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透明性に関するスタンダード、任意から必須へ:IABオーストラリアの提言

インタラクティブ広告協議会(IAB)オーストラリアのテクノロジー責任者ジョナス・ジャーニマギ氏がExchangeWireの独占取材に応じ、英国広告主協会(ISBA)が2020年に発表したプログラマティックサプライチェーンに関する調査結果を分析し、業界はどのように対応すべきかを考察した。

 

 

 

2020年5月、英国でISBAとPwCが約1年半をかけてまとめたプログラマティックサプライチェーン透明性レポートが、公表された。レポートの意図は、ISBA会員たちの疑問に答えること──それは、自社が関わるプログラマティックサプライチェーンはどのようなもので、ワーキングメディア(純粋メディア費用)という観点からその価値がどのように評価されるべきか、という疑問だ。

一見すると、調査結果は決して快いものではなく、各国の業界メディアの見出しは必然的に、ランキングの機能不全、不正の横行、不信感の増大といった言葉で埋め尽くされた。しかし、問題は常に細部に宿るものであり、熟考したうえでの我々の率直な答えは、この調査の方法論をあげつらうことは有益ではなく、むしろ、業界が意識を高め、真の変化を起こすため、このようなレポートを建設的に活用した方が良いというものだ。

この結論を踏まえ、まず関連する問題を建設的に掘り下げ、一般的な推奨事項をいくつか示してから、オーストラリアでの実践的な次のステップとして我々がIABオーストラリアの会員や業界パートナーに提案する予定の内容についても紹介していこう。

調査結果を検討する前に、いくつかの定義にフォーカスし、価値とコストについて議論する必要がある。例えば、「ワーキングメディア」とは伝統的に、広告主が使った費用のうち、意図したオーディエンスにメッセージを伝えるためのメディア費用の割合を指す言葉だ。

歴史を振り返ると、広告における制作費や代理店手数料といったワーキングメディア以外の費用の上限は常に20%前後だった。しかし、パブリッシャーが受け取る金額だけを単純に「ワーキングメディア」に分類するのは誤りであり、契約に基づく直接販売と、オープンマーケット在庫に対するリアルタイム入札との重要な違いについて、依然として大きな誤解をしている。

アドテクの価値の大部分は(一般的なアドサーバーが行っているような)単なる配信やレポートではなく、バイヤーが非常に広範な供給源から、特定のオーディエンスや適切な環境などデータに基づく露出機会をリアルタイムで特定できることにある。

このような調査ではほぼ例外なく、これらの動的なターゲティング属性の商業的かつ帰属的な付加価値は軽視され、利益を無視してコストとしてのみ扱われる。最先端の広告機能はバイヤーに広告革命をもたらしており、広告が配信された時点で、想定ユーザーがたまたまコンテンツを消費していたパブリッシャーだけがすべての価値をもたらしたのではない。

それにもかかわらず、「ワーキングメディア」の計算ではこの明確な利益をコストとしてのみ扱い、こうした取引でパブリッシャーが得る売上のみを重要な価値と見なしているため、皮肉なことに、記載されている合計金額や専門用語に重複が生じている。

バイヤーが認識していないオプションツールやサービスを利用している場合や、契約の管理が適切になされていない場合、あるいは単に付加価値を理解していない場合など、自らの選択によってコストが発生しているにもかかわらず、これらの付加価値機能を余計なコストとして遡及的に非難することは依然として深刻な問題だといえる。

 

調査結果の重要な点を以下に挙げる。

 

・広告費の51%(全体の範囲は49~67%の間)をパブリッシャーが受け取っており、これは「ワーキングメディア」に分類されている。

・サプライチェーンに起因しないコストという未知の差額が15%あった。

・配信された2億6700万インプレッションのうち、マッチングに成功したのはわずか3100万インプレッション(12%)だけだった。

 

ここからは前述のとおり、上に挙げた重要な数字を掘り下げていき、そのいくつかの要点や提案されているコミットメントをお伝えした上で、推奨される次のステップを紹介しよう。組織間の商業的な契約は当事者同士によるものであるため、我々は主に業務に関わる事柄を取り上げ、過度に契約に関わる事柄は避けるようにしたい。ただし、我々は定期的にこの分野のベストプラクティスを提供しており、ベンダーとの契約を定期的に見直し、綿密に調査することを常に推奨している。

 

ログレベルのデータを遡及的に監査し、最新の透明性スタンダードを用いずに照合しようとすると、問題の発生は避けられない

お金が絡む限り、監査を実施しようとすることは自然かつ合理的なアプローチだ。監査の目的は、買い手が支払った金額と売り手が受け取った金額を客観的に照合し、これらの取引を実現、実行、測定、充実させるために使われた中間業者の付随的なコストを明らかにすることだ。デジタル広告はこの20年間で有機的かつ急速に進化した。

