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コンテクスチュアルターゲティングに絶対の自信-Taboolaが目指すオープンウェブの未来

Cookie利用制限が強化されるに伴い、コンテクスチュアルターゲティングが改めて注目を集めている。このコンテクスチュアルターゲティングに創業当初から取り組んできたのが、レコメンドプラットフォームのTaboola社だ。同社マーケティング責任者に、その最新動向から「汚い広告」問題そして競合大手事業者の買収破談に至る経緯まで論じてもらった。(聞き手:ExchangeWire Japan長野雅俊)

 

10年以上にわたる経験と知見の蓄積

 

―自己紹介をお願いします。

 

タブーラ・ジャパン株式会社でマーケティング・マネージャーを務める梅内翔太と申します。当社では「欧州」や「APAC」といった地域単位でマーケティング体制を構築することが一般的なのですが、この度、例外的に日本市場に特化したマーケティング責任者が配置されることになり、私が就任した次第です。

 

―改めて貴社の事業紹介をいただけますか。

 

「ディスカバリープラットフォーム」または「レコメンデーションプラットフォーマー」として、媒体社と広告主の両者に対してネイティブ広告や動画広告のプラットフォームを提供しています。Nielsen Digital社の調査によると、日本だけで約4,000万人以上のユーザーに対して記事や広告をレコメンドしている状況にあります。

出典: Nielsen PC NetView 2021年3月データ、Home&Work

Nielsen Mobile NetView 2021年3月データ、iOS+Android、アプリ含む(Web+App)

 

とりわけ近年では動画広告在庫の整備に注力しており、ユーザーがフィードを眺めている間は追従していく動画広告など様々なプレイスメントを用意しています。さらに媒体社に対しては、レコメンド機能だけでなく、閲覧データを提供することでマネタイズ支援を行っています。

 

—レコメンド広告というと、いわゆるネイティブ広告がまず頭に思い浮かびますが、近年では動画広告にも対応しているのですね。

 

スマートフォンブラウザにおける当社の動画広告在庫の規模は、YouTubeやその他の大手SNSと比較しても引けを取りません。アウトストリーム広告在庫は既に最大級であり、動画広告の配信ボリュームは昨年比で200%の成長を遂げています。

 

エンタメ記事を閲覧した後に動画配信サービスの番組予告編CMを、経済ニュースの下に金融商品の案内広告をといった具合に、関連記事の下に配置された動画広告枠なので、クリックされやすいという特徴があります。

 

―Cookie規制に向けた動きを受けて、コンテクスチュアルターゲティングが注目を集めています。

 

これまではCookieに基づくリターゲティング広告に特化していたアドテク事業者などがコンテクスチュアルターゲティングを打ち出し始めましたが、当社にはこの分野においてそれこそ10年以上にわたる経験と知見の蓄積があります。正直申し上げて、最近になってコンテクスチュアルターゲティングを掲げ始めた事業者とは比較にならないほどの大量のデータがあると自負しています。

 

レコメンド広告のイメージはなぜ悪化したか

 

―レコメンド広告には、いわゆるコンプレックス商材を扱った誇大広告や虚偽広告の問題が付きまとっている印象があります。

 

確かに「レコメンド広告=汚い広告」というイメージが一部で広がってしまったことは否めません。ブランドセーフティに対する意識が低かったり、もしくは問題のある広告をブロックする技術に欠けている関連事業者の存在が悪影響を及ぼしていると思います。

 

とりわけコンプレックス商材を扱う広告はクリックされやすいので、一部の事業者は積極的に取り扱ってきました。ところが業界全体での意識の高まりを受けて、最近では制限される傾向にあります。その結果、それらの事業者は収益を低下させています。

 

一方、当社はデジタル広告の品質認証機関であるTAGやIABからブランドセーフティ認証、またDoubleVerify社やGeoEdge社といったアドベリフィケーション事業者との提携を通じて、アドフラウドや文脈に合わない広告及びいわゆる汚い広告全般を世界トップレベルの基準でブロックできています。

