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日本市場で今どんな変化が起きつつあるのか―PubMaticが見渡すアプリ、OTT、SPOの最前線[インタビュー]

何らかの大きな変化が起きている最中に、その真っ只中にいる者が全貌を理解することは難しい。ただし、歴史や海外事例といった俯瞰的な視座を得ることで、変化の予測を行いやすくはなる。そこで海外と日本市場の双方に精通した独立系SPPのPubMaticに取材を実施。来日したAPAC部門の最高収益責任者に話を聞いた。

(Sponsored by PubMatic)

 

日本市場の特異性とは

 

―自己紹介をお願いします。

 

PubMaticのアジア太平洋(APAC)部門で最高収益責任者(CRO)を務めるジェーソン・バーンズと申します。ニューズ・コーポレーションやフィナンシャル・タイムズといった世界的に事業を展開する媒体社で、デジタル化やプログラマティック広告取引の収益化に取り組んだ経験を活かし、2014年にPubMaticに参画。現在はシンガポールに拠点を置きつつ、日本、オーストラリア、インドを始めとするAPAC市場全体の営業及び事業開発を管掌しています。

 

―改めて貴社の事業紹介をいただけますか。

 

PubMaticは米NASDAQに上場している独立系SSPです。主に4つの点で競合社との差別化を図っています。

 

まずは強靭なインフラ設備。日本を含めて世界各地に自社データセンターを保有しており、IT関連事業を営む上で大きな比率を占める設備費を自社管理することで、当社顧客に対するサービス料金を安定化させ、データのやり取りにおいても迅速なレスポンスタイムを実現しています。

 

またSSPとしてサプライサイドの利便性を最大化するための取り組みの一環として、デマンドサイド向けプロダクトを開発していることも特徴的です。ヘッダービディングやSDKといったソリューションの提供に加えて、広告取引の透明化にも取り組んでいます。

 

さらにはOTTやコネクテッドテレビ(CTV)広告においても競合社に先行した投資及び技術開発を行っています。

 

―日本を含めたAPAC市場全体を管掌しているとのことですが、日本市場特有の課題として気にかかることはありますか。

 

人材の確保が非常に難しい市場であると感じています。一つの会社に長きにわたり働き続ける人が多く、人材の流動性が乏しいからでしょう。優秀な人材は多く存在しているにも関わらず、それらの人々を雇用できないという状況を歯がゆく感じています。

 

また日本はAPACの中でeCPMが最も低い市場です。恐らく、広告主や広告代理店がプログラマティック広告取引をダイレクトレスポンス目的に限定しているからではないでしょうか。他の市場では50~60ドルほどのeCPMでOTTへの動画広告配信が活発に行われています。

 

モバイルウェブ偏重というのも日本市場の大きな特徴です。他の市場ではモバイル広告収益の多くをアプリが占めるのとは対照的に、日本ではモバイルウェブ広告の売上が圧倒的に高い。日本のアプリは課金モデルが主流であり、広告収益モデルが十分に普及しておらず、広告在庫が少ないということなのかもしれません。

 

さらには地上波からOTTへの移行の遅れも気になります。一例を挙げると、経済が不安定になった際に、厳密な効果測定が行いやすいという理由で、世界的には広告予算はリニアテレビからデジタルに移行する傾向が見られます。ところが、日本では不況期になると、デジタルから地上波へと広告予算が流れるという話を日本の広告関係者から聞いたとき、私は思わず我が耳を疑いました。それだけリニアテレビに対する信頼が厚いのか、もしくは国内のOTT市場が大きく分断されているために、YouTubeのような大手プラットフォームに対抗しきれていないのかもしれません。

 

日本市場がモバイルウェブ偏重なのはなぜか

 

―現時点での貴社の注力領域をお聞かせください。

 

まずはアプリ広告への対応です。アプリ広告に関するエコシステムは、世界的にやや不透明で混乱気味の様相を呈しています。その結果として、広告主が広告在庫を買いにくく、またユーザーは広告を閲覧・視聴しにくい状況が続いています。そこで当社としては、モバイルアプリ内広告のヘッダー入札の可能性を広げるSDKの提供を通じて、アプリ開発者が広告在庫を売りやすく、広告主は必要なデータを取り揃えた上で安心・安全に買いやすい環境の構築を目指しています。