そのため、我々の業界の最前線で実務に携わる人であれば、監査人が、ごく一般的な監査方法やそれと類似した方法でこのプロジェクトに対し客観的にアプローチしようとするところを想像するなら、顔をしかめずにはいられないだろう。

今回の取り組みを批判するつもりもなければ(方法論の詳細は公開されている文書を見れば明らかだが)、プログラマティックのインフラをむやみに擁護するつもりもないが、この問題は決して目新しいものではない。とりわけ、プログラマティック技術が世界的に普及し、デスクトップでのヘッダー入札が爆発的に増加し、さらにはモバイルや動画においても増加しているさなかにおいてはそう言える。

プログラマティックのセラーとバイヤーは例外なく、社内業務や財務でこの問題に直面している。そして、さまざまなサイロ化されたデータセットのニュアンスを解釈する能力こそが重要であり、デジタル広告において技術や製品の専門知識と経験が不可欠である理由だ。

法律上の詳細を確認し、ログレベルのデータファイルを手作業で解釈し、さまざまなプラットフォームのニュアンスを理解し、収集プロセスを可能な限り自動化し、論理的なルールを確立したうえで、正確に照合しようとすることは、しばしば多大な時間と労力を必要とする。何千もの供給源とあらゆる契約を対象に、すべての未確定要素で客観的かつ遡及的にこれを行おうとすることは、悪夢のような事態になることが運命づけられているにちがいない。その結果が12%のマッチ率だ。非常に低い数字だが、驚愕するほどのものでもない。

契約に目を通し、データを調べるのに要する時間、結果として発生するコストを、監査人たちはより適切に予測すべきだった。ログレベルのデータへのアクセス許可やアクセス手順について、事前の通知も前例もなしに単独で行うことは、さぞや困難だったに違いない。

プログラマティックはシンプルに定義されたプロダクトやチャネルではなく、絶えず進化する技術的イノベーションに支えられたインフラを持つ必然的な自動化のメカニズムであり、その有機的な進化の結果として、業界が合意した最新のスタンダードによって客観的に監督される必要がある。そうしなければ必然的に複雑化し、多くの場合、イノベーションのペースに合わせて悪化の一途をたどることになるからだ。

IAB Tech Labは10年近く前につくられたプログラマティックのプロトコル(OpenRTB)を世界規模で監督する非営利組織だ。このプロトコルの最新版は2018年11月にリリースされたOpenRTB 3.0で、その焦点はサプライチェーンの透明性、請求書照合の統合と詐欺の減少にほぼ集約されている。これらはいずれも以前から業界にとって重要な課題であり、今回の調査でもいや応なく浮き彫りにされた。

しかし、残念なことに、我々の業界の製品や技術の専門家が全員、OpenRTB 3.0がこれからのプログラマティック取引にとって最善の方法であると合意したにもかかわらず、その後、業界全体がOpenRTB 3.0へのアップグレードと、その全面採用に必要なエンジニアリングへの時間と労力の投資にはほとんど関心を示さなくなったようだ。

いくつかの付随的な最近のスタンダード(sellers.jsonとSupplyChain Object)については、少なくともレポートのなかでも言及されているので、それらについての知識はある程度あったものと思われるが、調査に関わったコンサルタントは、この監査プロセスが始まる前に、それらのスタンダードを考慮するようにと指示されてはいなかったものと思われる。これらは、そのベースになったads.txtと呼ばれるパブリッシャーのスタンダードと同様、今やプログラマティックにおいてセラーやリセラーを確認、識別するための重要なツールであり、これを適用すれば最終的にはサプライパス全体を把握できる。この点についてはもう少し掘り下げていこう。

照合作業の前に、データを明確にし、完全性を確保する試みがなければ、重大なギャップが生まれるのは必然だが、それでも、説明の付かないコストが15%もあることは深刻な問題だ。我々はこの問題について以下のような仮説を立ててみたが、これが参考になれば幸いだ。今後も、ここオーストラリアにあるいくつかの専門委員会と緊密に連携し、さらに詳しい情報を提供できるよう取り組んでいきたい。

 

・プラットフォームのレポートの矛盾が解消されていない。結果として、DSPの請求額とSSPの支払額に単純な差異が生じる。

・透明性のないベンダー(つまりDSPとSSP)のリベートや手数料。例えば、織り込み済みでないパートナー手数料があるかもしれない。

・サプライチェーンの中に特定できなかったリセラーが存在する。最新のスタンダードが十分に活用されていない場合、監査プロセスにおいて関与を明確に特定できないリセラーが存在する可能性がある。

