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インフルエンサーマーケティングの変化と今やるべきこと[インタビュー]

普及から定着へと向かうインフルエンサーマーケティング。2019年はどのようなことが起こり、2020年はどう活用すべきか。

昨年お話を伺った、IDH Media株式会社(indaHash)代表取締役 Country Manager 野村肇氏に、今年もお話を伺った。

 

 

Photo : Shunichi Oda

 

 

トライ&エラーを経て役割が定着

―過去1年で市場環境はどのように変わりましたか?

当社として大きく感じるのは2点あります。一つは商流の変化です。2018年5月に日本オフィスを開設して以降、最初の1年間は全体の9割が広告代理店を通してお問い合わせをいただいておりました。ですが、この1年は、全体の7割ほどが広告主からの直接問い合わせとなりました。

その理由として、当社がマイクロインフルエンサーに特化しているということが、広まったことにより、広告主の方からの直接お問い合わせが増えてきたことが挙げられます。

実際にプランニングなど、施策の実施においては、広告主側がイニシアチブを持つようになった様に見受けられます。

 

―広告主側の窓口も変わってきているのでしょうか?

広告主側の窓口は、もともと㏚部門でしたが、その後デジタルマーケティングでの活用が広がるにつれて、デジタルマーケティング担当に広がりがみられました。その後そのトレンドについて揺り戻しが起こり、今は、㏚部門とデジタルマーケティング部門の方が両方打合せに参加いただき、それぞれの視点でご意見をいただき、それぞれプランニングをするというケースも増えています。

 

 

―デジタルマーケティング部門において、ダイレクトレスポンス目的でインフルエンサーを試してみたが、そこには適していないという判断をされているケースもあるということでしょうか?

はい。そのポイントが2つ目の内容となりますが、2019年の前半には、一度はKPI至上主義のキャンペーンを回された広告主も多いかと思うのですが、結果あまり相関性が見られない、あるいは直接的な効果が得られないという経験をされて、ブランディング目的での活用、あるいはブランディングや認知からストーリーをベースに中期的に設計していく必要があるという認識が広まった傾向が見られます。

まず認知をしてもらい、丁寧なコミュニケーションをとっていこうというようなオールウェイズオン型の考え方にシフトしつつあると思います。

ブランドとユーザーとのコミュニケーションにおいて、商品をいきなり買ってくださいというのは、広告であってもインフルエンサーであっても無理があるというのは変わりがないということについての認識が広告主側にも広まってきました。私の感覚では、単発でインフルエンサーと協業して短期的にクリックやサイト訪問者数、コンバージョンなどをリクエストする広告主はほぼなくなってきました。これは広告代理店含めてです。

 

 

テクノロジーにより進むマッチング精度

出典:indaHash

 

 

―indaHashとして、何か新しい取り組みはしていますか?

Amazon社が提供しているAmazon Rekognitionを搭載し、インフルエンサーが過去に投稿した画像や動画をAIで分析して何が映っているかをタグ付けして管理するようにしており、これをベースに運用しています。これにより、広告主はそのインフルエンサーが普段投稿している内容から、自社のブランドやサービスにおいて親和性が高いかどうかを判断することができるようになりました。

スポーツブランドにとっては、一度もスポーツに関する投稿をしていないインフルエンサーにそのブランドのシューズを使ってランニングしてもらうよりも、普段からワークアウトをしたり、ジョギングをしているような投稿をしているインフルエンサーのほうが、親和性が高いのは明らかです。過去投稿のシチュエーションや、物体分析を入れて、インフルエンサーをアサインすることができるようになりました。

AI以外では、過去投稿のハッシュタグを検索し、そのインフルエンサーが、過去にPR投稿が多すぎないか、自社のブランドに関するハッシュタグをつけた投稿をしたことがあるかどうか、あるいは競合に関する投稿が多いかなど、ハッシュタグベースでインフルエンサーを探すこともできるようになっています。

もう一つ、現在機能強化をすすめているのがアフィニティー分析です。これは各インフルエンサーのフォロワーが、どういうブランドに興味があるのかをデータで出すことができるというものです。

