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FLoC、ATT、そしてコアウェブバイタル:独立系テック企業にチャンスはあるのか

いつものことながら、アドテクを、業界外の人に説明するのは幾分難しい。「実際のところ何をしているのか? プログラマティックとは何か?」といった問いに答えるはめになったことが誰にでもあるはずだ。そしてこの数カ月の出来事により、こうした問いはもっと増えるに違いない。アドテク担当者のホームオフィスに置かれたダイニングテーブルや急遽購入したデスクの上で「FLoC」が繁殖しているのをみんなが目にしているからだ。「FLoC」それは、何カ月ものあいだ、空き時間にハトやカモメを観察する以外何もやることがない時間を過ごし、ついに現実的なバイイング手段を失ってしまったパートナーや同居人を納得させるためのたった一つの言葉だ。

しかしながら、グーグルによるFLoCの導入とプライバシーサンドボックスの拡大、そしてサードパーティCookieの廃止がもたらすものは、鳥たちを見ていて思い浮かぶ単なる戯言ではない。GAFA間の衝突、コンテクスチュアル広告の復活、IDソリューションを巡る懸念、そして何より消費者の信頼を取り戻すチャンスなど、プライバシーを巡るさまざまな問題が渦巻き始めている。業界の現状に切り込んだこの特集記事では、ExchangeWireの編集者、マット・ブロートンとグレース・ディロンが、グーグルの動向が業界に与える影響やGAFA主導の他の取り組みとの比較、独立系のアドテクやパブリッシャーのチャンスなどを評価する。

 

類は友を呼ぶ……鳥にちなんだソリューション

まとめるとこうなる。FLoC(Federated Learning of Cohorts:コホートの連合学習)では、サードパーティCookieを用いて個人を追跡する代わりに、閲覧行動に基づいてユーザーをコホート(グループ)に分ける。そして広告は、サンドボックス内にある、これもまた鳥にちなんだ「TURTLEDOVE API」(FLoCと同じ発音のflockは「鳥などの群れ」、turtledoveは「キジバド」を意味する)によって、個人ではなくクラスターをターゲティングすることにより匿名で配信される。

表向き、「クッキー(Cookie)」から「鳥(FLoC)」への変更は、ユーザープライバシーを保護するためだが、規制当局はプライバシーと独占禁止の両面から問題視している。欧州では、サイト単位でユーザーを自動登録するのはGDPR違反ではないか、といった議論があり、FLoCの初期トライアルがまだ実施されていない。また英国では、デジタル広告の競争が阻害されるとの懸念から、競争・市場庁(CMA)がプライバシーサンドボックス全体の調査を進めている。

FLoCとTURTLEDOVEの他にも、今はグーグルをはじめとするエコシステム内の企業によるさまざまな提案が検討されており、その中には、前述の懸念に対処できるかもしれないものがある。たとえば、1plusXが提案するSWAN(Storage With Access Negotiation:言うまでもなくswanは「ハクチョウ」を意味する)は、パブリッシャーがブラウザ内オークションで利用できる情報の範囲を拡大できるよう、ファーストパーティデータの定義を拡大するとともに、プライバシーを重視したFLoCのフレームワークのなかでサードパーティデータを共有できるようにすることを目指している。

SWANでは、共有オーナーのドメインは、そのドメイン間でデータ共有が可能だが、ドメインを横断して収集、共有された情報へのアクセスは「制約された署名のある事前登録スクリプト」に限定される。署名者はこの情報を使い、FLoC内でホストされる共通の関心ベースのコホートを作成することができる。

ワールド・ワイド・ウェブ・コンソーシアム(W3C)はSWANを歓迎しているが、セカンドパーティデータ共有の価値が下がるため、パブリッシャーにはマイナスになるとの懸念もある。また、こうした提案は、グーグルが明言したサードパーティのトラッキングを完全に廃止するという意図にも、グーグルが自社エコシステムの促進のために長年にわたって実施してきた無数のアクションにも反している。

コホートを監視し、変更する能力をグーグルだけが持つことも、やはり「プライバシー」の名の下に、慎重を期することへの十分な理由になる。それでも独占禁止法違反の訴訟が熱を帯びるなかで、はたしてSWANのような提案が支持されるのかは興味深い。

FLoCの現状に話を戻そう。GAFA企業の損益計算書にざっと目を通すだけで、サードパーティベースのターゲティング時代に大きな成功を収めてきた企業をいくつも目にすることができる。しかし、サードパーティベースのターゲティングは、消費者に有害なだけでなく、プレミアムパブリッシャーや独立系パブリッシャーの資産が減り続ける結果にもつながっている。こうしたパブリッシャーは、ファーストパーティデータをかなり持っていることが多く、その場合、ファーストパーティデータによるターゲティングへの移行はプラスでしかない。

こうしてパブリッシャーと、独立系アドテクプロバイダーやプラットフォームとのパートナーシップの道が開かれる。たとえば、プライバシーを侵害しないコンテキストデータによって、パブリッシャーのデータをさらに強化することができる。