・入札後のビッドシェーディング。この慣行により、ビッドされた最終的な落札金額を明確に特定することが難しくなる。

・オークション後の金額調整。取引の中には、当初予定されていなかったインプレッションもあり、多くは配信数調整によって、あるいは期間延長等によって引き起こされる場合がある。

・データセットの制限により、推定値が使用された。一致しないデータが多ければ、推定値の誤差も大きくなる。IAB Tech LabのOpenDataスタンダードを関係者間の共通理解として一律に採用しなければ、このプロセスはさらに困難を極めるだろう。

・為替換算による誤差。RTBの取引は主に米ドルで行われているが、ここオーストラリア(通貨は豪ドル)においては開始価格と最終価格の通貨単位に英ポンドが使用されている。そのため、少なくとも2回は為替換算が行われ、換算の方法もさまざまだ。

・アドフラウド。依然として世界的に深刻な問題であり、特に何千ものサプライサイドを配信対象とする場合、設定に関する詳細な情報がなければ、犯罪者によって入札金額の一部が吸い上げられた可能性は無視できない。最新のスタンダードを活用し、テクノロジーベンダーと緊密に連携してこのテーマに取り組むことは、インベントリーにプレミアムのラベルが付いているかどうかにかかわらず、バイヤーとセラーの双方にとって極めて重要だ。

 

必要なスタンダードの多くはすでに存在しており、業界関係者はそうした標準化の重要性を直ちに認め、広範な採用を実現し、開発途上にある関連スタンダードのリリースを早めることに注力すべき

OpenRTBプロトコルとその階層化された仕様(OpenMedia)の重要性は過小評価されるべきでなく、我々はここオーストラリアで、その必要性を周知するために努力している。本来、全世界のIABやIAB Tech Labのような非営利の業界団体の存在理由は、完全な透明性と信頼性を、提供、支援、実現することにある。

ただし前述の通り、この点では重層的な失敗が生じており、スタンダードの採用には製品への深い理解と技術的能力だけでなく、なぜそれが重要なのかというビジネス上の認識も必要だ。OpenRTB 3.0がリリースされてから1年半(2020年5月時点)が経過し、その重要性は共同開発に携わる技術者によって認識されてきたが、おそらく我々は最近まで、技術的な透明性や信頼性が商業的な価値につながることを理解していなかった。

初期作業の大部分がすでに完了していることは朗報だが、これからはサプライチェーンに関わるすべての企業がアップグレードに必要なエンジニアリングのために時間と労力を投じなければならない。業界としては、これほど重要なスタンダードの進化を遅らせ、価値を下げ続けることは無責任だと言わざるを得ない。

現在利用できる重要なスタンダードはOpenRTB 3.0だけではない。SupplyChain Object、ads.txt、sellers.jsonは、バイヤーが、インプレッションのビッドに関わったすべての関係者、支払いを受けた関係者を確認できるスタンダードで、最終的には全インプレッションの記録として機能する。

OpenDataは標準化された一貫性のある言語で、ベンダー、広告主、パブリッシャーがすべてのキャンペーンレポートに利用できる。パブリッシャー、エージェンシー、データ管理ベンダーに共通言語とマッピングツールを提供し、日々のキャンペーン分析のワークフローを改善することが目的だ。

開発中のスタンダードもいくつかある。例えば、ads.certは署名付きの入札リクエストによって、インベントリーの有効な所有権やソースをリアルタイムで確認し、ドメイン、IP、フォーマットなどの関連する重要なデータポイントを検証できるというものだ。

v1.0のベータ版がすでに公開されているが、まずはOpenRTB 3.0へのアップグレードが必要だ。また、IAB Tech Labはsellers.jsonのバイヤー版にも取り組んでいる。これにより、バイサイドも現在のセルサイドと同等の透明性を手に入れることができ、しかも、遡及的な監査プロセスがはるかに容易になる可能性もある。

ただし、トランザクションIDのようなものをプログラマティックのプロトコルに完全に組み込み、遡及的な監査を改善するという取り組みは、卵が先か鶏が先かという状況に陥っている。現存するプログラマティックのスタンダード全体を採用するという、業界全体の完全なコミットメントがなければ、非営利の業界団体が今あるものを進化させ、さらに優れたバージョンやスタンダードに投資することへの信頼など生まれるはずがない。

採用は義務ではないため、このような調査結果をきっかけに、業界全体が協力して取り組んでいくしかない。業界内の特定の専門部署が支援するだけでなく、全体的な取り組みが必要なのだ。

 

オーストラリアでは、事前に決定し、相互に同意した一連の推奨ベストプラクティスを通して、完全に透明性が確保されたスタンダードを実行しており、その点では、世界規模のテストを主導できる立場にあるといえる。

