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磨き上げられたテクノロジーとデータを媒体社へ開放-「今こそがチャンス」と説くTeadsの思い [インタビュー]

写真1:Teads 幹部2人

ビューアブルでブランドセーフな広告配信プラットフォームを通じて、約460億円もの年間収益を上げるTeads。媒体社支援を打ち出す同社に改めて問いたい。デジタル広告市場が著しく成長しているにも関わらず、デジタル広告事業に苦戦する媒体社が数多く存在するのはなぜか。媒体社に打開策はあるのか。来日した幹部二人にその答えを尋ねた。

聞き手:ExchangeWireJapan 長野雅俊

世界中のプレミアム媒体とつながるプラットフォーム

自己紹介をお願いします。

シイ氏 グローバル本部のシニアバイスプレジデントとして事業開発を管掌するエリック・シイです。ニューヨークオフィスで媒体社ビジネス支援事業を統率しています。

ベニンカーサ氏 同じくシニアバイスプレジデントとして媒体社向けプロダクト開発の責任者を務めるフェデリコ・ベニンカーサと申します。

改めて貴社の事業をご紹介ください。

シイ氏 Teadsは、世界中のプレミアム媒体とつながる唯一無二のプラットフォームとして媒体社の収益化支援を行っています。当社の代名詞ともなった、編集コンテンツの中央に配置するアウトストリーム動画広告に加えて、2018年からはアウトストリーム形式の静止画広告に関するテクノロジーを提供。また今年9月からは、純広告販売、クリエイティブ制作、データ活用などの支援機能を媒体社向けに技術開放した「Teads for Publishers :エンタープライズスイート(以下TFP)」を日本でリリースしました。

ベニンカーサ氏 当社では、これらのテクノロジーをすべて自社開発しています。

通信環境の改善やVODアプリの普及などを受けて、近年ではインストリーム動画広告市場が急速に拡大しています。こうした市場の変化は、アウトストリーム広告に注力してきた貴社の事業に影響を与え得るでしょうか。

シイ氏 動画及びディスプレイ広告ともにアウトストリーム市場は今でも着実に成長を続けています。VODは広告枠を設けない定額制動画配信(SVOD)が主流であり、プレミアム動画広告在庫はまだまだ不足しているというのが実情です。

ベニンカーサ氏 またインストリーム動画広告の多くは動画本編の再生前に自動的に流れるプリロール型を始めとしたいわゆる強制視聴型ですが、アウトストリーム形式は興味がなければスクロールすればよいので、ユーザー体験を阻害せず、広告主のイメージを損ないません。

さらにインストリームはテレビCMのような作りこんだブランディング目的の動画広告にほぼ限定されるために高額な制作費を必要としますが、アウトストリームでは動画だけでなく静止画含めて多様なクリエイティブに対応できます。またその柔軟性は、異なるファネルにおいて、様々な広告販売モデルが構築できるということをも意味します。

日本におけるプレミアム媒体の9割と提携

動画広告が普及するにつれて、静止画ないしバナー広告の需要は低下しているのではないでしょうか。貴社が静止画に関する技術開発にも取り組んでいるのはなぜですか。

写真2:シイ氏

シイ氏 私も旧来の「バナー広告」がもはや機能するとは思いません。ユーザーがページを読もうとしているか否かに関わらず、画面上のあらゆる場所にとにかく広告表示することだけを最優先する仕組みでは効果など出ないし、CPMが1ドル以下になってしまうのも無理はないでしょう。

当社が扱うアウトストリームないしインリード形式の静止画は、インタラクティブなユーザー体験を提供する「ビューアブル・ディスプレイ」です。ページをスクロールすると、静止画の一部が広告枠から抜け出すかのように動く。またはカルーセル形式で異なる商品を次々と表示する。従来のバナー広告と比べてクリック率は10倍、CPMは段違いに高いです。

ベニンカーサ氏 見かけはどちらも「静止画」であったとしても、その目的や価値が根本的に違う。データを活用し、AIを使って最適化を図る当社の「ビューアブル・ディスプレイ」は、とにかく低価格で多くの場所に表示させようとする従来のバナー広告とは一線を画します。

デジタルマーケティング全般において積極的に活用されているソーシャル投稿や検索サービス上ではなく、一般的に「パブリッシャー」と呼ばれる媒体上の広告枠にこだわる理由は何ですか。

