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デジタルそしてポストコロナ時代のオーディオ広告:Price Brothersパートナーインタビュー

デジタルオーディオ広告を手がけるプライス・ブラザーズ(Price Brothers)のパートナーで、オインク・インク(Oink Ink)の創業者でもあるダン・プライス氏は、ExchangeWireの独占インタビューに応えて、デジタルオーディオのクリエイティブは新しいテクノロジーに対しどう適応すべきか、このメディアがブランドマーケターにどんな機会をもたらすかについて詳しく語った。

 

 

デジタルオーディオ技術の急速な進化をうけて、広告クリエイティブを進化させるには、どのような取り組みが必要でしょうか?

 

この10年から15年ほどの間に、素晴らしいラジオ広告が徐々に減ってきた状況は、デジタルオーディオの進展とぴたりと重なります。クリエイティブを重視するブランドが少なくなり、その代わり「売ること」ばかりに注力するブランドが増えました。今や、30秒の時間を割いてCMを聞いていても、リスナーが報われることはほとんどありません。多くのブランドが、窮屈なオーディオ広告枠の稀少な時間の中では、できる限り多くの情報を詰め込むことが重要だと考えているように見えます。

これは、オーディオメディアの特長を生かすこと、つまりリスナーの想像をかき立てるということとは、まるで逆の方向です。しかしだからこそ、デジタルであれ、アナログであれ、オーディオメディアだけが持つユニークなエンゲージメントの力を取り戻すことができれば、オーディオ広告は今でも大きな効果を生むことができるはずだと、私は確信しています。

 

デジタルオーディオのクリエイティブでは、他のメディア(ディスプレイ広告、テレビCMなど)と比べて、どのような事柄を考慮すべきでしょうか。また、デジタルオーディオのクリエイティブをクロスチャネルマーケティングに適応させる際には、ブランドは何を考慮すべきでしょうか?

 

効果的なオーディオ広告を制作するキーポイントは、デジタルの時代になってもあまり変わっていません。ただし、いくつかのポイントはより重要性を増しています。ラジオは、まずリスナーの気を惹く話題を振り、身近で興味をそそるストーリーを語り、ある「課題」を設定して、CMブランドを、その課題を解決するヒーローに仕立てることで、リスナーが割いてくれた時間に報いてきました。ただ、デジタルになって変わったのは、誰に語りかけているかがはっきりしているということです。

気を惹いたり、伝えたりする話題が、これまでよりはるかに関連性が高いものになり得ます。だからこそ、私たちはインストリーマティック(Instreamatic)との仕事にとても刺激を受けているのです。オーディオはリスナーに語りかけるラジオCMから、リスナーとコミュニケーションをするインタラクティブなスペースに変化しています。新しいツールを活用して、リスナーにいかに高度にエンゲージするかはもちろん大切ですが、繊細さと敬意を込めて広告を制作することも必要なのです。

プライス・ブラザーズ パートナー、ダン・プライス氏(左)とジム・プライス氏

第2の質問は面白いですね。私はラジオの世界で働いていたため、「テレビスポットが完成」(制作期間は2カ月ほど)してから、「次はそれを補完するラジオスポットも必要だ」(納期はたいてい数日以内)となり、後追いで発注されることに慣れています。テレビCMの制作前に、ラジオキャンペーンを制作してほしいと依頼されたことはありません。この30年で一度も、です。そして、私の答はいつも同じでした。

すでに完成しているTVCMの戦略を参考にして、そのコンセプトに沿った素材をいくつか転用しましょう、です

……しかし、そこで終わってはいけません。オーディオには、テレビCMやディスプレイ広告にない多くのメリットがあります……だからこそ、そのメリットを最大限に生かすやり方でアプローチすべきなのです。オーディオは、リスナーととても親密な体験を共有します。その利点を生かす必要があるのです。

 

どうすれば、位置情報、天気、デバイスの使用状況といったデータをデジタルオーディオのターゲティングに利用できるでしょうか。また、プライバシーに関してどのような点を考慮すべきですか?

