デジタルマーケティング企業の東南アジア進出 AtoZ 第5回:東南アジア進出時に、オフィスなどの不動産まわりで注意すべきことは? | WireColumn

マーケティングソフトウェアの開発などを手掛け、海外にも3拠点に展開しているエフ・コードの海外担当執行役員・島田裕一が執筆する本連載では、デジタルマーケティング企業が海外進出する際のポイントについて、東南アジア進出を中心に解説していきます。なお、本シリーズの見解は筆者の経験則に客観的なデータを交えて論じたものであり、不十分な点・異なる見解のご指摘など読者の皆様からいただければ幸いです。

第5回となる今回は、オフィスなどの不動産関連における注意事項についてご説明します。優先度を低くしてしまいがちですが、日本と事情が異なることも多いうえ職場環境は生産性に直結するため、重要な事項です。

過去のシリーズはこちら

第1回:進出すべきホットな国・地域を見極めるための観点その1「事業性」
第2回:進出すべきホットな国・地域を見極めるための観点その2「市場規模」
第3回:進出すべきホットな国・地域を見極めるための観点その3「顧客単価」
第4回:東南アジアで優秀な現地人材を採用するためには?

オフィス選定では、開設する拠点の性質を考慮する

前回の記事では、海外進出の初期段階において優秀な人材を採用していくプロセスをご説明しました。これと同時進行で行わなければならないのはオフィスの選定ですが、拠点の設置目的に応じて考える必要があります。

本コラムでは、当社エフ・コードの事業内容に準じてデジタルマーケティング企業のケースを例に挙げていますが、この場合の拠点の性質はまず「販売拠点なのか開発拠点なのか」に大きく分けられます。販売拠点の場合は、様々な場所へのアクセスが容易な中心部のターミナル駅周辺などにオフィスを構える企業が多くなります。他方、開発拠点であればそこまで多くの人の出入りは発生しないため、郊外に一軒家などを借りて運営している企業も多く見られます。

東南アジア主要都市において、BtoBの販売拠点に適したエリアは?

BtoBの販売拠点というという前提で考えれば、クライアントとなる企業も近隣にオフィスを構えている場合が多いため、やはり市街地中心部がよいと考えられます。東南アジア主要都市や香港においては、以下のエリアが挙げられるでしょう。

・タイ・バンコク:スクンビット通り周辺、シーロム通り周辺
・インドネシア・ジャカルタ:スディルマン通り周辺
・シンガポール:CBD (Central Business District) のエリア(タンジョンパガー、ラッフルズ・プレイス、ブギスなど)
・香港:尖沙咀(チムサーチョイ)、中環(セントラル)、銅鑼湾(コーズウェイベイ)周辺

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出典:エフ・コード

そもそもの不動産の探し方、自力で探すか業者に依頼するか

日本における場合と共通点も多いのですが、オフィスを探すにあたっては大別して2つの方法があります。ひとつは、自力で探す方法です。他社などが退去する際に入れ替わりで「居抜き物件」として入居したいときは、こちらに力を入れなければなりません。もうひとつは、不動産業者を利用する方法です。

この選択においては、できる限り「居抜き」で入居できる物件を自力で探すことをおすすめします。後述しますが、東南アジアでは一般的に入居時の内装工事に日本の場合よりも遥かに大きな手間がかかるため、これを省けるというメリットは無視できないところです。また、前の入居者が値下げ交渉をした結果を引き継ぎ、同じ条件で入居できることが多い点もポイントです。

ただし、このような物件に入居するためには、自身及びメンバーがネットワークを広げ、声をかけてくれる人を増やすしかない点に難しさがあります。オフィスビル専門の不動産業者もそれなりの数存在するため、ケースバイケースで併せて利用するのがよいでしょう。

不動産探しにおける注意点は?