あるインフルエンサーと協業しキャンペーンを実施する際に、該当インフルエンサーのフォロワーのうち何%が、普段どういったブランドに興味を持っているか、Top10ブランドをデータとして収集出来る様になりました。このデータはそれらのブランド公式アカウントのフォロー、公式アカウントの投稿に対してのLike数、該当インフルエンサーのフォロワーが自アカウントの投稿でそのブランドの公式アカウントのメンションを何回しているかなどの実際の数から取得しています。これらの傾向をみた上で自社ブランドに親和性の高いインフルエンサーと協業出来る仕組みとなっております。

また、2020年1月よりセルフサーブモデルをリリースし、広告主や広告代理店の担当者が当社のプラットフォームを管理画面から直接運用をしていただくことができるようになりました。これにより、グローバルで約100万人いる当社がネットワークするインフルエンサーを直接検索して、時間を節約し協業することができるようになりました。

また、我々がネットワークしている約100万人の、indaHash登録者以外のインフルエンサーも、当社のプラットフォームを通して探すこともできるようになりました。

もう一つ、当社のサービスにおける変化として、インフルエンサーのチャネルの多様化があります。今でも日本においてお客様からのお問い合わせは全体の90%がInstagramではありますが、YouTubeやTikTok、Twitterなどの案件も増えてきており、動画を活用したインフルエンサーマーケティングにおけるコンテンツ編集や各チャネルの独自の指標も反映したレポーティングなどキャンペーン進行に必要な全てに対応が出来る様になっております。

 

 

マクロからマイクロへ、広がるインフルエンサーのすそ野

―インフルエンサーの活動には何か変化が見られますか?

マイクロインフルエンサーの活用について、広告主側もインフルエンサー側も経験値をつんで慣れてきています。以前はインフルエンサーマーケティングがどういうものであるかを、こちらからインフルエンサーにガイドすることが必要でしたが、今では数多くの案件を経験し、いろいろなところで勉強をされているという印象です。私たちのほうが、教えていただくようなこともあるくらいです。

以前は、フォロワー数を多く抱えているマクロインフルエンサーがプロで、マイクロインフルエンサーがアマチュアというような扱いを受けてきましたが、今ではマイクロインフルエンサーもプロとして扱われているようになっています。

また、広告主側による、マイクロインフルエンサーに対する定義も変わりつつあります。

以前はフォロワー数が数十万人以上であるインフルエンサーがマクロで、それ以下はマイクロというような定義がされていましたが、今ではよりフォロワー数が少ないインフルエンサーがマイクロインフルエンサーとされるようになってきました。また、大手の広告主でもフォロワー数が1万人以下のインフルエンサーと協業するケースが増えてきました。

 

出典:indaHash

 

 

―ちなみにindaHashではマイクロインフルエンサーの条件はどのように設定しているのでしょうか?

地域によっても異なりますが、日本の場合にはフォロワー数が300名以上であれば弊社サービスの登録申請が可能です。

 

 

―広告主の業種の広がりは感じますか?

はい。2年ほど前はFMCG、CPGを取り扱う広告主が圧倒的に多かったのですが、今はより広がりが見られます。当社では、自動車メーカーの案件の実績が増えました。あとは、すでに延期が決まっていますが、今年予定されていた東京オリンピック開催の盛り上がりに合わせて、オリンピックスポンサーや旅行関係の業種が増えました。旅行代理店や航空会社、鉄道会社をはじめ、政府機関や地方自治体、非営利団体などにお使いいただく機会が増えました。

例えば、政府機関が環境問題に対してインフルエンサーと協業し問題提起を行ったり、ユニセフからのメッセージを代弁したり行ってきました。そして今回の新型コロナウィルスではWHOと協力し、感染対策である手指衛生に関する世界的チャリティーキャンペーンなどを行っております。これらの取り組みに象徴されるような社会的に貢献できるものにインフルエンサーが参加することも増えました。

 

 

求められる、業界関係者の情報共有

―インフルエンサーマーケティングにおける課題についてお聞かせください

インフルエンサーマーケティングというのは、プログラマティック広告などのように、システムで自動的に回るものではなく、人がメディアになることもあり、コミュニケーションの行き違いなどによる事故が発生しがちです。