 

私たちが入手できるデータは、今は非常に充実していて、戦略のブリーフィングやブレインストーミングに大いに役立ちます。しかし、私がよく目にしてきた間違いは、データが手に入ったからという理由だけで、無闇にデータを使おうとすることです。例えば、アナウンサーが「ニューヨークの皆さん、今日は雨です」と言ったとしましょう。しかしこれだけでは、何の創造性もありません。しかし私が40年前にラジオ局で働いていた頃、古いラジオCMがやっていたのはそういうことでした。

リスナーにとってはほとんど意味がないのです。しかし例えば今、雨が降ると分かっていて、自動車部品店のワイパーブレードの宣伝を流したなら、それはリスナーの役に立つかもしれません。そして3日後には別の商品が役に立っているかもしれません。位置情報は、地域ごとの在庫管理にも活用することができます。

私たちは最近、ア・ミリオン・アズ(A Million Ads)と共同でステープルズ(Staples)の「バック・トゥ・スクール(Back to School)」のダイナミックキャンペーンを制作し、子供の親たちとは違うターゲティングで、教員の人たちにアプローチすることができました。ツールは単に利用できれば良いわけではなく、目的に合わせて利用することが重要なのです。

 

デジタルオーディオの視聴と「伝統的」なラジオ視聴の主な違いは何でしょう。デジタルオーディオがマーケターにもたらす従来のラジオにはない機会とは?

 

私たちは、デジタルオーディオは「放送(ブロードキャスティング)」ではないと考えています。デジタルオーディオはむしろナローキャスティングです。膨大な数のリスナーではなく、特定の個人との親密なコミュニケーションなのです。ラジオは今でも身近な存在ですが、主に車の中で聴かれています。それだけでも広告を制作する私たちにとっては十分に価値がある情報です。

一方、デジタルはストリーミングからオーディオブック、ポッドキャストまで、多彩な形式で視聴されています。仕事中、通勤中、掃除中、身支度の途中、そしてもちろん運転中といった様々な場面で、多様なデバイスを用いて視聴されています。デジタルでは、こうした視聴状況の大部分が把握できている事に大きなチャンスがあります。私たちが手にしているのは、ごく身近な場所で、視聴者にエンゲージすることができるという、唯一無二の能力なのです。

 

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミック中、デジタルオーディオの視聴はどのように変化したのでしょうか。また、次の3年から5年でどのように変化すると思いますか?

 

大半のイノベーションがそうであったように、テクノロジーは時間とともに改善され、ますます直感的に利用できるようになっていきます。その結果、より多くのデータが活用できるようになり、聴衆ともより関連性の高いコミュニケーションができるようになっていくでしょう。だからこそ、私たちはダイナミック(動的なもの)とインタラクティブ(双方向性)の両方に、とても強い関心を抱いているのです。この二つの要素をそれぞれ、または組み合わせて活用すれば、よりスマートにキャンペーン制作を行い、オーディエンスにもより豊かな体験を提供できると考えているのです。

パンデミックは――とても奇妙な方法で――デジタル化を加速させたと思います。新しい環境と新しい「生活様式」に適応するため、人々はほとんど強いられるように、所有済の、あるいは新規購入したデバイスで、プラットフォームを探求するようになりました。私が思うに、人々は以前の生活パターンに戻るよりも、さらなるデジタル化の進展の方を、歓迎する可能性が高いでしょう。

私がさらに興味をそそられる質問は、10年後あるいは20年後に、これらのすべてがどうなっているか、です。想像するだけでもわくわくしませんか。

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本記事は、ExchangeWire.comに掲載された記事の中から日本の読者向けにCARTA HOLDINGSが翻訳・編集し、ご提供しています。

株式会社CARTA HOLDINGS
2019年にCCIとVOYAGE GROUPの経営統合により設立。インターネット広告領域において自社プラットフォームを中心に幅広く事業を展開。電通グループとの協業によりテレビCMのデジタル化など新しい領域にも積極的に事業領域を拡大している。