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アプリ広告業界エースが語る、マーケットの新局面[インタビュー]

2020年にMoPub Head of Japanとして「2020年はアプリ広告業界にとって変革の年になる」と当サイトで語り、注目を集めた鈴木哲郎氏。

Facebook、Mopubと渡り歩き、次の活躍の場をアプリ計測ツールベンダーのAppsFlyer社へと移した。その理由や背景となる、同氏が身を置くアプリ広告業界の変化について、お話を伺った。

 

(聞き手:ExchangeWireJAPAN 野下智之)

 

  改めて自己紹介をお願いいたします。

AppsFlyer Japanの鈴木哲郎です。この4月よりセールス部門のDirectorとして新たに参画致しました。過去15年余りに渡りデジタルマーケティングやプログラマティック広告の業務に携わり、過去にはYahoo JapanやFacebookでも広告セールスやビジネスの立ち上げに従事してきました。Facebookにおいては日本オフィス最初の広告セールスとして入社し、広告事業のスタートアップをおこなった後、シンガポールにあるアジア本社に移り、ゲーム広告主のキャンペーンやアプリパブリッシャーのマネタイズを担当しました。

直近では今年の4月までTwitter傘下のサプライサイドのプラットフォームであるMoPubにて、Head of Japanとして日本市場での拡大の指揮を務めておりました。

 

 

前職の事業は急成長を遂げておられる時期であったようにも見えます。なぜこのタイミングで、転職を考えられたのでしょうか?

AppsFlyerへの参画を語るにあたって、まず私とAppsFlyerとの出会いからお話をさせてください。遡ること7年前。まだAppsFlyerの日本法人ができる前に、現アジアManaging Directorを務めるRonen Menseと話す機会がありました。その際にAppsFlyerのビジネスの説明とデモ画面を見せてもらい、アトリビューションツールの観点からプロダクトが非常に良くできており今でも鮮明に覚えているほど印象深いものでした。当時私はシンガポールでFacebook広告の市場拡大に関わっていた為チームを離れることはできなかったのですが、AppsFlyerのことはずっと頭に残っておりいつか機会があればと考えていました。

その後、ヤフー時代の上司であった大坪(現AppsFlyer Japanカントリーマネージャー)が参画したこともあり、前職でも一緒にマーケティング活動やウェビナーを行うなど、コミュニケーションは続いていました。

転機となったのは昨年のことです。2019年より参画したMoPubはおかげさまで1年余りの間で大きく成長を遂げることができました(2020年6月記事参照)が、その間に業界には大きな2つの変化があり、AppsFlyerとそのビジネス領域への関心が膨らんでいきました。

変化の1つ目はコロナ禍がもたらした働き方や、ユーザーのアプリ利用に対する可処分時間の変化がもたらしたデジタルマーケティングにおける環境的変化です。もうひとつは現在進行系で起きているAppleのATTの開始などに代表される構造的変化です。

特に後者は既存のデジタルマーケティングのルールセットを変えざるをえない大きな局面を今まさに迎えようとしています。このデジタルマーケティングが転換期を迎えるタイミングで、渦中にあるモバイルアトリビューションの分野に大きなビジネスの機会を感じ、数年間抱き続けてきたAppsFlyerへの思いに火がつきました。

また10年前、まだモバイルアプリも存在せず、バナー広告やリスティング広告が主流であったデジタル広告の黎明期にともにビジネス成長に奔走した大坪と、この大きな変化の渦中で再びタッグを組めることに不思議な縁を感じております。今後AppsFlyerから業界を一緒に盛り上げていくことができると思うと非常に楽しみです。

自分のチャレンジのために、好調なビジネス成長期にも関わらず、途中で去ることになってしまったMoPubのクライアントの皆様にはご迷惑をおかけし、非常に申し訳なく思っております。また別の機会において、皆様のお役にたちたいと思っております。

 

 

AppsFlyerでの鈴木さんの新しい役割についてお聞かせください。

弊社には様々な業界から集まった経験豊富なセールスがおります。Directorとして彼らをリードし、イノベーティブなAppsFlyerのソリューションを市場に紹介していくとともに、日本市場でのビジネスをさらに拡大していくのが私の役割です。

私自身、今まで15年あまりに渡り変化の早いアドテク業界の中で代理店や広告プラットフォームなど様々な立場で経験を積んできました。特にFacebookやTwitterなどプラットフォームでは、広告主様と直接お話をするデマンドサイドから、媒体の収益化を後押しするサプライサイドまで両方のソリューションに携わる機会をいただきました。

御存知の通り、アドテクの世界においてデマンドサイドとサプライサイドはコインの表と裏のようにお互いが関係しあい複雑な広告エコシステムを支える根幹となっており、この中で経験し身につけてきたことが、モバイルアトリビューションを提供するAppsFlyerの成長をさらなるステージへと進めることができると自負しております。

 

AppsFlyerのみならず、アプリ広告業界の計測ツール事業者は、AppleのIDFA利用制限に端を発する不透明な環境変化おいて、最も影響を受けている立ち位置であると思われます。貴社として、現状をどのようにとらえておられるのでしょうか?

