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「位置情報がデジタルマーケティングを一変させる」―三井物産とFactualが資本業務提携を締結 [インタビュー]

写真:三井物産、Factual インタビュー
位置情報を活用したマーケティングプラットフォームを提供するFactual社と三井物産が資本業務提携を締結した。位置情報の効用が叫ばれ始めてから久しいが、マーケティングを実践する現場においては、そのノウハウは思ったほど浸透していないのではないか。最大の障壁は何なのか。その障壁をどのように打ち崩していくのか。両社それぞれに見解を質した。

聞き手:ExchangeWireJapan 長野雅俊

事業提携に至るまでの経緯とは

自己紹介をお願いします。

ジョナス氏 Factual社のチーフ・レベニュー・オフィサー(CRO)を務めるロブ・ジョナスと申します。創立者は、コンテンツ連動型広告配信サービスの草分けであるAdSenseを開発したギル・エルバスCEO。その後、Factual社を起業し、今年で創業10年。米ロサンゼルスを拠点に52カ国へとサービス展開する位置情報プラットフォームへと成長させました。

現在は、消費者のオフライン行動を理解するための「Insights」、位置情報に基づいた広告配信を行う「Targeting」、オフライン行動における広告効果計測を目的とした「Measurement」、顧客が保有するファーストパーティーデータと位置情報を連携させる「Enrichment」、当社の地点情報(POI)データ基盤をライセンス提供する「Places」という5種類のプロダクトを提供しています。

吉田氏 三井物産のICT事業本部デジタルマーケティング事業部マーケティング事業第一室室長補佐の吉田健祐と申します。今般Factual社と資本業務提携を実行しました。今回の提携では、米国三井物産が出資を行い、日本の三井物産が事業運営を担当しています。

両社の提携に至った経緯をお聞かせください。

写真2:吉田健祐氏/ 三井物産

吉田氏 三井物産が位置情報に取り組み始めて20年。日本初の地図コンテンツをパートナーと共にi-modeに対して提供したほか、位置情報企業のシリウステクノロジーズへの投資(後にYahoo!JAPANが買収)など行ってきました。

Factual社と弊社とのお付き合いが始まったのは2012年ごろからです。当時のFactual社は、まだ各種の地点情報のみを取り扱っている一企業に過ぎないという印象でした。しかし、その後同意を得たユーザーの位置情報データ整備を進め、それらを組み合わせることで非常に精度の高い位置情報を提供するようになったのです。

そこで、私が米国に駐在していた2016年に再度コンタクト、その際に同社も日本市場のF/Sを行いたいという意向あり、当時出資先のAOLプラットフォームジャパン(現ベライゾンメディア・ジャパン)を紹介しました。その後、2017年から事業提携に向けての協議を本格化、今回の事業提携に至ったという次第です。

ジョナス氏 米国市場以外で事業提携するのは、Factual社にとって初めての試みです。三井物産は海外企業に投資した上でそのテクノロジーを日本市場に持ち込み、普及させる実績をDrawbridge他多数持ち合わせています。日本市場特有の課題に対応していくためにも、三井物産と事業提携すべきと判断しました。

日本市場で位置情報活用が進まない理由

「日本市場特有の課題」とは何ですか。

写真3:ロブ・ジョナス氏/ Factual社

ジョナス氏 国内の広告会社及びDSP事業者の存在感が大きいというのが一つ。またダイレクト・レスポンス偏重のため、短期的な費用対効果ばかりが求められる傾向があります。一方で、データの利活用に際してはそれなりの費用が発生する。その結果、わざわざ追加予算を投じてまで、データを必要とはしないと判断される例が思いのほか多いように感じられます。

加えて言えば、広告の配信先が、国内の一部巨大メディアまたはアドネットワークに集中するきらいがあるようです。よって、メディアやアドネットワークをまたいでデータを利活用するという取り組みが進まないという課題があると認識しています。

対照的に、FactualのデータはあらゆるDSPと統合できるので、あらゆる広告主及び広告会社がすべてのメディア上で利用できるという特徴があります。

尚、全世界に共通して、広告主及び広告会社による広告配信またはその効果測定におけるデータ利用が盛んに行われるようになっています。その言わば反作用として、プライバシー保護に関する懸念が生まれ、消費者データの取り扱いに対する規制のあり方についての議論が交わされていますが、それでもデータの利活用は活発化していく一方です。日本市場におけるデータ活用のあり方も今後急速に変化していくだろうと見込んでいます。

