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「自分の範疇のちょっと横にある小さな仕事」の重要性とは?

一般社団法人マーケターキャリア協会 (MCA) は11月26日、都内にて、マーケターのキャリア育成を目的とした第2期「MCA道場」の第2回講座を開催した。

 

 

 

「情熱と執念のマーケター 片山道場 – わかったふりをするのをやめようよ –」と題した本講座を担当したのは、ダイキン工業株式会社で総務部広告宣伝グループ長を務める片山義丈氏。MCA代表理事で株式会社インフォバーン取締役COOの田中準也氏との軽妙な掛け合いを挟みながら、講義は実施された。

 

同一企業に34年勤務

片山氏は、京都府舞鶴市で製麺業を営む家庭に生まれた。元日以外は休みのない自営業の大変さを目の当たりにしたことと、下請けとして理不尽な対応を多く受けた経験から、週ごとにきちんとした休日があるサラリーマンになり、念願のサラリーマンになっても下請けに対して上から目線の理不尽なことは絶対にするまいという思いを抱くようになったという。

 

また片山氏が学生の頃は、不良が格好良いとされた時代。巷に跋扈していたヤンキーに絡まれない方法を模索した。校内のヤンキーとのやり取りを想像し、「相手がこう反応したらこうしよう」というシミュレーションを日々繰り返していたという。そうした検討作業が、後のマーケティング業務に生かされているのかもしれないと冗談交じりに語った。

 

そしてあまり勉強しなかった大学時代を経て、当時は一般的な求人形態であった先輩の「うちの会社に来て」という誘いに応じてダイキンに入社。以後34年間を同社一筋で勤め上げてきた。

 

大手広告主との扱いの違いに直面

「KPI」や「CPC」といったアルファベットの三文字頭字が大嫌いという片山氏は、自身のキャリアを自覚的に設計したことはないという。学生時代にエアコンを販売するバイトを経験したことで販売の楽しさに目覚め、営業職に就くことを希望したが、実際には総務部宣伝課に配属。希望と異なる業務、広告予算もほとんどない部門であり、上司から「腐るなよ」というなぐさめの言葉を受けながら、自社パンフレットやカレンダー制作、主催ゴルフトーナメントの運営企画などに携わった。

 

その後少しづつ予算は増えたものの、自社と他の大手広告主との扱いの違いを痛感した。例えば、テレビCMでスポット広告を出稿しようとしても、良い枠は大手広告主が優先的に押さえてしまう。そもそも広告予算の量がけた違いにない中で、これらの大手と同じことをやっていては勝負に負けてしまうと割り切り、いかに差別化を図るべきかを考えるようになった。

 

その後、広報担当になっても、広報対応を行う記者クラブからも冷たい扱いを受けた。一番書いてほしいエアコンの記事は業界5位のシェアである当時はまったく書いてもらえない。そこで、やわらかい企画の記事のネタを探す記者に対して「けん玉日本一の社員がいる」といった情報を提供し、それと引き換えにエアコンを取り上げてもらうなど、当時はまだ一般的ではなかったメディアリレーション構築にも注力した。

 

片山流: 広告会社との付き合い方

片山氏による取り組みの一つに、テレビCM出稿料金の値下げ交渉がある。テレビCMは、同一枠であったとしても広告主ごとに異なる出稿料金が設定されていた。普通に発注すると高い料金でしか買えない。そこで片山氏は、密かに実勢価格を調査・算出した上で、広告会社に対して「この額でお願いします」と伝えたところ、「誰が知恵つけた?」と訝し気に尋ねながらもその担当者はしぶしぶ承諾。その結果、広告費の3割減を達成できたという。

 

片山氏いわく、下請けに上から目線の理不尽なことを言うような人間には絶対になるまいとの思いは変わらない。だから社外の企業や担当者をパートナーとしてつねにフラットな立ち場で仕事をしている。ただし「無理と無茶は違う」という。もちろん広告主として上から目線で、相手が立場をなくしてしまうような「無茶」を通そうとしてはいけない。しかし、頑張ったら何とか実現できそうな「無理」を一緒に乗り越えた人たちとはその後に戦友になれる。そう信じて、取引先との付き合いを重ねてきた。より大きな事業規模を持つ企業との競争を戦い抜くためには、外部の力を最大限得ることが必須と考えている。

 

宣伝部にとっての代表的な外部協力者である広告制作担当者との付き合い方にもこだわりがある。CMのクリエイターにはあらゆる情報を共有し、関連の打ち合わせにはできる限り出席してもらう。そしてCMの目的だけを端的に伝え、広告業界では一般的なオリエンテーションは実施しない。優秀なクリエイターに対しては「どんな調味料を入れるべきかではなく、食べた人にどんな気持ちを抱いてほしいかを伝える」方が効果的であると信じているからだ。

 

このようなやり取りを行う上では、当然ながらクリエイターとの信頼関係の構築が鍵となる。頻繁で綿密なコミュニケーションを取りながらも、個人的な利害が発生しているとの誤解が生じることを避けるために、信頼を置くクリエイターとは食事に出掛けることはない。また「生活者の方を見ずに、宣伝部長を見てその人が好きそうなものを用意するだけ」になりがちなコンペも過去10年間実施していないという。

 

新しく大きな可能性を開くために

道場の終盤には、聴講者からの質問に応じた。ダイキン社のゆるきゃらである「ぴちょんくん」の開発経緯を問う質問に対しては、冷夏で新たなCMを制作する予算が確保できなかったため、このゆるきゃらを最大限に活用することになったなどの秘話を披露。一方で「研究者ではなく実際に汗をかいている人に聞く」手法を通じてハローキティを研究することでキャラクター運営のあり方を学び、「ぴちょんくん」の活用にも生かしたなどと説明した。

 

こうした取り組みを通じて、当初は営業志望を示していた片山氏は、真の宣伝マンとして歩み続けることになった。デジタルマーケティングという、会社としての知見が乏しい一方で自身の工夫の余地がある業務領域が新しく生まれたことで、そのキャリアは一層の本格化を遂げた。

 

これらの経験を通じて気付いたのが「自分の範疇のちょっと横にある小さな仕事をこっそりやる」ことの重要さ。「ちょっと横にある小さな仕事」であれば、そもそも誰もやりたがらないし、失敗をしたところで誰も気に留めない。しかも会社がある程度の規模になると、様々な「ちょっと横にある小さな仕事」が生まれる。いきなり大層なことを実現しようとするのではなく、それらの小さな仕事をこなしていくことで社内の信用を蓄積すれば、新しくそして大きな事業に向けた可能性を開くことができるとの考えを披露した。

 

また「自分が考えた仕事」を、「自らの手で実行」して、成功したり失敗したりすることが一番の成長につながるという点を強調。「上司に指示された仕事」を思考停止して実行したり、「自分が考えたが上司に一部手直しされ、腹落ちしていない仕事」をできるだけ少なくすることが重要であり、その意味でも「自分の範疇のちょっと横にある小さな仕事をこっそりやる」場合は、自分の考え通りに実行できることが多く、ぜひおすすめしたいと力説した。

 

2021年1月22日に開催予定の第3回道場では、MCA理事の長田新子氏(一般社団法人渋谷未来デザイン 理事・事務局次長)が講座を担当する。

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長野 雅俊

ExchangeWireJAPAN 副編集長
ウェストミンスター大学大学院ジャーナリズム学科修士課程修了。 ロンドンを拠点とする在欧邦人向けメディアの編集長を経て、2016年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。 日本や東南アジアを中心としたデジタル広告市場の調査などを担当している。