シイ氏 ユーザーは、ソーシャルフィードを読み流す傾向があります。世界最大の一般消費財メーカーであるプロクター・アンド・ギャンブルの調査によると、ニュースフィード広告の平均閲覧時間はわずか1.6秒。一方、Teadsと提携する媒体上に表示された広告の平均閲覧時間は11.6秒です。実に10倍近くの差が存在することになります。

また当社では、編集コンテンツに含まれるテキスト情報に基づいた文脈ターゲティングを独自の強みとしています。よって昨今の課題となっている、Cookieなど個人情報の取り扱いに関する規制や制限の影響を受けません。そして、現時点で精緻な文脈ターゲティングを行う環境を整備できている企業はそう多くない。文脈ターゲティング技術は今後、当社の独自性をますます高めていくことになるでしょう。

日本市場に対する印象をお聞かせください。

シイ氏 当社における事業成長率の世界平均が35%であるのに対して、日本市場のそれは80%。つまり日本市場が当社の事業全体を牽引しているという状況です。既に日本のプレミアム媒体の9割に相当する300以上のサイトと取引があります。また今年からアプリ媒体向けSDKをリリースしました。さらにTFPを通じて各媒体社における純広告枠の販売が促進されると見込んでいることから、日本市場と当社の日本事業はともに今後も一層拡大していく見込みです。

Teads社が提携する日本の主な媒体社

画像:Teads Japan パートナー パブリッシャー

資料提供:Teads

CPM市場から脱却せよ

世界各国の媒体社は現在どのような課題に直面しているのでしょうか。

シイ氏 一言で表現するならば、「収益方法の多様化」に尽きます。紙媒体のみ運営していた時代には、紙面上の広告収益だけを頼りにして事業を営むことができました。次にウェブ時代の到来に合わせてデジタル広告の販売を開始しましたが、この分野では一部の大手プラットフォームによる寡占化の影響を受けて、媒体社は大打撃を受けた。そこで、また別の収益方法を探すことを迫られています。

空前の事業規模と大量の消費者データを擁する大手プラットフォームがその強みを最大限に発揮できるCPM市場でこのまま正面から価格勝負を挑むのは得策ではない。媒体社独自の価値を武器とした新しい事業モデルを構築しなければなりません。その一助となるべく、当社はインタラクティブなクリエイティブ制作やデータ活用を促進するための自社ツールであるTFPを技術開放することにしました。

ベニンカーサ氏 かつて媒体社は、魅力あるコンテンツ内に広告を配置できることと、広告主と相性が良い読者層を抱えていることを売りとしていました。ところがデジタル時代に突入したことで、大手プラットフォームを通じていかに多くのユーザーと効率的にコミュニケーションをとるかということに広告主の関心は移っていった。この動きにただ流されるだけでは、媒体社はCGMを含めたあらゆる情報サイトとの競合に巻き込まれてしまいます。そこで当社は、TFPを通じて新しい広告事業形態を創出しようとしているのです。

具体的にどのような方策を用意しているのでしょうか。

シイ氏 グローバル規模では、当社と取引のある媒体社全体の7割がTFPに含まれた何らかの機能を利用しています。アドサーバー機能のみを使う場合もあれば、PMP構築またはインタラクティブな純広告を制作するためのスタジオ機能、媒体社が持つファーストパーティーデータと連携できるDMPとの組み合わせなど用途は様々です。

ベニンカーサ氏 各媒体が抱える課題はそれぞれ異なるので、当社から一方的に課題解決法を示すのではなく、それぞれの事情に応じて選び取ることができるような複数のツールをそろえて提供することにしました。そもそも、私たちは媒体社の課題を即座に解決するような魔法を使うことなどできない。ただし、媒体社の広告販売を支援するための最適化ツールの開発ならできる。とりわけデータ活用においては最適化機能が重宝します。

これらの機能がどのように「新しい広告事業形態の創出」に結びつくのでしょうか。

シイ氏 例えばTFPでは、プログラマティック広告市場の主流となっているCPMではなく、Teadsがかねてから実施しているCPCV(完全視聴単価)で広告を販売することができます。尚、希少な広告在庫を無駄にすることなくCPCV課金形式を実現するには、大量のデータとAIによる予測分析が必須です。GoogleやFacebookもCPCV課金形式での販売を行っていますが、やはり大量のデータと高度な技術を持っているからこそできること。当社は同様の仕組みを媒体社に向けて技術開放したというわけです。