最も影響を受けている、と言われることも確かにあるのですが、実はAppsFlyerはそこまで影響を受けてはいないんですね。確かに、計測ツール各社にとってAppleのIDFA利用制限に伴う変更やSKAdNetworkという広告効果を測る新たな審判の登場は影響が多いと思いますし、環境変化についても未知数の部分があると言えます。しかし、実は弊社ではAppleの発表が行われた何年も前からユーザープライバシーを重要視し、最も優先すべき事項としてこの領域に投資を続けてきました。Appleが先日フィンガープリントを利用している計測SDKを理由にアプリのアップデートを拒否しましたが、弊社のSDKが一切拒否されなかったのは、弊社がフィンガープリント技術を利用せず、すでに確率論的モデリング(Probabilistic Modeling)に移行していたからです。

振り返ってみると、この10年でテクノロジーの発展とともにマーケティング活動において多くのことが可能となりましたが、ユーザーのプライバシーへの配慮よりも、技術の発展が優先されてきた部分は否めません。改めてユーザープライバシーを重視する方向へ舵が切られるのは当然の流れだと考えています。

弊社が2月にビジネスサービス・ソリューションの評価を行うG2において、すべてのマーケティングプロダクトの中でNo.1の評価をいただいたのも、継続したプロダクトへの投資に加え、我々のユーザープライバシーを重要視した方向性を評価していただいた結果だと理解しております。

今回の環境変化は、私たちが行ってきた取り組みをエコシステムの中の皆さんに知っていただけるいい機会だと考えています。

 

AppleのIDFA利用制限に関わる変化において、業界内の計測ツール事業者はすべて同じ方向性に対応のかじを切られているように見受けられますか?それとも、それぞれ独自の方向性を目指しているのでしょうか。もし後者の場合、貴社はどのような方向性に向かわれるのでしょうか?

少し先にも触れましたが、同じように見える方向性も、実は各社によって大きく異なります。ユーザーがIDFAの利用を許諾しなかった場合でも、一部の計測事業者はフィンガープリンティングを使ったユーザーの特定を行っていましたが、AppsFlyerは、ユーザーを特定しない確率論的モデリングを導入しています。これは単純に計測に関わる技術の違いということではなく、IDFAが取得できなくなったとしても引き続きそれ以外のユーザーデータを利用して特定を行っていくか、それともユーザーデータ以外のアプローチを用いて広告パフォーマンスの測定を行うのか、根本的なデータポリシーに関わるスタンスの違いだと言えます。

また、SKAdNetwork(以下SKAd)についても各社の対応状況は異なります。ご存知の方も多いと思いますが、SKAdというのはAppleが提供する新しい効果計測の仕組みです。

今後、基本的には従来通りの測定方法とSKAdを使った測定を併用してパフォーマンスを測っていくことになると思いますが、現状では連携済みのSKAd対応メディア数は各社によってもステータスにまちまちです。また、SKAd自体にはAppleから専用の管理画面が提供されないためそれぞれのメディアにアクセスして成果の確認を行う必要がありますが、このインターフェースの提供も計測ツール各社によって対応状況が異なります。AppsFlyerではSKAdの利便性を高めるために、専用の管理画面もどこよりも早く準備を行い、弊社のプラットフォーム内で従来どおりお使いいただくことが可能です。

進化をし続けるこの業界において、弊社としては今後も普遍的な方向性として何よりもユーザーのプライバシーとデータ保護を優先すべきだと考えます。弊社では「データの正確性」「コミットメント」「プライバシー・セキュリティ」「公平性」という創業以来最も重要に考えている4つの柱がありますが、今後もこの4つを中心にマーケターの皆様を支援していきます。

 

 

IDFAの一連の対応において、アプリマーケターがいまするべきこととして、何かアドバイスが出来ることがあればお聞かせください。

まずは現在行っているマーケティングフレームワークを今一度見直してみることをお勧めします。これまでは、アプリマーケティングにおいてはユーザー獲得並びにリエンゲージメントにおいて「定石」とも呼べるアプローチがありました。しかしそれらは基本的にIDFAをベースとしたもの。つまりATTポップアップでユーザーがNoを選択(オプトアウト)した場合、その方法は活用できないことを意味します。

