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ゲーム内広告のリアルを探る―PubMatic×KONAMI対談[インタビュー]

多くのユーザーを抱え、視認性が高いにも関わらず、これまで広告配信面としてはやや特異な扱いを受けてきたゲーム内広告。その背景には根強い誤解がある。ゲーム内広告の真の姿とは何か。ゲーム内モバイル広告レポートを発表したPubMaticと、ゲーム内広告プロダクトの開発に取り組むコナミデジタルエンタテインメントに、それぞれの立場から見解を語ってもらった。(Sponsored by PubMatic)

 

ゲーム内広告がアプリ広告市場を牽引

 

―自己紹介をお願いします。

 

千葉氏(右写真右側):株式会社コナミデジタルエンタテインメント 事業推進本部の千葉茂と申します。宣伝部等を経て、4年前からeスポーツ事業などの新規事業開発を担当しています。

 

稲場氏(同左側):同じく事業推進本部の稲場直樹です。インターネット広告会社の勤務を経て、株式会社コナミデジタルエンタテインメントに入社。以来、デジタルマーケティング業務に従事して参りました。現在はゲーム内広告事業を含む、B to Cモデル以外のマネタイズ手法の開発に取り組んでいます。

 

廣瀬氏(左写真):パブマティック株式会社のカントリーマネージャーを務める廣瀬道輝と申します。当社はインターネット広告配信の自動化を推進するグローバル企業として、ブラウザ、アプリ、コネクテッドテレビといった様々なデバイスに対してバナーや動画などのマルチフォーマットでパブリッシャーの収益化を支援しています。

 

―インターネット広告市場全体の中で、ゲーム内広告は現在どのような位置づけにありますか。

 

廣瀬氏:ゲーム内広告が、急成長中のアプリ広告市場全体を牽引しています。関連事業者間の買収や統合が活発に行われており、業界全体がめまぐるしいスピードで成長中です。

 

ゲーム内広告は主にゲーム事業者が広告出稿しているという点が、ブランド広告主が大きな予算を割くその他のインターネット広告との違いと言えるでしょう。ブラウザにおいてはDSPやSSPを通じたプログラマティック広告配信が主となりましたが、アプリ広告ないしゲーム内広告では純広告の販売がほぼ無くアドサーバーが不要なことから、メディエーションSDKが活用されているなどブラウザとは異なる状況があります。また前述の通りゲームパブリッシャーがゲーム内広告の広告主であるということも、ある種のエコシステムが構築されており、プログラマティック配信を推進する当社としては、こうした状況に取り組んでいる最中にあります。

 

ゲーム内広告はユーザー体験を損なう?

→ユーザー体験に溶け込むゲーム広告

 

―いわゆる「ながら読み」ができるニュースや美容に関するアドバイスを記したコンテンツ記事とは異なり、ユーザーはゲームに熱中します。そのゲームの中に広告を差し込んだゲーム内広告は、ユーザー体験を阻害するのではないでしょうか。

 

廣瀬氏:まずインターネット広告全般に対するユーザーの受容度が年々高まっています。例えば以前であればスクロールしてもまるで追いかけるかのように画面上に表示され続けるウェブ広告に対して相当な反発がありましたが、最近では標準的なフォーマットとなりつつあります。

 

ゲーム内広告では、この受容度が著しく高いです。例えばカジュアルゲームに関しては、ユーザーは広告視聴がゲーム体験に含まれることを理解しているので、画面いっぱいに展開される長尺の動画を最初から最後まで視聴することを厭いません。

 

千葉氏:当社が運営するeスポーツ事業においては、バーチャルなサッカースタジアムや野球競技場の看板にスポンサー様の広告を掲示しています。リアル空間における競技場と同様の仕組みなので馴染み深く、ユーザー体験を阻害していないと考えています。

 

一方で競技場の風景の一部と化してしまい、お客様の注意を十分に惹くことができないのではないかという課題がありましたが、目立つ場所はやはり認識がされているという調査結果も出ました。(※)また、野球場の外野の看板に直撃するヒットを打った際には、1年分の宣伝商品を提供する旨を記したポップアップ広告を出すなどの工夫を凝らしています。

 

※慶應義塾大学、ニールセンスポーツ、KONAMIで行った調査。

https://prtimes.jp/a/?f=d49751-20210928-b5d66f0ba2219a20ab9b954ce9ca16e7.pdf

 

