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ラクスルが目指すマーケティングの民主化―「ノバセル」がテレビCM広告の最適化をサポート [インタビュー]

ラクスルは運用型テレビCMサービス「ノバセル」を提供している。本サービスは事業会社であるラクスルが培ってきた、自社のノウハウを詰め込んだテレビCMの運用方法とテレビCM効果測定ツール「ノバセルアナリティクス」の活用により、広告投資の最適化を後押しするものである。ノバセルの取り組みとテレビCM市場の展望について、手塚裕亮ノバセル事業本部経営企画部長兼ノバセルアナリティクス事業部長に話を聞いた。

(聞き手:ExchangeWire JAPAN 柏 海)

 

 

広告代理店業・ツール提供の2軸で展開

―これまでのバックグラウンドと現在の役割についてお聞かせください。

私はラクスルに入社して6年目になりますが、当初は印刷事業のSCM(サプライ・チェーン・マネジメント)をメインに、印刷事業におけるパートナーとの関係構築を行っておりました。印刷事業部長を担当した後、約2年前からテレビCM事業であるノバセル事業のプラットフォーム設計や対外アライアンスを担当し、現在は事業計画、プラットフォーム設計および対外折衝の役割を担っています。

 

―ラクスルの運用型テレビCM事業「ノバセル」の概要についてお聞かせください。

ノバセルは広告プラットフォームではありますが、社内では「グロースパートナー事業」と「ノバセルアナリティクス事業」と呼ぶ、2つの大きな柱があります。

グロースパートナー事業は、いわゆる広告代理店業に近い形態となりますが、ラクスルが顧客のテレビCMの企画、分析、実施、制作も含めて伴走させていただくものとなります。

私の所属する「ノバセルアナリティクス事業」では、弊社独自の効果分析ツール「ノバセルアナリティクス」をはじめとするシステムを開発し、“マーケティングの民主化”というビジョンの元、システムを用いたアプローチを行っております。ノバセルアナリティクスはグロースパートナー事業として弊社が使う場合もあれば、クライアントに使っていただくケースもございますが、広告代理店さんに営業支援ツールとしてご利用いただくケースもあります。

「ノバセルアナリティクス」

 

放映時間を元にテレビCMの効果分析を自動化

―「ノバセルアナリティクス」ではどのような分析が可能になるのでしょうか。

システムを使うにあたり一番大事なことは、日々の膨大な作業をシステムに肩代わりさせることだと考えています。

テレビCM広告の出稿にあたり、日々のPDCAを回してくために行う最小粒度の分析は、テレビCMの放映1本単位で何が起きているかをモニタリングしていくことです。ただし、そもそもの業界慣習として、テレビCMの放映時間は大まかな時間のみで、何時何分に公開されるかは共有されません。そこで、我々のシステムでは簡単な設定をしていただければ、自動で何時何分に放映され、そのタイミングでのサイトセッションはどうだったのか、という一番手間のかかる分析を自動で行うことが可能な仕組みを構築しました。

この分析の自動化は、ノバセルアナリティクスの一番の特徴だと思っています。また、このテレビCMの放映時間をベースに広告効果の上昇量をリアルタイムに可視化する仕組みについては、特許を取得しております。

テレビCM広告に関連した日々の膨大な作業や広告効果の取得を行い、PDCAを回していくことで、月次・3カ月・半年という期間で、広告予算に対して新規で取れたユーザーの数、もしくは売上に寄与した額などが分かるようになっていきます。テレビCMの放映は企業にとって大きな投資となりますが、このような実証を行うことで、テレビCMの費用対効果を改善していくことが可能となってきます。

 

コロナ禍以降に顧客単価が数倍に伸長

―ノバセルのサービスを利用する顧客層にはどのような特徴がありますか。

年間利用者数は167社(2020年8月~2021年7月)で、前年の131社から約27.5%増えましたが、この数年間で顧客層も大きく変化がございました。

サービス当初、ノバセルのターゲットはラクスルの顧客基盤の親和性を鑑みて、SMB(中小企業)の顧客を想定しスタートさせました。その後、スタートアップを中心とした企業成長のためのマーケティング投資や経営計画のような部分から、現在はコロナ禍での投資対効果の可視化を求めている大手企業、一部上場企業やナショナルクライアントに近い方たちからもご相談を頂くように変わって来ており、顧客単価が数倍から10倍といったレベルに伸びております。

 

