動画クリエイティブへの答えを持ちノウハウ化を進める-CyberZ 2018年の広告事業戦略 [インタビュー]
CyberZは、2017年にスマートフォン広告事業の戦略を“クリエイティブとストラテジー”をテーマに従来から大きく変えた。その理由となる市場背景と具体的な取り組み、そして2018年の注力領域について、全2回にわたりお届けする。 第一回目は、同社広告事業責任者の取締役 市川 陽氏にクリエイティブに関する取り組みについてお話を伺った。 |
(聞き手:ExchangeWire JAPAN 野下 智之)
市場ニーズは運用からクリエイティブにシフト
― CyberZとしてのスマートフォン広告ビジネスにおける直近の戦略をお聞かせください
広告代理店からこの市場を見たとき、ここ1、2年でメディアの環境の整備が進みました。大手広告プラットフォームの運用における自動化が進み、人が介在しなくても効果的な広告運用が出来るようになりました。
いわゆる、私たちが理想として思い描いて期待をしてきたアドテクノロジーのあるべき姿に、ここにきてやっと少しずつ近づいてきたという感じです。
これは私たち広告代理店が今後の戦略を考える上でとても大きな変化です。広告代理店に求められる領域は、運用からクリエイティブへと変わりつつあります。
当社では2017年のスマートフォン広告ビジネスにおいて、リソースを動画クリエイティブの領域に大きく振りました。動画需要の伸びは非常に大きく、当社でも直近1年で動画の制作本数は1年で6― 7倍にも増加し、現在は月に1万本のクリエイティブを作っています。
― 動画クリエイティブは、現在はFacebook、Twitter、Instagramなど、媒体ごとに用意するというような流れになってきているのでしょうか?
はい。1年前は動画の制作コストが高くTVCMで使用した動画をそのまま利用するなど同じクリエイティブを使用するのが主流でしたが、今では、それぞれの媒体別にクリエイティブを出し分けるようになってきています。出稿量の多い媒体に対しては、複数のクリエイティブを用意します。アドネットワークでの運用の場合、クリエイティブよりも、どの面にどのくらい出すかということが重要でした。しかしFacebookやTwitterなどでは異なります。ユーザーは、FacebookやTwitterに対して、新しい情報を求めに訪問します。同じ情報、すなわちクリエイティブを出し続けていると、そのユーザーにとって古い情報が流れてしまうことになるため、そのようなやり方は媒体の特性として合わないのです。
また、Facebook、Twitter、Instagramのユーザーのモチベーションはそれぞれ異なります。
広告の配信ロジックも、FacebookとTwitterとでは大きく異なるため、それぞれの媒体ごとにクリエイティブを用意する必要があるのです。
“優れたクリエイティブ ”=“効果が出るクリエイティブ”
― 貴社はクリエイティブNO.1を目標に掲げていますが、どのようなNO.1を意味しているのでしょうか?
量と質です。質というのは広告効果が高いことであると定義しています。
お客さんの好みを理解するということも大切ですが、効果を出すことが出来るクリエイティブを作るということを、この1年重きを置いて取り組みました。
本来であればデザイナーが効果を生むというのは、難しいことです。ですが当社はここを徹底的に追及しています。
FacebookとYouTubeという媒体を比べたときの大きな違いの一つは、「音を出せるか出せないか」です。その時にどのように要素を組み替えるべきか。あるいはスキップボタンを押されないようにするにはどうすべきか、Facebook向けのクリエイティブの背景は何色がいいのか・・などテーマに、当社としてそれぞれの媒体で最も効果を出すことが出来る解を出しました。
社内では「CRESTRA」というキーワードを掲げました。「CRESTRA」=「CREATIVE+STRATEGY」、すなわち、戦略的にクリエイティブを考えるというものです。このことを出来ている広告会社は、実は少ないのです。
バナー広告とは異なり、動画は検証すべき要素が多く、動画クリエイティブのPDCAを回すのはとても難しいことですが、当社ではこれに取り組んでいます。
クリエイティブ戦略の第一歩は生産性の向上
― 2017年の貴社の動画クリエイティブへの具体的な取り組みについて振り返っていただけますか?
3つの観点で取り組みをしました。一つは動画クリエイティブ制作における生産性の向上、そして二つ目は動画クリエイティブノウハウの蓄積とそのシステム化、そして三つ目は戦略的なクリエイティブ制作実践のための組織作りです。
クリエイティブ制作における生産性の向上において、そして取り組んだのが制作時間の短縮化です。動画を作る過程において、色々な作業をする時間を要します。
例えばクライアントが持つ動画素材をクライアントに届けるまでにかかるまでを考えてみます。お客さんがどこかのサイトにアップロードし、それを当社の営業がダウンロードします。受け取ったデータを営業が共有フォルダに入れて、初めてデザイナーの手元に届きます。容量の大きい動画素材を一つダウンロードするためには、有に一時間を要します。また、ダウンロードした動画データは、デザイナーのPCに蓄積されていくと、PCの動作が遅くなり、作業遅延につながります。
このような課題を解決するために、当社では「Zinnia」というサーバー上で動画クリエイティブを制作することが出来るツールを構築してクリエイティブ制作に要する時間の短縮につなげました。
もう一つの例を挙げると、動画のファイルに名前を付けるという作業があります。1本の動画クリエイティブのファイルの名称付けを3分から1分にするようにしたことで、2万分の時間を省略しました。
その他にも、Webサーバーを自社で購入し社内に設置するなどにより、処理速度を高めるように努めました。
これらの取り組みにより、過去8カ月でデザイナーのクリエイティブ制作スピードは、従前の3倍~4倍になり、1デザイナーが制作できるクリエイティブの数は1.5倍~2倍程度になりました。
クリエイティブの答えを作る
動画クリエイティブノウハウの蓄積とそのシステム化については、現在動画クリエイティブのタグ作りに注力しています。一つの動画クリエイティブに対して20個ほどのタグを付けることで、これらを分析できるシステム「Zen」を構築しました。
このような取り組みは、他の広告会社においては個々の案件ベースではされていることもありますが、全案件に対応するというケースはこれまでにない取り組みでしょう。
普通ではできないようなクリエイティブの運用を出来るようになることが、このシステムを構築した狙いです。
― 全クリエイティブにタグをつけることで、生産性を高める以外にも何か効果が得られるのでしょうか?