高山氏 三井物産におけるFactual事業の一員を務める高山靖弘です。私はこれまでにインド発のNear、そしてソフトバンクグループのシナラシステムズジャパンでの勤務を通じて、位置情報関連事業に携わってきました。いずれも位置情報領域では先駆的な取り組みを行ってきた企業ですが、その位置情報は、各社が保有する個別のDSPを通じてのみしか利用できないという課題を抱えていました。

国内には、両社以外にも優良な位置情報を保有する事業者が存在します。しかし、これら事業者が開発したDSPは、必ずしも本業ではないこともあり、例えばGoogleやThe Trade Deskといった大手事業者が開発したDSP機能にはどうしても劣ります。加えて代理店にとっては、位置情報データを利用した広告配信のために既存で利用している配信プラットフォームに加えて、全く新しい位置情報系DSPを施策に組み込むことは様々なコストが伴い、ハードルになります。こうした事情もあり、日本国内における広告配信においては位置情報があまり積極的には活用されなかったのです。

その意味で、Factual社の事業モデルは画期的です。中立的なプラットフォームであるため、GoogleやThe Trade DeskといったDSPだけでなく、Facebook、Instagram、Twitter、LINEといったSNS上での広告配信の際に同社保有の位置情報データを各自でアップロードできるからです。この点は非常に大きい。例えばラグジュアリーブランドはロングテール系の配信面が多いDSPの利用には消極的ですが、代わってFacebookやLINEを通じた広告配信に位置情報を活用できるようになるからです。

位置情報の精度と正確性にまつわる課題

位置情報においては、一つひとつの位置情報の該当範囲の細やかさを示す「精度」と、実際の位置とデータとの整合性を意味する「正確性」の確保が重要だと言われています。Factual社が保有する位置情報はどれほどの精度と正確性を有しているのでしょうか。

ジョナス氏 正確性と精度を確保するには、POI情報とユーザーの位置情報という二つの異なるデータが必要となります。既に申し上げた通り、当社は世界52カ国でPOIデータを収集し、そのデータをFacebook社やApple社を初めとする数百社に対してライセンス提供している実績を持ちます。

加えて、特定の端末が、一定の時間にどこでどんな行動に関与しているかを把握するためには、非常に精巧かつ高度なソフトウェアを設計する必要があります。当社では過去5年で集中的にプロダクト研鑽に注力することで、精度と正確性の双方を高めてきました。

その結果、少なくとも技術的には半径3~5メートルの単位で各ユーザーの位置情報を把握することができますが、実際にはそこまで細かい区分けは行っていません。あまりに精度が高すぎるとユーザーのプライバシーの抵触する恐れがあります。さらに精度を高めてユーザーをあまりに細かく区分けした結果、広告主が広告配信で必要とする配信規模が確保できなくなるという問題が生じます。この点については、非常に繊細かつ微妙なバランスを取る必要があるのです。

位置情報を扱う上で、プライバシーに対する懸念は非常に大きな課題になるかと思います。貴社ではそうした懸念にどのように対応していますか。

ジョナス氏 まず、当社は承諾が得られた場合のみ位置情報データを取得しています。EU一般データ保護規則(GDPR)やカリフォルニア州消費者プライバシー法(CCPA)では何をもってユーザーの承諾を得られたかを明確に定義しており、各国のこうした法律や規制を遵守しています。

収集段階だけでなく、それらのデータの活用段階においても慎重な対応が必要とされます。匿名化することはもちろん、非常に限定的な場所においてはあえてターゲティングを行わない。またターゲティングできる端末数を制限するという場合もあります。サンプル数が少なければ少ないほど、匿名化された情報を非匿名化することが容易になるからです。よって、特定のセグメントにおいてはターゲティングできる端末数の最小値を予め定めています。

尚、今後は世界中で消費者視点に立ったプライバシー関連法が次々と施行されることになると見込んでいます。我々はこれまで各国の規制に対応してきた実績を持つため、今後生まれる新規制に対しても同様に円滑な対応ができるはずです。

