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Adjustはいかに日本市場でシェアNo.1を達成したのかー「本社との橋渡し」を超えるローカライゼーションとは

SKAdNetworkという新たなアトリビューション計測手法のリリースに伴う各種の変更と混乱を受けて、モバイル測定パートナー(MMP)の役割に再注目が集まっている。大手プラットフォームとのデータ連携が必須となることから世界的にも希少なこのMMPの中でも、日本市場で一際高い存在感を示すのがドイツ生まれのAdjust社だ。adjust株式会社のゼネラルマネージャーを務める佐々直紀氏に、シェア獲得に至るまでの道のりを振り返ると同時に現在進行形の市場課題と今後の展望について語ってもらった。(Sponsored by Adjust)

 

問い合わせ対応のリードタイム短縮に注力

 

―改めて自己紹介と事業紹介をお願いします。

 

モバイルマーケティング分析プラットフォームであるAdjustの日本法人として設立されたadjust株式会社にてゼネラルマネージャーを務める佐々直紀と申します。2016年11月より参画し、2020年に現職に就きました。

 

―日本オフィスの立ち上げ時を振り返っていただけますか。

 

Adjust本社は、2012年にドイツのベルリンで創業しました。その2年後となる2014年10月には日本にadjust株式会社を設立。当時はまだ赤坂の小さなレンタルオフィスに社員がたった一人です。次第にアカウントマネージャー、営業、マーケティング担当者が揃い、最低限の体制が整い出した時点で私が参画しました。

 

当時の職務はカントリーマネージャー兼営業責任者でしたが、まだ人事部なども整備されていない時期で、諸々の内務を兼務するなどしてなかなか大変でした。ただうれしいことに、お客様からの問い合わせや引き合いはひっきりなしにあり、以後は営業やサポート担当といったお客様と直接的に向き合う社員の増強を継続的に行っています。

 

―外資系企業の場合、「日本の顧客から預かった問い合わせを英語で本社に投げて、戻ってきた回答を日本語に訳して顧客に伝える」という対応が多くなりますよね。

 

特に日本オフィス立ち上げ当初は日本の顧客とドイツ本社の橋渡しという側面が強かったです。ただし、そうした過程を繰り返すうちに、日本側に様々な知見が蓄積されます。それらの対応実績を通じて習得した新たな知見を異なるテーマごとに文書化することで、本社に確認せずとも日本側で即座に対応できる体制を整備しました。その結果、現在はお客様からお問い合わせを受けてから戻すためのリードタイムが創業時とは比べ物にならないほどに短縮されています。

 

ちなみに当社ではこのリードタイムをサポートチームのKPIの一つとして設定しています。「迅速に質の高い対応を行う」という点には強いこだわりを持っています。

 

―すると現在はあまり本社と連絡を取ることはないのですか。

 

いえ、本社とは今でもSlackを通じてほぼ毎日のようにコミュニケーションを取っています。SaaSツールは全般的に進化が速く、とりわけアトリビューション計測においてはデータ連携したプラットフォームの動向などを含めて様々な変化が起きているので、情報のアップデートが大変なのです。

 

また以前は本社が新機能をリリースしてから日本語の説明資料と対応する体制が整うまでに1週間ほどの遅れがありました。ただ現在は本社とのコミュニケーションを密にすることと、本社と日本の両面で翻訳対応可能な体制により、世界同時リリースを実現しています。

 

日本企業の要望を本社にぶつけて機能変更

 

―つまり本社の動向をリアルタイムで把握できるようになったのですね。

 

逆に日本が本社を動かすことも多くなってきました。問い合わせから回答までがスムーズに行われてお客様とのコミュニケーションが活性化すると、今度はお問い合わせ内容が多様化または高度化してきます。具体的な機能変更の要望なども多数寄せられるようになりました。

 

機能変更の要望は随時本社と共有しますが、本社にはそれこそ世界中から様々な要望が集まってきており、必ずしもすべて即座に対応してもらえるわけではありません。そこで対応の優先順位を高めてもらうように訴えるというのも私たちの大事な仕事です。

 