注意点もいくつかあります。たとえば、契約期間満了前に退去を希望する場合です。日本では通常「解約予告期間」が定められており、それに則る限り違約金が発生することはまれですが、東南アジアでは同様のケースでペナルティ(契約満了までの期間全ての家賃の支払い)を課せられることがままあります。ただし「自力で次に入居するテナントを探してくれば払わなくてよい」といった場合もあります。

また、リノベーションによってビルの外見が綺麗になっていても、中身は古いままで排水管が腐っているようなケースもあります。さらに日本ではまず起こり得ないケースですが「トイレットペーパーが流せない」という物件はまったく珍しくありません。社員のストレスを軽減する観点からも、これらに注意を払っておく必要があります。

なお日本では一般的な「敷金・礼金」ですが、礼金の習慣は基本的にありません。敷金に相当するデポジットの仕組みは存在しますが、多くは「2か月分程度を支払ったうえで、退去時によほどの問題がなければ返金される」というものです。

オフィスのクオリティは人材確保と関連させて考える

予算に上限が存在する中、どの程度のクオリティのオフィスに入居するかという点も難しい問題です。ここでは、採用活動や入社後の定着率を含め、人材確保と関連させて考えることが大切です。人材確保の方針は、販売しようとしている商材およびそのターゲットに応じて立てる必要がありますが(前回記事参照)、オフィスのクオリティについてはある程度その方針を考えあわせる必要があります。

ハイクラスの人材を確保したい場合、他の引き合いとの比較を考える上でも、しっかりとしたビル内にオフィスを構えたいところです。一方「単価の安い商品をたくさんの営業マンが売っていく」といった事業では、家賃にかけられる予算を一人頭に換算した場合の金額はどうしても小さくなります。このような場合は、郊外の駅チカ物件など「割安だが交通の便は良く営業活動がしやすい場所」を狙うなど、費用を抑える工夫も必要となってきます。ただし立地については、次項に述べるようなことを慎重に勘案する必要があります。

エリア内での立地の検討も、現地事情をふまえ慎重に

前回記事でも述べた内容ですが、タイでは通勤時間が1時間を超えるメンバーの離職率は非常に高くなります。自身あるいは会社の引っ越しによって1時間以上になった場合も同様です。オフィスの位置は日本以上に人材採用に大きく影響しますので、事業面での利便性と併せて強く意識するべきです。また細かな現地事情としては、スコールなどがしばしば発生する天候事情により、駅直結の建物が好まれるといった傾向もあります。

また、ジャカルタでは道路の「渋滞地獄」が有名ですが、関連して「Uターン地獄」というものがあります。つまり、大きな道路の反対側に車をつけるためにUターンしようとして、そのためだけに2時間かかる(もはや歩いたほうが圧倒的に速い)という事態です。東京にいると信じられないような話ですが、これが実際に発生するのです。

そこで、いわゆる「ラウンドアバウト」式の交差点の手前部分など、「どの方向にも行き来しやすい位置のオフィス」に入居することでこれを避けることができます。冗談のような話ですが、日常的にこのようなロスが起こるようではまともにビジネスが進められませんから、実際のところかなり重要な観点です。

加えてオフィスの立地に関しては、屋台市場などローカルのメンバーが食べられる予算感のフードコートやレストランがあると、現地人材の定着率が高くなります。これも軽視できない観点です。

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出典:エフ・コード

内装に手間がかかる「スケルトン」に注意

日本でも見られるケースですが、国によっては完全にいわゆる「スケルトン」、すなわち内装のない状態で引き渡されることが一般的な場合もあります。電気工事等も含めた内装を自ら手配して行い、退去時には原状回復の工事を行わなければならない場合もあるため、そのための予算を家賃にプラスして組み込んでおく必要があります。

什器・家具に関しても通常は付属していないことが多く、新たに用意する必要が出てきます。一式を揃えてくれる日系の業者が進出していることもありますが、それなりに値が張ることも事実ですので、小規模であれば自分で地元の市場に足を運び購入するのもよいでしょう。

オフィスのインフラ・環境を整える

内装工事と重なる部分がありますが、オフィスのインフラも整える必要があります。電気関係、電話、そしてインターネットなど。特にインターネット回線は、新興国では申し込んでから工事までに1~2か月も待たされてしまい事業をまともに開始できない、あるいは生産性が著しく落ちるといったトラブルも多く耳にするところです。

