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IDFA制限は、アドテクエコシステム再生のチャンス

グーグルは今年3月にサードパーティCookie廃止に向けた新たな計画を発表したが、アップルもその直前の1月、2021年春のiOS 14.5ベータ版リリースに合わせて、長年検討してきた広告識別子(IDFA)の取得制限を開始すると発表した。

アップルはまた同時に、広範な変更の一環として、プライバシー保護フレームワーク「ATT(App Tracking Transparency)」の導入も発表した。ATTにより、ユーザーはサードパーティアプリでのデータ追跡を許容するかしないかを選択できるようになる。

 

初期の混乱と反競争の懸念

この変更による影響が広範囲にわたることを、クリアコード(Clearcode)のCEO、ピオトル・バナシュチク氏は次のように説明する。「アップルのIDFAの変更は、プログラマティック広告のプライバシー重視に向けた新たな動きを示すものだ。これらの変更はiOSのモバイルアプリ内広告に即座に影響を及ぼし、iOS 14.5にアップデートするiOSユーザーが増えるにつれて、状況はさらに悪化するだろう」

「広告主にとっては、ターゲットオーディエンスの特定とリーチ、リターゲティング広告の展開、広告パフォーマンスの測定、広告インプレッションとクリックによるアプリインストールの効果測定が、以前よりも困難になる。パブリッシャー側も、オーディエンス層を特定しづらくなる上、CPM(インプレッション単価)の低下にも直面する可能性が高いだろう」

「アップルは自社が導入したSKAdNetworkを通じてアプリのインストールをアトリビュートできるソリューションを提案しているが、入手できるデータはIDFAで現在取得可能なものに比べ、インサイトと価値の点ではるかに劣る。しかし、iOSでのアトリビューションを継続していくにはこれが唯一の選択肢なので、まだ手をつけていないなら試す価値はある」

自分のデータがどう利用されるかについて、ユーザーに選択肢を与えるべきではない、などと主張する人はほとんどいない。この点こそが、多くの業界関係者にとっての問題の核心なのだが、アップルが自社システムの背後でアトリビューションのルートを変更し、サードパーティに対し制限を課す一方で、自分たちはユーザーの行動を完全に把握できるようにしていることが、大勢の人々を憤慨させているのだ。

アップルは、反トラスト法の調査にひるむどころか、むしろ個人や企業のデータを蓄積する取り組みを強化しているようだ。2021年2月には、ゲーム開発企業エピックゲームズ(Epic Games)との法廷闘争に際し、PCゲーム販売プラットフォームSteamを運営する未公開企業バルブ(Valve)を法廷に召喚し、詳細な財務書類と同プラットフォームで取り扱う3万点を超える全ゲームの売上情報を提出するよう求めた。

しかしバルブはアップルとエピックゲームズとの闘争には一切無関係だ。筆者(法的な問題についてはアガサ・クリスティの『名探偵ポアロ』のエピソード程度の知識しかない)に言わせれば不可解な動きだが、アップルのこうした要求は、自前のゲームプラットフォームArcadeがあるにもかかわらず、一部ではあるが受け入れられた。アップルがArcadeをクラウドゲーミングへと参入させれば、Steamを相手にPCゲームの価格競争をすることになる、とはいえ提出された価格情報をもとにArcadeでの販売価格をSteamよりも下げるようなことは、多分しないのだろう。

 

アップルとフェイスブック、対照的なインターネットのビジョン

巨大テック企業は半ば定期的とも言える間隔で消費者と業界全体を怒らせているが、互いの領分を犯すことはおおむね避けてきた。むしろ、iPhoneなどのデフォルト検索エンジンにしてもらうためにグーグルがアップルに年額120億ドルを支払いアップルがアマゾンの手数料支払いを優遇し、グーグルとフェイスブックが反トラスト法における規制当局対策で協力する秘密協定を結ぶといった協調行動も散見されている。

しかし、アップルがプライバシー保護をめぐる新たな取り組みでフェイスブックを怒らせたのをきっかけに、両社の関係が悪化するなか、フェイスブックがアップルを公然と非難する事態となっている。こうした衝突は今後も続くだろう。インターネットの未来がどうあるべきかについて、両社のビジョンが根本的に異なるからだ。