それと、これはあまり世界でも例が少ないと思うのですが、バーチャル空間の球場内で売り子が「清涼飲料水いかがですか~」と呼びかけるゲーム内音声広告も用意しました。この広告に反応した視聴者がチャット画面上に「一つちょうだい」と記すなどなかなか好評だったと考えています。

 

このように、ユーザー体験を損なわずに広告枠を設けることは可能です。ただゲームの世界観と合った広告表現をしっかりと考えなければ、お客様の反感を買い、アクティブユーザー数が減ってメディアとしての価値が減少してしまいます。細部まで作り込んだ時代物のゲームの中で、突如として炭酸飲料の広告が出たら興ざめするでしょう。

 

―ゲーム内広告においては、広告主とその広告商品を精査する必要性が増すということですか。

 

稲場氏:少なくともこれまではeスポーツ事業のスポンサー様のみに対して広告枠をご提供していたので、事実上のPMPでした。ただゲーム内の球場に設置した広告看板に関しては、リアル空間と同様、多種多様な広告を掲示できるはずで、目下その準備を行っています。多くのデイリーアクティブユーザーを有するので、広告在庫も十分にあると考えています。

また、ゲーム内広告は大きな可能性を秘めています。空きスペースに掲出する広告だけではなく、ゲーム内のトリガーが発生したときに広告が表示される等、お客様が行動を起こすきっかけ作りもゲームメディアでは上手く提供できると考えています。

 

ゲーム環境はブランドにとって安全ではない?

→コントロール可能なプレミアム枠

 

―「ゲームはブランドセーフティを確保できる配信面ではない」と考えるブランド広告主が一定数存在するのではないでしょうか。

 

千葉氏:当社のeスポーツ事業においては日本コカ‣コーラ様や大正製薬様、明治安田生命様、味の素様、サントリー様といったブランド広告主様にご出稿いただいているので、安全な配信面としてご判断いただけていると思います。

 

廣瀬氏:KONAMI様のように誰もがその名を知っている歴史ある企業が運営するゲームであれば、安心かつ安全なプレミアム枠として評価されます。ブランドセーフティに高い関心を持つブランド広告主様であれば、PMPを通じてそうしたプレミアムな枠のみ買い付けるというのも一つの手段となるでしょう。

 

ただし、プレミアムではないゲームの配信面がすべてブランドを毀損するというわけではありません。中には暴力的な表現を含んだり、やや粗悪な印象を醸し出すゲームもありますが、そうしたゲームに実は優良なユーザーが多く集まっている可能性もありますし、またそもそも問題がありそうなゲームを広告の配信先リストから削除すればよく、コントロールができるということをお伝えしたいです。「ゲーム全般が広告の配信先として安全ではない」というのは大いなる誤解だと思います。

 

ゲームにはニッチなオーディエンスしかいない?

→TVCMを超える訴求力を持つゲームも

 

―ゲーム内広告に接するユーザーはどれほどいるのでしょうか。

 

千葉氏:スマートフォンのアプリのアクティブユーザーランキングにゲームも入っていますので、相当な数のユーザーがいます。

 

ちなみに当社は広告主の立場として各メディアに広告を出稿することがありますが、テレビCMだけでM1層(20歳~34歳の男性=国内では1,000万人)に情報を届けることは難しくなってきています。M1層の視聴率が10%あっても100万人なわけですから。一方で当社の「プロ野球スピリッツA」はそのM1層の多くの方々に遊んでいただいていて、M1 へのリーチ数で言うと高視聴率番組と同等と言える規模だと思います。つまりゲームはもはやニッチではなく、テレビCMと同等またはそれ以上の規模を誇るメディアです。少なくともM1層に対してここまで効率的に広告配信できるメディアはなかなか存在しないと思います。

 

稲場氏:人気アイドルがゲーム配信を行い、その様子を若い女性ファンが視聴することも日常化しています。また当社の人気シリーズである「桃太郎電鉄」がその好例なのですが、ゲームは今やコミュニケーションツールの一つです。コロナ禍でリアルな対面が制限されたことで、オンライン上のコミュニケーションツールとしての重要性はより高まりました。

 

廣瀬氏:KONAMI様のスポーツゲームはM1に強いとの話でしたが、一方で例えばカジュアルゲームの中には女性ユーザーを多く抱えるタイトルがあります。また当社の調査では「2020年にモバイルゲームを始めた人は、他のどの年齢層よりも45歳以上が多い」ことが明らかになっています。

 

