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放送局がモバイルゲームスタジオに投資する理由とは:Live Tech Games創業者インタビュー

英モバイルゲーム開発会社Live Tech Gamesが、英放送局ITVのインキュベーター部門Studio 55 Venturesの主導で250万ポンド(約3億9300万円)の資金を調達した。そこでExchangeWireは、Live Tech Gamesの共同創業者であるサミュエル・ウォースリー氏とネイサン・ムーア氏に、従来のテレビ局が、ライブエンターテインメントの盛り上がりや、急拡大しているモバイルゲームにおけるビジネス機会を、どのように考えているかについて話を聞いた。

 

今回調達した資金はLive Tech Gamesの成長戦略でどう活用していく予定ですか。また、ライブエンターテインメントをどのように変えていきたいですか、考えをお聞かせください。

 

成長における最大の課題は、最優先でチームの人員を大幅拡充しなければならないということです。私たちは起業家ですから、当然ながらやりたいことがあり、それに向けて大きな計画を立ててきました。それが、ビジネスを立ち上げた理由です。その計画を実現するには、才能ある人材や外部の支援、テクノロジーやハードウェアなどが必要となります。資金が手に入るまでは財布の紐を引き締めて、進めるべき計画を絞り込む必要がありました。しかし今回、多額の資金が調達できたので、計画のうちいくつかを実行に移せるようになりました。すでに7つの職種について募集をかけています。

そして、それはすべて社内勤務です。これまでのようにフリーランサーに業務を発注するのではなく、実際にチームを立ち上げることになります。これにより社内カルチャーが醸成され、開発したすべてのゲームがライブステージに公開される日が待ち遠しいです。開発者やサーバーアーキテクト、アーティスト、UXデザイナーからセールス担当まで、あらゆる人材を募集しています。ユーザーが喜び、楽しめることを目指してビジネス構築するのはもちろんですが、ビジネスチャンスを逃さないようにすることも忘れてはいません。

成長戦略の一つとして、グローバル展開も重視しています。自分たちのゲームを新たな市場、特にライブゲームのプレイヤーがまだあまりいない市場で広めたいという夢は常に持っていました。資金が調達でき、今後数カ月で規制も緩和される見込みなので、欧州と米国の各地で、当社のゲームとプロダクトを展開していけるようになるでしょう。

成長戦略に関してもう一つ。ゲームを多く開発してグローバル展開していこうと考えるなら、それなりの数のユーザーが同時接続できるようにプラットフォームの規模を拡大する必要もあります。ライブゲームというものは、ライブで、全員が同時並行でプレイしているあいだ、プレイヤーがひとり残らず素晴らしい体験を享受できるようにしなければなりません。それも私たちの前に立ちはだかる最大の壁の一つです。

 

Live Tech Gameが提供するトーナメント形式のモバイルゲームとITVのアプローチは、互いにどのようなメリットがあるのでしょうか。このパートナーシップによってブランドマーケターはどのような機会を得られますか。

 

当社はモバイルゲームスタジオです。また、ゲームはいまや世界最大のエンターテインメントとなりました(映画業界と音楽業界の合算よりも規模が大きいのです)。

そこでITVは、インタラクティブ形式の番組や、ゲーム性のある番組を新たに構想しているようです。

Live Tech Games共同創業者ネイサン・ムーア氏(左)、サミュエル・ウォースリー氏(右)

このパートナーシップによって、2つの素晴らしいビジネスモデルが一体化することになります。ITVには驚くべきリーチ力があると同時に、家庭での認知向上においても想像を超える力を持っています。私たちは今でも5,6年前に見た広告のスローガンを覚えています。それだけ英国の家庭に深く浸透しているわけです。さらに言えば、デジタルが進化を続けるなかで、しかるべき広告をしかるべき視聴者に届けることもできます。

ブランド名を思い浮かべてもらうだけではなく、詳細情報が書かれたウェブページや、さらには商品を直接購入できるページへと、視聴者を実際に誘導することができます。最終的には、テレビとデジタルという2つの世界が持つ強力な広告効果は融合していくことになるでしょう。そこに進化を続けるブランドにとっての大きなビジネス機会が存在しています。

 

テレビの生放送番組とモバイルゲームを融合させていくための技術的課題とは何か、またLive Tech Gamesはそれにどう対処しているのかを教えてください。

 

言うまでもなく同時接続プレイの問題です。たとえば、従来型のゲーム「Call of Duty」を例にとりましょう。あのゲームは確かに、土曜夜8時になると何百万という人がプレイしているかもしれません。とはいえ、一つのバトルロイヤルに参加できるのは100人だけです。一方、Live tech Gamesが提供しているのは、英国という国全体で人々が互いに対戦するゲームです。大勢が同時接続してプレイしているあいだ、当社のプラットフォームは各プレイヤーのプレイ結果を同時に収集し、それを同時に処理し、同時に結果を返しています。人々が互いに対戦しているという意味でインタラクティブなのであり、コンピューターを相手にしているわけではありません。