 

—同一サイト上に複数のレコメンド・ウィジェットを導入する媒体社は少なくありません。厳しい競争が繰り広げられているのではないでしょうか。

 

複数のレコメンド・ウィジェットを導入し、それぞれのインプレッション収益(RPM)に応じて人力でプレイスメントを日ごとに上下させるという運用を日々行っている媒体社は珍しくありません。

 

ただし、当社は世界中で5億人に上るデーリーアクティブユーザーに対して、1秒間に50万回にわたりレコメンドしたデータを基に数カ月間かけて媒体社ごとの最適化を進めるという方式を採用しています。この方針を貫くために、当社は媒体社様とは基本的に独占契約のみ締結させていただいている状況です。その結果、過当な競争環境からは一歩離れた場所で事業を運営できていると思います。

 

いずれにしても、日本のインターネット広告市場全体の中でレコメンド広告が占める割合はそれほど大きくないにも関わらず、厳しい競争が繰り広げられていることには間違いありません。またSaaS事業全般に言えることですが、技術の進歩が速いので、研究開発に向けて投資を続けなければすぐに置いていかれます。収益性の高い海外市場を握るなどして安定的な基盤を築かなければ、長続きはしない事業であると言えるでしょう。

 

もうオープンウェブを無視できない

 

―「日本のインターネット広告市場全体の中でレコメンド広告が占める割合はそれほど大きくない」のはなぜだと思いますか。

 

日本がやや特殊な市場なのだと思います。米国や欧州と比較して、市場成長率で後れを取っています。恐らく、保守的な広告運用形態が一般化しているからではないでしょうか。

 

YouTube、Facebook、Instagram、Googleのディスプレイとサーチを組み合わせたベストプラクティスが確立されていて、オープンウェブ上の新しい媒体を試そうとしない。広告代理店に運用を委託する場合が多く、広告代理店はKPI達成のために結果がある程度まで読める媒体しか使わないとなれば、保守的な運用となるのも致し方ないのかもしれません。この現状を打破すべく、当社としてはオープンウェブを後押ししていきたいと考えています。

 

—ただウォールドガーデンへの比重が年々高まっているとの見方も示されています。

 

デジタル広告への投資が増えれば増えるほど、ウォールドガーデンやSNSだけで予算を消化することはできなくなると見込んでいます。今後は広告を配信する時間帯やユーザーのペルソナに応じた配信面のきめ細かな取捨選択が行われるようになるはずです。そうなると、オープンウェブを無視することはできないでしょう。

 

とりわけ朝の時間帯は、社会人の多くが時事関連ニュースに目を通す傾向にあります。例えばこの時間帯はオープンウェブを中心とした広告配信に集中することで効果を最大化できる広告主は多くいると考えています。

 

—同業大手のOutbrain社を経営統合する計画が中止となりました。

 

コロナ禍に突入したことで、当社によるOutbrain社の評価額が大きく変わった結果、両社の折り合いがつかなくなったというのが理由です。代わって当社は単独で上場する道を選択しました。その結果、充分な資金を確保したことで、新たな技術の買収を行いやすくなりました。

 

一例として、オープンウェブ上にEC広告を設置できる技術を開発したConnexity社を約900億円で買収しました。この技術を活用すれば、媒体社はユーザーに対して、直接的な購入ができるEC広告を設置することができます。その結果、媒体社が購買データでさえも蓄積できるようになるので、新たなマネタイズ方法の確立につながるはずです。こうした新規機能の拡充に向けて、今後はさらなる投資を行っていきたいと考えています。

ABOUT 長野 雅俊

長野 雅俊

ExchangeWireJAPAN 副編集長
ウェストミンスター大学大学院ジャーナリズム学科修士課程修了。 ロンドンを拠点とする在欧邦人向けメディアの編集長を経て、2016年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。 日本や東南アジアを中心としたデジタル広告市場の調査などを担当している。