モバイル広告プラットフォームを手がけるアドコロニー(AdColony)のプロダクト戦略ディレクター、アラスデア・プレスニー氏はこう説明する。「アップルは消費者に対価を払ってほしいと考えているが、それはApp Storeを通じて厳選された高品質のコンテンツを提供しているとの自負があるからだ。アップルの立場からすると、これによって消費者の大切な決済データや個人情報を広告主に受け渡すのを防げているという理屈だが、一方でアップルはすべての課金に対して手数料を徴収するので、それが消費者の支払う料金の上昇につながっている可能性もある」

「フェイスブックなどのプラットフォームは、広告を見るという形で、消費者がデジタルコンテンツの対価を支払うことを望んでいる。この仕組みにより、ユーザーはターゲット広告を通じて無料コンテンツを見つけやすくなり、コンテンツ制作者とプラットフォームは広告から収益を得られる。それと引き換えに、フェイスブックなどのプラットフォームは、ユーザーのオンライン行動をすべて追跡して広告アルゴリズムに反映させるので、広告を通じたコンテンツ発見が一層容易になる」

「アップルは2020年にシンプルな解決策を思いついた。すなわち『追跡されることを望むか望まないかをユーザーに尋ねてみよう』という策だ。ただし、アップルの消費者への問いかけの真の意味はこうだ。『コンテンツの対価をどういう形で支払いたいか?』」

 

焦点の変化

IDFAの取得制限は、例年ならアドテク関連メディアを大きく騒がせたはずだが、2021年にはさらに異例の状況が重なっている。それは、グーグルによる同社のアドテクスタック全体でクロスドメイン識別子のサポートを終了するという、甚大な影響を伴う動き。また世界の市場がコロナ禍から徐々に立ち直りつつもいまだに続く不確実性。近づく反トラスト法調査と訴訟の数々。そして言うまでもなく、中国のコングロマリットが回避策を講じることにより、アップルの計画が台無しになるかもしれないという事態だ。

先行きは不確かだが、ひとつはっきりしていることがある。それは、デジタル広告を再設計する絶好の機会を迎えているということだ。思い描くのは、革新的なアドテク企業、パブリッシャー、消費者が、ユーザーの一挙手一投足を追跡することなく、GAFAにも依存しない新しいエコシステムの恩恵を受けられるような未来だ。

アイオタ(Eyeota)の共同創設者でCEOのクリスティーナ・プロコップ氏はこうまとめる。「目前に迫るIDFAの変更については、ID分野で現在進行中のあらゆる要素を含めた広い文脈で考えることが必要だ。IDFAの変更に、来たるChromeのCookieベースの追跡の廃止、そして言うまでもなく、グーグルがいずれモバイル分野でアップルに追随して独自のデバイスレベル広告識別子(GAID)を廃止する可能性が高いことも含め、マーケターとアドテクのエコシステムはIDへのアプローチを全面的に見直す必要がある」

「こうした移行は結局のところ、グローバルなアプローチを長く続けてきた企業に有利に働くだろう。つまり、欧州や他の地域でより厳格に実施されているプライバシー保護政策にすでに対応してきた企業ということだ。ブランドとマーケターはこの先、プライバシーを優先する独自の広告ソリューションと慣行を取り入れながら、欧州のパブリッシャーがすでに採用しているユーザーの同意とオプトインの仕組みに追随することになるだろう。さらに、透明性と選択肢を提供しながら、デジタルの消費者が好むツールや特典と引き換えに、有意義な方法で彼らをエンゲージするためのソリューションを提供するオプトインモデルを構築する真の機会があるだろう」

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本記事は、ExchangeWire.comに掲載された記事の中から日本の読者向けにサイバー・コミュニケーションズが翻訳・編集し、ご提供しています。

株式会社サイバー・コミュニケーションズ(CCI)
日本のインターネット広告誕生の1996年に設立。以来、電通グループのデジタル広告関連事業者として、デジタルマーケティング全般のサービスを展開、数百の媒体社・広告会社との取引と共に、業界を牽引し、最先端のマーケティングサービスを通じて、クライアントと ユーザーのコミュニケーションを実現している。