「中国人観光客の動きを可視化するプラットフォームを構築 」-SupershipとMininglamp Technologyの取り組み [インタビュー]

写真1:Supership 小林氏と 宣皓杰氏

2020年の東京五輪開催を控え、インバウンド市場への注目が高まっている。中でも目玉は訪日中国人観光客。この領域に特化したプラットフォーム構築を目指して、Supershipと中国のデータ分析大手Mininglamp Technologyが事業提携を発表した。この両社に中国インバウンドの課題について話を聞いた。

聞き手:ExchangeWireJapan 長野雅俊

多様化する中国人観光客

自己紹介をお願いします。

宣氏 Leading Smart Systems代表取締役社長CEOの宣皓杰と申します。当社は、2006年に中国で設立されたMininglamp Technology(明略科技集团有限公司)の日本法人です。

写真2:宣皓杰氏

中国のプログラマティック広告業界には、BAT(百度(バイドゥ)、阿里巴巴集団(アリババ)、腾讯(テンセント))を中心として、DSP、アドエクスチェンジ、SSPなどのプレーヤーが多数存在します。Mininglamp Technologyは、このエコシステム全体を支えるべく、中国のDMP市場では国内上位、またデジタル広告の効果測定と分析サービスではナンバーワンの市場占有率を持つと自負しております。

小林氏 Supershipで中国市場専任のAd Platfrom事業部長を務める小林賢太朗です。これまではDMPやDSPを広告主向けにカスタマイズして導入するOEM事業の責任者を務めてきました。昨年に中国のEC大手である「JD.com(京東商城、ジンドン)」との事業提携を締結してからは中国事業の立ち上げに専念。中国インバウンド市場への取り組みのため、今年8月に日本オフィスに戻ったばかりです。

中国インバウンド市場の最新動向についてお聞かせください。

小林氏 中国人観光客数は引き続き驚異的な伸びを示しています。また訪日客の中では消費金額が極めて高いことに加えて、買い物に多くの予算を割いていることが特徴です。

もう一つ注目すべき特徴が、旅前に買い物リストを用意する割合が全体の86%にも上るということ。つまり、彼らは日本に来る前に何を買うかを既に決めているのです。だから旅前にいかに商品名を覚えてもらうかというのがマーケティング施策上の課題となります。

宣氏 一時は、多くの中国人観光客が炊飯器など特定の日本製商品を大量に購入していたので「爆買い」と呼ばれる現象が起きました。この爆買い現象は既に落ち着きを見せつつありますが、全体的な消費金額は今でも伸び続けています。中国人観光客が買い物をする場所や商品が多様化しているからです。この状況は日本の広告主にとって、より厳しい競争になったことを意味します。

小林氏 ところが、インバウンド施策向けの予算を持ちながらも、その予算を使い切れていない広告主が多い。広告効果がはっきりと分からず、テストマーケティングを終えた後の本予算を得るための説得材料に乏しいからです。デジタル広告の効果計測においては、中国の方が環境整備は進んでいると思います。そこで、Mininglamp Technologyが持つ技術をSupershipが日本市場向けにローカライズするという取り組みを始めました。

数年以内に日中横断DMP構築を目指す

具体的にはどのようなサービスを提供するのでしょうか。

小林氏 まずは中国の市場分析です。先ほど申し上げた通り、中国人観光客に対しては「旅前にいかに商品名を覚えてもらうか」が重要なので、日本の広告主様に対して、中国の広告配信面に関する知見と中国人購入者の現状が分かるツールを提供します。具体的に説明しますと、例えばインフルエンサーマーケティングではゾンビユーザーやbotが登録されているだけで、リツイートなどのアクションを水増しし、実態がほとんどないインフルエンサーも多い。そこで、どのような広告媒体が本当に影響力を持っているかを正確に把握したり、そもそも自社製品の中国における認知や認識はどのようになっているかを調査することができるツールをご用意しています。

