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透明性を実現するための標準化について:OpenX社CEO Tim Cadogan氏へのインタビュー

OpenX社のCEOであるTim Cadogan氏が、透明性に関する進捗や、更なる進歩を成し遂げるための業界標準の重要性、高い成長が期待される分野について語ってくれた。

本記事は、ExchangeWire.comに掲載された記事を翻訳して転載しました。

(翻訳:Asia Plus 黒川賢吾)

透明性の課題はここ数ヶ月にわたって高い注目を浴びてきました。注目が高まるにつれて、品質と透明性を向上させるような著しい進歩を感じますか?

Tim Cadogan氏:はい、過去2年間にかけて、品質と透明性の両方において大きな進捗を感じています。The Trade Desk、OpenX、およびWhite Opsのような、特別なサイバーセキュリティ会社を持つテクノロジープラットフォームによる品質を重視した投資と厳格な施行方針によって、大きな変化がもたらされました。

更に、買い手と売り手が投資効果を独立的に検証できるような新たな業界標準が生まれました。最も顕著な取り組みを3つ挙げるとするならば、IABのads.txt、Trustworthy Accountability Group(TAG)の認証プログラマティック、IAB UKのゴールドスタンダードを挙げるべきでしょう。これら3つによって、買い手と売り手がテクノロジーパートナーへの信頼性に関する確証を行い、事業者に責任を果たすように促すことが可能になりました。

数年前のP&GのMarc Pritchard氏のコメントが、業界にとっての大きな転換期となりました。それ以来、多くの企業がプログラマティック広告のサプライチェーンをより積極的に管理するように変化しています。進歩についても同様で、企業がエコシステムを完全に信頼し、より多くの投資に踏み切るためには、まだ多くの作業が必要となります。例えば、私たちの多くは(テレビは規制の激しい環境にあるにも関わらず)OTTに大きな可能性を期待しています。しかしながら、一部の企業が、公表されない買い手側のマージンであったり、ファーストプライスオークションのシャドウ化であったり、入札キャッシュなどにおいて不透明な業務を行なっているため、環境は大きく開放されていません。買い手と売り手の両方にとって公正な利益がもたらされるようなオークションの仕組み、より透明性の高いビジネスモデル、また品質と詐欺防止の仕組みへの投資がなされる必要があります。

透明性を実現するために、業界標準はどの程度重要なのでしょうか?

業界標準は非常に重要で、プログラマティックが産業として成熟に向かっていることを示す兆候といえるでしょう。それと同時に、私たちは、広告サプライチェーン業界全体が遵守するための、明確で、測定可能かつ、独立的に検証可能なベストプラクティスを確立するための作業を開始し始めたところです。

さらに、業界標準の必要性は単に透明性に関するものにとどまりません。業界標準を確立することは、不正行為が排除されブランドの安全性が保証される上で重要な役割を果たしますが、マーケティング担当者のROASの向上にも寄与します。たとえば、TAG認定資格に関して述べると、広告サプライチェーンがTAG認定企業のみで構成される広告主においては、詐欺行為を80%以上、2%未満のレベルにまで削減できることが定量的に実証されています。

究極的には、業界を成熟させるための最も重要な要素は、買い手と売り手の両方において、それぞれのテクノロジーパートナーが自らの基準作業に責任を持てるかどうかにかかってきます。

過去12ヶ月において標準化作業は品質と透明性の両方において、どのようなインパクトを与えてきたでしょうか?また、業界団体とその構成メンバーがより密接に取り組むことで、より高い効果を望むことは現実的でしょうか?

私たちはここ2年間で多くの進歩を遂げましたが、業界団体が重要な役割を果たしてきました。 IABがads.txt関連で収めた成功などは注目に値すべき事例です。12か月も経たないうちに、企業はads.txtに準拠したエクスチェンジでの作業を行うことで、ドメインスプーフィングの脅威を実質的に排除することができました。 OpenXでは、これらの業界主導の取り組みに多大なサポートを行なっています。実際、私たちは、パブリッシャーのads.txtファイルで承認されていない再販業者の全てのトラフィックをブロックした最初の主要なエクスチェンジなのです。

OpenXが今年も獲得したIAB UK Gold標準は、ads.txtイニシアティブのサポート、Coalition for Better Advertising によって定められたLEAN基準への準拠、JICWEBによるブランド安全性のDTSG認証など、業界におけるブランド安全性を高めるために始まったものです。

これは、多くの人が遵守すべき明確なルールと手続きを進める上で効果的な業界の働きの一例です。

私たちはこれまでの数年間の間で1億ドルもの投資を品質向上の取り組みに投資してきており、今年だけでも2500万ドルを投資しています。この取り組みの重要な点は、明確な基準や取り組みを業界団体と歩調を合わせながら行なっている点です。

より多くの基準とより優れたポリシーの設定により、イノベーションが脅かされることはありえますか?