プレイヤーが1人接続して参加をすれば、対戦している相手にもドミノ倒し式に影響が及びます。そうした規模の大きさと同時接続の両方が、悪夢のような技術的課題を招来します。当社のゲームはプレイ日時が決まっているので、それ以外の日は、システムにはいっさい負荷がありません。そしてゲームが始まると、とたんに膨大な計算能力が集中的に必要となります。

従来のスケーラブルサーバーにはそういったことがなく、1日満遍なく処理を実行しています。たとえば、マイクロソフトのTeamsやZoomといった会議用ソフトはきわめて頻繁に同時接続されますが、1日にならすと負荷は比較的安定しています。一方、私たちの場合は、急に負荷がかかってピークに達したかと思うと、突然何の処理もなくなったりするのです。

 

そうした状況をうまく乗り越えるために、私たちはさまざまな工夫をしています。これはLive Tech Gamesの精神でもあるのですが、常にフレームワークの構築方法を簡略化しなければならないと考えています。追加のステップを加えればエラーになる可能性があり、そうなればそのほかのプロセス全体にも影響が波及しかねません。ですから、何かするたびに「これによってフレームワークに新たなステップが加わらないか」と問いかけます。

そして、答えがイエスの場合には、「もっと簡略化して、そのステップを既存のコンポーネント内に含める手段はないだろうか」と考えるのです。これについては、ゲームシステムはどのような構造であるべきかと、エンタープライズビジネスソリューションとしてはどうだろうか、という2つの観点から考えるようにしています。

 

同時接続プレイが私たちにとって最大の課題であるのは、結局それこそが当社のセールスポイントだからなのです。その上で、各プレイヤーが最高の体験を味わえることが重要です。決められた時間にプレイヤーをライブで集客するのであれば、再び決まった時間に戻ってきたいと思ってもらえるようにしなければなりません。

何しろ、私たちはある意味、彼らの日常生活を中断させているわけですから。土曜の夜8時と言えば、普通なら家族そろって夕食を取っている時間です。結果的に4人なり5人なりの家族の団らんを邪魔することになるのであれば、少なくともプレイヤーにはひとり残らず最高の体験をしてもらいたいのです。ひいてはそれが、ビジネスの成功にもつながるはずです。

 

モバイルゲーム業界は常に競合企業がひしめき合っていますが、Live Tech GamesITVのようなパートナーシップの形成は、モバイルゲームスタジオのスタートアップが差別化を図る上でどう役に立ちますか。

 

モバイルゲームでは今、プレイヤーが好きな時に遊べるカジュアルゲームが大勢を占めています。そんな中、きわめて限定的で特別な瞬間を作り出しているという意味で、私たちは草分け的な存在です。一方のITVは、生放送番組でよく知られており、史上最大級のスポーツイベントやライブエンターテインメント番組を放送してきました。そんなITVと当社が手を組み、同じような形で時間を指定し、大勢の人々を一つのゲームに参加させようとしています。その舞台となるのがデジタルというわけです。

 

テレビ局として長い歴史を持つ、ITVという大手放送局と、(当社のような)いちモバイルゲーム企業との提携は、市場に向けた一つの明確なメッセージでもあります。つまり、ゲームには無限の可能性が秘められていること、未来のエンターテインメントは若者世代を中心にデジタル上で楽しまれるようになること、そして巨大企業ですらそれに気づき始めているということです。

巨大企業も、ゲームのプレイ人口がいまや膨大な数に上っていることを認識しています。ITVが、ディズニーと同様、ゲーム分野に巨額な投資をしたということは、モバイルゲーム業界がさらに急成長を遂げるということを示す証拠なのだと思います。こうした状況に背中を押され、より多くのゲームスタジオが生まれ、成長していってほしいですね。

 

単に「巨大」というだけではなく、歴史ある企業もこの分野に進出しはじめています。そうした企業は、自社が保有する知的財産をゲームに移植したり、ハイパーカジュアルゲームの開発を試みたりしていますが、それも普通のゲームの流行に乗り遅れてしまったことを彼らが認めるようになったためです。チャンスを逃してしまい、追いつくためには革新的な試みで注目を浴びなくてはいけないと分かっているのです。ITVがLive Tech Gamesに投資してライブゲーム業界に進出することも、Netflixやディズニーが密かにゲーム事業を計画中であることも、そうしたことの現れです。

このように有名企業が続々と動き出していますが、クラシックゲームに向かっているところは一つもありません。新しい試みでなければ、ゲーム市場のシェアが取れないことを承知しているからです。差別化を図りたいのであれば、パートナーシップは一つの有力な手段です。他社の状況はわかりませんが、私たちとITVの計画については、エキサイティングで、革新的で、これまでに見たこともない新しいものだということは自信を持って言えます。歴史のある企業も次々参戦してきたことで、この市場はこれからますます斬新でエキサイティングな展開を見せていくことでしょう。

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本記事は、ExchangeWire.comに掲載された記事の中から日本の読者向けにCARTA HOLDINGSが翻訳・編集し、ご提供しています。

株式会社CARTA HOLDINGS
2019年にCCIとVOYAGE GROUPの経営統合により設立。インターネット広告領域において自社プラットフォームを中心に幅広く事業を展開。電通グループとの協業によりテレビCMのデジタル化など新しい領域にも積極的に事業領域を拡大している。