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3D技術を武器にリッチ広告市場を開拓-VRizeが誓う「壁の突破」 [インタビュー]

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親和性が高いようにも見えて、実はこれまでなかなか実現しなかったインターネット広告と3D技術の組み合わせ。その背景には、単に広告素材を3D化するに留まらない、様々な試行錯誤と苦労の歴史があった。現在の取り組みや今後の可能性そして課題まで、ついに実用化にこぎつけた関係者たちが語ってくれた。

(聞き手:ExchangeWire Japan 長野雅俊)

3Dゲームを2Dでしか表現できないという現状

自己紹介をお願いします。

木村氏 ユナイテッド株式会社ゲーム事業本部マーケティング部マネージャーの木村です。当社はこれまでアドテク事業とスマホコンテンツ事業を注力事業としてきましたが、近年では後発ながらもゲーム市場に参入。2018年10月末には初のスマートフォン向けオリジナルゲームタイトルとなる「東京コンセプション」をリリースしました。妖怪と人間が織り成す3DアクションRPGで、リリース後約1カ月間でダウンロード数は30万超。今後は現在開発中のタイトルを含めて、当社のゲーム事業を拡張していく予定です。

向山氏 ユナイテッドの子会社である株式会社Smarprise営業局プロダクトプロデュース事業の責任者である向山知宏と申します。自社媒体となるアプリ課金者特化型ゲームメディア「SMARTGAME」を軸にした広告商品の開発などを行っています。東京コンセプションのプロモーションを目的とした、SMARTGAMEとVRize社の3D ADを組み合わせた広告プランをユナイテッド社に対して提案させていただきました。

中村氏 VRizeのCOOを務める中村です。当社はこれまでVR事業に特化してきましたが、今年6月に新規事業として3D広告配信サービスの「3D AD」を開始。私は同分野の事業開発全般を担当しています。

改めて3D ADの特徴を教えていただけますか。

中村氏 3D素材を広告としてそのまま配信できるサービスです。広告上で、例えば3Dゲームのキャラクターの動きを忠実に再現します。またタッチやスワイプ操作に応じてそれらのキャラクターを動かすこともできます。

近年は3Dゲームが増加している一方で、3Dの広告クリエイティブを配信する仕組みというのはほぼ皆無です。3D ADは、国内では3D広告を配信できるほぼ唯一のアドネットワークであると自負しています。

誤タップを減らすための取り組み

主な広告主はゲーム事業者になるのでしょうか。

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中村氏 現時点ではゲーム事業者が主要顧客です。既に30、40タイトルを配信しましたが、これまではロングセラーのタイトルを持つゲーム事業者に対して新しい提案をしたいという広告代理店様によくご利用いただいていました。ユナイテッド社の東京コンセプションは新規リリースでご利用いただいた初の事例です。また2019年からは、例えば自動車や時計等のラグジュアリーブランド、消費財メーカーなど、3D素材を持つその他の分野の企業様とのお取引も増やしていくことを計画しています。

3D広告は確かにエンターテイメント性に富む一方で、ポップアップ広告のようにユーザーに対してわずらわしさを与え得るものなのではないでしょうか。

中村氏 そのような懸念を払拭すべく、ユーザービリティについては相当に気を遣っており、むしろユーザーからは好意的なリアクションが多いのが現況です。3D ADは「一般的なバナー領域」と「キャラクターなどが動き回る3D領域」という2つの要素で構成されているのですが、タップを誘発する後者の3D領域はタップしても別ページへと遷移しません。だから、いわゆる誤タップが発生する確率はかなり少ないと思います。またバナーの上に×ボタンを設置しているので、ユーザーが望めば広告自体をいつでも消すことができます。

実際に、Twitter上では3D ADに対する好意的なつぶやきをよく見かけます。また過去の配信実績においては、他社比較でCTRが3、4倍に上がったにも関わらず、CVRは落ちていません。ユーザーにわずらわしいとの印象を与えることも、広告商品に関心を示さないユーザーを無理やり引き込んでしまっているということもないと思います。

さらに付け加えると、素材を圧縮する技術があるので、動画広告と比べてインターネット遅延は起きにくいです。そもそもページを先に読み込ませてから広告を表示するように設計しているので、ページの読み込みに影響を与えることはありません。