例えば意図的ではないにしても、間違った投稿がなされてしまったりすることもなくはありません。このようなことは防いでいかなければいけません。

このようなことが起こりうるからこそ、これらのリスクを懸念している広告主は二の足を踏んでしまっているのが現状です。

今後、インフルエンサーのすそ野が広がっていくなかで、活動を始めたばかりのインフルエンサーが増えてくると、より一層事故が増えてくるであろうと予想されます。

次に、インフルエンサーマーケティング事業者側の課題として、インフルエンサーにしっかりとした依頼事項や禁止事項のガイドを行わないことによる、事業者起因による事故も増えています。

今後しっかりとした対策を取っていかなければ、インフルエンサーマーケティングがより多くの業種で一般化していくことが難しいと感じております。そこで、インフルエンサーマーケティングのガイドラインの策定や、トレーニングや教育の強化、事業者間の情報共有を目的に、インフルエンサーマーケティングの事業者協会を立ち上げようという話を業界各社と進め始めています。

 

 

不安定な今、ユーザーに寄り添うブランドストーリーがカギ

―コロナウィルスの感染拡大による昨今の社会情勢の変化は、今後のインフルエンサーマーケティングにどのような影響を与えることになりそうでしょうか?

短期的には、携帯電話などのライフライン、ECやゲームなどオンライン完結型ビジネス、また調理などの自宅でのアクティビティに関連する業種が引き続き堅調です。ライフラインがなくなることはありません。また、当社では最近大手EC事業者さんとの取り組みも始まりました。家にいながらも需要がなくならない商材については、引き続きキャンペーンを展開しています。

中期的にはこの時期に何をしたかということが、今後のブランドのスタンスとして見えてくるのではないかと思っています。多くのミュージシャンがライブの代わりにIGTVなどでファンとの繋がりを持ち続ける様に、ブランドも活動を控えるのではなくむしろ積極的に接触していくべきです。例えばコカ・コーラは、各商品ではなくブランドを訴求する取り組みにシフトしているような印象を受けています。自分たちはあなたたちのそばにいつでもいるというメッセージをInstagramで投稿するなどのように、ブランドのスタンスを出すということにおいては、第一原理に立ち返るいいタイミングであり、非常に重要な時期と言えます。ユーザーが自宅にいてSNSの可処分時間が増えている中で、潜在的顧客に対しては商品軸ではなくまずはブランドに関わってもらう、既存顧客には引き続き深く関わり続けもらう必要がある。この活動をなくして、消費が元に戻ったタイミングで選ばれるブランドになることは難しいのではないか。そのように考えております。

それを前提としながらも商品軸でプロモーションをせざるを得ない場合には、「#stayhome」あるいは「#おうち時間」というようなハッシュタグを交えながら不安を一緒に乗り越えていくストーリー作りをしていけるようなキャンペーンであれば、共感を得ることが出来るのではないでしょうか。

一方屋外でのアプローチが必要なブランドや実店舗などを展開するブランドとは、ヴァーチャルインフルエンサー活用や提案も増えています。この流れは特にヨーロッパで多く、人間のインフルエンサーだとロックダウンや外出自粛の中、外でプロモーションを行うことは適切ではありませんが、ヴァーチャルであればCGですので、そこのお咎めはありません。

以前から炎上がないなど、注目をされておりましたが、このタイミングでより一層注目されており、当社でも積極的にサポートしております。

 

 

 

同社では、登録インフルエンサー3500人を対象に実施したアンケート調査をもとに、CORONA(COVID-19)感染拡大後のインフルエンサーマーケティングを展望した調査レポート

「THE NEW NORMAL : HOW SOCIAL MEDIA WILL CHANGE IN 2020?」を公表している。原版(英語版)はこちらから閲覧可能である

なお、日本語版レポート及びサービス概要をご希望の方は以下までお気軽にご連絡いただきたいとのことだ。

 

日本語版レポート依頼先:hajime.nomura@indahash.com

 

 

 

ABOUT 野下 智之

野下 智之

ExchangeWire Japan 編集長   慶応義塾大学経済学部卒。 外資系消費財メーカーを経て、2006年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。 国内外のインターネット広告業界をはじめとするデジタル領域の市場・サービスの調査研究を担当し、関連する調査レポートを多数企画・発刊。 2016年4月にデジタル領域を対象とする市場・サービス評価をおこなう調査会社 株式会社デジタルインファクトを設立。 2021年1月に、行政DXをテーマにしたWeb情報媒体「デジタル行政」の立ち上げをリード。