×

中国インバウンド需要を攻略する [インタビュー]

写真1:アライドアーキテクツ 番匠 達也氏

増加する中国人訪日観光客に対するプロモーション需要はますます高まりつつある。
そのような中、企業がこの市場に打って出る際にはどのような視点が必要なのか。また、どのような施策が有効なのか。

アライドアーキテクツ グローバル事業部 部長 兼 VstarJapan 代表取締役社長 番匠 達也氏にお話を伺った。

(聞き手:Exchange Wire Japan野下智之)

変化する需要トレンドを知る

日本企業の中国向けインバウンドプロモーション需要のこれまでの経緯についてお聞かせください。

全体的には緩やかに増加していると思います。2016年に「爆買い」という言葉が報道されましたが、日本の百貨店と化粧品メーカーが中心の活動でした。今では、それ以外の業種、小売りや中堅規模の化粧品、食品メーカーなどにまで幅が広がっていると感じています。インバウンドの売り上げは伸びているので、今年度から予算を組んでいきたい、という企業様も増えています。

「爆買い」に象徴されるインバウンド需要は以前に比べるといったん落ち着いたイメージもありますが。

インバウンド、越境EC、中国本土への本格展開という3つの軸で進出を考えている企業様が多いです。最近インバウンド消費に陰りが出てきたという報道がありますが、インバウンドはあくまで3つの軸の1つなので、微減したからといって全体のプロモーション予算を下げることは考えにくいと思います。

「爆買い」の点では、インバウンド消費の単価が落ちたことは確かです。ただ、訪日客は増えているので、数千円の化粧品や食品、雑貨などは売り上げが伸びているのではないかと思います。

中国インバウンド需要に関係する企業(広告主側)のインバウンド対応の現状をお聞かせください。実際にどういった企業が対応をしているのでしょうか?

インバウンドで売り上げが上がっていると実感している企業様が、徐々に独立したインバウンド事業部を立ち上げている傾向があります。特にメーカーや小売りなど、業種を問わずそういった部署が増えています。これまである程度の規模の企業様で、越境ECや中国本土への進出に対応する部署はありましたが、インバウンドでの売り上げ増加に伴い専門の部署を設置しよう、という流れです。

具体的な業種についてもお聞かせ下さい。

写真2:番匠 達也氏

メーカーでは化粧品や家電など、インバウンドでの売り上げが伸びている業種の企業様が多いと思います。ラーメンやお菓子も強いですね。空港内で売られているお菓子などはお土産としての購入ニーズもありますし、日本のお菓子ブランドはパッケージもかわいい。しっかりこのような需要に向けて対策を取っていきたい、という企業様は多いと思います。

需要の本質と独特のカスタマージャーニーを理解する

広告主から「中国向けプロモーションをしたいけれどどのようにしたらいいのか」という相談を受けた時、貴社はまずどのようなことをお伝えされていますか?

まず現状分析が大切です。中国の消費者がそのブランドや商品を知っていて、話題性があるのか。中国展開をしていない会社、プロモーションをおこなっていない会社もまずはそこからスタートすることが大切です。

なぜなら、『中国向けのプロモーションを行っていなくてもすでに中国SNSやECをきっかけとして認知されている』ということもあるからです。

理由は2つあります。1つは、「ソーシャルバイヤー」と言われる、日本で商品を購入して中国ECサイトで販売する人がいるからです。そしてもう1つは、日本の商品や店舗情報をSNSに投稿し、情報を拡散する人がいるからです。日本で利用されているSNSを閲覧できないため、日本で話題になっているコンテンツを転載して発信しているアカウントが多く存在しています。

このようなことから、知らないところで商品が話題になっていることもありうるため、まずは現状分析をしないといけないというわけです。

競合についても、日本国内の人気とインバウンドでの人気商品が異なるため、ベンチマーク企業も異なってきます。そうした視点で、ライバルの分析をしていくことも大切です。

販売が伸びているのか、口コミのベースができているのか、すでに転売されていて「この商品いいよ」となっているのか、全く触れられていないのかで今後の打ち手が異なるため、そこから分析・設計していくことが必要です。

中国EC市場においては、大規模セールが定期的に行われており、セールとあわせて販売が伸びる傾向にあります。6月18日、独身の日(11月11日)、W12(12月12日)。インバウンドなら夏休みや国慶節、春節などに訪日観光客数が増加します。それぞれの時期にあわせて情報を広めるプロモーションを行います。

日本とは異なる中国のプロモーション環境

中国にプロモーションを行う上で、どのような環境の違いや制約を意識する必要がありますか?またそのような中で、日本の企業にとって、どのようなインバウンドプロモーション手法が有効でしょうか。

日本企業が中国SNSを活用する際にWeiboやWeChatは日本のTwitterやLINEに例えられがちですが、完全にイコールではありません。利用ユーザー、目的、情報の伝わり方、すべてが全く異なります。インフルエンサーを起用したり、公式アカウントを開設する際、LINEやTwitterやYouTubeと全く同じにすればよい訳ではありません。中国SNSの特徴をしっかり理解する必要があります。ユーザーはどのようにSNSを利用しているのか、他の公式アカウントはどのように運営しているのかなど、きちんと理解しないと成功は難しいです。中国SNSのユーザーや環境を理解することが、1つのハードルになるかもしれません。