―貴社のIR資料によると、セグメント別の売上で、ノバセルの2020年7月期の売上が約28億円、2021年7月期で約67億円となっており、前年比約135%という高い成長率を描いています。この成長につきましては、どのように分析をされていますか。

定性的な視点としては、プレゼンス(存在感・影響力)が上がったことが大きいと思います。

昨年末のADKマーケティング・ソリューションズとの業務提携と前後し、年間数十億というバジェットを持つ、大手クライアント様からの引き合いが顕著に加速しました。また、コロナ禍に入り費用対効果の可視化需要が増えたのも背景にあると認識しています。プレゼンスが上がった、という点では、運用型テレビCMサービスを提供する事業者および競合他社が増えて、サービスの啓蒙が進んだのは我々にも副次的な効果があったかと思います。

一方で、定量的な視点としては、顧客と長期的な関係性でのビジネスを築くことが出来たことが寄与したと見ています。

IRではノバセルのKPIとして、①年間利用者数②平均放映月数③月平均単価の3つを公開しております。①年間利用者数はプレゼンスが上がっていけば自ずと増えていくと考えていますが、②平均放映月数については、ノバセルをご利用いただいてテレビCMの出稿やマーケティングが成功して次の運用に繋がっていくことで増えていきます。その結果として、バジェットの増加に伴い③月平均単価が上がったり、バジェット総額が変わらなくてもサービスを継続して利用いただいています。

長期的な関係性を保ったビジネス運営は我々が志向しているところでもあり、それが積み重なった結果、今のような成長につながったのかと思います。

テレビCM市場の商習慣に課題意識

―テレビCM市場の今後についてお聞かせください。

テレビCM市場全体が楽観的な状況には決してない、というのは様々な報道が出ている通りだと考えています。

一方で、テレビCMのリーチコストが圧倒的に安いというのは変わらず、魅力のある広告媒体でもあります。ただし、テレビはウェブメディアと比較して広告在庫に限界があるため、需給のバランスが変化し商習慣が大きく変わる可能性もあります。

これらの話の組み合わせで、市場としてはあまりシュリンクせずに成長を促すことが出来る可能性は十分あるのではないかと思っています。

 

―テレビCM市場の課題に対しては、どのように考えていますか。

大きく2つあり、1つ目はマーケティングの民主化です。

この言葉はノバセルとして目指している大きなテーマにもなります。顧客が自身で広告効果の可視化を行って次のアクションに結び付けていく、というPDCAを回すにあたり、他のメディアも含めた広告運用の舵取りや広告データの可視化など、多段階のレイヤーでしっかりと設計が出来るのは極一部のトップマーケターだけです。それ以外の人がトップマーケターのようにしっかりとPDCAを回すには、まだ情報もツールも不足していると思います。

もう1つは商慣習の話で、テレビCM業界に限れば、新規ユーザーにとって敷居の高い媒体になってしまっている点です。

高効率は期待できるものの初期投資としては安くない金額がかかるにもかかわらず、価格決定ルールが不明瞭であったり、テレビの番組編成の問題で、長いリードタイムでの商談に向かないなど、初めてのテレビCMを行いたい広告主にとって不利になりがちな条件が多い事が挙げられます。

テレビCM業界として新規の人たちをどのように育てていくか、また広告商品をどのように使ってもらいやすいものにしていくか。システムの課題やクライアントの課題とは別に、業界としての課題もまだまだ多いのではないかと思います。

 

運用型テレビCM市場は早期に1,000億市場まで成長?!

―運用型テレビCM市場の今後および貴社の注力領域について、改めてお聞かせください。

足元の成長感では、運用型テレビCM市場は早期に1,000億市場まで立ち上がっていくのではないかと感じています。

その先のさらなる成長のためには、テレビCMを誰でも使いやすく、かつ更に効率化できるものにすることが肝要だと考えています。一方で、マーケティングを民主化する、という我々のビジョンに対しての壁は大きく、課題もまだまだあると思っています。

そのためにも、分析を行う領域を広く取っていくこと、また、よりクライアントの経営データに生かせるような深い情報と結びつけていくこと。この2点を中心に、ノバセルのプロダクトをより使いやすいものにしていきたいと思います。

ABOUT 柏 海

柏 海

ExchangeWireJAPAN 編集担当 日本大学芸術学部文芸学科卒業。 在学中からジャーナリズムを学び、大学卒業後は新聞社、法律・情報セキュリティ関係の出版社を経験し、2018年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。デジタル広告調査などを担当する。