ブランディングと獲得両方で利用される広告に

ユナイテッド社が3D ADに出稿するに至った経緯をお聞かせください。

木村氏 Facebook、Twitter、Googleといった主要広告プラットフォームなどに対して、網羅的に広告を出稿しているのですが、いずれも「3Dゲームである」ということを体感してもらう機会が少ない。静止画であればキャラクターそのものの訴求になり、動画ならプレイ動画を流してゲーム性の訴求になります。3D広告クリエイティブを使うことができるのならぜひとも試したいと思いました。

実際に3D ADに配信してみてどうでしたか。

木村氏 運用広告においては、CPIなどの獲得効率に関してはある程度まで自分たちでコントロールできるので、広告プラットフォームごとの大きな違いというのはありません。違いが出るのは、獲得したユーザーの中に課金額の多い優良なユーザーがいるかどうかを示す、広告費の回収率となるROAS。3D ADでは、主要広告プラットフォームやアドネットワークと比較して、ROASが2倍以上を示しています。

ROASが2倍以上というのは確かに好結果ですね。一方で「CTRが3、4倍にまで上がったにも関わらず、CVRは落ちていない」という傾向は気になりました。見方によっては広告の閲覧があまりコンバージョンにはつながっていないということではないでしょうか。

中村氏 「CTRが上がって、CVRが下がる」というのであれば、ダウンロード意欲のないユーザーを取り込んでしまっている可能性がありますが、CVRが横ばいまたは微増ならば、問題ないと考えます。しかもROASにつながる優良ユーザーを獲得できているということは、広告を通じて適切な情報が適切なユーザーに伝わっているということでしょう。

ただ「広告そのものに魅力がある」というのは本来的に、パフォーマンス案件よりも、リーチ数やブランドリフト等を指標としているブランディング案件に向いているのではないでしょうか。

中村氏 おっしゃる通り、3D ADはブランディング案件にも向いていると思います。よって、今後ブランドリフトを期待してご依頼頂くクライアント様も増やしていきたいと考えています。一方で、数字が限りなく見える化されるWeb広告という市場ですので、パフォーマンスへ向き合う姿勢はぶらしません。市場感的にブランド予算よりもパフォーマンス予算の方が多いかと思いますので、ブランディング案件のみ注力するということはなく、両方で使って頂けるようにプロダクトを磨いていきたいと考えております。

いわゆるリッチ広告全般の配信を強みとするアドネットワークでいまだ目立った存在がない理由は、特別なキャンペーンのみでしか利用されないからです。当社としては、常時使われるアドネットワークとなるために、パフォーマンスニーズにも応えられるプロダクトを作っております。

3D広告は1本勝負

3D広告はその他の広告形式に比べて制作作業に多くの手間がかかるのではないかと想像しますが。

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向山氏 静止画や動画広告であれば、様々な訴求軸から出来る限り多くの広告クリエイティブを用意して、CVR・ROASなどの指標をベースにユーザーの反応を見ながら都度差し替えて運用していきます。ただし、3D広告というのはそれ自体でもはや一つのコンテンツです。つまりは1本勝負。言い換えると、A/Bテストができないわけです。

だから3D広告の制作に当たっては、決して少なくない時間を費やしてしっかりと作りこみました。広告代理店の立場にあった当社が、まずはユナイテッド社より3D素材をお預かりした上で、複数のご担当者と、どのキャラクターでどのような動きを見せるべきかについて綿密な打ち合わせを実施。その内容を今度はVRize社へと伝え、同社には広告で表現するストーリーを絵コンテに起こしていただきました。その後に出てきたデモ版を基に関係者間で再度すり合わせをして、ようやく完成。3D広告制作自体に10営業日、打ち合わせに3営業日ほどを費やしています。

それだけの手間がかかるとなると、広告制作費も高くつくのではないでしょうか。

中村氏 ご出稿いただきやすいように広告制作費を別立てせず、広告配信費用の中に含めています。より詳しく申し上げると、広告の最低出稿金額を100万円に設定(※時期変動あり)しており、その中に制作費用が入っています。