IABオーストラリアは以前からIAB Tech Labと緊密に連携していたが、さらに重要なことは、オーストラリアの業界団体が共同プロジェクトで互いに協力できることを証明したことだ。我々は現在、オーストラリアメディア連盟(MFA)、オーストラリア広告主協会(AANA)と協力し、1年半前に発表したオーストラリアデジタル広告実例集のアップデート作業を進めている。この実例集はオーストラリアの広告主のために特別に作成されてきたもので、パブリッシャー、エージェンシー、プラットフォーム、テクノロジーベンダーとの関係を改善し、デジタル広告費とその成果に対する責任を共有することを目的としている。

また、プログラマティックの手引書、入札の仕組みに関するルールブック、アドテク用バイヤーズガイドなど、プログラマティックに関する啓発や認知度向上を目的とした啓発的なドキュメントも定期的に作成している。これらはエグゼクティブ・テクノロジー・カウンシル、スタンダーズ&ガイドラインズ、アド・エフェクティブネスなどの評議会が共同で作成しているもので、作成者には、会員や支援者であるパブリッシャー、テクノロジーベンダー、広告主、エージェンシーなどが健全な割合で名を連ねている。

結果として、我々は連係することで、ISBAの調査が明らかにしようとした質問に、同じように答えるための実験をオーストラリアでも実行できると確信している。ただし、アプローチは異なり(おそらくデマンド、サプライ両サイドの善意に頼ることにはなるだろうが)、IAB Tech Labのスタンダードを可能な限り取り入れるつもりだ。少なくともその可能性を検討するためのワーキンググループをすでに結成しており、ほかの関連団体とも定期的にコミュニケーションを取っている。

とはいえ、今回の調査結果を受けて、我々は以下の提言を行うつもりだ。また、必要であれば、より詳細な情報も提供したい。

 

・sellers.json(直接販売者または仲介者を特定する)とSupplyChain Object(セラーとバイヤーのやりとりを明らかにする)を直ちに広く採用する。

・2020年12月までにOpenRTB 3.0を採用することをコミットする。

・OpenDataを全面的に採用し、パブリッシャー、SSP、DSP、エージェンシーの間で相互に同意されたデータへのアクセス許可を業界全体で標準化する。

・一貫性を実現し、遡及的な報告を支援するため、IAB Tech Labの分類法(オーディエンス、コンテンツ、プロダクト)を広く採用する。

・DSPには、レポートを改善するため、クライアントごとに個別のトレーディングシートを用意することを求める。

・サプライパスの一貫した最適化とベストプラクティスの調整により、入札の重複を最小限に抑え、RTBの全体的な効率性を向上させる。

・より正確な遡及的監査を可能にするため、OpenRTBプロトコルに何らかのトランザクションIDを含めることや採用することを検討する。

・IAB Tech Labが提案したバイサイドの透明性に関するスタンダードの最終的な開発と公開を急ぐ。

・OpenRTB 3.0がより広く採用された場合、ads.certの本格的なテストを実施する。

・アドテク用バイヤーズガイドの推奨事項に基づき、データアクセスに関する契約上のベストプラクティスを作成する。

 

IAB Tech Labが主導しているもう一つの重要なプロジェクトがプロジェクト・リアーク(project rearc)だ。これは2022年にサードパーティCookieが廃止されることを受け、デジタル広告を再構築するための世界的な取り組みだ。プログラマティック取引ではデータが重要な役割を果たしているため、いずれはサプライチェーンのパイプの大部分がリセットされることになるだろう。従って、このタイミングは我々にとって反省と見直しの機会であると同時に、重要なスタンダードを探り出したり、採用したりする機会でもある。

IABオーストラリアは、この世界的な共同作業の技術ワーキンググループに直接参加しており、技術的な観点から業界をどのように再構築しようとしているかについて、今後の展開を我々の会員に直接伝える役目を担っている。また、ISBAとPwCの調査で提起された問題がこのプロジェクトで十分に検討されるよう働きかけることも可能だ。

IAB Tech Labや会員社、そして業界全体とも協力し、プログラマティックが、広告が前進するための重要なメカニズムとしての「寿命を全うしない」事態を収拾するため、我々はこのような建設的なインサイトについて、業界とさらに連携していけることを期待している。

IAB Tech Labスタンダードの詳細については、IABオーストラリアのウェブサイトを参照してほしい。

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本記事は、ExchangeWire.comに掲載された記事の中から日本の読者向けにCARTA HOLDINGSが翻訳・編集し、ご提供しています。

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2019年にCCIとVOYAGE GROUPの経営統合により設立。インターネット広告領域において自社プラットフォームを中心に幅広く事業を展開。電通グループとの協業によりテレビCMのデジタル化など新しい領域にも積極的に事業領域を拡大している。