 

またOTTとCTV関連の技術開発に関しても既に多大な投資を行っています。今後見込まれるリニアテレビからOTTへの移行が進んだ際に、広告予算がYouTubeではなく、各市場の独立系OTT事業者へと向けられるための環境構築が必要です。

 

Cookieless環境におけるユーザー識別も注力領域の一つです。PubMaticが取り扱うすべてのインプレッションに対して代替IDを付与することを目標としており、現時点で既にその割合は50%を大きく超えています。またファーストパーティデータの重要性が高まったことを受けて、媒体社がデータ管理を行いやすい仕組みも整備する必要があります。

 

さらにSSPとしてサプライサイドに包括的な支援を提供する上では、バイサイドとも緊密に連携しなければなりません。この目的のために、今年9月にはメディア測定とレポートプラットフォームである Martin社を買収し、サプライパス最適化(SPO)への投資を強化する旨を発表しています。

 

―注力するアプリ広告に関しては、貴社が日本市場特有の課題があると感じている領域でもありますね。

 

誤解してほしくないのですが、日本市場でモバイルアプリ広告よりもモバイルウェブ広告の方が活用されているという状況を問題視しているわけではありません。ただ日本市場を理解する上では、その特異性をしっかりと分析する必要があるとは考えています。

 

あくまで一般論としては、最近になってNetflixが広告付きプランの開始に踏み切った例にも見られるように、オンラインサービスを運営していく上で課金モデルのみに依拠するのはなかなか難しい。日本のアプリ市場が今後ますます成熟し、競争がより熾烈になっていくにつれて、広告収入モデルが増えていく可能性は高いと思います。

 

現時点で広告モデルが少ないのは、「広告を挿入するとアプリ体験が阻害される」と危惧するアプリ事業者が多いからではないでしょうか。画面全体を覆うインタースティシャル広告のようなものではなく、インゲームやインプレイと呼ばれるようなネイティブ広告フォーマットであれば、そうした懸念は払拭することができます。また数百単位のDSPを管理できるSDKの機能向上を通じて、アプリ事業者が広告収益化を行いやすい環境を整備することも重要です。

 

―もう一つの注力領域であるOTTについても、日本市場の特異性についての言及がありました。

 

OTT市場が分断されていると、広告主は統合的なキャンペーンを実施できません。OTT媒体を横断したリーチ及びフリークエンシーキャップを行うことができる環境の整備が急務です。さらにリニアテレビとOTTの横断的な管理も今後は求められるでしょう。

 

幸いなことに、当社は日本の主要OTT事業者ほぼすべてと既に連携済みなので、こうした統合的な配信及び測定管理を行いやすい立場にあります。

 

―SSPとしての立場から、デマンドサイドに対してどのような支援を提供しているのでしょうか。

 

オーストラリア、東南アジア、インドなどでは既に市場に浸透しているSPOを日本市場に広めていきたいと考えています。これらの市場においても、数年ほど前まで多くの広告代理店が50前後のサプライソースから不透明な形式で広告在庫を購入していました。ただし、現在では多くがサプライソースを5~10程度に限定しています。

 

そもそも広告取引の透明性を確保する上で、50前後のサプライソースに目を光らせるなど現実的には不可能です。また取引先数を限定することによって、広告代理店は各取引先に対する購買力を高めることができます。

 

日本市場におけるプログラマティック広告取引に関しては、マネージドサービスの活用が主流であると理解しています。外部委託の利点は多々あるものの、その過程で多くのマージンが発生するというのも事実です。SPOを通じてデマンドサイドとサプライソースの距離感を縮めることで、マージン削減と広告取引の透明化を実現することができます。

 

この取り組みを推進していくために、ADKマーケティング・ソリューションズとの提携を11月初旬に発表致しました。今後は日本市場においてSPOが一気に普及していくことになると思います。

ABOUT 長野 雅俊

長野 雅俊

ExchangeWireJAPAN 副編集長
ウェストミンスター大学大学院ジャーナリズム学科修士課程修了。 ロンドンを拠点とする在欧邦人向けメディアの編集長を経て、2016年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。 日本や東南アジアを中心としたデジタル広告市場の調査などを担当している。