全く考えられません。品質とイノベーションは実際に共生するものです。ヘッダー入札のような特定のタイプのイノベーションを見ると、それはエコシステムに関連するすべての企業に明確な方法として展開されていました。他の例を挙げるとすると透明性の高いファーストプライスオークションがあります。これは、設計仕様をDSPと事前によく協議し、彼らのフィードバックに基づいて修正し、十分な事前の認知活動や事業者と議論する形で導入がされました。もう一つ最近の事例を挙げるならばアプリケーションのオプトイン動画も当てはまります。これは最初から買い手企業とのコラボレーションが行われています。実際、このような買い手と売り手の二つの事業者がいる市場においてコラボレーションは重要で、強力な品質保障のしくみによって、事業者は安心して投資を行い、製品リスクを共に享受することができます。

透明性があり、関与するすべての事業者がルールを完全に理解していれば、私たちの業界がプログラマティックのエコシステムがどのようにして機能してくのかを常に考え、革新を続けることは可能であり、また必要なことです。

この業界がいかに速く変化することができるか考えてみましょう。私たちを例に挙げてみると、 5年前、OpenXはヘッダー入札から全く収益を挙げることができませんでしたが、2016年には収益の大部分を占めるに至りました。 3年前、モバイルアプリの広告は私たちのビジネスのほんの一部を占めるのみでした。現在、私たちは収益のほとんどをモバイルのエコシステムから得ているモバイルファースト企業です。18ヶ月前、ビデオは私たちのプラットフォームでは初期段階にあたりました。現在、私たちが取引する10分の1を占め、前年比650%で成長しています。OTTとCTVは、1年前、将来的な計画にすぎませんでしたが、現在は、当社のシェアは急激に拡大しています。イノベーションはこの市場の原動力であり、当社は品質に対する持続的な投資によって、これらのイノベーションが継続的に促進されることを認識しています。

どのようなイノベーションや成長が業界を加速させると考えますか?

私が注目しているのは3つの分野です。まず、動画の未来は信じられないほど刺激的だと感じます。モバイル動画においても、オプトイン動画やCTV / OTTのような新しいフォーマットでも、それ以外のまだ開拓されていない分野であっても、今後破壊的な成長が期待できると思います。メディア消費習慣は変化しており、消費者の注目はこれまで以上に断片化しています。ソファーに座ってケーブルテレビを数時間視聴する代わりに、消費者はテレビ、OTTチャンネル、携帯電話などの間を行き来しています。私たちは、プログラマティックテクノロジーが、企業にとって断片化されたメディア環境における問題を解決し、効果的に活用するサポートを行うための重要な役割を果たすと考えています。

次に消費者とのエンゲージメントに再び取り組むことです。私たちのほとんどは、多くの広告が消費者のエンゲージメントを得られていないことを経験的に知覚しています。プログラマティックテクノロジーによるオーディエンスデータの活用によって、より適切なメッセージを即時に個別のユーザに届けることができ、様々な広告フォーマットを活用し、消費者体験を大きく変化させる可能性を秘めていることができると考えています。これは広告主のROASと売り手のイールドに直接影響し、また私たちがオプトインビデオの可能性について非常に興奮している理由でもあります。

最後に、私はより高度な品質でのやりとりが可能なシステムや、より明確な市場の取引ルールの構築について非常に楽観的です。私自身は、検索業界において、業界が大きく拡大し独自の成熟サイクルに至る過程を目の当たりにしてきました。同様のことがプログラマティックでも起こると確信しています。

まとめると、メディアの断片化、つまり消費者の注目の拡散化は多くの企業が毎日直面している問題です。私はプログラマティックテクノロジーが、マーケティング担当者が直面するこの課題を解決し、より関連性の高い広告エクスペリエンスを提供し、バイイングを促進することができると考えています。それと合わせて、世界中の全ての接続された機器に対して、品質と透明性を兼ねたソリューションを提供できると思います。

ABOUT 野下 智之

野下 智之

ExchangeWire Japan 編集長   慶応義塾大学経済学部卒。 外資系消費財メーカーを経て、2006年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。 国内外のインターネット広告業界をはじめとするデジタル領域の市場・サービスの調査研究を担当し、関連する調査レポートを多数企画・発刊。 2016年4月にデジタル領域を対象とする市場・サービス評価をおこなう調査会社 株式会社デジタルインファクトを設立。 2021年1月に、行政DXをテーマにしたWeb情報媒体「デジタル行政」の立ち上げをリード。