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特別な移動体験を作り上げる―ニューステクノロジーが狙う広告の新提案[インタビュー]

ニューステクノロジーは新たに車窓モビリティサイネージサービス「THE TOKYO MOBILITY GALLERY Canvas」の提供を開始した。2019年4月より開始した「THE TOKYO TAXI VISION GROWTH」はタクシーの後部座席のタブレットを通じて広告配信を行っているが、本サービスではタクシーの後方のサイドガラスに広告を映し出した国内初のメディアとなる。また、9月からは都内のオフィスビルと連携した喫煙所サイネージメディア「THE SMOKING ROOM VISION BREAK」も始動させた。新たなサイネージサービスの取り組みとデジタルサイネージ市場の展望について、三浦純揮代表取締役に話を聞いた。

(聞き手:ExchangeWire JAPAN 柏 海)

 

タクシーの空車時間を広告収益化

 ―2021 年 6 月より新たなタクシーの車窓モビリティサイネージサービス「THE TOKYO MOBILITY GALLERY Canvas」(以下、Canvas)をスタートされました。本サービスの概要および開発経緯からお聞かせください。

Canvasはタクシーの後方のサイドガラスを媒体化したもので、我々は車窓モビリティサイネージと呼んでいます。

ニューステクノロジーでは都内を走るタクシーの後部座席に置いているサイネージ(タブレット)を使った広告サービス「THE TOKYO TAXI VISION GROWTH」(以下、GROWTH)を展開し、現在は都内を中心に12,500台のネットワークを形成しています。タクシーに乗車してから降車するまでの平均乗車時間は18分と言われておりますが、GROWTHはこのタクシー利用者の移動時間に対して動画広告で訴求する媒体です。

一方で、タクシー(GROWTH)にはお客さんを誰も乗せてない空車時間もあり、乗車時間:空車時間の割合は51%:49%となっています。なお、この比率はコロナ禍前から変わっていません。要はタクシーの稼働中、半分の時間はお客さんを乗せて移動していますが、もう半分の時間はお客さんを乗せておらず、その間は人通りが多い場所や繁華街を中心に走行していることになります。

この空車時間の収益化を図ったことがCanvas開発の経緯となります。Canvasは空車時間に限定して広告を掲出していますが、GROWTHと同様にCanvasにおいてもタクシー事業者には広告収益の一部をレベニューシェアします。

 

「THE TOKYO MOBILITY GALLERY Canvas」

 

―既存のGROWTHと新サービスのCanvasで、広告出稿主や配信ターゲット層にはどのような違いがあるのでしょうか。

GROWTHの主なターゲット層は決裁者を含むビジネスパーソンです。そのため、BtoB系の商材を扱う広告主からの出稿が多い傾向にあります。また、一般的な高所得者・富裕層の方もターゲットとしているため、ハイブランド(ファッション・自動車など)系の商材も相性が良いと感じています。

Canvasに関しても、タクシーに乗る人(=乗ろうとしている人)やアプリでタクシーを呼ぶ人もターゲットには含まれますが、主なターゲット層は都内の街ゆく人になります。ターゲット層との相性もあり、現在は、比較的にBtoC系の商材やエンタメ系(映画・音楽・漫画・アニメ、動画サービスなど)の商材を扱う広告主からの出稿が多くなっています。

新たな広告配信の取り組みとしては森永製菓の「in ゼリー」において、ウェザーニューズ社が提供する気象データと連動した、天気連動型車窓サイネージ広告の提供も行いました。こちらは熱中症の指数と連動して車窓のクリエイティブが変わり、車内でも熱中症対策としてサンプリング品を提供しました。

Canvasはプライベート空間で動画を配信するGROWTHと異なり、東京の街行く人に対してクリエイティブを掲出することができます。BtoBやCを問わず、様々な企業やサービスのプロモーション活動にご利用いただけるような新たな広告媒体を目指していきたいと思います。

 

2022年中には3,000台にまで増台

 ―Canvasにおける今後の展開や展望についてご共有ください。

運用面に関しては、まずは幅広いクライアントにご活用いただき、活用の可能性と事例を増やしていきたいと考えています。機能面に関しては、配車アプリ「S.RIDE」を活用してCanvas搭載タクシーの配車が可能になりましたが、位置情報と連動した広告表示などもこの先は取り組んでいきたいです。配信面数についても、現在Canvas搭載タクシーは都内で100台となりますが、順次設置を進めていき、2022年中には3,000台にまで増台していく予定です。

また、GROWTH・Canvasともに、“特別な移動体験を作り上げていく“ことを目指していきます。

タクシーアプリS.RIDEにてCanvas搭載タクシーの配車機能が追加されたとお話しましたが、例えばCanvas搭載車両で人気の新作映画を見ることができれば、タクシー利用者のなかにはそちらのタクシーを積極的に利用したい人もいるのではないかと思います。