なぜユーザーはNoを選択するのか。先日AppsFlyerが発表したレポートにそのヒントがあるように思います。これはATTポップアップをテスト的に実装したアプリでどのくらいのユーザーがオプトインするのかを統計的にまとめたレポートで、平均して41%のユーザーがオプトインしたというデータが出ているのですが、それ以上に興味深いのは、アプリのジャンルによってそのオプトイン率が全く違うことです。ユーティリティジャンルは平均以上の45%という高いオプトイン率を出す一方で、ソーシャルカジノゲームは21%という非常に低い率となりました。

これは、ユーティリティアプリが他で代替できない価値を提供し、そこにユーザーとのエンゲージメントが構築されていたからではないかと思うのです。一般的にカジノゲームをプレイするユーザーは「勝負に勝つ」ことを至上命題としており、必ずしも「そのアプリ」でないといけないわけではありません。また同様にカジュアルゲームもオプトイン率は25%と低かったのですが、やはりそのゲームでないといけない理由が少なかったのかもしれません。オプトイン率を上げるためには、ユーザーに代替不可避な価値を提供すること、そしてその体験を通じてユーザーとのエンゲージメントを深めていくことが肝になってくると思います。

ユーザーエンゲージメントを高めるのは、何もアプリの中だけとは限りません。ウェブ上でも行えますし、オフラインでも行えるでしょう。一度既存のフレームワークを破壊し、アプリやスマートフォンの中で閉じないアプローチを通じて、ユーザーとコミュニケーションを行ってみることを考えても良いのかもしれません。

また効果計測においても、SKAdNetwork(以下SKAd)という従来存在していなかった計測システムが登場します。ATTに同意したユーザーもしていないユーザーも成果を計測できる点においては素晴らしいのですが、従来我々のようなMMPが提供していたようなROASやLTVの計測はSKAdにおいては行うことができません。多くの広告主は、KPIとしてROASやLTVを追っていらっしゃったと思いますが、そのデータをSKAdでは取れないということです。またSKAdではデータもリアルタイムではなく、24時間以上経ってからのレポーティングとなります。ただ幸いなことに、多くのメディアが従来の計測方法にも対応しており、SKAdでしか計測できないのはFacebook、Google、Twitterなど一部のメディアのみになります。ですので、SKAdと既存のMMPによる計測を使い分け、またよりシンプルなKPI(CPIなど)を導入するなど、組織としてのゴール設計をこの機会に見直してみるのも検討する価値のあることだと思います。

 

個人として、またAppsFlyerとして今後注力していかれたいことについて、お聞かせください。

ここ10年ほどのデジタルマーケティングの歴史において、アトリビューションの仕組みとあり方にここまで注目が及んだことは初めてだと思います。そして、その中でAppsFlyerが変わらず取り組んできたユーザープライバシーへの取り組みについて、エコシステムの中にいる皆様に理解していただける、まさにそのタイミングがきました。

先に述べたように弊社としてのスタンスは今後も変わりません。常に中立の立場で、公平性・透明性とプライバシー・セキュリティを保ってパフォーマンスを計測する真のアトリビューションプロバイダーとして皆様のサポートをすることです。

また、個人としては今まで経験した国内外でのデジタルマーケティングのノウハウを活かし、クライアントの皆様のビジネスの成功に役立てたいと考えています。

具体的に申し上げると、以前働いていたFacebookでは、海外に在籍しながら日本の広告主様のグローバル展開のお手伝いや、海外企業の日本進出のサポートをしてきました。

その際、海外から見た日本、日本から見た海外など多くの視点から物事を客観的に捉えることが求められ、この視座を持つことがクライアント様の成功にとって重要な役割を果たしてきました。

コロナ禍により日本でもデジタルトランスフォーメーションが進み、今は物理的な移動は制限されているものの、ビジネスにおいては海外との垣根は低くなったと感じます。アフターコロナにおいても日本企業の海外展開やインバウンドビジネスの需要は更に拡大が期待されます。

そういった中で自分が経験してきた様々な局面を結晶化できるタイミングだと感じております。そして、広告主とパブリッシャーからも一歩離れた中立な立場からものごとを俯瞰し、計測を行うアトリビューションの立場だからこそ、皆様に提供できるバリューがあると考えています。

冒頭で申し上げたとおり、今まさにデジタルマーケティング業界は大きな局面を迎えています。このビッグウェーブを様々な立場の皆様と一緒に手を取り合い、チューブをくぐっていきたいと思っています。

ABOUT 野下 智之

野下 智之

ExchangeWire Japan 編集長   慶応義塾大学経済学部卒。 外資系消費財メーカーを経て、2006年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。 国内外のインターネット広告業界をはじめとするデジタル領域の市場・サービスの調査研究を担当し、関連する調査レポートを多数企画・発刊。 2016年4月にデジタル領域を対象とする市場・サービス評価をおこなう調査会社 株式会社デジタルインファクトを設立。 2021年1月に、行政DXをテーマにしたWeb情報媒体「デジタル行政」の立ち上げをリード。