―日本の顧客が要求した機能変更が実装された例はあるのですか。

 

シングルサインオン(SSO)や二要素認証(2FA)はまさにその典型です。日本企業は概して情報セキュリティに対する意識が高く、一定のセキュリティ基準を満たさないツールは導入できないといった社内規定が用意されている場合があります。Adjust本社としての優先度は当初はあまり高くなかったのですが、日本企業を取り巻く事業環境を丁寧に伝えることで、ある日本企業を獲得するという目的がきっかけとなり、実装に至りました。

 

―現在はどのような体制を敷いているのでしょうか。

 

30名ほどの社員がいます。事業のさらなる拡大に向けて、4年ほど前に恵比寿に、そして2020年2月には渋谷マークシティに事務所を移転して、50~60人を収容できるスペースを確保しました。社員をさらに増強しながら、広くなったスペースを最大限に活用してお客様との商談や打合せの機会を増やし、アリーナスペースでのセミナー開催なども実施する計画です。

 

―社内にはどのような人員が在籍されているのですか。

 

まずは新規のお客様とのコミュニケーションを図る営業です。またAdjustを各社のシステムへと連携するために必要な管理画面の設定及び利用についてご案内をするテクニカルサポートチームやソリューションコンサルタント、SDK導入サポートがいます。さらにお客様の事業成長に向けてコンサルティング的な支援を行うカスタマーサクセスチームも整備しています。代理店やパートナー様との協業のためのパートナーシップマネージャーや、インテグレーションエンジニア、サーバーの安定稼働を対応するエンジニアもおりますし、マーケティングやイベント担当、採用担当、オフィスマネージャー、HRなど多岐にわたります。

 

シェア拡大に至るまでの道のり

 

―競合環境についてお聞かせいただけますか。

 

私が参画したばかりの2016年ごろの日本市場では、CyberZ社のForce Operation X (F.O.X)とアドウェイズ社のPartyTrackが優勢でした。そこに当社を含めたグローバル事業者が続くという構図です。ただし飛び抜けた存在はなく、いずれも10~30%ずつのシェアを分け合っていたと思います。

 

ツールの利便性には絶対の自信があり、また迅速で質の高い対応を行うことで、順調に事業は成長しシェアを伸ばしていったのですが、確定的な転機となったのは2019年、アドウェイズ社からPartyTrack事業を、CyberZ社からF.O.X事業を相次いで譲り受け、いずれもお客様をAdjustへ移管したことでシェアが一気に拡大しました。

 

この二つの戦略的なパートナーシップはAdjustにとっても私にとっても欠かすことのできないもので、実現のためにあらゆる調整と交渉を行いました。とても難しいですが、推進し、行くと判断しましたので、自身の進退をかけて覚悟を決めて取り組んだことを覚えています。アドウェイズ社、CyberZ社にとっても非常に大きな決断であったと思いますが、ご対応いただいた方々のご尽力やリーダーシップに今でも感謝しきれません。

 

―シェア率はどのような手法で把握しているのでしょうか。

 

以前は広告代理店やアドネットワークへのヒアリングを通じて把握していました。そうした事業者の多くが取引企業におけるアトリビューション計測ツールの利用状況を把握していました。当社に「シェアはどれぐらいですか」と質問されたときには、「広告代理店やアドネットワークに聞いてください。彼らが実態をよく把握しています」と回答していたほどです。

 

ただし、この方法にはいくつか問題があります。まず参照元が広告代理店やアドネットワークの社内資料なので、公表できません。さらに当たり前ですが、広告代理店やアドネットワークによってその数値は大きく変わり得ます。つまりデータとしては今一つ統一性に欠けるのです。

 

―確かに大手企業ばかりを扱う広告代理店やゲームアプリに特化したアドネットワークもあるので、顧客層の違いに応じてシェア率は大きく変わりそうですね。

 

そこで「尋ねる相手によって答えが変わる」という形式ではなく、「誰とでも一つの答えを共有できる」確実な調査法が必要であると考えました。今では①第三者が提供する人気アプリランキングの上位に位置するアプリを抽出し、②それらのアプリが導入するアトリビューション計測ツールを第三者のツールで調べる、といった手法を用いて当社のシェアを算出しています。