Factual社は、少なくとも現時点においては、これから新規参入する日本市場における正確で精度の高い位置情報をまだ持ち合わせていないのではないでしょうか。

写真4:高山靖弘氏/ 三井物産

高山氏 その点については当社も想定外だったのですが、グローバル規模で展開するデータ提供社からのデータを元手に日本市場における位置情報データを既に整備できている状況です。実際に、日本市場での配信ボリュームの大きさとともにコンバージョン率の高さに驚きを示した広告会社もいらっしゃいます。

ブランディング予算にも影響を与える可能性

どのような業種・業態が位置情報を最も有効に活用できると思いますか。

ジョナス氏 当社が提供するプロダクトは、「広告配信のターゲティング」と「広告の効果計測」を目的としたものに大別できます。前者はあらゆる業種・業態が利用可。後者に関しては、オフラインの行動分析が主体となるので、オフライン事業者が主な利用者となるでしょう。

過去には、日用消費財メーカーがいわゆる健康市場で新しい飲料水を販売する際に、フィットネスクラブや健康食品を扱うスーパーやレストランに通う消費者にターゲットを定め、動画広告のコンバージョン率を68%から80%に高めたという例があります。

また展示場への誘致を通じて試乗を促したい自動車販売店にとっても、広告の視聴率や試乗予約数だけでなく、実際に店舗を訪問したかどうかまで把握できるので位置情報が有用です。

健康的な食材を扱うペットフードのメーカーが、ペットの育成に熱心な消費者を探り当てるため、ペット関連専門施設への訪問者をターゲティングしたところ、CPAが40ドルから11ドルに改善したという例もありました。

高山氏 日本市場では、位置情報を活用した広告配信がまだそれほど普及していないので、まずは小売店の来客数計測が取り掛かりやすい領域かと思います。

少なくとも日本におけるいわゆるデジタルマーケティングは、今でもオンライン上のコンバージョンに注力しているというのが現状です。ただ位置情報を活用すれば、デジタル広告に対するオフライン事業の効果をつぶさに計測できるようになるので、明確なROIを持たないブランディング予算を投じている広告主から高い関心が今後寄せられることになると思います。つまり、位置情報の活用が進めば、これまでほぼオンライン行動のみを対象としたデジタルマーケティングのあり方そのものを一変させる可能性があるのです。

データ関連事業の一層の強化へ

「位置情報」というセグメントが増えるだけの話ではないということですね。

写真5:関屋氏

関屋氏 三井物産の関屋です。Factual社の来店計測機能を使えば、同社が保有する位置情報データを活用した広告配信の効果検証のみならず、各企業が持つファーストパーティーデータを活用した配信の効果検証も可能となります。日次の来店計測レポートを参照し、各広告配信施策の来店寄与度に応じて、広告予算の配分を日ごとに変更することができるわけです。

また日本国内ではほかにも位置情報データを提供している企業がありますが、広告配信で活用するとなると面倒な手続きが必要となり、見積もりを取り寄せるだけでも相当な時間を要すると聞いています。Factual社であれば、5~10分程度でPC画面上でセグメントを作成し、想定広告配信量を確認することが可能。またセグメントの共有も原則24~48時間で可能です。そのため、従来のウェブ閲覧履歴に基づくデータセグメントだけでは十分なリーチが確保出来なかった広告配信施策においても、追加的に位置情報に基づくデータセグメントを加えることで新たな切り口での広告配信を行い、リーチを拡大するといったことができます。

ジョナス氏 ちなみに我々の位置情報データはモバイルのアプリでの活用から始まりましたが、米国では加えてコネクティッドTVやアウトオブホーム・メディア(OOH)も対象となってきました。

吉田氏 三井物産としては、近年はFactual社を始めとする独自のデータを保有する企業との提携を進めている最中にあります。さらにCDP関連事業の実績を有するLegolissを子会社化し、ファーストパーティーデータ活用に関するノウハウの蓄積も本格化してきました。今後はデータ関連事業をますます強化していきたいと考えています。

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長野 雅俊

ExchangeWireJAPAN 副編集長
ウェストミンスター大学大学院ジャーナリズム学科修士課程修了。 ロンドンを拠点とする在欧邦人向けメディアの編集長を経て、2016年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。 日本や東南アジアを中心としたデジタル広告市場の調査などを担当している。