×

「チャット型レコメンド」が誕生するまで―急成長のUZOUとベネッセが語る [インタビュー]

写真 speeeインタビュー

熾烈な競争が繰り広げられているレコメンドウィジェット市場では、新規プロダクトが次々とリリースされていく。自ら「後発組」を名乗る株式会社Speee社のUZOUが発表したのは、スマートフォン向けの「チャット型レコメンド」。Speeeの藤田理氏とベネッセコーポレーションの竹本大悟氏が、新規プロダクト開発にまつわるエピソードを披露する。

(聞き手:ExchangeWire Japan 長野雅俊)

レコメンド事業発足からわずか2年で急成長

― 自己紹介及び会社紹介をお願いします。

藤田氏 株式会社Speeeの藤田理と申します。当社が開発したレコメンドウィジェット型のアドネットワーク「UZOU」の事業において、媒体社様向けの営業を担当しています。

写真1

UZOUは当社のSEO事業においてGoogleのアルゴリズムを専門で研究するチームの知見を活かして開発したレコメンドウィジェットです。独自開発をしているので、日本語メディアに対して非常にマッチング精度の高いプロダクトを提供していると自負しています。

UZOUの外部配信を始めたのが2016年4月なので、我々はレコメンドウィジェット事業者としては言わば最後発と言ってもいいでしょう。それからわずか2年で、提携メディア数は累計450媒体に達しました。国内に数多く存在するレコメンドウィジェット事業者の中でも、当社の成長率が恐らく最も高いのではないでしょうか。

正直なところ、今までは業界大手に追いつき追い越せで、追従することに集中していました。最近では、実績も積み重なり、既存のものとは少し違った角度からの価値をメディアに提供できないかと考えるようになりました。その一つが「チャット型レコメンド広告」であり、ベネッセグループ様にもご導入いただいています。

竹本氏 株式会社ベネッセコーポレーションの竹本大悟です。自社メディアにおける運用型広告の収益改善を担当しています。

ベネッセグループには「国内教育」「海外教育」「生活」「介護・保育」「語学」という5つの事業領域があり、私は「生活」事業領域の中でも妊娠、出産、育児、生活ハウツー情報、ペットなどの領域において、お客様の「よく生きる」をサポートするためのKids&Family本部に所属しています。このKids&Family本部が管轄する媒体の一つが、主婦向けの生活情報を扱う「サンキュ!」。紙媒体は有料で販売する一方、ウェブ版は無料で記事を公開する代わりに広告収入でマネタイズするという仕組みになっています。

―「チャット型レコメンド広告」の概要をお聞かせください。

藤田氏 従来のいわゆるレコメンドウィジェット広告の大半は、ウェブ上の記事の最後に「おすすめ記事」などと書かれた枠として配置されていたと思います。チャット型レコメンド広告は、そのおすすめ記事の紹介枠とは別にスマートフォンの画面上にポップアップウィンドウを表示し、おすすめ記事をチャット型で紹介します。この仕組みを、従来から提供してきたUZOUの付加サービスの一つとして提供させていただくことになりました。

もともとはポップアップを通じて様々な記事を案内することでユーザーの離脱を防止することを目的として開発したものですが、ポップアップに広告も合わせて出すことで収益が出るという結果が出たので、自信を持ってリリースしました。実際にCPMは従来のレコメンド枠の約10倍となっています。

― この新機能の導入状況を教えてください。

藤田氏 導入済みが10社、導入待ちが10社、合わせて約20社という状況です。ただ面白いことに、媒体社よりも、広告主側の問い合わせの方が多いというのが現状です。広告主様からは、リリース当日に10件もの問い合わせをいただきました。

チャット型で広告収益が向上する理由とは

― ベネッセグループがチャット型レコメンド広告を導入するに至った経緯をお聞かせください。

写真2

竹本氏 当社では、昨年末より運用型広告の収益改善に向けた取り組みを進めて参りました。とりわけスマートフォンなどの狭い画面上における広告の見せ方についての課題意識を持っていたところ、Speeeのチャット型レコメンド広告の存在を知るに至ったのです。もともとUZOU自体は既に当社メディアに導入済みだったので、検討作業は比較的スムーズに進みました。

