当者は理解しておく必要があります。
みなさんは自身の経験から理解されている方も多いかと思いますが、例えばクリックについてですが、バナー広告の大部分はクリックされません。コムスコアによると「バナー広告のクリックの85%はたった8%のインターネットユーザーによって生み出される」と言われており、またフェイスブックも同様に「フェイスブックのオーディエンスの内、クリックするのはほんの10%の人たち」だと言っています。従って、クリック数やCPCを指標に最適化を行うのはごく一部の偏ったユーザーを元に最適化を行うという危険性があることを理解しておく必要があります。
またコンバージョン、CPAを指標に運用を行なっているケースも多いかと思います。これもそのほとんどがラストタッチ・モデル(ラストクリック・モデル)ベースでの運用であるのが現状です。アッパーファネル、ミドルファネルにおいてリーチしたユーザーが広告クリックして且つそのままコンバージョンすることは非常に稀です。ラストタッチ・モデルは非常にローワーファネルに偏重したモデルであってアッパーファネルやミドルファネルをターゲットにした施策を正しく評価することはできません。
上で紹介した海外航空会社の事例ではラストタッチ・モデルとマルチタッチ・モデルの両モデルを使って最適化を行うテストを行いました。その結果、マルチタッチ・モデルで最適化を行なった方が9%高いチケットの売上となり、予算も53%多くオーディエンスデータに配分される結果となりました。マルチタッチ・モテルを用いることでキャンペーン戦略全体がより把握しやすくなるとともに、それぞれの戦略が組み合わさって成果を導き出す様子が明確になります。その結果、予算をより効果的に割り当てられるようになるため、全体的なパフォーマンスが向上し、コストは低減されます。ローワーファネルのアクティビティはコンバージョンを完了させる際に重要ですが、オーディエンスターゲティングは潜在的な購入者と最初に接触し、オーディエンスをサイトへと誘導する上で不可欠なものです。

以上、オーディエンスデータの活用において、ファーストパーティ、サードパーティなどの単なるラベルではなく、データそのものの品質がより重要であること、また実際にオーディエンスデータを活用する際の3つのポイントについてお話をさせていただきました。冒頭に話をした通り、日本ではまだまだオーディエンスデータの活用は進んでいないのが現状です。運用型広告の大半がコンバージョンに近いローワーファネルでの施策になっていますが、このまま見込顧客へのリーチ、拡大を行っていかなければ継続的な売上拡大はますます厳しくなってきます。本記事で紹介させていただいたポイント、事例を参考に是非新たなターゲティン施策へ挑戦してみてください。

ABOUT 池田 智幸

池田 智幸

eyeota

事業開発ヘッド

オーバーチュアにてシニアマネージャーとしてオーバーチュアの営業戦略、代理店戦略の立案をはじめモバイルセールスチーム、業種・業態に特化したコンサルティング、営業キャンペーンなどを実行するチームの指揮を執る。その後、オットージャパンにてイーコマース事業のマネージメントを担当した後、アドビシステムズにてイーコマース事業者をターゲットにしたクロスメディア向けリッチコンテンツ配信サービスのビジネス立ち上げに営業として従事。
その後、Marin Software、Rubicon Projectにて日本ビジネスの責任者として立ち上げを行い、現在はEyeotaで事業開発ヘッドとして日本でのビジネスの立ち上げおよびビジネス開発に従事。