長期的には、日本と中国を横断的につないだDMPを整備する計画です。そして、中国人観光客が日本でどんな動きをしているかを把握し、その動きに合わせた広告配信を行い、実際に日本でどれだけ広告商品が売れたか、または小売施設への流入を促進させたかを可視化できるプラットフォームを作ります。この仕組みが整備できれば、例えば「この広告が特定のドラッグストアの渋谷店に30人を送客した」といったことまで理解できるようになります。

写真3:小林賢太朗氏

現時点では、Mininglamp Technologyは中国人観光客の移動データを持っているが、日本国内における移動先にどんな施設があるのかが分からない。Supershipには日本国内のどの位置にどんな施設があるかを示すデータがあるが、その施設を訪れた人が中国人観光客かどうかは分からない。そこで両社のデータを組み合わせることで、中国人観光客の動きを可視化したいと思っています。

そのような仕組みはいつごろ整備できる見込みですか。

小林氏 「中国人観光客の行動を可視化し、広告配信と効果計測で活用する」という仕組みについては既にテストの準備を進めており、年明けにはベータ版をリリースできる予定です。

膨大な中国人ユーザーをデータを通じて絞り込み

訪日中国人向けインバウンド施策には多くの事業者が取り組んでいます。上記の仕組みができる前の時点における両社の強みは何でしょうか。

宣氏 まず、大手プラットフォームはいわゆる「ウォールドガーデン」であり、それぞれ自社データしか保有していません。しかし、Mininglamp TechnologyはCookieやID情報を集めることで、BATに加えて微信(WeChat)や新浪微博(Weibo)といったそれ以外の主流のデジタルメディアを網羅した横断的な分析をしています。

小林氏 中国には十数億人の人口が存在しますが、日本への旅行経験を持つ人や興味を持つ人さらにはそもそも海外旅行に出掛けるだけの経済力を持つ人数というのは限られます。これらの条件を加味すれば、広告配信対象は5000万人ほどにまで絞ることができるのです。それらの中国人ユーザーと優良媒体のデータを通じて、旅前の時点で適切なアプローチができるというのが強みです。

宣氏 中国では優良媒体を把握するにも詳細なデータ分析を必要とします。一般的なトラフィックの少なくとも3~4割はアドフラウドによるものという数値もあるからです。

小林氏 アドフラウドへの対策として、中国では広告主が広告費を請求する際に、各プラットフォームが出した数値と併せてMininglamp Technologyが開発した計測ツールであるMiaozhen Systemsの数値に基づいて金額を算出します。インフルエンサーに関する数値にも注意が必要で、表示されているフォロワー数の2%しか本当のフォロワーがいないといったこともあります。

ほかに中国市場特有の課題はありますか。

小林氏 代理店や広告主にとっては、広告費の前払いを行うという独特の文化に留意する必要があります。つまりメディア側に先に支払わないと、広告配信を開始できません。

あとはSNS検索が活発であることも特徴的ですね。日本人の多くは、商品やサービスについて調べる際に検索エンジンを主に利用する傾向がありますが、中国人はSNS内で検索します。

宣氏 中国の消費者は企業発信の情報ではなく、周囲の人々が共有した情報を信頼しますからね。

最後に一言お願いします。

小林氏 インバウンドマーケティングの多くが、広告効果がよく分からないままうやむやになっているというのが現状だと考えています。オリンピックに向けてインバウンド需要が盛り返しているものの、状況を変えなければ同じミスを繰り返すだけです。これからきちんと効果測定ができる環境を整備していきたいと思います。

宣氏 中国という異国の状況がよく分からないままで広告配信するのは非常に危険です。まずは市場をよく理解した上で、誰にどこでどうやってリーチするか、そしてリーチした後の結果がどうなったかをきちんと可視化するための仕組みをつくることで、中国人観光客向けマーケティングのお手伝いができたらと願っています。

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長野 雅俊

ExchangeWireJAPAN 副編集長
ウェストミンスター大学大学院ジャーナリズム学科修士課程修了。 ロンドンを拠点とする在欧邦人向けメディアの編集長を経て、2016年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。 日本や東南アジアを中心としたデジタル広告市場の調査などを担当している。