実際のところ、3D広告を制作してかつ配信するという作業はどれほど難しいのでしょうか。他のアドネットワーク事業者も近いうちに3D広告サービスを開始するという可能性はどれほどあると思いますか。

中村氏 例えばウェブブラウザ上で3Dを表現する手段としてWebGLという技術がありますが、これだけで3D広告を配信することはできません。様々な技術を組み合わせて、3D広告基盤を作る必要があります。ただ、一般的に公開されている技術の組み合わせでは制約が多く、複雑なアニメーションの付与や解像度の高い3D素材の配信が出来ないなど、3D広告を配信する上で致命的な課題があります。よって弊社では、独自で「3Dエンジン」を開発することによりそれらの技術的課題を突破しております。同様の仕組みをつくることができる企業は国内にはまずないでしょう。

そもそも、アドテクと3DCG技術は、意外とお互い疎遠な関係にあるので、両方の技術を保有している企業が希少です。世界的にも3Dの広告サービスを本格的に実施しているのは数社のみ。それら数社も、例えば3D広告を回転させることはできるけれども、当社のようにキャラクターが必殺技を繰り出す、といったリッチな表現をするには至っていません。

事業拡大に向けての壁を突破

3D広告に関する課題や今後の展望についてお聞かせください。

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木村氏 3D ADについてはまだ広告在庫が少ないです。東京コンセプションの新規リリースにおいて、3D ADに費やした広告費は全体の1割。これ以上の規模の出稿となると、同じ配信面に何度も表示されることになり、広告の影響力がなくなってしまうと思います。ただ既に広告費用は十分に回収できているので、できることなら出稿量は増やしたいです。

向山氏 ちなみに、配信から1カ月ほど経過していますが、出稿量は都度調整していながらもROASは変わらず好調に推移しています。クリエイティブは1つですが、3DADが質の高いユーザーを獲得できている証拠だと思います。ただCVR/CPIは配信面を刈り取ってしまうとどうしても高騰してしまうので、VRizeとコミュニケーションを取りながら配信面コントロールの運用をしています。

中村氏 配信面に関しては現時点ではゲームの攻略サイトを中心とした約20サイトとアドネットワークとして接続しています。今後は外部ネットワークに3PASとして配信できる環境づくりを進めていきます。既にサイバーエージェントのスマートフォンアドプラットフォームAMoAdには配信できるようになりました。来年上半期中に、当社がDSPとしてSSPに対して配信するという仕組みも用意できるよう目指しています。

木村氏 今後はプレイアブルアドも実装できるといいですね。「3Dキャラクターをタップすると必殺技を出す」というだけでなく、実際に操作してみて、どんなゲームか感触を得られることができたらうれしい。

向山氏 私としては、広告の制作作業にかかる10営業日という時間を少しでも短縮してほしいですね。ある程度まで作業をパターン化することで広告クリエイティブを数種類ほど用意することができれば、広告効果をもっと長く維持できるし、配信ボリュームも増やすことができるのではないでしょうか。

木村氏 広告クリエイティブが初動時に複数本用意できていれば、制作期間の長さはそれほど問題にならないかもしれません。制作期間が長いことの問題点は、広告出稿側が短期間でPDCAを回せないということなので。

中村氏 お陰さまで既に30、40件の配信実績をつくることができて、ある程度まで勝ちパターンというものが分かってきたので、広告制作期間は短縮できる見込みです。また3Dのもう一つの特徴として、例えばキャラクターの顔の向きを右に左に自在に変えるといった素材の再活用ができるという点があります。だから、複数のクリエイティブを一気に生産するということも本来的には容易にできるはずなのです。

これまでのリッチ広告の中には、そうした生産体制の整備が追いつかないがために、事業化に失敗した例がたくさんあります。当社は事業拡大に向けての必ずこの壁を突破し、3D広告をさらに大きく世に広めていきたいと考えています。

ABOUT 長野 雅俊

長野 雅俊

ExchangeWireJAPAN 副編集長
ウェストミンスター大学大学院ジャーナリズム学科修士課程修了。 ロンドンを拠点とする在欧邦人向けメディアの編集長を経て、2016年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。 日本や東南アジアを中心としたデジタル広告市場の調査などを担当している。