フューチャー(Future)UKの最高売上責任者(CRO)ザック・サリバン氏は、ExchangeWireの取材に対して次のように語った。「全体として、グーグルがサードパーティCookieを廃止するのは良い変化だ。プライバシーが優先され、ベンダーによるサードパーティデータの搾取が止まる。

プレミアムパブリッシャーにはすばらしいファーストパーティデータがあるので、ターゲティングソリューションはこれからも有用だろう。メディアバイヤーは、メディアオーナー側との関係を深めて、中間業者を使わず直接的に協力する必要がある。よって中間業者は、市場でふるいにかけられることになるだろう」

 

グーグル対アップル

グーグルのFLoCとアップルのATT(App Tracking Transparency)は、ユーザーにより安全なサービスを提供するというだけでなく、インターネット大手のどこが、プライバシーを最優先に考えているのかを証明するという側面もある。グーグルやアップルのような大手テクノロジー企業は、世界の規制当局に対して、手元にある膨大な情報を慎重に扱っていることを納得させるだけでなく、世界中の消費者に対しても、その信頼を取り戻さなければならないのだ。

傍目には、アップルは、ユーザーデータの問題に最も敏感だと思わせる戦いに、勝利しつつあるように見える。アップルは(いつもの一風変わったマーケティングキャンペーンで)プライバシー重視という評判を得ており、実際、ATTでユーザーの同意を中心に据え、ユーザーの許可が得られるまで個人に関する情報をアプリが収集できないようにしている。この条件は、iOSで利用されるすべてのアプリに適用され、トラッキングを許可するアプリをユーザーが選択できる。アップルの開発者向けサイトには、「ユーザーからの許可がない場合はトラッキングができず、デバイスの広告識別子の値がすべてゼロになる」と書かれている

一方で、FLoCはユーザーの同意を中心に作られてはいない。プライバシーサンドボックスは広告主とその技術パートナーに向けたものであり、グーグルは、それ以外の人々を納得させる努力はほとんどしていない。グーグルは、今や主要アドネットワークの1つであるため、自社インフラがネットワーク広告売買に与える影響に関心を持っていることは、驚くべきことではない。

だが、アップルもやはり企業である以上、ユーザーのセキュリティ観念にすべてを捧げていると考えるのは大きな誤りだ。アップルの孤立したエコシステムの中に、アップル独自の広告測定ネットワーク「SKADNetwork」があることを忘れてはならない。

SKADはユーザーレベルとデバイスレベルのデータが除外されており、プライバシーに対する配慮がより充実しているものの、iOSの広告バイイングにおいては、アップルが主導権を握ることになる。クリアコード(Clearcode)のCEO、ピョートル・バナスチック氏によると、ATTによってアップルは、「iOSユーザーの、IDFAの収集と利用に対する同意はATTのフレームワーク経由で得るようアプリ開発者に求め、広告のパーソナライズと広告収益に大鉈を振るった」と述べている。

テクノロジー大手のアップルは、アップル製品でキャンペーンを実施するには欠かせなかったIDFAをATTに組み込むことで、アドテクのエコシステムに対する自社の力——―哲学という隠れみので競争を覆い隠しているが―——を証明した。

だからといって、プライバシーフレームワークの背後にある意図において、グーグルのモラルが高いというわけではない。グーグルは3月、Cookie廃止後にChromeで何らかの代替IDを開発することもサポートすることもないと発表し、追い詰められたアドテク陣営を再び震撼させた。将来的には法律によって早期に使用できなくなる可能性が高いためだとしているが、この決定は、ポストCookieのさまざまなテクノロジープロバイダーによるターゲティングソリューションを事実上、無効にするものであり、大量のウェブサイトが主要な収益源を失うおそれがある。

ルシッド・プライバシー・グループ(Lucid Privacy Group)の創業者でプリンシパルのコリン・オマリー氏は、「グーグルの目的はユーザーデータのセキュリティ強化であり、サードパーティのアドテクコミュニティの中核技術を無効にすることでこれを進めようとしている」として、次のように述べている。

「消費者のデータを活用できる企業が激減することになるが、ユーザーのプライバシー全体からすると本質的にはプラスだ。また、市場の力がグーグルのブラウザであるChromeの手に委ねられ、ファーストパーティや、ファーストパーティデータと密接な関係にある技術パートナーの活用が増える。皮肉なことにこうした大きな変化も、消費者からすると、その違いはほとんどわからないだろう。消費者が目にする広告の数は変わらない。また、広告が消費者の興味関心に関する情報を活用するのも、過去の行動をリターゲティングするのも同じだ。基盤となるデータは、背後で動く百以上のアドテク企業ではなく、彼らのコンピューターの中のブラウザによって管理されている」