また国内でもしばしば論点となる悩ましい問題として、「机をパーテーションで仕切るかどうか」があります。欧米などの企業は、東南アジアにおいても基本的に個人のスペースを大事にしています。一方、日本企業には東南アジアでも日本風に「机を固めて島のようにして仲良くコミュニケーションを取ろう」という傾向があります。マネジメント観点など含め一長一短、好みの問題という部分があり、どちらがよいと言い切るのは難しいところです。コミュニケーションの取り方や集中力の保ち方など現地メンバーの性質を考慮し、柔軟に対応しましょう。

当社エフ・コード海外法人では、オフィスの隅にスペースを作り床に座れるようにしています。日本でもこのようなスペースを設ける企業は増えていますが、床に座ってのミーティングには心理的な距離が縮まる効果があり、想像以上に有効です。IKEAなどで資材を買ってくれば安価で簡単に作ることができますし、おすすめです(ちなみにIKEAはバンコク・ジャカルタ・香港にも進出しています)。

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出典:エフ・コード

東南アジア特有のオフィス事情

温暖な(季節により酷暑の)東南アジアで大きいのは、エアコンの問題です。傾向として、ローカルのメンバーは日本人の感覚では「極寒」と思えるほどに部屋を冷やすことを好みがちです。オフィスの気温は生産性に直結しますから、できる限りメンバーの好みに合わせてあげるのがよいでしょう。

なおインドネシアなどに特有の事情としては、イスラム教徒のためのプレイルーム(お祈りの部屋)を備える必要があるので、計画に組み込んでおかなければなりません。

また、規模がある程度多くなりオフィスへの来客がしばしば発生するような段階では、ミーティングルームをあえて和風に整えてみることも一案です。日系企業としてのおもてなしアピールは、それなりに好反応を得られるものです。

小規模スタートの場合はサービスオフィスも有用

人数が10人以下といった初期段階のフェーズでは、その後どのようにスケールしていくかが不透明であり、将来を見据えた上でのオフィスの選定が悩みどころとなります。そこでおすすめなのは、「WeWork」など近年世界的に増加しているサービスオフィス(レンタルオフィス、シェアオフィス)の活用です。

こうしたオフィスは通常、シンプルな契約プロセスでスピーディーに入居することができます。机・椅子やインターネット環境といった基本的なものはもちろん、コーヒーメーカーに至るまで備えられていることも多く、便利かつ快適に利用することができます。

この場合の1席あたりの単価は、通常のオフィスを借りる際のおおよそ2倍程度と考えてよいでしょう。コストがかかるのは事実ですが、前述の通りオフィスを構える上では内装および原状復帰、什器購入、契約関連にかかるコストを考慮する必要があるため、これを踏まえてまずはサービスオフィスからスタートするという企業も多くあります。

サービスオフィスの利用形態には、個室を借りる・オープンスペースの一角を借りる・利用権のみを契約しフリースペースで業務を行う等があり、予算や業務の性質に応じて検討する余地があります。ちなみに当社エフ・コードがサービスオフィスを利用する場合は、BtoB営業においてお客様と電話をする機会が多くあるため、個室を借りています。

おわりに

オフィスへの投資についての考え方は、リーダーによって様々ですし、企業ごとに事情も異なるため、ひとつの正解を見出すことはできません。ただ、優秀なメンバーが気持ちよく働ける環境を作ってあげることを常に強く意識して判断することが大切だと私は考えます。それにより、一定のコストがかかったとしても、それがメンバーのポテンシャルを最大限発揮させるベースとなり、結果として事業の発展に寄与することになるのではないでしょうか。

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島田 裕一

株式会社エフ・コード 
海外担当執行役員 
アウンコンサルティング株式会社を経て、2016年に株式会社エフ・コードに海外担当執行役員として参画。前職では検索エンジンマーケティング(SEM)コンサルタントとしてキャリアを積んだのち、海外事業統括責任者として台湾、香港、タイ、シンガポール全拠点のマネージングダイレクターを兼任。大手企業のグローバルマーケティング活動を支援。 エフ・コードではタイ法人を皮切りに、香港法人、ジャカルタ拠点を開設し、デジタルマーケティングの効果を最大化させるマーケティングソフトウェアを現地企業および日系企業に提供。