事例としては、8月30日〜9月4日の期間限定で、リラクゼーションドリンク「CHILL OUT」とコラボした「#寝落ちるタクシー」も走行しましたが、タクシーで特別な移動体験を作り出す方法はまだまだありそうです。

 

Canvasでコラボを行った「#寝落ちるタクシー」

喫煙所をメディア化、デジタルサイネージを50施設に設置

 ―新たなサイネージメディアとして、コソド社と共同で「THE SMOKING ROOM VISION BREAK」(以下、BREAK)を発表されました。こちらはどのようなサービスとなっているのでしょうか。

BREAKは都内のオフィスビルと連携した喫煙所サイネージメディアです。現在順次都内のオフィスビルを中心に設置を進めており、9月時点では30施設、10月には50施設との連携が完了する予定です。

ターゲット層はオフィスビルで働く喫煙者となりますが、喫煙者は1日オフィスにいると約5.8回、煙草を吸いに行きます。1回当たり5分程度なので、1日30分は喫煙所に居る計算となりますが、BREAKはこの可処分時間を媒体化したものです。なお、国内の喫煙者が減っているとは言われるものの、喫煙者人口はJTによる調査が行われていた2018年時点で1,400万人とされており、これは日本の人口の1/10以上の数値です。

ターゲット層はオフィスの喫煙所の利用者を対象としているので、20歳以上のビジネスマンであり、決裁者層も含まれます。喫煙所サイネージのBREAKもタクシーサイネージGROWTHと同様に、BtoB商材とは相性が良く、BtoB企業を中心としたクライアントビジネスの成長を後押しできるような媒体を目指しています。

 

「THE SMOKING ROOM VISION BREAK」

 

コロナ禍をきっかけにデジタルサイネージ業界が変化

―2021年9月時点ではコロナ禍が続いております。デジタルサイネージ市場に対しては、どのような影響が考えられますか。

デジタルサイネージサービスを提供する企業は、自社も含めてコロナ禍で大きな影響を受けました。ただし、このコロナ禍というインパクトを変化のきっかけとして、業界全体が発展の方向に向かうと考えています。

レポーティング一つをとっても、従来のデジタルサイネージ広告市場は総じてレポーティングが弱かったのは間違いありません。デジタル広告では1,000万を使ったら広告効果はどうだったのかと細かく出すことが出来ますが、デジタルサイネージ広告でも同じことが出来るようにならなければ、同じ1,000万円を広告に使おうとしても、価値が変わってしまうでしょう。

そのような意味では、今回のコロナ禍はデジタルサイネージ業界が変わる良いきっかけになったのではないかと思います。

 

―コロナ禍において、GROWTHでは広告出稿主からの反応はいかがでしょうか。

タクシーの利用者はコロナ禍前(2019年8月)から「本部長/執行役員/経営者」層が5.4%、またビジネス上の意思決定者層(アンケートで、「中心的な意思決定者である」or「意思決定者のひとりである」と答えた人)の割合が31.7%でした。そのなか、2021年6月に行った同調査では、「本部長/執行役員/経営者」層が8.6%、ビジネス上の意思決定者層が41.0%となり、いずれも増加傾向にあります。

このようなデータも広告主に示せたということもあり、お陰様でGROWTHの出稿状況も順調に回復しました。一方で、まだコロナ禍でオフラインに広告を出すこと自体に抵抗感が残っている企業もいらっしゃるように感じます。

 

目的が伴う移動は無くならない。生活導線に訴求できる媒体が重要

 ―改めて、今後のデジタルサイネージ市場および貴社の事業展望についてはどのように考えていますか。

 

 

コロナ禍が続いている一方で、今後も人々が延々と家の中に留まり、外に一歩も出ない世界になることは想像が出来ません。コロナ禍で人々が家の中に居る時間が増えた、ということも良く言われておりますが、そもそもの前提として、コロナ禍前から人々が家の中にいる時間は増加傾向にありました

要はコロナを理由にデジタルサイネージの市場やビジネスが伸びない、と言い訳をしていても致し方ないです。我々はデジタルサイネージを用いて、街に出ることや移動すること自体を一つのエンターテインメントにしていければと考えています。

また、広告メディアとしては、Cookie制限でインターネット広告のターゲティングに規制がかかる中で、目的やペルソナが明確なロケーションに設置されたオフラインメディアの価値は向上すると考えています。

コロナ禍においても目的が伴う移動自体はなくならないので、人々の生活導線に訴求できる媒体は重要になって来ます。今後もニューステクノロジーでは、属性の高いロケーションのメディア開発・運用を進め、空間の価値向上に努めていきたいと思います。

 

ABOUT 柏 海

柏 海

ExchangeWireJAPAN 編集担当 日本大学芸術学部文芸学科卒業。 在学中からジャーナリズムを学び、大学卒業後は新聞社、法律・情報セキュリティ関係の出版社を経験し、2018年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。デジタル広告調査などを担当する。