最終的にはテストの結果を見て判断しました。新規プロダクトの導入に際しては、実際の数値をデータとして取るということが非常に重要だと考えています。

― 実際に導入してみて、どのような結果を得ましたか。

通常、「内部回遊率」と「広告収益」の双方を最大化することを目的としてレコメンドウィジェットを導入することが多いかと思いますが、今回に関しては、収益性の方に期待しました。そして、実際に運用型広告全体の収益が前月比で約200%に伸びたのです。

― 従来の枠と比べて、チャット型では広告収益が良くなるのはなぜでしょう。

藤田氏 我々としては、ユーザーにとって良いタイミングでポップアップが出てくるからだと考えています。

竹本氏 新しいUIが出ると、やはり注目されますよね。当社としても、UIの新規性から広告収益の向上を期待しました。

― 逆に言えば、「チャット型レコメンド広告」がある程度普及した段階で、広告収益の伸びは落ち着きを見せることになる見通しということでしょうか。

藤田氏: 確かに新規性を売りとしてきた広告効果は、新規性が薄まることで低減していく可能性は否定しきれません。だからこそユーザーを飽きさせない機能やフォーマットを今後も引き続き考えていかなければならないと思っています。

コンテンツ配信型メディアとCGMの違いとは

― 開発において最も注力した点と、今後どのような機能を強化していく予定であるかを教えてください。

写真3

藤田氏 レコメンドウィジェットを運営するに至っては、「ユーザー体験を阻害しない」というのが大前提となります。だから誤タップの防止には気を遣いました。今はスマートフォンの画面の上方部にのみポップアップが出るように設定されていますが、これを下部に出すと誤タップする頻度が高まってしまいます。

またポップアップを呼び出すタイミングも細かいチューニングを繰り返しています。記事を読み終えた直後なのか、それともそのもっと下にある関連リンク枠まで到達してから呼び出すのか。微妙な調整が必要になります。

さらにいわゆる消費者生成メディア(CGM)では、同一ユーザーが短時間で何度も訪問します。その度にポップアップ広告が出てくると、ユーザーは飽きてしまう。こうした性格のメディアに限っては、例えば画面のスクロールが止まったときだけポップアップを出すようにするとか、フリークエンシー・コントロールを付けるなどの工夫をしていきたいと考えています。

竹本氏 確かにメディアの性格によってポップアップの向き・不向きがあると思います。私が所属するKids&Family本部では、「サンキュ!」以外にも、女性限定の口コミサイトである「ウィメンズパーク」、プレママ・ママに妊娠・育児情報を提供する「たまひよ」、ペット情報メディアの「いぬのきもちねこのきもち」などがあります。

実は「ウィメンズパーク」でもテスト導入を行いましたが、正直なところ、相性はあまり良くなかったという印象です。いわゆる掲示板サイトなので、同一ユーザーが様々なスレッドを閲覧することになります。すると、何度も何度もポップアップが出てくることになるので、少々しつこい。実際に、ユーザーさんからネガティブな反応もいただきました。チャット型レコメンド広告と相性が良いのは、コンテンツ配信型のサイトだと思います。

藤田氏 また当社としては、ユーザー・データをもっと有効に活用できるはずとの思いもあります。別事業としてブロックチェーンを基盤としたデータ・プラットフォームである「Datachain」の開発を行っていますが、今後はこのプラットフォームとの連携も進めていきたいですね。

ABOUT 長野 雅俊

長野 雅俊

ExchangeWireJAPAN 副編集長
ウェストミンスター大学大学院ジャーナリズム学科修士課程修了。 ロンドンを拠点とする在欧邦人向けメディアの編集長を経て、2016年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。 日本や東南アジアを中心としたデジタル広告市場の調査などを担当している。