今後考えているのは、CyberZの中である程度のクリエイティブに対する答えを作るということです。
例えば、特定のジャンルのゲームタイトルのプロモーション案件では、どういう構成のクリエイティブが効果を出しやすいのか、というようなことを全てデータベース化し、データベースを叩けば、「背景は何色で、キャラクターが何人いて、2分割で、メインの訴求はこうで・・とすれば、効果が出やすい。」ということが分かるようにすることです。
このようにしておけば、お客様にとってもアウトプットのイメージがしやすくなります。
営業もクリエイティブに
― 三つ目の組織作りに関連してお聞きします。クリエイティブを作る人材は今どのくらいいるのでしょうか?
現在当社広告事業のデザイナーの数は、営業とほぼ同人数規模に増やしています。また静止画のデザイナーに動画制作のノウハウを教育しました。もともと静止画のデザイナーの方でも、社内講座を毎週するなどによって全員が動画を作れるようにしました。
フォトショップのような動画が作れるようなツールを導入するなどの対応もしました。デザイナーにとっても、自身の表現力が豊かになりますし、スキルの幅も広がるのでポジティブに受け入れてもらっています。
動画については、撮影をする場合も当然ありますのでディレクターが必要になりますが、元々テレビCMの制作などをしていた人材を新たに採用するなどにより組織を拡充し、体制を強化しました。
そして、営業のクリエイティブ能力を高めようという取り組みもこの1年間でしています。
メディアが今後進化を続けた暁に広告会社に求められることは、クリエイティブです。これまでは営業とクリエイティブのスキルは切り離されていましたが、当社では今営業全員がクリエイティブディレクターです。そして現在は営業の評価項目に、クリエイティブも含めています。この方針を徹底するために、クリエイティブのボードチームを作り、営業が作成した全営業の全クリエイティブをチェックしてランキング付けをして上位者を表彰しています。
世の中では一般的にクリエイティブを作るにはセンスが必要だといわれていますが、私たちの中では、紐解いていけば誰にでも出来るものです。最終的におしゃれなものに仕上げるのはデザイナーの仕事ですが、そこに至るまでは営業にもクリエイティブにしっかりと向き合ってもらいたいと考えています。
クリエイティブ部隊と運用部隊との連携も強化しています。例えば目標設定においては、最終目標のKPIを達成するためにはクリエイティブ側はどのような目標を達成すればいいか、運用側はどのような目標を達成すればいいかを、両社の連携を念頭に置いて設定をしました。
例えばあるアカウントのCPIを目標に達成するために下げる運用が必要なときに、CTRを1.5%から2%に上げることをクリエイティブ側の目標としよう・・。というような具合に設定をするという感じです。
とにかくたくさん作る、ということではなく、目標数値に向き合ったクリエイティブを作るという思想に変えてきました。
2018年はブランディング向けクリエイティブに挑戦
― 今後のプロダクト開発の方向性をお聞かせください
2018年の半年ぐらいは、2017年に新たに動かしてきたことを集約していくような取り組みをしていきたいと考えています。クリエイティブの生産ライン、クリエイティブに対する考え方のフレームワーク、研究した結果などをまとめて、ダッシュボードで出来るようにしていこうと思っています。
また、その後の半年はブランド向けの動画クリエイティブの領域にも力を入れていきたいと考えています。
2017年の1年間、当社ではスマホ広告とテレビCMとの比較について研究を重ねてまいりました。これをクリエイティブにも活かしていく予定です。
広告会社はこれまで広告の作業屋のような位置づけでしたが、そこではこれから生き残っていくことは出来ません。仕組み化をして無駄なことは機械に任せて、人間の頭でしかできないことに集約して強みを発揮していけるような組織にしていきます。その意味においても、現在の組織において全体の1/3を占めるクリエイティブの比重は今後も高くしていく予定です。
ABOUT 野下 智之
ExchangeWire Japan 編集長 慶応義塾大学経済学部卒。 外資系消費財メーカーを経て、2006年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。 国内外のインターネット広告業界をはじめとするデジタル領域の市場・サービスの調査研究を担当し、関連する調査レポートを多数企画・発刊。 2016年4月にデジタル領域を対象とする市場・サービス評価をおこなう調査会社 株式会社デジタルインファクトを設立。 2021年1月に、行政DXをテーマにしたWeb情報媒体「デジタル行政」の立ち上げをリード。