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いつも顧客のそばに-サイバーエージェント、中国ビジネス成功の鍵 [インタビュー]

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拡大を続けるサイバーエージェントのグローバルビジネスにおいて、絶好調を維持する中国展開。

3年前に立ち上がった同ビジネスのこれまでの経緯や現在の取り組み、中国での事業成功の秘訣などについて、同社インターネット広告事業本部統括 淵之上 弘氏(写真左)、木村 泰之氏(写真右)、王 洪剛氏(写真中央) にお話を伺った。

(聞き手:ExchangeWire Japan 野下 智之)

― 中国ビジネスにおける皆様の役割についてお聞かせください

淵之上氏 私は今から4年前に立ち上がったグローバル本部の統括をしています。グローバル本部は、日本国外の顧客が日本、あるいは日本の顧客が海外でマーケティングをされるときのお手伝いをすることが主な役割です。また最近では、日本を介さずにクロスボーダーでマーケティング活動をする顧客支援もしています。

王氏 私は1年半前に入社し、現在は中国グループの営業およびグループのマネジメントをしています。中華圏の顧客が日本に進出するときのマーケティング支援全般を行っています。

木村氏 今から3年前にグローバル本部で中国市場を攻めていくという動きが立ち上がった際にジョインして以来、中国の顧客のマーケティング支援業務を担当してまいりました。またこれまで中国担当のメンバーのマネジメントや、中国支社の立ち上げを行ってまいりました。今年2月からは、北京を拠点とした営業チームが動き始めており、メンバーの日々の営業活動のサポートをしています。

― 貴社における中国ビジネスの経緯をお聞かせください

木村氏 元々、米国や欧州の顧客を支援していた実績がありました。そこでの広告パフォーマンスをもとに、広告運用・クリエイティブ制作などのナレッジを蓄え、サイバーエージェントの組織力をもってグローバルでもしっかりと戦えるという土台が出来ました。そこで中国での展開に挑戦を始めました。

淵之上氏 グローバル展開のもともとのきっかけは、米国の顧客が日本で展開するのをお手伝いする、インバウンド支援でした。そのようななかで、中国の顧客も日本での展開を今後加速していくのであろうと見越しての参入だったのですが、木村が中国で活動を始めると、ちょうど顧客も機をうかがっていたところでした。日本への参入をどのようにすべきかわからないけれども、日本で展開してみたかったというような需要があったのです。
これにお応えしていくうちに売上が拡大しました。

横のつながりで顧客基盤を拡大

― 中国で展開を始められた直後、具体的にどのようにして顧客基盤を広げたのでしょうか?

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王氏 北京や上海などで開催されているゲーム業界向けイベントに参加し、顧客と接点を作りました。
また、中国のゲーム会社は、お互いに競合同士でもありながら、マーケティング担当者同士はその枠を超えてコミュニケーションが盛んです。あるゲーム会社のマーケティング担当者が「あなたたちはなぜ日本で成功したのか?」と聞かれたときに、サイバーエージェントの名前を出していただいて、口コミで広がったのも大きいです。現在、その口コミは他業界にも急速に広がっていると実感しています。

木村氏 中国のゲーム会社のマーケティング担当者同士の横のつながりでの口コミは、最初の顧客基盤拡大のポイントとして大きかったです。勿論、顧客を支援してうまくいったということが大前提ですが。顧客の広告効果にしっかりと向き合い、パフォーマンスを出し続けることで「日本のマーケティングならサイバーエージェントがいいよね」と言っていただけるのです。それにより、うわさが広がり、新規の問い合わせの件数が増えました。今から2年ほど前です。

― 中国ビジネスの組織体制についてお聞かせください

淵之上氏 日本にいるメンバーと現地にいるメンバーとを合わせて15名ですが、現在もまだ採用を続けています。

「とにかく一歩でも早く」が中国の文化

― 営業をしていて、中国と日本の広告主からのリクエストの違いなどはどのような点において感じますか?

王氏 一番の違いは、日本よりもスピード感があるというようなことでしょうか。

淵之上氏 とにかく一歩でも早くやるということが、中国の顧客の文化としてあります。今日思いついたことは、今日やるというような思想です。

木村氏 プロモーションに投資する予算の規模はとても大きく、例えばゲーム企業の場合、ローンチのタイミングでは、おおよそ日本企業の2倍~3倍くらいの規模で投資をします。
私たちが驚くほどの大きな広告予算を投資されることもしばしばあり、中国企業のスケールの大きさを実感します。

王氏 中国の場合には、いきなり大型予算を投下して、テストをするケースが比較的多いかもしれません。

― 貴社が主にターゲットとして設定している顧客層はどのような企業ですか?