尚、当社ではゲーム内広告に特化したマーケットプレイスをご用意していますが、驚くほど多様なゲームがそろっています。ゲームが多様化すれば、オーディエンスも多様化します。広告主は先入観を持つことなく、それぞれのゲームに集まるユーザーを見る必要があります。

 

―それほどゲームが一般社会に広く普及したものの、テレビや情報サイトなどと比較して、広告配信面としてはまだ確立されきれていない印象があります。

 

確かにグローバル展開する広告主様であっても「ゲーム内広告の出稿は時期尚早」という考えを示す場合がありますね。恐らくゲーム内広告を出稿した実績に乏しく、どれだけの広告効果を見込めるかを示すデータが足りないというのが大きな課題の一つでしょう。データがなければ広告会社は広告主に対する説明資料が用意できないので、二の足を踏むというのが現状だと思います。

 

成果の測定は不可能?

→緻密な調整と通知計測が広告効果を押し上げる

 

―ゲーム内広告では、広告効果の測定自体が難しいのでしょうか。

 

廣瀬氏:そんなことはありません。ゲームに限らず、アプリ広告全般においては、アトリビューション計測事業者(MMP)が広告の効果測定機能を提供しています。加えてオラクル社のMOATやインテグラルアドサイエンス(IAS)といったブランド広告主が利用するウェブ広告効果測定機能を用いてもアプリ広告の効果測定が可能です。

 

IDFA規制の強化に伴い、ターゲティングやトラッキングのあり方が大きく変わる可能性があることについては留意すべきですが、広告効果測定自体は可能です。

 

千葉氏:加えて当社が運営するeスポーツの模様はYouTubeで配信しているので、その視聴回数が一つの指標となります。また一般ユーザーを対象としたゲーム内広告ではDAUも重要な指標です。いずれも広告表示回数とほぼ連動した数値でありますので、数値面の把握は可能です。ただし、何かしら設定されたコンバージョンポイントまで計測できる仕組みを整備するまでには至っていません。

 

他の手法としては、eスポーツのスポンサー様とともにTwitterのキャンペーンを実施してフォロワー数獲得を一つのKPIに設定したり、ゲーム内広告の中にYouTube広告を埋め込むことでYouTubeの効果測定機能を活用できる環境などをご用意しています。

 

稲場氏:当社のゲームは今ではZ世代を対象とした一大メディアと化しています。IDFA規制に伴うターゲティング精度の低下を受けて、ターゲティングメディアとしての役割が強化されました。ゲームメディアとして運営していくには、やはり広告の効果測定に関する課題と向き合わなければなりません。そこで当社ではアドテクノロジーを活用しコンバージョン計測を含めた精緻かつ多様な計測ができる仕組みの開発に取り組んでいます。

 

―ゲーム内広告ならではの利点を改めてお聞かせください。

 

千葉氏:ゲーム内広告ならでは特徴の一つに、広告を出すスペースだけではなく、掲出のタイミングを調整できるという点が挙げられます。例えば、対戦型ゲームで勝利した後であったり、対戦相手がポーズをかけている時など、広告を受け入れていただけるタイミングを計ることで広告効果を高めることができる点は大きいです。ですので「ホワイトスペースより、広告を受け入れてくれる“ホワイトモーメント”が重要」ということをチームスタッフによく伝えています。

 

廣瀬氏:実際に各関連事業者は、ユーザーの視点に立った上で、リワード広告を出すタイミングを緻密に設計しています。ゲーム内広告こそ、ユーザー体験に最大限に配慮していると言っても過言ではありません。

 

またリワード広告に関して言えば、広告収益を得られるだけでなく、自社アプリ内の課金に誘導できます。エコシステムとして非常によくできた仕組みだと感心します。

 

こうしたゲーム内広告ならではの利点を生かすためには、各特徴や仕組みを十分に理解しなければなりません。この辺りが従来のウェブ広告に慣れ親しんだ広告主の皆様には課題となり得ますが、SSPである当社も広告主様との直接的な対話の機会を持ちながら、ゲーム内広告に関する理解促進に今後努めていきたいと思います。

ABOUT 長野 雅俊

長野 雅俊

ExchangeWireJAPAN 副編集長
ウェストミンスター大学大学院ジャーナリズム学科修士課程修了。 ロンドンを拠点とする在欧邦人向けメディアの編集長を経て、2016年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。 日本や東南アジアを中心としたデジタル広告市場の調査などを担当している。