写真3:ベニンカーサ氏

ベニンカーサ氏 当社が構築した世界中の媒体社を結ぶネットワークには、15億ユーザーがいます。これだけ多くのユーザーを単一で抱える媒体社は存在しません。世界規模の媒体社ネットワークを構築した当社だからこそ、CPCV課金の仕組みを提供できるというわけです。

また自社独自のファーストパーティーデータを広告販売に活用したいと思う一方で、データ量が不足しているという媒体社もあるでしょう。そのような課題に対応するため、当社は媒体社向けに類似配信機能(ルック・ア・ライク)を提供しています。類似配信であれば、たとえ媒体社が持つサンプル数が少なくとも、当社保有のビッグデータと照らし合わせることで、精緻なターゲティングを実現できるからです。

各媒体社は、それらのテクノロジーを使いこなすことができるのでしょうか。

シイ氏 当社が提携するプレミアム媒体社の大半が独自の広告販売戦略を立案及び実行する専門部署を設けているので心配はないでしょう。必要であれば、当社が研修プログラムを合わせて提供することもできます。

ベニンカーサ氏 アドテク業界はものすごい速度で進化を遂げています。その最先端テクノロジーを取り入れることが当社の存在意義の一つでもあります。一方、媒体社はアドテクの研究ばかりに時間を費やすことはできません。だからこそ、テクノロジーだけではなく、知識やノウハウを合わせて伝えることが重要であると考えています。TFPにはそうした技術、知識、ノウハウが詰まっているのです。

媒体社が広告市場の覇権を取り戻すために

貴社が日本市場で活用しているデータの中身について教えてください。

ベニンカーサ氏 当社はほぼすべての主要なDMPと接続しているため、様々な企業とデータを連携させています。さらにはニールセン、オラクルマーケティングクラウド、LiveRampなどのデータマーケットプレイスとの提携を通じて、日本におけるユーザーの75%に相当する8800万UUを網羅しているのです。

ただし、どのデータ企業と連携しているかは実はそれほど重要ではありません。それらのデータに基づいて実際にキャンペーンを実施した上で、その結果をいかに分析してマーケティング目的に利用し得るデータとして作り変えるか、ということこそが肝となるからです。

当社は各媒体社との提携を通じて、ユーザーがどんなコンテンツをどのように読んでいるかをつぶさに観察しています。その観察結果から各々のユーザーの興味関心を割り出し、AIによる最適化をかけることで、精緻なターゲティングを実現しているのです。ニールセン社による調査では、当社のターゲティング精度が平均より30%ほど高いとの結果が出ています。

デジタル時代に突入したことで、「大手プラットフォームによる寡占化の影響を受けて、媒体社は大打撃を受けた」と仰いましたが、媒体社は今後この状況を打開できるでしょうか。

ベニンカーサ氏 打開策が整備されつつあると思います。問題の一因は、媒体社の編集コンテンツと広告コンテンツが、それぞれ全く異なる仕組みで生成されていることにあります。一般的に、編集コンテンツは事件や流行といった世の中で起こる出来事と同期する。一方で広告コンテンツは、クリスマスセールを始めとするマーケティングに関連した行事と結びつく。だから、全く別々の価値観を反映した編集コンテンツと広告コンテンツをただ併載するだけでは、ユーザーの興味や関心が向けられる先は自ずとどちらか一方に偏ってしまう。

ところが、AIを通じて、今ではユーザーの興味や関心に応じたコンテンツを出し分けすることができるようになりました。つまり、大きな課題の一つが解決されつつあるのです。しかも、プレミアム媒体には今も変わらず愛読者がいる。たとえ事業モデルが大きく変化しても、媒体社の存在意義は今後も揺らぐことはないと信じています。

シイ氏 ブランドセーフティーやフェイクニュースといった問題が顕在化し、UGCコンテンツの意義が見直しを迫られたことで、プレミアム媒体が提供する優良コンテンツが改めて注目されています。デジタルシフトの変革期を乗り越えて、再び広告市場の表舞台に舞い戻る機会がついに訪れたのです。今こそがチャンス。大手プラットフォームが駆使してきた技術やデータを媒体社が手にすれば、再び広告市場の覇権を取り戻すことができるはずです。

ABOUT 長野 雅俊

長野 雅俊

ExchangeWireJAPAN 副編集長
ウェストミンスター大学大学院ジャーナリズム学科修士課程修了。 ロンドンを拠点とする在欧邦人向けメディアの編集長を経て、2016年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。 日本や東南アジアを中心としたデジタル広告市場の調査などを担当している。