木村氏 中国の顧客で日本に対する投資が今までで一番大きかったのはゲーム会社です。世界規模で上位の企業がグローバルでゲームを展開していくとき、今現在、世界第3位の市場規模を持つ日本は、彼らとしても無視できません。日本向けのマーケティングを最適化していきたいという強いニーズはあります。
当社はゲーム企業の支援という点では国内の実績は大変多いので、それを武器に新規の広告主とのお取引へつながりやすかったと思います。
また、アプリの軸というのは変わらないものの、最近では非ゲームのエンターテインメント系サービスとして世界的に出てきている顧客の支援も増えてきており、売上ベースではゲームと非ゲームとでは現在半々くらいの比率になってきております。

― 中国企業の日本に対する投資は、今後も増え続けると見ていますか?

淵之上氏 そうですね、今のところ増えることはあっても減ることはないでしょう。

出来る限り顧客のそばにいること

― 北京現地での営業活動はどのような状況なのでしょうか?

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木村氏 中には、顧客の企業に常駐して支援をしているメンバーもいます。顧客のサービスの立ち上げのタイミングには、顧客の席の横に座ってアドバイスをするというようなこともしています。コミュニケーションの部分は非常に強力な体制になっています。

王氏 中国の顧客は、その場ですぐにディスカッションをしてその場で意思決定をするようなスピード感があります。意思決定後、北京のオフィスと東京の本社とで、常時接続をしている大型のモニターを通してコミュニケーションを取りながらプロジェクトを進めています。ですので、お互いが遠くにいるという感覚はあまりありません。

― 今後の展開についてお聞かせください。中国で拠点数は増やしていくのでしょうか?

木村氏 顧客軸で北京に拠点を立ち上げたのですが、市場が伸びているということもありますので、他の都市にも進出していきたいですね。

淵之上氏 現在の北京を皮切りに、上海や広州、深圳でも展開をしていきたいですね。私たちとしてこれだけは絶対にやっていこうということがあります。一つは、顧客のためになるよう、出来る限り顧客のそばにいて、常に高いレベルでのコミュニケーションを取りながら、相手が求めていることを理解して、それを実現できるような土台を整えていきたいと思っています。
もう一つは、それを実現できるためのスキルやリソース、技術も向こうに持って行きたいと思っています。効果が出るための仕組みづくりをしていきたいと考えています。これは日本の顧客向けに取り組んでいることと全く同じことです。

中国と日本とでは物理的な距離はあります。日本の市場で効果を出すということ、マーケティングのノウハウというのは当然日本の方が進んでいます。日本で今どのようにやっているかということが分かるように、日本と近い距離で支援することを心がけています。

勝ちどころは、日本も中国も同じ

― 貴社が中国のゲーム会社のインバウンド需要を高いシェアで取り込めている理由は、どのような点であるとお考えですか?

王氏 やはり、運用力とクリエイティブであると考えています。これは日本における勝ちどころと、まったく変わりありません。

淵之上氏 顧客とコミュニケーションを取れていること、そして効果を出せていること、この二つに尽きるでしょう。

― Webプロモーション需要も今後は取り込んでいくのでしょうか?

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淵之上氏 はい。基本的には中国の顧客が日本でマーケティングをされるうえでのお手伝いは、どのようなことでもするという姿勢です。日本におけるデジタルのマーケティングはどこにも負けないと思っています。

これから中国の顧客が、日本以外、特に米国で成功できるようなマーケティング支援が出来るような体制作りもアプリプロモーションの領域からすでに取り組みに着手しています。

― ExchangeWireの読者に何かメッセージがあればお願いします

淵之上氏 日本のインターネット広告市場も伸びてはいますが、中国はもっと伸びています。そこには私たちにとっても大きな機会があるので、色々なチャレンジをしていきたいと思っています。そのためには、優秀な仲間が必要です。

― 具体的にはどのような人材を求めているのですか?

淵之上氏 チャレンジをいとわない人です。私たちもやってみて色々と失敗もしますが、それを教訓にして、めげずに何回もチャレンジをしていけるような人であるということでしょうか。あとは、元気で明るければ言うことないです。笑

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木村氏 サイバーエージェントの中国グループのメンバーは、主体的に動く人が多いと感じます。グローバル問わず弊社全体の求めている人材としても言えるのですが、支持を待つよりも、自分で考えて実行まで進められる主体的な人がいいですね。
ビジネスをしていて嬉しいのは、やはり顧客から「御社にお願いをしてよかった」と言っていただけることです。中国の顧客から今後ももっとそう言っていただけるように一緒に取り組んでいきたいです。

王氏 母国から日本に進出している企業様のプロモーションを必死に支援する架け橋みたいな仲間が増えるととても嬉しいです。

ABOUT 野下 智之

野下 智之

ExchangeWire Japan 編集長   慶応義塾大学経済学部卒。 外資系消費財メーカーを経て、2006年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。 国内外のインターネット広告業界をはじめとするデジタル領域の市場・サービスの調査研究を担当し、関連する調査レポートを多数企画・発刊。 2016年4月にデジタル領域を対象とする市場・サービス評価をおこなう調査会社 株式会社デジタルインファクトを設立。 2021年1月に、行政DXをテーマにしたWeb情報媒体「デジタル行政」の立ち上げをリード。