SNSの情報の受けとり方も日本とは全く異なります。中国では企業からの情報自体がユーザーに届きにくいでしょう。例えば中国の企業公式アカウントがWeiboに投稿した場合と、日本の企業公式アカウントがFacebookに投稿した場合では、エンゲージメントが全く異なります。企業からの情報発信よりも、インフルエンサーや個人の口コミの方が重要視されています。企業からの情報に対してのエンゲージメントは少なく、一方でインフルエンサーや個人の投稿に対してのエンゲージメントが高い傾向があります。中国のマーケティングと日本のマーケティングの違いをまずは理解する必要があります。

法律面はいかがでしょうか。

中国の広告はプラットフォームごとに出稿できる業種や必要な書類が異なります。全ての企業が広告を出稿できる訳ではなく、例えば化粧品会社ならCFDAと言われる許可証や、登記簿謄本、サインなどが必要になり、現地のプラットフォームごとにルールも違います。一律に何が必要、とは言えません。

インフルエンサーは制約を受けにくいのでしょうか。

写真3:番匠 達也氏

インフルエンサーを起用する上でもルールが定められています。ルールを守らずにプロモーションをおこなうと、インフルエンサーの投稿を削除されたり、リーチが伸びないといった制限をかけられることもあるので注意が必要です。

企業アカウントを作る代わりにインフルエンサーを起用して情報を発信する企業もありますが、そのような場合は、きちんとルールを意識する必要があるということです。例えば、抖音(ドウイン)上でインフルエンサーを起用する場合、抖音公式パートナー企業や公式のプラットフォームが存在するので、その企業やプラットフォームを通じて依頼する必要があります。

中国人が見たい「コンテンツ」の中に広告を溶け込ませる

取り組みが進んでいる広告主は具体的にどのようなプロモーションを展開していますか?なにかもし象徴的な事例があればご紹介ください。

インフルエンサーを起用したプロモーションにおいて、大事なポイントが3つあります。

まず、時期。そして誰を起用するか。最後にコンテンツの中身です。一般的にファン数の多いインフルエンサーを起用すればいいと思われがちですが、どのような企画・コンテンツを通じて情報を伝えるか、ということがプロモーション実施後の拡散効果を左右します。

具体的に、Weiboやbilibiliで展開したメイクの紹介動画のプロモーションで説明します。Aという商品が訴求したい商品です。しかしAだけを紹介するといかにも広告っぽくなってしまい、敬遠されてしまいます。そこで、B、C、Dという訴求したい商品以外も使ってメイクをする中で、あくまで今回のメイクに使った商品のうちの一つという形でAを紹介する、といったストーリーにしています。

視聴者は広告が見たいのではなく、コンテンツが見たいのです。見たいコンテンツの中に広告が入っている、という作り方をしないといけない。まず重要なのは、動画の企画やストーリーが多くの人にとって興味のある内容か。その中にどれだけナチュラルに企業の広告を溶け込ませることができるか、という視点が重要です。

貴社の中国事業についてお聞かせください。貴社ならではのプロダクト・サービスの特徴、直近の注力ポイントがあれば合わせてお願いします。

SNSを中心として越境ECやインバウンドを総合的に支援していきたいと考えています。特に我々の事業で重要視していることは「日中におけるインフルエンサーのネットワーク」です。これをより強固にしていきたい。我々でしかできないソリューションを強めていきたいと思っています。

中国本土のインフルエンサーネットワークとしては、中国パートナー企業であるIMS社にて86万人の中国インフルエンサーが登録している「WEIQ」というプラットフォームを運営しております。弊社としては、企業の課題や目的にあわせて、中国本土のインフルエンサーを起用したプロモーションを実施することができます。

日本国内の中国インフルエンサーネットワークとしては、チャイナタッチという在日中国人が1,500名登録しているサービスを提供しております。商品モニター企画・座談会・イベント参加など、日本国内での商品やサービス体験を中国SNSを通じて情報発信が出来るサービスです。

また、弊社のグループ会社であるVstarJapanでは、日本人タレント・クリエイターの中国展開支援事業をおこなっています。VstarJapanは、WeiboMCNに加入しており、Weiboやbilibiliなどの現地プラットフォームと連携して、現在15名以上の日本人の中国展開を総合的に支援、中国SNSでの総ファン数は300万を超えています。このような日本人タレント・クリエイターを活用した中国インバウンドプロモーションをおこなうことができます。

日本企業の課題や目的も、インバウンド・越境EC・中国本土での売上向上など様々です。企業によって中国展開の状況が異なっているため、企業の課題にあわせて、弊社独自のプロダクトやソリューションを通じて企業のマーケティング支援をおこなっていきたいと考えています。

ABOUT 野下 智之

野下 智之

ExchangeWire Japan 編集長   慶応義塾大学経済学部卒。 外資系消費財メーカーを経て、2006年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。 国内外のインターネット広告業界をはじめとするデジタル領域の市場・サービスの調査研究を担当し、関連する調査レポートを多数企画・発刊。 2016年4月にデジタル領域を対象とする市場・サービス評価をおこなう調査会社 株式会社デジタルインファクトを設立。 2021年1月に、行政DXをテーマにしたWeb情報媒体「デジタル行政」の立ち上げをリード。