 

例えば多くのアプリ関連事業者がApp StoreやGoogle Play Store、もしくはApp Annie社のアプリランキングを参照しているのではないでしょうか。これらのランキングから上位数百社を抜き出し、次にApptopiaなどのデータプラットフォーム上でそれら上位数百社が利用しているアトリビューション計測ツールを検索します。この方法で調べてみると、当社がほぼ常に65~70%のシェア率を維持していることが分かります。根拠のある実態を示す数字です。

資料提供:adjust株式会社

 

計測ツールの必要性は消えない

 

―これまでアプリのアトリビューション計測に活用されてきたIDFAの利用に制限がかかり、またApple社によりSKAdNetworkという新規計測手法が開発されるなど、MMPは大きな転換期を迎えています。

 

SKAdNetworkがリリースされる以前は「今後はアトリビューション計測ツールが不要となる」という声もささやかれていましたが、いざふたを開けてみれば、そのような状況には至りませんでした。ただこれは予想していた通りの状況です。

 

まずApple社はSKAdNetworkという計測手法を開発したものの、計測結果のレポーティングや、リアルタイムデータまたはアドフラウド検知をサービスとして提供するには至っていません。今後同社がそれらのサービスを提供したとしても、iOSとAndroidという異なるプラットフォームそれぞれのデータを統合して管理するためにはやはり別のツールが必要です。つまり各プラットフォームでのアプリを利用するユーザーが一定数存在し、またそのユーザーを相手としたビジネスが成立する以上は、第三者機関による計測の必要性がなくなることはありません。

 

さらに言えば、少なくとも現時点においては、SKAdNetworkだけを用いてユーザーのインストール後の行動を正確に把握することが非常に難しいというのも課題です。インストール後の行動を把握できなければ、LTVが算出できないからです。

 

―貴社ではインストール後の行動をどのように把握しているのですか。

 

プライバシー制限が強化されたiOSについて言えば、まずはトラッキングを承諾したユーザーが提供してくれる情報が活用できます。加えて当社ではProbabilistic Attribution(確率的アトリビューション)と呼ばれる様々な取得情報を組み合わせた推測を行う技術を有しています。このモデルは個人を特定することなく、あくまでも流入元を推測するための技術として、プライバシーを遵守した上で運用しています。

 

―今後の展望をお聞かせください。

 

インターネットに接続されたテレビつまりコネクテッドTV(CTV)の市場が日本でも成長していくことが確実視されています。ただし、広告配信環境の整備が北米と比べてまだ追い付いていません。

 

例えば米国や欧州などでは、CTVで番組を視聴途中に一時停止のボタンを押すと、広告が表示される仕組みがあります。この広告に例えばQRコードを表示すれば、インストールへとつながった際に、クロスデバイス計測が有効性を発揮します。他にも様々な広告フォーマットがリリースされ、事例も豊富です。来年以降に日本でもこうした仕組みが整備され、成功事例も出てくるはずです。

 

また、広告効果の計測の問題もありました。CTV上でのアプリインストールは以前から計測できましたが、CTV広告がモバイルに与える影響までは把握できていなかったのです。そこで当社では、多くの視聴者がスマートフォンを片手にCTV視聴を行うという現状を踏まえた上で、クロスデバイス計測ソリューション「コネクテッドTV(CTV)」機能を提供し始めました。

 

当社としては、お客様への対応の質とスピードをさらに向上させつつ、CTV広告計測のような新しい機能も提供し、モバイル業界の最新動向などについても情報発信をすることで、お客様の事業成長を引き続き支援していきたいと考えています。

 

ABOUT 長野 雅俊

長野 雅俊

ExchangeWireJAPAN 副編集長
ウェストミンスター大学大学院ジャーナリズム学科修士課程修了。 ロンドンを拠点とする在欧邦人向けメディアの編集長を経て、2016年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。 日本や東南アジアを中心としたデジタル広告市場の調査などを担当している。