「アップルのアプローチのほうが根本において画期的であり、ユーザーの側からも明白だ。アプリ経済は、さまざまな商業利用のためにアプリを横断してデータを蓄えるサードパーティとともに発展してきた。それがiOS 14.5からは、IDFAの恩恵を受けてきたあらゆるサードパーティがいったん消滅する。IDFAが必要な場合は、デバイスごとに1回だけ同意を要求できる。初期のオプトイン率は40%前後で推移しているが、時間が経つにつれて変わるかもしれない。このIDFAのオプトインは、消費者の目に付きやすい一連の通知と、それに伴うプライバシーに関する情報開示がセットになっており、消費者に自分がコントロールしていることを実感させてくれる。アップルもグーグルと同様に、SKAdNetworkの新しいアトリビューションレポーティングAPIを利用して、自社のレール上にある広告エコシステムをコントロールしようとしているが、この拡大する我々の広告ビジネスをよく見てほしい。中核であるIDFAの同意ダイアログは非常に簡素で、情報に基づく判断には役立たないと言っていいほど単純化されており、GDPRの要件を満たすにはとうてい物足りない。アップルは、プライバシーに関して完全にオープンだという姿勢を消費者に見せるための最適化を進めながら、その陰で自分たちがコントロールする広告エコシステムを構築しているのは明らかだ」

こうした結末が避けられないものだったかどうかはさておき、無視できない事実がある。グーグルが、中核をなすターゲティングの代替策を不要なものとし、同時にCookie廃止後に有効なグーグル独自のツールボックスを開発すれば、それでなくても不当なまでに強まったオンライン広告インフラ対する同社のコントロールは、さらに強化される。同様に、ほんとうに規制の強化によって、アップルがATTや何らかの代替策を導入せざるをえなくなったのかどうかはともかく、アップルが業界における牙城を強固にするために、その立場を利用したことは明らかだ。

Zeotapでグローバルパブリッシングおよびプラットフォームパートナーシップ担当のシニアバイスプレジデントを務めるマット・バラシュ氏は、「表面上、FLoCとATTの導入は消費者に焦点を当てた取り組みに見えるので、テクノロジー大手の影響増大を懸念している一般の人の目には、グーグルとアップルがプライバシー面でも光り輝いて見えるだろう」として、「実際は、どちらの取り組みもこの業界を2大プラットフォームにますます依存させるものであり、レポーティングが遅れがちな集計済みのデータセット、リーチとフリークエンシーをめぐる適切な説明責任に関する課題、何カ月もかけて仕分けなければならない大量のTBD(未定項目/未決項目)がついて回る」と結論づけた。

 

目立たないコアウェブバイタル

サードパーティCookie廃止は、当然ながらアドテク界で耳目を集めているが、その一方でグーグルはさらなる別の変更を推し進めている。従来は検索順位の変化を解釈したいなら、結果論や占いに頼ることが最良の方法だとしていたグーグルが、2020年11月に珍しくオープンなところを見せた。2021年3月から、あの「コアウェブバイタル(Core Web Vitals)」をページ体験のシグナルに組み込み、それを検索順位の基盤にすると発表したのだ。

 

まず注目すべきバイタルは次の3つだ

  • 読み込みスピード:LCP(最大コンテンツの描画)によって測定。数値は秒で表す。
  • インタラクティブ性:FID(初回入力遅延)によって測定。数値はミリ秒で表す。
  • 視覚要素の安定性:CLS(累積レイアウト変更)によって測定。ページコンテンツの移動がユーザーからの見え方に与える影響と、そうしたコンテンツの移動距離からスコアを算出する。

オーガニック検索ランキングでの減少したポジションを争っているパブリッシャーはすでに、コアウェブバイタルにマイナスの影響を生じさせるサードパーティのテクノロジープロバイダーを排除しつつある。ChromeでサードパーティCookieの廃止が進むにつれて、コアウェブバイタルの導入は、多くの大手パブリッシャーに好意的に迎えられている。しかしながら、小規模な独立系やローカルパブリッシャーは、サイトが要件を満たすようにするため、エージェンシーパートナーの協力が必要になるだろう。

フューチャーのサリバン氏は次のように述べている。

「コアウェブバイタルの導入は自然な進化のように思える。グーグルはユーザー体験全体を向上させ続け、ある意味で標準化を推進しているからだ。グーグルがファシリテーターを務めていた「Coalition for Better Ads(CBA)」での同様な作業に続くものであり、グーグルが優れたウェブサイトやコンテンツを形成するものの基準を広げていくことで、優れたものになる。この動きは、変化に適応するためのリソースとプロプライエタリな技術を持ち、ユーザーエンゲージメントに関する独自データを持つことで、質の高いコンテンツとユーザー体験を保証するプレミアムパブリッシャーにとっては有益なものとなるだろう」

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本記事は、ExchangeWire.comに掲載された記事の中から日本の読者向けにサイバー・コミュニケーションズが翻訳・編集し、ご提供しています。

株式会社サイバー・コミュニケーションズ(CCI)
日本のインターネット広告誕生の1996年に設立。以来、電通グループのデジタル広告関連事業者として、デジタルマーケティング全般のサービスを展開、数百の媒体社・広告会社との取引と共に、業界を牽引し、最先端のマーケティングサービスを通じて、クライアントと ユーザーのコミュニケーションを実現している。